とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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ザッド&ゼッドコンビとの戦い

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 強化オイルを手に持ち、ザッドに向かって投げる。ただしザッドの前の前に落ちるように、だ。これに対してザッドがどう反応するか、それを見るための行為だったのだが──ゼッドがその見を邪魔してきた。

「そりゃあ!」

 ゼッドの槍の一突きに強化オイルが入ったポーション瓶は貫かれ、そこから真下に落ちて炎上した。当然ゼッドはすぐさま後ろに下がっており火の範囲から逃れている。ザッドは動かず……これでは盲目なのかどうかが確かめられない。ならば、八岐の月を構えて、ゼッドに二本、ザッドに三本の矢を射る。先にゼッドに放ち動きを制限してからザッドに向かって放ってみた。

 結果、ゼッドは一本を槍で弾きもう一本を回避。ザッドはかなりぎりぎりのタイミングではあったがその超重量の鎧を着ているにもかかわらず、矢を三本とも回避して見せた。見えているのか? 回避が遅れたのは鎧の重さによるものか? それとも音で見極めたが故に回避がぎりぎりになったのか? どの可能性も捨てきれない。

(よし、ザッドの盲目の可能性はもう捨てよう。つついては見たがはっきりとしない。ハッキリとしない以上かもしれないで作戦を立てるのは危険すぎる。ここからはザッドは盲目にかかっていないと考えて動こう)

 あの両手斧のアーツはホーミングがあるから真正面からではなくこちらが回避しにくい角度で投げてきたと考える。と、再びザッドが両手斧を投擲するような動きを見せる。投げてくるのか、それともフェイクか。それとほぼ同時にゼッドが突撃、槍の間合いに入るや否や無数の突きを自分に向かってはなってくる。

「おまえの弓の腕は危険すぎるからよ、ここからは封じさせてもらうぜ!」

 確かに、この槍から繰り出される無数の突きを捌くにはレガリオンだけでなく八岐の月も使って対処しなければ厳しい。それぐらいの猛攻なのだ……そしてアーツを使わないプレイヤー自身の攻撃なのMPの消耗がない。そして受け流しても槍の突きの重さは確かに腕を伝わって自分に届いている。この槍の突きを急所に貰う事だけは絶対に避けたい。

(それに、恐らくこれは自分の意識を猛攻をかけている自分に向けたいというゼッドの考えも感じる。そして、意識がザッドから完全に離れたら重い一撃をザッドが自分に向けて叩き込むという感じだろう。一撃の火力が最も高くなるようにする事が出来る武器は何かという見かたをすると、両手斧は最上位に属する。PvPでも、瀕死の両手斧使いの一撃で大逆転なんてのは時々見かける)

 基本的に両手斧をメインウェポンに選んだプレイヤーは、ワンチャンスに全てを賭けるべく一撃必殺性を極限まで高める性質が高い。例え師の縁に追い込まれても、これを決めれば勝てるというまさに必ず相手を殺す技としての必殺技と呼ぶべき切り札を最低でも二枚持つ。そして、残りのスキルやEXPもその必殺技の強化に繋がる形にするのだ。

 もちろんこれが役に立つのはPvPに限った話ではない。装甲が厚く、魔法があまり効かないモンスター相手には特に活躍の場面がある。その高めに高めたアーツの一撃によって、文字通りモンスターを叩き割るのだ。なので硬いモンスターを倒す際には、両手斧プレイヤーは良く呼ばれる。

 カザミネのように技量が高いプレイヤーならば硬い敵であっても僅かな隙間からモンスターを切り裂くことが出来るのだが、その技量を皆が皆持っている訳ではない。更にモンスターとの相性にも左右される事も大きい。だが、両手斧ならばそう言う意味での不得手があまりない。確実に硬い敵を叩き潰せるのだ。

 そんな両手斧使いに意識を完全に向けるのを止めるなんて自殺行為そのもの。ほら、ゼッドに意識の大半が向かったと判断したザッドが、その両手斧を投擲しようとしている。その両手斧には、明確に寒気と圧を感じさせる何かがある。それが今、自分に向かって投げられようとしている。恐らく、ザッドの切り札の一枚だろう。

