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戦い、そして掴んだもの
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そう、思っていたのだが──そうは問屋が卸さないという言葉が出てくるような状況に自分は置かれていた。
(なんだこいつら!? 後衛特化の分身体かと思っていたが、近接戦闘の方が厄介じゃないか! もしかして、壁作戦でこちらをある程度弱らせてからこいつらで討ち取るのが狙いだったか!?)
ハッキリ言って強い。重く、鋭い剣の斬撃や槍の刺突が遠慮なしに次々と飛んでくる。壁を突破すれば後衛を務めていた分身体は接近戦だと弱めだろうと思っていたが、とんだ見当違いだ。大勢の分身体が連携しながら近接攻撃を仕掛けてくる。休む暇がない──こちらもレガリオンを主体として、盾に仕込ませていたスネークソードやアンカーによる反撃を行っているが、どうしても攻撃が分散するため数を効率的に減らせない。
(入れ替わり立ち代わり……一人にダメージが集中しないように相手は行動している。いや、まて。まさかこれ、この陣形は……)
いやな予感がしたので、斜め後ろに《大跳躍》を使ってジャンプ。上から相手の様子を短時間だが観察した。その結果、見えたのは上杉謙信が川中島の戦い四回目で使ったとされる陣形、車懸かりの陣! この陣は車輪が回転するがのごとく兵士を回しながら次々と相手にぶつける戦法を行う陣形で、ある程度戦うと次の部隊と交代するのが特徴だ。
交代を続ける事で陣形を作っている側は一呼吸置く時間が得られ、疲労をある程度抜くことが出来る。そして陣をぶつけられている相手は休むことが出来ない。このため、時間が経過すると差が激しくなる。武田信玄、上杉謙信を思わせる戦略……どうやらここの分身体の指揮官は、日本の戦国時代に関する歴史を学んでいるらしい。
(しかも、こちらは一人。車懸かりの陣を仕掛けられては、時間がたつほど不利! ある程度強引な攻めをしてでも相手の数を減らさないと詰むぞこれ)
早めに気が付いてよかった&歴史をある程度勉強しておいてよかった。知らずに戦っていたら、なぜこんなに相手の勢いが収まらないのか知らないまま戦う羽目になっていただろう。相手の攻撃は激しいが、それでも確実に一体づつと数を減らす事に専念しないとダメだ。攻撃を集中できる瞬間を見極めて、その一瞬で落としていかなければ。
地面に降り立ち、再び敵の軍と激突する。まずは防御態勢を取り、相手の攻撃を回避したりいなしたりして時を待つ。そしてこちらがわざと作った隙に合わせて攻撃してきた奴の首を……カウンターで刎ね飛ばす。かなり難しいんだが、これしかないんだよね……生半可な攻撃は倒しきる前に部隊が変わってしまうので意味がない。
相手がカウンターでひるんだ時はチャンスとばかりに、目を付けた一人に猛攻を仕掛けて落とす。当然周囲から反撃が飛んでくる訳だが、多少のダメージならば必要経費と割り切る。ポーションで回復できる範疇に収まっていればいいのだから。無論多用するとポーション中毒が怖くなってくるが、流石にそうなるほど多量のポーションを使わなければならないレベルにはしない。持たないからね。
じわりじわりと相手の数を減らす事だけに集中するが……容易く事を進ませてくれない。ある程度分身を減らせたかな、と思った瞬間相手からの攻撃に遠距離攻撃が混じり始める。一発一発はそう重くない、防具の効果もあって無効化できる量も多い。だが、攻撃のタイミングをずらされるのが一番きつい。
ここで後一手行動できれば一体倒せると言ったタイミングで、横やりが入るようになったのだ。これが実にうっとうしい。しかもその横やりでタイミングがずれる事でこちらのリズムも狂う。そうなると回避できる攻撃なのに被弾すると言う事が増えてしまう。悪循環に陥ってきているとは分かっている、分かっているが──
(頭を冷やす時間をくれるつもりはさらさらないってか……攻めがより苛烈になってきた。向こうとしてはここで自分を落としたいと言う事なんだろうな)
相手の狙いも分かるのに、対応が追い付かない。被弾も増える──確実に追い込まれてきている。分が確実に悪くなってきているのを感じる。相手の数もそれなりに削ってはいるが、まだまだいる。こっちは一人しかいないからやられればそこまでだ。しかも相手の攻撃に捨て身の一撃と思われるものが増えてきた。
ここに来て薩摩の示現流かと突っ込みたくなる。二の太刀要らずを大勢の分身が自分に向かって実践してくるのは恐怖以外の何物でもない。そのうえで後ろにいる突っ込んでこない連中が支援の攻撃でこちらの動きを制限してくる。捨て身の上段構えから振り下ろされる剣の威力は言われなくても分かる。それが次々と飛んでくるのだ。
(冗談じゃない……っての!)
