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ヘイロクさんとの対人戦
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PvPの武舞台の上に立つ自分とヘイロクさん。なお、観戦許可はオサカゲさんだけに出してある。
「申し訳ありませんが、時間の関係上本日お相手できるのは一度だけです」「あのオサカゲがなかなかやるという人物と、一度でも相対できるのはありがたい話よ……では、始めようぞ」
──ふむ、オサカゲさんの闘気を大ナタと例えると、このヘイロクさんの物は剃刀のような鋭さと冷たさを感じさせる。ロングソードでありながら刀身を細くしているのは、ロングソードの圧し潰して斬る形を嫌い、刀のように斬撃を重視したからこそなのかと感じさせる。そして双方構えに入るのだが──ここでヘイロクさんから待ったが入る。
「貴殿のその構えはなんだ? ふざけているのか?」「ふざけているか否かは、刃を合わせればわかる事ではありませんか? ふざけているのであれば、そちらの攻撃を一度も受け止められないでしょう?」
左手に弓である八岐の月、そして右手には双刃のレガリオン。二刀流にしても歪である事は確かである。初見であるならば、ヘイロクさんの様にふざけていると取られてもおかしくはない。だが、自分はこの形で戦ってきた以上……見た目だけでふざけていると取られるのは、心外である。その感情が漏れてしまったのだろうか? ヘイロクさんの目つきが変わっていく。
「なるほど、その気配はふざけていては出せぬか……ならば己の刃にて確かめるのみ。では、いざ参る!」
PvPの開始の合図とともに、一気にヘイロクさんが距離を詰めて一対のロングソードを自分に向けて交差するように振るってきた。こちらもヘイロクさんの刃の重さは如何程なのかを知るために、あえてよけずに受ける。ふむ、オサカゲさんより軽いな……パワーではなくテクニックを重視したタイプか? いや、これはあくまで様子見と言う可能性が高い。最初の一撃で考えを固めるのは危険すぎる。
それから二度、三度とヘイロクさんが刃を振るうが……この程度なら余裕を持って対処できる。しっかりと受け流し、自分のバトルスタイルは決してお飾りでも物珍しさだけのお遊びでもないと知ってもらう。さて、攻撃を受け続けるだけではつまらないので、機を見て反撃に移る。八岐の月に付いている爪や、レガリオンでの連続攻撃なども見せる。だが、まだスネークソード状態は見せない。盾に仕込んでいる物も使わない。
双方まともに攻撃が命中しないまま、近距離での戦いが続いた。が、ヘイロクさんが大きく飛びのいて距離を取る。何かの誘いの可能性もある為、自分は追わずに警戒状態に移行する。が、そう言う訳ではなくヘイロクさんが口を開いた。
「貴殿の構えがふざけていると言った言葉を取り消させていただく。誠に失礼した。貴殿の戦い方は、数多の修羅場をくぐったそれだ。よもや現代にて、こちらの世界特有の技にも術にも頼らずこれほどの使い手と成る人物がまだ知らぬところにいたとは……やはり、この世界は面白い。終わりが近い事が残念でならぬ」
と、謝罪の言葉を告げてきたので、それは素直に受け取った。まあ、こういった言葉を吐かせることが出来るだけの修行と戦闘を行い、窮地を潜り抜けてきた。見た目は傾奇者の様であっても、芯はしっかりとしたものがあるぞっと。
「では続けようぞ。少し、力を入れさせていただく」
言葉の後に再び自分に襲い掛かってくるヘイロクさん。確かに少し力を入れると言っただけあって、先ほどよりも明確に刃に重みが増し速度も上がっている。先ほどまでは完全な様子見だったのだろう。その様子見すら超えられぬようでは話にならぬ、と言った感じだろうか? だけど、様子見だったのは決してそちら側だけではなかったんだよな。
「なっ!?」
ヘイロクさんの攻撃を何回か受け流し、反撃するときに今までよりも素早くレガリオンを振るった。ヘイロクさんは何とか回避したようだが……いや、回避しきれてないな。開けた胸元から一筋の紅い線が見る。ただ、本当にかすった程度なので手ごたえは全くなかったんだけど。
「様子を見ていたのは、こちらも同じです。いきなり手の内をぱかぱか見せる訳にはいきませんから」
