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七五〇階、守護者との戦いその一

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 休息の時が終わり、自分は戦闘態勢に入りながら《明鏡止水》を発動させる。そして──守護者は残っていた分身体をすべて体の中に戻してから、宙に浮かび上がる。何を、始めるつもりだ? 警戒しながらも状況を伺っていると、守護者の周りに複数の光を放つ球が生成された。その球はすぐに形を変えて……ある球は輝く片手剣に、ある球は輝く両手剣に、またある球は輝く弓に……という感じで、各種武器に代わっていくのだ。

(もしかしなくてもこれ、プレイヤーが使える武器種の全てじゃないか)

 展開された武器は、プレイヤーが使える装備だ。メイスとかのプレイヤーが使えない装備は混じっていない。浮かんでいる武器の内、右手に片手剣、左手に杖を握った守護者は、ゆっくりと地面へと降り立った。

「ここまでの行動で予想は出来たでしょうけど、一応言っておくわ。私はあらゆる武器種をすべて扱えるわ。貴方達と違ってこれと言ったペナルティなどなく、ね。さあ、打ち砕いて見せなさい。先に進む資格ありと私に認めさせて見せなさい、分身体一六〇〇〇を打ち砕いて見せた猛者よ!」

 全ての武機種を扱える相手、か。しかもペナルティもなく、すぐさま別の武器に持ち替える事も可能とみていいだろう。持っている相手のバトルスタイルが全く読めないな……まさに、今までの旅で学んできた戦いに関する事の全てが試される戦いになるだろう。それでも、引く選択肢はとうにない。前に向かって、突き進むのみである。

「では、参ります。いざ!」

 一言告げてから、自分は戦いの火ぶたを切った。まずは前進し、打ち合いを始める──という算段だったのだが自分はとっさに右側に大きく飛んだ。なぜなら、守護者が左手に持っていた杖から特大のファイアーボールが打ち出されたからである。回避こそ成功したが、ファイアーボールの熱気だけで体が焼かれるかのように感じる。直撃すれば、痛いでは絶対済まない。

 それでも間合いは詰まっていたので、右手に装備している小盾の中に仕込んでいるスネークソードを展開し鞭のような感覚で伸ばして切り付ける。これを守護者は軽いステップで左に飛んで回避、反撃とばかりに杖を軽く掲げて再び魔法を放つしぐさを取る……自分はすぐにレガリオンを真同化の残滓に持たせて右手を開け、八岐の月に矢を番えて放つ。

 自分が矢を放つのと、守護者が特大ファイアボールを放ったのはほぼ同じタイミングだった。自分が放った矢が特大ファイアボールの先に触れたとたん、大爆発が発生。自分は発生した衝撃波の影響を受けて軽く後ろに吹き飛ばされる。が、すぐに地面を踏みしめて全力で前に出る。なぜなら、《危険察知》で守護者が自分に向かって突撃してくるのが見えたから。横に飛んで回避でもいいのだが……ここは受け身にならず、攻めの意識を高めて相手の勢いに乗る流れを阻止するべきだと考えた。

 直後、自分と守護者の剣が激突する。そこから二合、三合と剣戟の音が周囲に響き渡る。やはり、パワーは圧倒的に向こうが上だ。剣の合わせ方を一回でもしくじろうものなら、剣を巻き上げられて腕から飛ばされてしまうだろう。そうならないように、今までの経験から得た剣技で対応──と考えた瞬間、寒気を感じて左へと飛ぶ。

 寒気を感じた自分の勘は正しかった。いつの間にか守護者の左手に握られていたのは一本の槍。その槍を用いて、素早い突きを自分の腹部めがけて突き刺してきていたのだ。あのまま剣戟を行っていれば、自分の背中に槍の穂先が見える状態になっていただろう。やはり、守護者本体は今までの分身体とは格が違う。

 だが、向こうは驚いた表情を隠さずに見せていた。もしかすると、先ほどの槍の一撃は回避されるわけがないとでも思っていたのだろうか? それはあんまりにも──こちらをなめ過ぎではないだろうか? そう思っていたのだが。

「これを、無傷でやり過ごすの? 持ち替えるタイミングは分からないようにしたはずなのに、回避された? ふ、ふふ、ふふふふふふふ! いいじゃない! やはりここまで試練を乗り越えてきただけあって、面白い戦いが出来そうな人物だわ!」

 驚きの表情は、次第に猛獣の笑みへと変わっていった。どうやら、本格的に向こうの火がついたらしい。右手の片手剣を、今度は騎士剣に変えてきた。そして再び自分に向かって突貫してくる。自分はこれを《大跳躍》を使って上に飛んでやり過ごし、背中から襲い掛かる。当然守護者もすぐに振り返って応戦してくるが、突撃してきた時の勢いを殺す事が目的だったのでそれで構わない。

 再び始まる剣戟。が、剣の斬撃と槍の刺突が入り混じるので捌くのがかなり面倒だ。それでいて一手対応をしくじれば大ダメージを貰う事がほぼ確定している状態だ。かといってここで引いたところでどうにもならない。なので結局はこうしてぶつかり合う他ない。守護者の移動速度は相当なものだと言う事が分かっているので、こちらから動いて間合いを図るというのは現実的ではない。

 なので、相手の動きに合わせた対応を取るほかない……ま、今までもさんざんやってきた事である。自分の自由に間合いを調整できるなんて戦い、基本的には無かったからな。そう言った経験が今、こうして生きている。ただ、今の所防戦一方だ。早く相手の動きを学んで反撃を差し込んでいかないと勝てないんだけど……また武器を変えてきた。