心の中で悪態をつくが、状況は変わらない。これだけ次々と突撃してこられると、全てを回避する事は困難だ。いや、こういう状況に追い込まれた自分で、こっちの負けなのだ。振り下ろされる剣をついにもろに食らった……防具の上からなのに、とてつもなく痛い。痛覚システムの影響で、生身の体に他人から鉄の棒を用いて思いっきり殴りつけられたような痛みが体を走る。
それでもこちら側が易々と終わるとは思われたくはない。この痛みは、過去に交通事故でもっときつい痛みを味わった事に比べればまだマシ、耐えられる。そう自分自身を鼓舞しながら抵抗を続ける。突っ込んで振り下ろされる剣を回避し、首を取る。飛んでくる矢をはじき返し、敵の魔法にぶつけて消し飛ばす(さすがにこれは偶然)、ダメージを受けても負けてなるかと歯を食いしばる。
(終わっていない、まだ終わっていない。この程度で、この程度で折れるほど軟じゃない!)
状況から見れば、負けであることはすでに分かっている。このまま抵抗を続けても相手を全員倒す前に自分が倒れる事も分かっている。だが。だからハイやり直そうなんて気持ちにはならない。最後まで抵抗して、戦いに抜かなきゃ次に繋がらないと自分は考えるからだ。この考えを人に押し付けるつもりはない──でも、今は自分しかいない。だから、その考えを貫き通させてもらう。
「おおおおおおお!」「「「「「うあああああああ!」」」」」
互いの絶叫が場に響き渡る。だが、やはり勢いは変わらない。突撃こそしてくるが一定レベルで陣を維持している相手。一方でこっちはすでに何回も振り下ろしの攻撃をもろに受けてしまい、倒れる寸前だ。無論ポーションだってここまでの戦いで使っているが……もう、あと一回でも使えばポーション中毒になると感覚が訴えている。だから、もうポーションに頼る事は出来ない。
だが、そんな状況になってもまだ自分は立っていた、戦っていた。とどめの一撃だけは必死に回避し、カウンターを入れていく。何回も捨て身の攻撃を見たため、目が慣れてきた。故に、攻撃を『回避する』のではなく『相手が攻撃を行う瞬間に、後の先で相手の頭部に攻撃を叩き込む』と言う動きに変わっていた。と言うか、これが出来ないとやられてしまう。できるようになったから、まだ立っていられるのだ。
それでも、明確な限界は目の前に来ている事は分かっていた。相手の数も相当に減らしたが、やはり届かない。それでもやめるつもりはない──まだ動けるなら、まだ前に進めるなら。止める理由にはならないからだ……その自分の姿に向こうが気圧されたのだろうか? 動きが鈍くなったように感じられる。
だが、それを振り払うかのように数人の分身が、武器を上段に構えて突撃してくるその姿が──見える。体は全身ボロボロで痛みもそれに見合ったきつい物を感じ取ってはいる。だが、まだ動ける。そして、体が不意に動いて相手を切り伏せた。この動きは、考えての動きではなかった。痛みをこらえつつも繰り出したその攻撃は、上段に構えられた武器が自分の頭へと下りてくる瞬間に相手の首を取らえて宙に舞わせたのだ。
(──かつてカザミネが言っていたな。相手の息遣いが、動きが、手に取るようにわかってしまう様になったと。ああ、こう言う事なのか。自分にも今、薄っすらとだけれどもそれが見えた。流石に自分は現実では再現できないだろうが、この世界なら……可能と言う事か)
更に突撃してくる分身が二人、三人と続く。だが、そのいずれも自分に武器を振り下ろす直前に首を飛ばされていく。一方でこちらはほとんど動いたという考えすらない。ただ、そうすべき流れがあるからそこに合わせただけ──言葉で表現するならそんな感じだろうか? 激しい流れに対して無理やり踏ん張るのではなく──必要最小限の足場だけ残して、穏やかに、緩やかに、ただし激しい波に流されない様に受け流す。そして、必要な一瞬のみ体を動かして激流の隙間を裂く。