驚いた表情のヘイロクさんに対して、こちらも口を開いた。ヘイロクさんは小さくうなった後に一つ頷いた。
「なるほどな、確かにその通りよ。そして分かった、貴殿に手加減など不要だと。刃を交わす前にそれを見切れぬ己の未熟さに嫌気がさすが……ここからは本気よ、いざ参る!」
言うが早いか、三度自分に突っ込んでくるヘイロクさん。が、本気と言う言葉を裏付けるように、その踏み込みは早く振り下ろさせる刃はより早く、そして重かった。だが、こちらの表情を凍らせるほどの物では、ない。その後に続いた猛攻もすべて受け流し、無傷でやり過ごした。自分の刃が一切届かないのを見て、ヘイロクさんは驚愕の表情を浮かべていた。
「貴殿は、一体どのような修練をこの世界で積んだ!? 我が刃が一度たりとも届かぬとは!?」「龍神やエルフの師を得ましてね……そこで何度も何度も修行をさせていただいたんですよ。派手な技を身に着けるためではなく、地味に土台を作るための修行を」
この自分の返答に再びヘイロクさんは目を見開いて驚いていた。そして、悔しそうな表情を浮かべる。
「その様な師となってくれる者がこの世界にはいたのか……己が武術を自分だけで磨く事に熱を上げ過ぎ、新たに学ぶ心をいつの間にか失っていたかっ! にもかかわらず今までそれに気が付く事なく、魔剣を追い求めていたとは……これでは安易に力を求める一部の門下生とそう変わらぬではないか!」
闘気が揺らぎ、肩と落とすヘイロクさん。ああ、それは確かにもったいないな。あくまで目的は武術の向上であったとしても、せっかくなんだからいろんな場所を回って様々な事に挑戦すればよかったのに。その挑戦を乗り越えれば、現実でも生かせる何らかの強さを得られたのではないか、と。そう、カザミネのように。
「ならば、今からでも学ばれては如何でしょう? 残り二ヶ月を切ってはいますが、それでも時間はまだあるのです。遅すぎると決めつけて動かないより、まだ時間があると考えて動いた方が貴方の武術を磨く修練となるのでは」
この自分の言葉に、ヘイロクさんは頷いた。そう、まだわずかではあっても残り時間はある。その残り時間でこの塔の中でできる修練を探し、行動する方が有意義だろう。
「ならばさっそく、貴殿から学ばせていただく。いざ!」
揺らいでいた闘気が再びしっかりとしたものとなって自分に向けられる。どうやら、気分を新たにして戦闘を再開するだけの精神状態になったようだ。ならば、自分もそれに応じるのみ。今度は自分の方から距離を詰める。そして再び始まるインファイト戦。だが──ここからは受け流しと反撃を組み合わせてヘイロクさんを削り始める。
受け流す動作の中で、もう片方の刃、爪を使う動きに切り替えてヘイロクさんを何度も切る。円を描くようにヘイロクさんの剣をそらし、すかさず逸らすのに使った方の刃や爪とは逆についている刃と爪でヘイロクさんの体に斬撃を入れていく。一発一発はそう重い物ではないが、自分の攻撃が届かず一方的に切り刻まれるのは精神的に来るだろう。
ヘイロクさんの体はあちこちが紅に染まり、ヘイロクさん自身も息が少々荒くなってきていた。一方で自分はまだきれいなまま。うーん、ヘイロクさんには申し訳ないが、雨龍、砂龍師匠には遠く及んでいない。逆にヘイロクさんが雨龍、砂龍師匠に学んでいたらもっと強くなっていただろう。
「ぐ……うっ……」
ゆっくりとヘイロクさんが右膝を付いた。どうやら限界かな? それとも、まだ立ち上がってくるだろうか? そう考えていたら……ヘイロクさんが急に笑い出した。
「面白いな! 面白いぞ! こちらの世界独自の技にも術にも頼らずにいるというのに、ここまで戦える猛者がいる! こんな所で、こんな楽しい所で、くたばっている訳にはいかん!!」
そして立ち上がったヘイロクさんの顔は、血にまみれていたが笑っていた。狂気の笑みではなく、楽しくてしょうがないと言った感じの笑みだ。どうやら、スイッチが入ったかな……先ほどまでと同じ人とは思わない方が良い。そう、感じる。
「もうしばし、付き合ってくれ! 何かが掴めそうだ!」「分かりました、では続けましょう」
早く続けたいという空気を出しまくるヘイロクさんに応え、自分も再び武器を構える。さて、ヘイロクさんはここまで自分と戦った事で何を掴んだのかな? しっかりと見せてもらわないと。
