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VRで磨く武術の腕前

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 結局オサカゲさんは自分のアームブレイクが回復するまで待つことを選択した。そして回復し、腕を動かして違和感がない事を確認してからオサカゲさんとのPvPを始める。今回はカザミネとカナさんにのみ閲覧許可を出す。PvPのエリアに入った自分とオサカゲさんは互いに一礼。

「では、集中を始めます」「了解、焦らせるような真似はせん。しっかりと集中して欲しい」

 そう言われるが、先ほどの守護者との戦いで経験した攻防を行いながらの集中を行った経験がある以上、ある程度の攻撃なら自分の集中を完全に乱して中断させることはできないと思うけど……落ち着いて集中させてもらえるのなら、楽ではある。それに、集中の高まりも早くなるからね……呼吸を落ち着け、居合の態勢を取ってから明鏡止水の集中状態に入る。

 自分の集中力が高まるにつれ、オサカゲさんからの警戒する気配が高まるのを感じる。オサカゲさんは、何か感じる物があるのかもしれない……そして、奥義が打てるレベルまで集中力が高まった。

「では、参ります。構えてください」「心得た」

 そう宣言し、オサカゲさんが武器をしっかりと構えるのを確認する。準備が完了したことを確認した後に、自分は奥義を放つ。オサカゲさんの右側を駆け抜けるようにしながらガナードを一閃──斬った。手ごたえは十分にあり。

「ごほ……な、これは……」

 そう言い残し、オサカゲさんは倒れた。オサカゲさんでも防げなかったか……砂龍師匠の最後に残してくれたこの奥義、集中に時間がかかる事と攻撃を一回するのが精いっぱいであることを考慮しても、自分には過ぎた技であることを痛感させられる。そうしてPvPが終わると、パーティチャットの為に、自分、カザミネ、カナさん、オサカゲさんはパーティを組んだ。

『何という太刀筋……いや、それもあるがまさかその剣で居合が出来るとは思いもよらなかったですぞ。剣を曲げられるからこその芸当ですな』

 と言うのがオサカゲさんの第一声だった。続くのはカナさん。

『改めて見せて頂きましたが、やはり素晴らしい一撃でした。私も、もう少し早めにあの師匠にお会いできていればもっと己を高められたのでしょう……それが悔しいですね』

 このカナさんの発言にオサカゲさんが反応したので、カザミネがカナさんの代わりに雨龍師匠と白羽さんの存在をオサカゲさんに伝えていた。

『むう、そんな方々が居られたとは。カナが師匠と言うのですから、相当な方なのでしょうな』『はい、指導していただいた時期は短かったのですが、それでも修練の合間に何度も行った立ち合いでは全く歯が立ちませんでした。そんな方に、アースさんは長く指導を受けていたのです。それ故にあのような奥義を伝授されたのでしょう』

 まあ、いくらカザミネやカナさん、そしてロナであってもわずかな期間じゃ雨龍さんや白羽さんに勝てるわけもない。攻撃をかすらせるのが精いっぱいだったんじゃないかな? そんな自分の想像をよそに、カザミネとカナさんは自分達が受けた修行内容をオサカゲさんに伝えていく。

『むう、細い杭の上に立ち、その上で戦うというのか。そして落ちれば針の山か』『はい、修行の一つではありましたが……それ一つとっても厳しかったです。何度落ちたか分かりません……しかし、アースさんはその杭の上を地面に立っているのと同じように動き、私達が一方的にやられた白羽師匠と体術のみで対峙し、一回もクリーンヒットさせなかったのです。ゲームのステータスならば私の方が上でしょうが、修練の度合いはアースさんの方がはるかに高いのは疑いようがありません』

 ああ、これはカザミネたちを連れて行った時の話だな。白羽さんと体術のみで立ち会って、無被弾で終わらせたあの事を言っているのだろう。で、これを聞いたオサカゲさんは、ますます自分に興味を強く抱いたようだ。

『なら、体術のみで手合わせを行いましょうか?』『是非!』

 と言う事で、今度は武器なし防具なしでの体術限定と言う条件でPvPを行った。オサカゲさんは大太刀を飛ばされても問題ない様に素手による格闘技術を持っているそうなので、問題ないとの事。なのでこちらも体術は蹴りを主に使うとある程度手の内を晒した。そして時間目いっぱいまで体術による戦闘を行った。

 倒す事が目的ではなく、体術を見せる事がメインなのでアーツなどは一切行わず体捌きと蹴りによる行動だけでオサカゲさんと対峙した。もちろん関節技も指輪の力がないとダメージを与えられないのでなしだ。オサカゲさんが次々と繰り出してくる両腕による攻撃をこちらも手を使って逸らしながら蹴りによる反撃を見せる。