意識が徐々に薄れてきた……だが、当然そんな事はお構いなしに攻撃は飛んでくる。それらに対し、自分は最後まで今掴んでいるこの感覚のままに抗い続けた。感じるのは体からやってくる激しい痛みのみ、すでに恐怖や苦しさといった感情はどこかに飛んで行ってしまっていた。ただ、体をまだ動かせている事は流石に分かっているが
(奇妙な感覚だ。普通に生きて居たら絶対味わう事の無い感覚。でも、妙な楽しさがある。そして、この感覚を掴むことが出来たのは大きな収穫と言えるだろう。これから先の戦いにおいて、きっと苦難を切り開く戦い方の形となるだろう)
結局、完全に意識がぷっつりと切れて七五〇階にあるベッドの上にリスポーンするまで戦い続けていた。夢、ではない。この試練は自分に何か大きなものを掴ませてくれた。それは、明日以降に試す事にしよう。流石に今日はログアウトして寝よう……
スキル
風迅狩弓Lv50 The limit! エルフ流・限定師範代候補Lv50 精密な指Lv80 小盾Lv49 〈双龍蛇剣武術身体能力強化〉Lv14 〈魔剣の残滓・明鏡止水の極致〉Lv58 ↑8UP 隠蔽・改 Lv7 義賊頭 Lv90 百里眼Lv46 妖精招来Lv22 (控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
黄龍変身・覚醒Lv??(使用不可) 偶像の魔王 Lv9
控えスキル
木工の経験者 Lv14 釣り LOST! 人魚泳法Lv10 〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝〉The limit! 薬剤の経験者 Lv43 医食同源料理人 Lv25
ExP 40
所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿つ者 魔王領名誉貴族 獣の介錯を苦しませずに務めた者 氷の祝福 聖樹の祝福(エルフ)
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ
《ソニックハウンドアローLv5》
付与ステータス 最大HP低下 最大MP大幅低下 黄龍封印
(なんだこいつら!? 後衛特化の分身体かと思っていたが、近接戦闘の方が厄介じゃないか! もしかして、壁作戦でこちらをある程度弱らせてからこいつらで討ち取るのが狙いだったか!?)
ハッキリ言って強い。重く、鋭い剣の斬撃や槍の刺突が遠慮なしに次々と飛んでくる。壁を突破すれば後衛を務めていた分身体は接近戦だと弱めだろうと思っていたが、とんだ見当違いだ。大勢の分身体が連携しながら近接攻撃を仕掛けてくる。休む暇がない──こちらもレガリオンを主体として、盾に仕込ませていたスネークソードやアンカーによる反撃を行っているが、どうしても攻撃が分散するため数を効率的に減らせない。
(入れ替わり立ち代わり……一人にダメージが集中しないように相手は行動している。いや、まて。まさかこれ、この陣形は……)
いやな予感がしたので、斜め後ろに《大跳躍》を使ってジャンプ。上から相手の様子を短時間だが観察した。その結果、見えたのは上杉謙信が川中島の戦い四回目で使ったとされる陣形、車懸かりの陣! この陣は車輪が回転するがのごとく兵士を回しながら次々と相手にぶつける戦法を行う陣形で、ある程度戦うと次の部隊と交代するのが特徴だ。
交代を続ける事で陣形を作っている側は一呼吸置く時間が得られ、疲労をある程度抜くことが出来る。そして陣をぶつけられている相手は休むことが出来ない。このため、時間が経過すると差が激しくなる。武田信玄、上杉謙信を思わせる戦略……どうやらここの分身体の指揮官は、日本の戦国時代に関する歴史を学んでいるらしい。