****
28巻の作業がそう遠くないうちに入ります。いつから始まるから改めて報告します。
「申し訳ありませんが、時間の関係上本日お相手できるのは一度だけです」「あのオサカゲがなかなかやるという人物と、一度でも相対できるのはありがたい話よ……では、始めようぞ」
──ふむ、オサカゲさんの闘気を大ナタと例えると、このヘイロクさんの物は剃刀のような鋭さと冷たさを感じさせる。ロングソードでありながら刀身を細くしているのは、ロングソードの圧し潰して斬る形を嫌い、刀のように斬撃を重視したからこそなのかと感じさせる。そして双方構えに入るのだが──ここでヘイロクさんから待ったが入る。
「貴殿のその構えはなんだ? ふざけているのか?」「ふざけているか否かは、刃を合わせればわかる事ではありませんか? ふざけているのであれば、そちらの攻撃を一度も受け止められないでしょう?」
左手に弓である八岐の月、そして右手には双刃のレガリオン。二刀流にしても歪である事は確かである。初見であるならば、ヘイロクさんの様にふざけていると取られてもおかしくはない。だが、自分はこの形で戦ってきた以上……見た目だけでふざけていると取られるのは、心外である。その感情が漏れてしまったのだろうか? ヘイロクさんの目つきが変わっていく。
「なるほど、その気配はふざけていては出せぬか……ならば己の刃にて確かめるのみ。では、いざ参る!」
PvPの開始の合図とともに、一気にヘイロクさんが距離を詰めて一対のロングソードを自分に向けて交差するように振るってきた。こちらもヘイロクさんの刃の重さは如何程なのかを知るために、あえてよけずに受ける。ふむ、オサカゲさんより軽いな……パワーではなくテクニックを重視したタイプか? いや、これはあくまで様子見と言う可能性が高い。最初の一撃で考えを固めるのは危険すぎる。
それから二度、三度とヘイロクさんが刃を振るうが……この程度なら余裕を持って対処できる。しっかりと受け流し、自分のバトルスタイルは決してお飾りでも物珍しさだけのお遊びでもないと知ってもらう。さて、攻撃を受け続けるだけではつまらないので、機を見て反撃に移る。八岐の月に付いている爪や、レガリオンでの連続攻撃なども見せる。だが、まだスネークソード状態は見せない。盾に仕込んでいる物も使わない。
双方まともに攻撃が命中しないまま、近距離での戦いが続いた。が、ヘイロクさんが大きく飛びのいて距離を取る。何かの誘いの可能性もある為、自分は追わずに警戒状態に移行する。が、そう言う訳ではなくヘイロクさんが口を開いた。
「貴殿の構えがふざけていると言った言葉を取り消させていただく。誠に失礼した。貴殿の戦い方は、数多の修羅場をくぐったそれだ。よもや現代にて、こちらの世界特有の技にも術にも頼らずこれほどの使い手と成る人物がまだ知らぬところにいたとは……やはり、この世界は面白い。終わりが近い事が残念でならぬ」
と、謝罪の言葉を告げてきたので、それは素直に受け取った。まあ、こういった言葉を吐かせることが出来るだけの修行と戦闘を行い、窮地を潜り抜けてきた。見た目は傾奇者の様であっても、芯はしっかりとしたものがあるぞっと。
「では続けようぞ。少し、力を入れさせていただく」
言葉の後に再び自分に襲い掛かってくるヘイロクさん。確かに少し力を入れると言っただけあって、先ほどよりも明確に刃に重みが増し速度も上がっている。先ほどまでは完全な様子見だったのだろう。その様子見すら超えられぬようでは話にならぬ、と言った感じだろうか? だけど、様子見だったのは決してそちら側だけではなかったんだよな。
「なっ!?」
ヘイロクさんの攻撃を何回か受け流し、反撃するときに今までよりも素早くレガリオンを振るった。ヘイロクさんは何とか回避したようだが……いや、回避しきれてないな。開けた胸元から一筋の紅い線が見る。ただ、本当にかすった程度なので手ごたえは全くなかったんだけど。
「様子を見ていたのは、こちらも同じです。いきなり手の内をぱかぱか見せる訳にはいきませんから」
驚いた表情のヘイロクさんに対して、こちらも口を開いた。ヘイロクさんは小さくうなった後に一つ頷いた。
