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互いに流れを掴むための激突

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 自分は適当に狙いをつけたペアに元へと移動し、接敵する前に確認する。その姿は、本番が始まってから一度も顔を合せなかったグラッドと真っ先に出会ったジャグドのペアだった。それを認識した瞬間、ジャグドがためらいなく弓を構えて矢をこちらに放ってきた。向こうも気が付いたか。

「グラッド、来たぞ!」「よし、予定通りに動け! 練習試合の時のようにドジるんじゃねえぞ!」

 予定通り、か。その言葉が気になって《危険察知》を確認すると、こちらに向かってくるペアが一組。そして逆に離れていくペアが一組。戦闘する面子を四名、探索メンバーを二名に最初から割り振っていたのだろう。それが向こうの作戦か。

(あと二人は誰が来る? それにどんなアイテムをグラッド達が手にしているのかは完全に分からない。油断は絶対にするな、自分)

 自分自身にしっかりと言い聞かせてから更にグラッドとジャグドのペアに向かって距離を詰める。ジャグドの正確な射撃は厄介だが、盾で防いだり何とか回避する事で凌ぐ。ジャグドは練習でも本番でも自分にやられた事で、凄まじいリベンジに萌えている感じがする。飛んでくる矢からも、そんな気配がプンプンする。

 距離がある程度詰まったところで、グラッドが前に出てくる。これ以上ジャグドに近寄らせまいという意思表示と言った所か? だが、グラッドを壁にしてしまえばジャグドの援護射撃は難しくなる。そう考えて自分はグラッドの動きに乗る形でグラッドの前に立つ。ややあって、そこからはお互いに近接武器で戦うインファイト戦へと移行した。

 近接武器と称したのは、自分がレガリオンだけでなく八岐の月による爪攻撃を行い、グラッド側も剣だけでなく盾も鈍器として併用する戦闘方法を取っているからだ。互いに左手に持つモノは剣ではないが、ほとんど二刀流同士の戦いと言ってよい内容だ。互いの間に火花が舞い散り、より熱を持ち始めたその瞬間に、自分は全力でバックステップを行った。

 ほぼ同時に自分のいた場所に突き立つ無数の矢。ああ、これは予定内。直接当てられないなら曲射で当てようとするのは、同じ弓使いからして当然のように考える事。後は今までの経験から来る感覚が危険を察したらそれに従うだけ。グラッドが舌打ちをするのが見えた。だがすぐさま自分に近寄ってきて再びインファイト戦へ。

「どうしたアース! アーツの一つでも使ったらどうだ!」「お断りだ! その魔剣の特性を考えたら下手な技を撃てばかえって不利になるだけだと言う事は忘れていない!」

 グラッドが手に入れた魔剣は、あの有翼人のロスト・ロスが放った攻撃すら吸収して見せた。そして吸収した分強くなる。そんな魔剣に半端なアーツを放てば待ってましたとばかりにエネルギーを食われて相手のパワーアップに手を貸してしまう。そんな悪手は絶対に取らない。だからこそ吸収される心配がない基本的な攻撃だけでグラッドと戦っているのだ。

 が、ここで自分の左横からいくつもの氷の矢が飛んでくるのが偶然ではあったが視界の端に捉えることが出来た。グラッドの攻撃に気を付けつつ、氷の矢を防御、回避していく。しかし、氷の矢一発一発はその見た目からは想像できないほどに重く、全てを避ける事は叶わず二発貰ってしまった。すると、その二発だけでHPが二割ほど減ってしまった。こんな強烈な魔法攻撃が出来るのはガルだけだ。

(しかし、放たれていたのに気が付けなかった……気配を消すアイテムを使ってから撃ってきたな? 恐らくは最高級のアイテムの一つだろう)

 これだけの魔法攻撃を放たれたら、その瞬間気が付くことが出来る筈なのに全く自分の感覚が反応しなかった。そんなことが出来る方法を自分は良く知っている……何せ、その手段は自分が最初の最初からずっと使ってきた方法なのだから。そう、《隠蔽》スキルだ。それを再現できるアイテムをグラッドパーティは手に入れていたのだろう。

「えー、一個しかないアイテムを使っての成果としてはしょぼいな~。グラッドごめーん!」「構わねえ、良いダメージは入っているのは間違いねえ1 ここからは手数で押せ! アースの防御を飽和させろ!」