(しかも、こちらは一人。車懸かりの陣を仕掛けられては、時間がたつほど不利! ある程度強引な攻めをしてでも相手の数を減らさないと詰むぞこれ)
早めに気が付いてよかった&歴史をある程度勉強しておいてよかった。知らずに戦っていたら、なぜこんなに相手の勢いが収まらないのか知らないまま戦う羽目になっていただろう。相手の攻撃は激しいが、それでも確実に一体づつと数を減らす事に専念しないとダメだ。攻撃を集中できる瞬間を見極めて、その一瞬で落としていかなければ。
地面に降り立ち、再び敵の軍と激突する。まずは防御態勢を取り、相手の攻撃を回避したりいなしたりして時を待つ。そしてこちらがわざと作った隙に合わせて攻撃してきた奴の首を……カウンターで刎ね飛ばす。かなり難しいんだが、これしかないんだよね……生半可な攻撃は倒しきる前に部隊が変わってしまうので意味がない。
相手がカウンターでひるんだ時はチャンスとばかりに、目を付けた一人に猛攻を仕掛けて落とす。当然周囲から反撃が飛んでくる訳だが、多少のダメージならば必要経費と割り切る。ポーションで回復できる範疇に収まっていればいいのだから。無論多用するとポーション中毒が怖くなってくるが、流石にそうなるほど多量のポーションを使わなければならないレベルにはしない。持たないからね。
じわりじわりと相手の数を減らす事だけに集中するが……容易く事を進ませてくれない。ある程度分身を減らせたかな、と思った瞬間相手からの攻撃に遠距離攻撃が混じり始める。一発一発はそう重くない、防具の効果もあって無効化できる量も多い。だが、攻撃のタイミングをずらされるのが一番きつい。
ここで後一手行動できれば一体倒せると言ったタイミングで、横やりが入るようになったのだ。これが実にうっとうしい。しかもその横やりでタイミングがずれる事でこちらのリズムも狂う。そうなると回避できる攻撃なのに被弾すると言う事が増えてしまう。悪循環に陥ってきているとは分かっている、分かっているが──
(頭を冷やす時間をくれるつもりはさらさらないってか……攻めがより苛烈になってきた。向こうとしてはここで自分を落としたいと言う事なんだろうな)
相手の狙いも分かるのに、対応が追い付かない。被弾も増える──確実に追い込まれてきている。分が確実に悪くなってきているのを感じる。相手の数もそれなりに削ってはいるが、まだまだいる。こっちは一人しかいないからやられればそこまでだ。しかも相手の攻撃に捨て身の一撃と思われるものが増えてきた。
ここに来て薩摩の示現流かと突っ込みたくなる。二の太刀要らずを大勢の分身が自分に向かって実践してくるのは恐怖以外の何物でもない。そのうえで後ろにいる突っ込んでこない連中が支援の攻撃でこちらの動きを制限してくる。捨て身の上段構えから振り下ろされる剣の威力は言われなくても分かる。それが次々と飛んでくるのだ。
(冗談じゃない……っての!)
心の中で悪態をつくが、状況は変わらない。これだけ次々と突撃してこられると、全てを回避する事は困難だ。いや、こういう状況に追い込まれた自分で、こっちの負けなのだ。振り下ろされる剣をついにもろに食らった……防具の上からなのに、とてつもなく痛い。痛覚システムの影響で、生身の体に他人から鉄の棒を用いて思いっきり殴りつけられたような痛みが体を走る。
それでもこちら側が易々と終わるとは思われたくはない。この痛みは、過去に交通事故でもっときつい痛みを味わった事に比べればまだマシ、耐えられる。そう自分自身を鼓舞しながら抵抗を続ける。突っ込んで振り下ろされる剣を回避し、首を取る。飛んでくる矢をはじき返し、敵の魔法にぶつけて消し飛ばす(さすがにこれは偶然)、ダメージを受けても負けてなるかと歯を食いしばる。
(終わっていない、まだ終わっていない。この程度で、この程度で折れるほど軟じゃない!)
