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しゅごしゃが どうこうしゃに くわわった(良いのかそれは)

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 翌日ログインし、塔の中へ。そこには、当然の様に両腕を組んだ守護者が待ち構えていた。

「来たわね、待ちかねたわ。早速私を打ち破った貴方への褒章の話をしましょうか」

 そんな守護者により、さっそく褒章内容が明かされる。一つ目はチョーカーの更なるグレードアップ。今まで使っていたチョーカーは……


 瞑想のチョーカー レジェンド

 DEF+30 MDEF+50 全てのMP消費を25%軽減する。装備時のみ《ジェルスパーク》が使用可能。

 とある塔の中で、守り人を二人倒したものが得られるチョーカー。魔力の消費を抑え、特殊な魔法の行使を可能とする。


 と言う性能だった。これが更に強化された結果──


 開眼のチョーカー レジェンド

 DEF+50 MDEF+50 全てのMP消費を40%軽減する。装備時のみ《ジェルスパーク》《ミラー・ファントム》が使用可能。

 とある塔の中で、全ての護り人を倒したものが得られるチョーカー。魔力の消費を大幅に抑え、特殊な魔法の行使を可能とする。


 となった。で、新しく追加された《ミラー・ファントム》とは何か? 調べてみると……魔力で作られた分身体を生み出す魔法との事。生み出せるのは一体限りで、生み出すときに最大MPの一〇%を消費する。消費するだけであって、MPはその後普通通りに回復する。また、分身の卯木機を二種類のどちらかから選べる。

 一つ目は追従型。自分の後ろにつき、自分が攻撃を行った後に同じ攻撃を繰り出すタイプ。分身の持つ攻撃の威力は自分の七割。もう一つが挟撃型。対象を中心に、相手を挟み込むように動く。こちらは自分と同じ攻撃を同時に行うので、相手を挟み込んだまま殴りまくれるのが強い。ただ、その強さ故分身の攻撃力は自分の二割半まで落ち込む。それでも挟撃がいつでもどこでもできるというのは相当に恐ろしい話だ。

「私の分身技術の一部よ。役に立つ場面はあるはず」

 ついに自分もアーツによる一瞬だけの存在ではない分身技を習得かぁ……なお、分身技そのものは忍者関連のスキルを取れた人がレベルを上げていくと習得できるらしいので、そこまでレアって訳じゃない。もっとも、この話はワンモアWikiによる情報だよりなので、実際はどうなのかは分からない。細かいニュアンスとかは流石に分からないんだよ。

 で、そちらの方の分身は複数出せるらしい。極まった人だと、一人で二十人ほど出せるとかなんとか。なので、一人だけで相当敵側を引っ掻き回すことが出来るんだとか……しかし、それらの分身には一つだけ欠点があった。それは、攻撃力を持たせることが出来ないと言う事。目は欺けるし、囮にもできる。後は多少でいいから攻撃力を持たせることが出来ればなぁ、と言うのが忍者達の願いだったとかなんとか。

 それを、数は圧倒的に劣るが自分は手に入れることが出来てしまった事になる。その代わりと言っては何だが、かく乱には使えない。あくまでこの分身は攻めの為の分身であって、逃げたり目をそらしたりする為の物ではない。ある意味、搦め手を多用する自分らしくない魔法を得てしまった事になるだろう。

「そしてもう一つの褒章だけれど……私が九九五階まで同行します! 私の階で時間を食わせた分、一気に塔の進行速度を取り戻させてあげるわ!」

 はい!? いや、ちょっと待ってくれ。貴方守護者ですよね? この階の守護の仕事はどうするの? ととっさに聞いてしまった自分の心境はきっとこの話を聞いた人は分かってくれるだろう……

「大丈夫、一番強めの分身をここに置いておくから。そしてその分身がいるうちに、さっさと九九五階まで行けばいいだけでしょ。さ、早速行くわよ!」

 言うが早いか、守護者は自分を物理的に引きずって前進を開始した……そこから八〇〇階に至るまでの道程は実にひどいものだった。どう酷いって、現れたモンスターは分身の物量&戦闘力の高さで一方的に押しつぶし引きつぶし、全く前進する足を止めなかったのだ。自分もそうとあれな戦い方をモンスターにやってきたけど、流石にこれはないわーと言いたくなる口を必死で塞いでいた。

 そして七七五階の試練では──試験官の方がかわいそうだった。何せ守護者の登場に目を白黒させただけで許してもらえず、私以上の試練なんか用意できるはずないんだから通過させなさいと無茶を要求するもんだから涙目になっていた。自分は大人しく座って待っていたよ……口なんか挟める雰囲気じゃなかった。

