とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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試練の結果、そして新しい人との出会い

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 そして試験官による試食タイム。しかしその最中、守護者さんが試験官の事を睨む睨む。まるでまずいなんて口にしたらどうなるか分かってんだろうな? と言わんばかりの圧をめちゃくちゃ掛けている。しかし、試験官もその圧に屈してなる物かとばかりに必死の形相を浮かべながら試食を続けている。

(変に口を出せば、矛先がこっちに向いてきそうなんだよなぁ。うーん、自分の作った料理を不味いと言われたくないという気持ちも分からんでもないが、流石にやり過ぎだよなぁ……あの圧の掛け方は。そうは思うんだけど、上手い止め方が思いつかない)

 そんな感じで、結局試食が終わるまでの間守護者の圧を掛けるのを止めることが出来ないまま時間だけが過ぎた。それでも何とか試験官は食事全てを食べ終わり、しばし顔をテーブルに向けた状態で考え込む。合格にするか、失格にするかの答えを出すために、食べた料理の味、見た目、香織などからくる評価を纏めているのだろう。そして。

「合格です。全体的に味が良い事はもちろん、見た目も香りも上々。ここを突破させるのにふさわしいと判断するに値する料理でした。特に驚いたのは十品目のおぞうに、とおっしゃられていた料理です。あそこに置いておいたお米は、他の米と混ぜてより美味しくなるようにする料理人向けに配置した物だったのですが……まさかそれを主役に持ってくるとは思いませんでした」

 合格か、よかった。これでもし失格となったら守護者さんがどれだけ暴れたか想像もしたくない。それにしても、置かれていたもち米がブレンド用に想定されたものだったとは。確かに普段焚くお米に多少のもち米を入れておいしさを増すと言う手段は知っている。そして、試験官もそのために置いておいたが故に、メインに持ってくるのは想定外だったか。

 だが、言っては何だがパワーあふれる守護者さんに料理の手伝いと言うか一品作る為の手段はこれしか思いつかなかった。無論うどんやラーメンと言った作るのにパワーが必要となる料理はあるけど、とっさに目に入ったもち米を見て、お雑煮を作ろうって思考に完全に入っちゃったんだよね。試験が終わって緊張がほぐれた今でこそこうやって思いつくんだけどさ……

「まあね、当然よね? 何せ『私』が! ちゃんと『主役』を作ったんだから!」

 一方で守護者さんは、まあ、その、一般的な言い方で言うドヤ顔って奴をなさっている。額縁に入れて、題名を『これがドヤ顔という物です』と付けて飾ってもいい位だ……うん、SS取っておこう。守護者さんに断りを入れた後に、角度まで決めてもらって記念の一枚。うん、いい絵が取れたんじゃないかな。後でPCの方にデータを移動させて記録用として取っておこう。もちろん額縁に入れるとかのちょっとした加工をつけ足した上で。

「──なんにせよ、これで貴方様はこの階層をクリアし先に進む資格を手に入れました。こちらで記録を行われた後、先にお進みください。それとも、本日はここまでにしておきますか? 私としては、あと五階でいいので先に進んで欲しいのですが」

 記録用の水晶体を出しながら、試験官がそんな事を口にする。最後の一言は紛れもなく本心だろうなぁ。この階で終わりにしたら、守護者さんは明日までこの階層に居座る事になるのだろう。そうなると……うん、試験官さんの胃が心配になるな。人を模した水のような存在なので、実際にあるかどうかは分からないけど。

 時計を確認すると……あと十階ぐらいは大丈夫かな。あと十階まで登ったら今日はおしまいにしよう。その方針を守護者さんにも告げると、試験官さんは心の底からほっとした表情を浮かべていた。もうちょっと隠した方が良いんじゃないかな? ほら、守護者さんの目に怒気が混じりだしたし。

「どうしてそこまでほっとしているのかしら?」「心当たりがないなら、教えて差し上げましょうか」

 守護者さんの言葉に、すかさずそう返す試験官さん。そして始まるにらみ合い……昭和の不良じゃないんだからさ……なんでそうも至近距離までお互いに近づいてにらみ合ってるんだよ。なので、そうやってるなら今日はここまでにするよと自分が告げると……「そうしてくれると助かるわ、こいつとは一度しっかりとした話し合いが必要らしいから」と言う守護者さんの返答が帰ってくる始末。

(よし、後はもう放置しよう。守護者さんが同行している関係上、一〇階の差なんてあってないようなものだ。むしろ巻き込まれたくないからさっさと退散しよう)

 そう判断し、お疲れさまでしたと告げて即座に退散。この後この場がどうなったのかなんて興味を持たない方が良い。ほら、言葉にもあるでしょう? 知らぬが華、と。そして塔の外に出て葵をらを見ながら体をひと伸びさせる。さて、このペースだと九九五階までは遅くても二日ぐらいだろう。ぶっ飛んだペースだけど、全体的に見れば攻略が遅いパーティと同じぐらいのぺーすになるんだよ。七五〇階で時間をそれだけ使わされたと言う事でもある。

(ログアウトまであと二〇分ぐらいの時間はあるけど、やる事も特にないしさっさとログアウトして寝てもいいかな?)

