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強化、そして前進

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 それからまたしばらく戦い続け、そして負け続けていた。だが、得たものはある。まず……〈魔剣の残滓・明鏡止水の極致〉以外のスキルもついに上昇した。まずは〈エルフ流・限定師範代候補〉が50に到達した。覚えたアーツは《烈風震脚》という物。強く地面を踏みしめる事で、強力な風が巻き起こり軽いダメージを与えつつ相手を大きく吹き飛ばすというアーツ。

 更にアーツは覚えていないが、〈精密な指〉が八〇、〈双龍蛇剣武術身体能力強化〉が二一、〈小盾〉が四九に上昇した。上がり幅が微妙だが、それでも凍結されたかのように上がらなかったスキルが上がったというだけでも僥倖だと考えよう。そして、肝心の〈魔剣の残滓・明鏡止水の極致〉だが……ついに五〇になった。

 ただ、五〇に上がった時、選択肢が現れた。EXPを一〇支払う事でさらなる強力な力が目覚めますという注意書き。少し悩んだが、EXPを突っ込む事にした。少しでも強力なアーツが目覚めるならば、賭ける価値はあると思ったからだ。EXPを今まで温存してきた事だし、使い時だろうと思った事もある。なのでEXPを支払った。

 習得したスキルは《明鏡止水の心・極止(きょくし、と読むらしい)》。明鏡止水の状態を維持しながら戦えるようになるアーツ。明鏡止水がこれにより、強力な一撃を放つために集中する存在から維持しながら戦う事も出来る存在へと変化した。それに何の意味があるのかと最初は思ったが、ここで一つ前に覚えた《明鏡止水の心 鏡》の効果がかかってくることが判明した。

 《明鏡止水の心 鏡》の効果は、明鏡止水の状態で放つ一撃時に分身が生み出されても一撃を加えてくれるというパッシブアーツだった。これが、極止を維持している限り通常攻撃でもアーツでも分身が生み出されて追撃を行ってくれることが判明。分身の攻撃力は本体の半分ぐらいであるとはいえ……その追撃が常時発生するとなると話は変わってくる。

 具体的に言うと、分身一体倒すのに必要な手数が三分の二ぐらいまで減ったのである。更に新しく覚えた《烈風震脚》のぶっ飛ばし能力で距離を稼げるようになり、ポーションを一本飲む時間が取れるようになったのである! これは、非常に大きい。今まではポーション一本飲む時間すらなく戦い続けなければならなかった。

 だが、状況が限定されるとはいえポーションを飲めると言う事は、HPポーションを飲んでチクチク削られたHPを回復できるし、MPポーションを飲めばアーツを振るえる回数が増える事に繋がる。試練クリアに大きく前進できたと言っていいだろう。

 一方で、《明鏡止水の心・極止》の維持にかかるコストだが……多分一分で全体MPの五%ぐらい。かなり軽いとみてよい範疇だろう。恐らく、EXPを突っ込まなかった場合はもっと消費MPがきつかったとか、攻撃による分身の追撃が発生しないとかのグレードダウンがあったであろうと予想する。

 ここまでやられながらも戦い続けた甲斐はあった。そろそろ本格的に逆襲するタイミングだろう……日曜の夜、そう意気込んでログイン。準備を整え何時ものように守護者の分身達との戦いに挑む。《明鏡止水の心・極止》を即座に発動し、集中を維持したまま無数の分身達と戦う。だが、いい、いいぞ! 襲い掛かってくる分身達を押しのけることが出来ている。倒すまでの手数が減った事で、押しつぶされそうになる圧がかなり減った。

 HPやMPが減ってきたら、《烈風震脚》を惜しみなく使って分身達をのけ反らせてからポーションを素早く飲む。もちろん分身達はまた素早くこちらを囲んでくるが──問題なし。やはりポーションを飲めるだけの余裕を自分から無理やり生み出せることになった事で、状況は一変したと言っていいだろう。各種アーツを覚える前だったら押し潰されていた時間を過ぎても、自分は健在。戦闘を続行できている。

 そうしてひたすら戦いを続けていた時だった。突如、守護者の分身達が大きく距離を取る。何らかの罠か? とも思ったが、後衛に控えている弓を使う分身や魔法を撃ってくる分身も動きを止めている。これは、何かあるな。その自分の考えを反映するかのように、一体の分身が前に進み出てきた。

「四〇〇〇体の分身を落とすとは、まずは見事と言わせていただく。故に、分身の中でも特に力を分け与えられた我がここで一対一での勝負を行わせて頂こう。そちらが勝てば三分の休息と、肉体、精神両方の消耗が完全に治癒される特典を得る事となる」

 なるほど、中ボスみたいな感じか。そして四千体分身を倒すごとにこうやって出てくる可能性が高いな。当然、後に出てくる分身の方が強くなっていくんだろう。倒したところがチェックポイントになるかは……多分ならないだろうな。やられたら最初からやり直しだろう。そんな優しさはたぶんない。

「了解しました、ではやりましょうか」

 分身の言葉に返答し、武器を構える。分身側も武器を構える……この分身は、片手剣を右手に杖を左手に持つ魔法剣士タイプか。遠近ともに打てる手がある、面倒なタイプだ。それでも、無数の分身を同時に相手するよりは楽なはず……いざ勝負。素早く自分が弓を構えて矢を放つと、分身側はこの矢を目の前に発生させたドーム型のシールドの様な物で防いできた。