 一瞬で騎士剣と槍という組み合わせからナックルとダガーという組み合わせに変わっていた。そのためさらに間合いが変わってしまい、対応するので精いっぱいな状況が続く。しかもダガーがパリィングダガーと呼ばれる相手の剣をいなす事を重視した者の為、下手な攻撃はダガーによって流されてしまい、こちらが大きな隙を晒す危険性が高い。

 実際一回受け流されかかったため、レガリオンの刃をとっさにスネークモードに変えて受け流しを拒否した。あと一秒判断が遅ければ、悲惨な事になっていただろう……実に危ないところだった。だが、その受け流しを恐れて手数を減らせばますます相手が勢いに乗って攻撃を仕掛けてくるので、悩ましい話である。

 そんな悩ましさとも戦いつつ何とか渡り合っていたら、今度は守護者の獲物が両手剣になっていた。だが、両手剣だから一回振ったら隙が大きめとはならず、むしろすさまじい回転率で次々と振り回してくる。それはかなりすさまじい圧となり、こちらの体だけでなく心も責め立てようという守護者の考えが見えるかのようである。

 だが。この程度の圧に負けていたら、ここまで自分がくる事は決してなかった。両手剣の攻撃に対して必死に避けている──という演技をしながら回避を行い、少しだけ、ほんの少しだけだが甘い太刀筋が来ることを待ち、望んでいたその甘い太刀筋に対して──盾で逸らしてパーリングを決める。

「えっ!?」

 まさか両手剣の猛攻の太刀筋の中から一つを選んでパーリングされるとは思っていなかったのか、守護者の表情が驚愕の色に染まった。もちろん、自分がそれを逃す理由はない。すかさず腹部にレガリオンの刃を刺し貫く。そこからさらに、押し倒しながらより深々と突き刺す動きを取らせてもらう。手ごたえは十分だ。

 だが、自分が差し込んだ刃を抜くと素早く守護者は後ろに後転し両手剣を構えなおした。もしかして、大したダメージにはなっていない? いや、あの手ごたえからしっかりとしたダメージが入ったのは間違いない。そうなると、単純にあの程度ではまだまだ堪えるほどのダメージになっていないと見るべきか。ボス特有の、プレイヤーの数十倍HPがあるタフさって奴だな。

 守護者の表情は、ますます猛獣の笑みをより深く浮かべていた。ダメージを受けた事で、付いた火がより大きく燃え上がっている可能性が高いなこれは……と、守護者はまた武器を変えて……いや、変えるというより両手剣を二刀流してきたのだ。あれは、ツヴァイの魔剣と同じ状態ではないか。

 しかし、あくまでツヴァイの場合は魔剣だから出来る事。この守護者の武器は魔剣とは違う──ような気がする。確証はないが、ここまで何度も剣をぶつけ合っての感触から、魔剣ではないという事を感じ取っていた。魔剣特有の属性の様な物も感じ取れないし、魔力の流れ? の様な物もないのだ。なので、あの二刀流は腕力に物を言わせたものである可能性が高い。

(嫌な予感する)

 その自分の予感は正しかった。両手剣を一本ずつ持っているという時点ですでに無茶なのに、その無茶をしているにもかかわらず全く! 相手の剣速と威力が落ちない! 先ほどまでの両手剣の扱いはまだ手加減か様子見だったと言う事になる。つまり、今こうしてブンブンと勢いよく両手剣を片腕で振っているのが守護者本来のパワー!

(勘弁してよ!? もしかして最初に言っていた『あらゆるペナルティがない』ってのはこういう事なのか!?)

 内心で悲鳴を上げるが、口にはしない。口にしたらますます守護者が調子を上げてきそうだから必死で口は閉ざす。流石に二刀流両手剣の夜攻撃を全部回避する事は無理なので、出来るだけ回避しながら避けられない物は盾と武器で受け流してダメージを受ける事を防ぎ続けている。とてもじゃないが反撃など出来ない、この状態を維持するので精いっぱいだ!

(こんなここが出来るパワーもそうだけど、振り回し続けられるスタミナの方がおかしい! 一体どうなってるんだ……こうなったら、こっちも新しい手を使わないと状況を打破できないぞ)

 五〇〇階の守護者から貰った魔法での反撃を行う事を決断する。魔法攻撃は基本的にアーツを使わないとできない自分であったが、《ジェルスパーク》は首に付けているチョーカーに紐づいている魔法だ。そのため、杖などが無くても発動することが出来る点が非常に優秀だ。問題は、どのタイミングで使うか。ジェルスパークは強力な魔法ではあるが、むやみやたらと使えばいいってもんじゃない。相手をしっかりと濡らして、電撃が伝わるタイミングで撃たねば最大効果を発揮させることが出来ない。

(もう少し、相手の動きを見て学んでからでいいな。まず避けられないというタイミングで放つべきだ。一回見せれば、二回目からは警戒される。だからこそ、しっかりと命中させたい)

 二刀両手剣の猛攻をしのぎつつ、作戦を練る。だが、早めに行動を起こさないとこの二刀両手剣の圧に押し潰されかねない。そのためにも、一刻も早い見切りの目が必要となる。《明鏡止水》の力も借りて、一刻も早く《ジェルスパーク》を放つタイミングを掴まなければ。
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