 そう考えながら宿屋に向かっていると、妙に人が集まっている所があった。聞こえてくる声からして、問題が発生しているという訳ではなくPvPを行っているのだろう。かなり盛り上がっている事から、かなりの猛者同士がPvPを行っていると予想される。なので、折角だから見ていく事にした。

(どれどれ……観戦制限は無制限になっているから見られるな。一対一のベーシックなPvPで決着のルールは相手のHPを全部削る事ね。さて誰が戦っているのか……ありゃ、あれはオサカゲさんじゃないか。もう一人の男性は着流しの浪人みたいな外見だな。ただ、内側にチェインメイルを着込んでいるようだが……)

 オサカゲさんともう一人の戦いは、すでに佳境に入っている様だった。大太刀を振るオサカゲさんに対し、ぼさぼさ髪に無精ひげを生やした着流しの浪人のような外見の男性はかなり刀身が細いロングソードの二刀流で戦っていた。うーん、外見と武器のちぐはぐさが気になるなぁ。と言ってもワンモアでは刀は大太刀しかないからどうしようもなかったのだろう。

 オサカゲさんの重い一撃を受け流しつつ、手数で反撃を行っている浪人風の男性。お互いに一進一退であり、残り体力も互いにいい攻撃が一発入ればゼロになって決着がつくというぐらいの残量しかない。二人の間に火花が何度も舞い、激しい打ち合いが行われる。お互い一歩も引く気なしと言う事が誰にでも分かろうという物だ。

「いけー! 押し切れー!」「負けるなよー! 賭けてるんだからなー!」「この二人の戦いはいっつもこうなるからな、見ごたえがあるぜ!」

 周囲の感染者からもそんな声が飛んでいる。しかし、金かものかは分からないか賭け事をしている奴はいるんだな……まあ、本人が困らない程度にやるならいいけどね。っと、戦いはそろそろ決着がつくかな? オサカゲさんの大太刀の一撃を受け流そうとした浪人風の男性だが……このタイミングで受け流し損ねたようだ。直撃は避けたが、それでも無理な動きをしたために動きが止まった。それを見逃してくれるようなオサカゲさんではない。

 オサカゲさんが振るった返しの一太刀で、浪人風の男性の胸辺りが見事に切り裂かれた。浪人風の男性は、まるで時代劇のようにゆっくりと二、三歩後ろに後ずさった後に崩れ落ちた。これで決着がつき、オサカゲさんにWINの勝利文字が浮かび上がっている。うーん、最初から見たかったな、この戦い。

「今日はオサカゲの勝利か」「ま、ヘイロクの方はやっぱりあの受け流しのミスをやった時点でアウトだったよな」「お互い実力伯仲してるんだけどねぇ……今日はオサカゲに軍配が上がったか」「くっそー、ヘイロクはあそこであんなミスするなよ……七万グローがパーだぜ」

 PvPが終わった事で、様々なプレイヤーはあれこれ言いながらこの場を離れていく。が、自分はオサカゲさんとちょっと話をしたかったので、プレイヤー達が散るのを待つ。数分が経過し、自分はオサカゲさんに声をかけた。

「オサカゲさん、最後辺りしか見れませんでしたが素晴らしい一太刀でした」「おお、これはアース殿。ご覧になられていたか」

 会釈の後に自分がそう口にすると、オサカゲさんも会釈をした後に返答を返したくれた。一方で浪人風の男性は自分と言う人間がどんな奴なのかを見定めるような目を向けてきていた。

「アース殿はヘイロクとお会いするのは始めてだったかな? この者はヘイロク、現実では別の道場の師範であり、好敵手と言った所か」

 ああ、どおりであれだけのアーツに頼らない立ち回りが出来るわけだ。最後の方しか見れなかったが、それでもオサカゲさんの大太刀をアーツに頼らず受け流せる技量は素晴らしいものだったが、それだけの技量を持っている理由が分かった。

「アース殿と言うのか。我はヘイロク、オサカゲの言った通り別の道場にて剣術、柔術を中心とした武術を伝えている。この世界にはオサカゲに誘われてやってきた……そして時々、先ほどのように己の技量だけで戦うのだ。惜しむらくは、刀が無い事だな。ロングソードも悪くはないのだが、やはり手になじむとはいいがたい。この凝った外見にも木に竹を接ぐ様な形になってしまっているからな」

 と、ヘイロクさんから自己紹介を受けた。やっぱりその見た目は意図的な物か。それ故に獲物がロングソードってのが悲しい所だ。やっぱりこの外見なら刀が欲しいよね。

「魔剣なる物の中には刀のような外見を持つ者もあると聞いてはいたが、残念ながら巡り合う機会を得られなかったのも悔いが残る。これだけ互いに寸止めではなく全力を持って斬り合える世界にて、獲物が合わぬというのはな……大太刀を始めとした大物もこちらは扱えぬのだ」

 ヘイロクさんの道場では、そう言う大物は取り扱っていないから振るえないって事なんだろう。アーツありならまだ分からないが、無しだと技量がもろにでる。そこに不慣れな獲物では流石に仮想の体と言えど命を預ける訳にはいかないって事だろう。ワンモアは斬られればしっかり痛みを感じるから、なおさら不慣れな武器では戦いたくないと考えるのは当然だろう。

「こちらもヘイロクの獲物に関しては協力していたのだがな……どうにもならなかったのが口惜しい所よ。一縷の望みをかけてこの塔に来たが、ヘイロクの獲物にふさわしいものはついに見つからなんだ」

 と、オサカゲさんも無念そうに話す。好敵手であればこそ、その実力をいかんなく発揮できる獲物を与えたい。気持ちは理解できるが、魔剣は本当に出会えるかどうかはその人次第だからな……自分も真同化以外の魔剣は他の人が使うのを見るだけだった。そうして話をしていたのだが、オサカゲさんがこんなことを口にした。

「ヘイロクよ、お前もアース殿と一戦交えてみないか? アース殿はこちらの世界の技術なしでもなかなかやるぞ?」「ほう、それは興味深い……」

 一瞬で戦闘者の目になる両者。ま、こうなる事も想定内。では、一勝負とまいりましょうか。
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