 当然オサカゲさんもこちらの蹴りをいなしたり回避しながら対処して攻撃を仕掛けてくる。互いにクリーンヒットは一度もなし。が、自分もオサカゲさんもあせる事はなく互いの攻撃を互いに無力化しながらひたすら打ち合いを続ける。このまま制限時間が過ぎるかと思っていたのだが──最後の最後にオサカゲさんがちょっとだけ欲張ったらしい。ほんの僅かだが、今までよりも力を込めたパンチをショートアッパーの様な形で自分に放ってきたのだ。

 が、その攻撃も自分にいなされた事でオサカゲさんの体幹がわずかに崩れる。そこに自分はオサカゲさんの腹部に素早く膝蹴りを叩き込んだ。この一撃が勝敗を分ける事となる。勝負がついた後、オサカゲさんはため息を一つついた。

『欲張った攻撃を見抜かれましたな。はは、私もまだまだ青い。それと同時に、貴殿がカザミネ君やカナが言う世界で訓練を積んできたという事を裏付けてくれましたな。ここまで体術一つとっても私と遣り合えるどころか上を行くとは……昔の私の考えを悔やんでも悔やみきれませんな……たかがゲームと馬鹿にせず、もっと早くこの世界に来ていれば様々な修行をもっと積むことが出来ただろうに……』

 と、オサカゲさんは心底悔しそうに口にした。確かにオサカゲさんのような武人肌の人はそう言う武者修行の旅が出来ただろうからね。そして、世界各地にいる人に師事してもらい己を磨くと言う事もまたできただろう。自分だって幾人もの師匠と出会い、鍛えてもらったからこそ今ここにこうして存在できているのだから。

『私がこの世界のアーツなどを抜きにすれば、現実では経験できない修行も可能になるとお伝えしたのにそれを最初は鼻で笑ったのはお父様ではないですか。まあ、こちらの経験を活かしての訓練でお父様に詰め寄り、認めさせたのもまた私ですが……』

 カナさんがそんな事を口にする。なるほど、カザミネの部活動関連の話と少し似た所があるな。カザミネも部活動では負けが多かったが、ワンモアの世界で剣の経験を積み、ワンモア世界の動きが出来るように体を鍛えた結果負けなしになってしまったという話を以前にしていた。そしてカナさんの道場に通うようになったと。

『しかしだな、私のイメージとしては、ゲームとはこう画面を前にしてキーボードやコントローラーで作動させるという物だという感じでな。それと武術がどうしても結びつかなかったのだ」』

 あー、なるほど。VRではなく一般的なゲームのイメージをオサカゲさんは持っていたわけだ。それじゃあカナさんが何を言っても訳が分からないよね。ゲームで武術の訓練が積めると言われても、オサカゲさんのイメージではなんのこっちゃみたいな感じになっちゃうよ。これは当時のカナさんの説明が足りてないな。

『そして、業を煮やしたお前が見せてきた物を見て純粋に驚いたものだ。私が知るゲームとはかけ離れたものが出てきたからな……しかも、お前の技量が異常と表現すべき速度で伸びていく事は事実だった。だから私も自分の物を買ってこうして始める気になった訳だが……当初は驚きの連続だったぞ。それと同時になぜおまえが短期間ですさまじい勢いで腕を伸ばしたのかも理解したがな』

 仮想空間とはいえ、恐ろしい存在のモンスターを相手に戦っていればそりゃ伸びるよな……しかも痛みもある。武術の経験者なら、ワンモアの経験をリアルに持ち込んで活かす事は十分に可能であることを自分はカザミネの例を通じて知っている。カナさんも同じように生かしてオサカゲさんとの立ち合いに生かしたと言う事は容易く想像がつく。

『私ももう少し考え方に柔軟性を持つべきだと痛感したよ……まさか現代においてこうも戦える場が容易く手に入るとは夢にも思わなかったからな。お陰で私の伸び悩んでいた技量が再び伸び始めたわけだが……』

 と、ここでオサカゲさんは言葉を止めて自分の方を見てくる。なんだろう?

『アース殿のような方ともっと多くめぐり逢い、もっと立ち合いをしてみたかった。もうあとわずかでこの世界が終わってしまうと言う事が残念でならない……欲を言えば、先ほどのアース殿の放った奥義。あのような技を私も一つ身に付けたかった。この世界では刀に該当するものが大太刀のみ、故に居合に関する技はない──などと言う考えが浅はかであった事を痛感させられた』

 このオサカゲさんの言葉にカザミネも同意した、

『そうですね、この世界をもっと巡れば、もっと予想できない技を修めた方々と出会えたかもしれません。雨龍さん然り、白羽さん然り……もっと早く出会い、もっと師事を受けたかったと思う方々はいますよ。ただ、その出会う力もまた、アースさんの強みの一つなのでしょうが』

 カザミネから、ほんの少しだが嫉妬の感情を向けられてしまった。そうだね、確かに出会えない事にはどうしようもないんだよな。でもそればっかりは、どうしようもないからな……この後は、ログアウトするまで何回かPvPを行い互いの腕を磨き合った。さて、明日は守護者からの報酬が出るのかな?
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