「なるほどな、確かにその通りよ。そして分かった、貴殿に手加減など不要だと。刃を交わす前にそれを見切れぬ己の未熟さに嫌気がさすが……ここからは本気よ、いざ参る!」
言うが早いか、三度自分に突っ込んでくるヘイロクさん。が、本気と言う言葉を裏付けるように、その踏み込みは早く振り下ろさせる刃はより早く、そして重かった。だが、こちらの表情を凍らせるほどの物では、ない。その後に続いた猛攻もすべて受け流し、無傷でやり過ごした。自分の刃が一切届かないのを見て、ヘイロクさんは驚愕の表情を浮かべていた。
「貴殿は、一体どのような修練をこの世界で積んだ!? 我が刃が一度たりとも届かぬとは!?」「龍神やエルフの師を得ましてね……そこで何度も何度も修行をさせていただいたんですよ。派手な技を身に着けるためではなく、地味に土台を作るための修行を」
この自分の返答に再びヘイロクさんは目を見開いて驚いていた。そして、悔しそうな表情を浮かべる。
「その様な師となってくれる者がこの世界にはいたのか……己が武術を自分だけで磨く事に熱を上げ過ぎ、新たに学ぶ心をいつの間にか失っていたかっ! にもかかわらず今までそれに気が付く事なく、魔剣を追い求めていたとは……これでは安易に力を求める一部の門下生とそう変わらぬではないか!」
闘気が揺らぎ、肩と落とすヘイロクさん。ああ、それは確かにもったいないな。あくまで目的は武術の向上であったとしても、せっかくなんだからいろんな場所を回って様々な事に挑戦すればよかったのに。その挑戦を乗り越えれば、現実でも生かせる何らかの強さを得られたのではないか、と。そう、カザミネのように。
「ならば、今からでも学ばれては如何でしょう? 残り二ヶ月を切ってはいますが、それでも時間はまだあるのです。遅すぎると決めつけて動かないより、まだ時間があると考えて動いた方が貴方の武術を磨く修練となるのでは」
この自分の言葉に、ヘイロクさんは頷いた。そう、まだわずかではあっても残り時間はある。その残り時間でこの塔の中でできる修練を探し、行動する方が有意義だろう。
「ならばさっそく、貴殿から学ばせていただく。いざ!」
揺らいでいた闘気が再びしっかりとしたものとなって自分に向けられる。どうやら、気分を新たにして戦闘を再開するだけの精神状態になったようだ。ならば、自分もそれに応じるのみ。今度は自分の方から距離を詰める。そして再び始まるインファイト戦。だが──ここからは受け流しと反撃を組み合わせてヘイロクさんを削り始める。
受け流す動作の中で、もう片方の刃、爪を使う動きに切り替えてヘイロクさんを何度も切る。円を描くようにヘイロクさんの剣をそらし、すかさず逸らすのに使った方の刃や爪とは逆についている刃と爪でヘイロクさんの体に斬撃を入れていく。一発一発はそう重い物ではないが、自分の攻撃が届かず一方的に切り刻まれるのは精神的に来るだろう。
ヘイロクさんの体はあちこちが紅に染まり、ヘイロクさん自身も息が少々荒くなってきていた。一方で自分はまだきれいなまま。うーん、ヘイロクさんには申し訳ないが、雨龍、砂龍師匠には遠く及んでいない。逆にヘイロクさんが雨龍、砂龍師匠に学んでいたらもっと強くなっていただろう。
「ぐ……うっ……」
ゆっくりとヘイロクさんが右膝を付いた。どうやら限界かな? それとも、まだ立ち上がってくるだろうか? そう考えていたら……ヘイロクさんが急に笑い出した。
「面白いな! 面白いぞ! こちらの世界独自の技にも術にも頼らずにいるというのに、ここまで戦える猛者がいる! こんな所で、こんな楽しい所で、くたばっている訳にはいかん!!」
そして立ち上がったヘイロクさんの顔は、血にまみれていたが笑っていた。狂気の笑みではなく、楽しくてしょうがないと言った感じの笑みだ。どうやら、スイッチが入ったかな……先ほどまでと同じ人とは思わない方が良い。そう、感じる。
「もうしばし、付き合ってくれ! 何かが掴めそうだ!」「分かりました、では続けましょう」
早く続けたいという空気を出しまくるヘイロクさんに応え、自分も再び武器を構える。さて、ヘイロクさんはここまで自分と戦った事で何を掴んだのかな? しっかりと見せてもらわないと。
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