 ゼッドからの槍による猛攻がより激しくなった。ザッドの投擲、おそらくはアーツが発動して自分に当たる直前まで意識を引き付ける事が目的だろう。スタミナなんて知った事かと言わんばかりのラッシュだ。つまり、二人とも次にザッドが放つ技に全てではないだろうが多くの物を賭けているのだろう。だからこそこれだけの攻めを見せる。

「おおおおおお!!」

 ゼッドが吠える。吠えながら猛攻を自分に向かってひたすら行い続ける。なにがなんでもザッドの大技発動までの時間を稼いでみせるという気迫、いや鬼気迫る闘志と表現するべきだろう。有翼人の世界で共闘した時よりもずっと強くなっている……こちらのステータスが上がっているにもかかわらず、互角と言っていい勝負だ。ステータスが上がっていなければ、自分は防戦一方になるだろう。

 そしてついに、ザッドの準備が完了したようだ。ザッドの持つ両手斧の刃を中心に冷気と闘気が渦を巻き、まるでそれは相手を確実に擦り潰すと言うザッドの意識そのもののようにも感じられる。鎧の上からでも、全身の筋肉をフルに使って力を蓄え、まさにこの一投に己を賭けるかのような姿を自分は幻視した。

「ゼッド! もういい!」「了解だ、頼むぜ!」「《フリージング・ブレイヴァー》!!」

 そんな短い槍とととともにゼッドが下がり、ザッドの渾身の力を込めて投げられる《フリージング・ブレイヴァー》と言う初見のアーツ。投げられた両手斧はあっという間に冷気と闘気によって巨大化しながら自分へと向かって飛んでくる。飛んでくるスピードも速い、まさに切り札、必殺技と呼ぶにふさわしい攻撃だ。だが。

(今までも困難は山ほどあった。それに比べれば、今の状態など大したことはない!)

 八岐の月を構え、ドラゴンの骨矢を番える。そして飛んでくる両手斧に狙いをつけて……アローツイスターを放つ。これにより、空中で冷気と闘気でその大きさを増した両手斧と、狂った能力を持つ弓から放たれたドラゴンの骨で作られた矢が鍔迫り合いをするという実に奇妙な光景が発生する。

 が、流石に両手斧の重さには勝てなかったようで、矢が明確に勢いを失っていく。が、ならば追加の矢を放てばいいだけ──と、やはりそうやすやすとはやらせてくれないか。今度はゼッドが再び槍を自分に向けて投げようとしている。しかもこちらは爆炎が槍の穂先に纏わりついている。

「これも持っていけ、《ピアッシング・エクスプロイダー》!」

 ゼッドが投げつけてきた槍はかなりの速度で自分に襲い掛かってくる。当然同時にザッドの《フリージング・ブレイヴァー》も再び自分を叩き潰すべくこちらへと動き始める。試しにゼッドの投げてきた槍に普通の矢を放ってみたが、ぶつかると同時に爆発して矢が一方的に打ち消されるのが見えた。

(迎撃はあれでは矢による迎撃は無理だ! ならば!)

 自分は飛んでくる槍に向かって走り出す。後ろに下がるのは悪手、左右によけても……ザッドの放ったアーツと同じくホーミング性能がある可能性が否定できない。ならばどうするか……ぎりぎりでかいくぐり、ホーミング能力があってもこちらを追いきれない動きをする。迎撃する時間はもうない以上、それしかない。

 あと三歩、二、一、ここ! ノーダメージで済まそうなんて考えはしていない。出来るだけ軽傷で済ますことが出来ればいい。故に、槍の穂先にだけは触れずに本当のぎりぎりですり抜ける。当然体は槍が纏っている爆炎の炎で焼かれる。だが、直撃するよりははるかにマシ。そして槍を躱した後に間髪入れず自分は盾に仕込んでいるアンカーをザッドに放つ。

「何!?」

 驚くザッドを無視して、アンカーを引き戻す。すると超重量のザッドに向かって自分が引き寄せられる形となる。こちらの装備の合計の方が、ザッドの鎧と比べるとはるかに軽いと踏んでの行動だったが、正しかった。この引き寄せ移動で《フリージング・ブレイヴァー》をくぐる! そして、ザッドの首筋にマリンレッグセイヴァー・クラネスパワーに付いている爪を突き刺す! クラネス師匠の鍛えたこの爪ならば──

「ぐおっ!!?」

 ザッドの鎧と言えど、貫けるはずだ。そしてそのこちらの願いに武具は応えた。手ごたえ、ありである。
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