 聞こえてくるガルの声とそれに返答するグラッドの声。だが、こっちに向かっていたのは二人ペアなのに姿を見せたのはガルだけ。あと一人は──殺気。自分は右斜め後ろに向かってレガリオンの刃を自分の横っ腹を掠めるような形で突き出した。手応えはあまりない、回避されたか……が、レガリオンの刃を確認すると血が付いている。かすった程度か……だから手ごたえがあまりなかったのだろう。

「──痛っ……本当にこれ姿が見えなくなっていたのかい!?」「見えてなかったぞ、だがアースはずっとソロで戦ってきたから不意打ちをしてくる連中に対する勘が良いんだろうよ! もしくは攻撃の瞬間に何かを感じているのかもな!」

 どうやらゼラァが姿と気配を消して自分をバックアタックする事で、動揺と纏まったダメージを与えようとしてきたようだ。が、それでも攻撃を行う瞬間に出てしまう殺気を抑えきれなかったようだ。なので先ほどのセリフが漏れ、その声を拾ったジャグドが大声でそう返答してきたんだろう。素早くゼラァは自分から距離を取り、大きく動いてグラッドの元へ。ガルも魔法攻撃をせずグラッドのやや後ろに陣取った。

(すると探索するのはザッドとゼッドと言う事になるのか。いや、それはどうでもいいか。ここで少しでも時間を稼ぎ、最後の決戦に使える時間をとことん減らす事が目的。さっきのガルの魔法をもう喰らう訳にはいかない……一発だけで能力が一〇倍されている今の自分の体力が一割減らされるのに連射できるという凶悪さ。とんでもないバ火力を出せる彼が最も要注意人物だ)

 能力だけじゃなく、鎧やマントも超一級品なのにその防御すら貫いてきたんだ。とんでもない魔法だ……流石魔法を極めるために特化したプレイヤーだと改めて思い知らされる。だが、それでも引く選択肢だけはない。再び戦闘が開始される。グラッドとゼラァが前に出て、ジャグドとガルが後方支援。

 四人の猛攻の前に、反撃を挟むチャンスがほとんどもらえない。それと危険な一撃は回避しているが、それ以外の攻撃はどうしても被弾する。お陰でこちらのHPが確実に削られていく……が、向こうも相当無理している様子がうかがえる。自分からの攻撃を受けていないのに、グラットもゼラァも何故か時々吐血しているからだ。

(自分と接敵する前に何らかのブーストアイテムを使っていたのか? 強力な分反動があるタイプかもしれない。そうでなければ、いくら四対一とはいえ能力一〇倍にしてもらっている自分が反撃の余地がなく防戦一方に追い込まれるはずがない。よくよく観察すれば、普段以上にグラッドの剣を振る速度も、ゼラァの拳によるラッシュも手数が多すぎる)

 が、見方を変えればグラットはここがその手のアイテムの使い時と判断したから使ったと言う事だ。グラッドも歴戦の猛者であり、そう言った部分の嗅覚が鈍いなんて事はあり得ない。ここでこうして戦う事が勝利に近づく一歩であると判断したからこそ使用し、ここで大勢を決めるべく猛攻をかけているのだとみるべきだ。

 事実、自分のHPは四人の猛攻を受けて確実に目減りし、既に残り半分を切っている……一度引いて頭を冷やし、最終決戦まで温存するべきか? いや、画面越しでやる非対称ゲームならそれも良いが、この世界では勢いが一度つくとそのまま押し込まれる可能性が十分にある。ましてや相手はグラッドパーティ。今はフルパーティではないというのにこの猛攻だ。全員が揃った状態で戦う事になったら厳しいどころの話ではない。

(やはり、ここは引けない。グラッドとゼラァ両名が無茶をしている以上、破綻するときは必ず来る。そして前衛二人がダウンすれば、相手の攻撃手数は半減するどころではない。それに救出にも動かなければならなくなるから苦しい展開を迎える筈だ。ここが、勝利と敗北の分岐点と見るべきだ)

 腹を決めて、戦闘継続を選択する。ここでこちらが逃げた場合、グラットとゼラァはアイテムで即座に復帰してしまうだろう。そうなればここまでHPを減らされてしまった自分映える物がないまま最終決戦に挑む羽目になる。それだけは避けたい。この勝負、ここで決める!
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