 それでも無試験で通す訳に行かないと必死で自分の課された仕事をこなそうとする試験官の言葉に、折れたのは守護者の方だった。が。その後がまた酷かった。個々の試練は一〇分以内にモンスターが多数はびこる迷宮をクリアしてくださいという物だった。で、守護者はどのような行動をとったかと言うと……想像できた人がいるかもしれない。迷宮の壁をぶち破ってまっすぐストレートに突っ込んだのだ。

 塔の迷宮ならともかく、試練の迷宮なら壁が脆いからぶち破る事は難しくないのよとはクリアした後に守護者が口にした言葉。それにしても酷い……武器のみを分身させ、簡易ドリルのような動かし方をさせて壁も不運にも侵攻先にいたモンスターもすべて巻き込んだ。もはや壁だった岩とモンスターの遺体が入り混じって細かく砕かれていく絵は酷いなんてものじゃなかった。

 結果として、試練を二分かからずにクリアしてしまった。もうね、試験官の方が涙を隠せずに泣き崩れる姿を見て哀れ過ぎるとしか表現のしようがなかった。しかしここで自分が声をかけたり慰めようものなら、今度は守護者が変にへそを曲げてどんな行動に出るかが予測できない以上、バレないように手を合わせて素早くごめんなさいするジェスチャーをするのが精いっぱいだった。

(すごく悪い事をした気分……自分の責任じゃないんだけど──いや、責任か? でもいくらなんでもこんな無茶苦茶な行動をする最初の頃のフェアリークィーンのような存在が再び同行する展開になるとか、予想しろってのが無理だよね!?)

 そんな泣き崩れる試験管をよそに、守護者(と書いてもうデストロイヤーと呼ぶことにしよう)はいい仕事をしたとばかりに満面の笑顔を浮かべていた。

「これでクリアね? 先に進むわよ」「もうさっさと進んでください」

 試験官の恨みが詰まった言葉も知った事じゃないとばかりに守護者は受け流し、再び自分をひっつかんで前進開始。言うまでもないが、あっという間に八〇〇階にまで到達した……もはや台風が高速で全てを消し飛ばしている様にしか感じられない。この階層までくれば、出てくるモンスターはどれもこれもかなりの強さを持っている連中の筈なんだけど、守護者の前には意味を成していない。

「さあ、八〇〇階ね。さっさと突破するわよ!」

 そう言うが早いか、自分を左手でつかんだまま、ポータル前のドアを豪快に蹴り破って……ドアが壊れて奥まで飛んで行っちゃったよ。どれだけのパワーで蹴ったんだ……あんまり破壊行為をするのはよろしくないんじゃないかなとやや現実逃避を自分は始めていた。そして八〇〇階に転送されてきたわけなのだが

「あんで守護者である貴女がここにいるんですか!?」「彼に私は負けたから、九九五階まで私が引っ張る事に決めたの!」

 八〇〇階の男性を模した試験官に、胸を張ってそう宣言する守護者。その言葉を聞いて、試験官が頭を押さえる。

「なんでそう言うでたらめをやるんですか……」「逆に聞くけど、私の本気で行った以上の難易度を持つ試練を貴方達が用意できるの? 出来ないでしょ? だったら私が同行して九九五階まで引っ張り上げてもいいでしょ?」「そう言う問題ではありません!」

 降ってわいた災難に、八〇〇階の試験官は頭痛が収まらない様だ。それでも試験を行うべく、あれこれ何かを作動させている。

「では、八〇〇階の試練です。それは、これです」

 そんな試験官の言葉と共に、部屋の一室に緞帳(どんちょう)が下りてきた。劇の舞台が始まる前とか終わった時に降りてくるあれの事である。そして再び上がると、そこには多種多様な食材が並べられていた。

「いろいろな食材を用意しました。用意された食材の身を使って、一定レベルの美味しい料理を一〇品作る事。それがこの階での試練です。どうです? 守護者の貴女と言えどこの試練は力業で超える事は出来ませんよ?」

 そんな言葉の後に、ドヤァとばかりの表情を試験官は守護者に見せる。一方で守護者は歯噛みして悔しがっている。あのさ、本来試験を受けるべき自分がほったらかしにされているんですがそれは良いんですか? そう思わなくもなかったが、とりあえず用意された食材を確認する。ふむ……悪い食材はない。が、一方で飛びぬけて良い物もないな。

「高級な食材は一切ありませんよ。食材の品質も限りなく同じものしか集めていません。ここは料理の腕を持っている人に、食材の力を借りずに腕で勝負してもらう所ですから」

 食材を見て回っていた自分に対し、試験官がそう告げてきた。そう言う趣旨と言う訳ね……でも、肉に野菜に魚と実に多種多様。これならば、一〇品製作は十分に行ける。ここは完全に自分の仕事だな。
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