状況から見れば、負けであることはすでに分かっている。このまま抵抗を続けても相手を全員倒す前に自分が倒れる事も分かっている。だが。だからハイやり直そうなんて気持ちにはならない。最後まで抵抗して、戦いに抜かなきゃ次に繋がらないと自分は考えるからだ。この考えを人に押し付けるつもりはない──でも、今は自分しかいない。だから、その考えを貫き通させてもらう。
「おおおおおおお!」「「「「「うあああああああ!」」」」」
互いの絶叫が場に響き渡る。だが、やはり勢いは変わらない。突撃こそしてくるが一定レベルで陣を維持している相手。一方でこっちはすでに何回も振り下ろしの攻撃をもろに受けてしまい、倒れる寸前だ。無論ポーションだってここまでの戦いで使っているが……もう、あと一回でも使えばポーション中毒になると感覚が訴えている。だから、もうポーションに頼る事は出来ない。
だが、そんな状況になってもまだ自分は立っていた、戦っていた。とどめの一撃だけは必死に回避し、カウンターを入れていく。何回も捨て身の攻撃を見たため、目が慣れてきた。故に、攻撃を『回避する』のではなく『相手が攻撃を行う瞬間に、後の先で相手の頭部に攻撃を叩き込む』と言う動きに変わっていた。と言うか、これが出来ないとやられてしまう。できるようになったから、まだ立っていられるのだ。
それでも、明確な限界は目の前に来ている事は分かっていた。相手の数も相当に減らしたが、やはり届かない。それでもやめるつもりはない──まだ動けるなら、まだ前に進めるなら。止める理由にはならないからだ……その自分の姿に向こうが気圧されたのだろうか? 動きが鈍くなったように感じられる。
だが、それを振り払うかのように数人の分身が、武器を上段に構えて突撃してくるその姿が──見える。体は全身ボロボロで痛みもそれに見合ったきつい物を感じ取ってはいる。だが、まだ動ける。そして、体が不意に動いて相手を切り伏せた。この動きは、考えての動きではなかった。痛みをこらえつつも繰り出したその攻撃は、上段に構えられた武器が自分の頭へと下りてくる瞬間に相手の首を取らえて宙に舞わせたのだ。
(──かつてカザミネが言っていたな。相手の息遣いが、動きが、手に取るようにわかってしまう様になったと。ああ、こう言う事なのか。自分にも今、薄っすらとだけれどもそれが見えた。流石に自分は現実では再現できないだろうが、この世界なら……可能と言う事か)
更に突撃してくる分身が二人、三人と続く。だが、そのいずれも自分に武器を振り下ろす直前に首を飛ばされていく。一方でこちらはほとんど動いたという考えすらない。ただ、そうすべき流れがあるからそこに合わせただけ──言葉で表現するならそんな感じだろうか? 激しい流れに対して無理やり踏ん張るのではなく──必要最小限の足場だけ残して、穏やかに、緩やかに、ただし激しい波に流されない様に受け流す。そして、必要な一瞬のみ体を動かして激流の隙間を裂く。
意識が徐々に薄れてきた……だが、当然そんな事はお構いなしに攻撃は飛んでくる。それらに対し、自分は最後まで今掴んでいるこの感覚のままに抗い続けた。感じるのは体からやってくる激しい痛みのみ、すでに恐怖や苦しさといった感情はどこかに飛んで行ってしまっていた。ただ、体をまだ動かせている事は流石に分かっているが
(奇妙な感覚だ。普通に生きて居たら絶対味わう事の無い感覚。でも、妙な楽しさがある。そして、この感覚を掴むことが出来たのは大きな収穫と言えるだろう。これから先の戦いにおいて、きっと苦難を切り開く戦い方の形となるだろう)
結局、完全に意識がぷっつりと切れて七五〇階にあるベッドの上にリスポーンするまで戦い続けていた。夢、ではない。この試練は自分に何か大きなものを掴ませてくれた。それは、明日以降に試す事にしよう。流石に今日はログアウトして寝よう……
スキル
風迅狩弓Lv50 The limit! エルフ流・限定師範代候補Lv50 精密な指Lv80 小盾Lv49 〈双龍蛇剣武術身体能力強化〉Lv14 〈魔剣の残滓・明鏡止水の極致〉Lv58 ↑8UP 隠蔽・改 Lv7 義賊頭 Lv90 百里眼Lv46 妖精招来Lv22 (控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
黄龍変身・覚醒Lv??(使用不可) 偶像の魔王 Lv9
控えスキル
木工の経験者 Lv14 釣り LOST! 人魚泳法Lv10 〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝〉The limit! 薬剤の経験者 Lv43 医食同源料理人 Lv25
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所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿つ者 魔王領名誉貴族 獣の介錯を苦しませずに務めた者 氷の祝福 聖樹の祝福(エルフ)
二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ
《ソニックハウンドアローLv5》
付与ステータス 最大HP低下 最大MP大幅低下 黄龍封印
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