 お返しとばかりに、杖の先から雷光を放ってくる分身。自分はこれをレガリオンで切り裂き、霧散させる。スピードはあったが、こちらに向かって一直線に飛んでくるタイプなら、これぐらいは難しくない。ましてや明鏡止水を維持している集中状態だ、相手の動き、杖の先から雷光が放たれる瞬間までの全てがよく見えていた。

 そこからはお互い距離を詰めてのインファイト戦になった。お互いの獲物が激しくぶつかり合い、火花を幾多も生み出す。こちらは二刀流だが、向こうも杖の先にショートソードぐらいの長さを持つ土の魔法剣を生み出す事で対応してきていた。だが、それでもこちらの方が手数が多い。全ての攻撃に分身の追撃が行われているのだから。

 向こうは徐々に追い詰められていった。だが、勝ちを急いだりはしない。確実に削り、相手を追い詰め、その首元に刃を届かせるべく相手に圧をかけ続ける。無論向こうも逆転しようと剣や魔法による反撃は行ってくるが、自分を驚かすようなものは残念ながらなかった。やはりタイマンなら、こちらの方が地力は上だ。

 だからこそ、確実にいく。窮鼠猫を噛むという言葉もある……そして力の差はネズミと猫ほどに大きい隔たりがある訳ではないのだ。向こうにだって、こちらの首を一瞬で飛ばすだけの力はあるのだ。そんな相手に油断したり勝利を急ぐのは論外も良いところだろう。牙を完全に叩きおるまで、、気を緩めるような愚かな真似はしない。

 そんな感じで確実に追い詰め続けていった結果──とうとう向こうは我慢できなくなって、威力を最重視していると思われる大ぶりの一撃を繰り出してきた。剣に火と土の魔法の力を乗せ、マグマのように燃え盛る魔法剣を生成。それを自分に向かって振り下ろしてきたのだが──その振り下ろしが終わる前に、自分は分身の横を駆け抜けつつ明鏡止水の一撃を分身に打ち込んでいた。

 手ごたえは十分。少し後に、地面に倒れこむ音が聞こえた。振り返れば、分身が腹部を大きく切り裂かれていた。人間ならば致命傷だが……さて。

「──見事だ。そちらの勝利と認める。これより三分間、そちらに休息の時間が与えられる。また、約束通りそちらの肉体と精神を完全に癒そう。しかし、次の分身は我よりもはるかに強い。覚悟だけはしておけ、ではな」

 そう言い残し、分身はすっと溶けるように消えた。周りを見渡すと、全員が武器を収め、自分からさらに距離を取っていた。休息を与えるというのは間違いない様だ。

(一六〇〇〇体の分身とぶっ続けに戦い続けさせることは流石になかったわけか。そして四〇〇〇体で特殊な分身体が出てきたと言う事は、八〇〇〇、一二〇〇〇、一六〇〇〇と四の倍数で特別な分身が一対一での戦いを挑んでくるとみてよさそうだな。勝利できれば、こうしてプレイヤーの休息とアバターの治癒が受けられる、と)

 つまり、今回の自分はようやく第一関門を突破したと言う事になるのだろう。そして四千体撃破ごとに次の関門が立ちはだかり、分身をすべて倒せばいよいよこの階の守護者との一騎打ち。それがここの試練の全体像と言う事で間違いあるまい。だが、この試練という名の山の天辺がかすかに見えた、これは大きな前進と言えるだろう。

(よーしよし、いい感じだ。覚えたアーツの力を借りているが、こうして前進できるのであればそれで良し、だ。覚えたアーツだって使いこなせなきゃ意味が無いから、これも自分の強さとして考えて良いはずだからな。この調子で、第二関門として出てくる分身まで突き進もう)

 休息の三分を利用して、しっかりと気合を入れなおす。やがて、後三十秒で戦闘が再開されるわよとこの階の守護者の声がしてきたので戦闘準備に入る。それでは、次の八〇〇〇体撃破を目指そうか。まずはそこにたどり着けなければ意味がないのだから。


最新&最終段階

スキル

風迅狩弓Lv50 The limit! エルフ流・限定師範代候補Lv50 ↑1UP 精密な指Lv80 ↑3UP 小盾Lv49 ↑1UP 〈双龍蛇剣武術身体能力強化〉Lv14  〈魔剣の残滓・明鏡止水の極致〉Lv50 ↑9UP  隠蔽・改 Lv7 義賊頭 Lv90 百里眼Lv46 妖精招来Lv22 (控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身・覚醒Lv??(使用不可)  偶像の魔王 Lv9

控えスキル

木工の経験者 Lv14  釣り LOST!   人魚泳法Lv10 〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝〉The limit!  薬剤の経験者 Lv43  医食同源料理人 Lv25

ExP 40

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人 魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主  無謀者 魔王の真実を知る魔王外の存在  天を穿つ者  魔王領名誉貴族 獣の介錯を苦しませずに務めた者 氷の祝福 聖樹の祝福(エルフ)

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

強化を行ったアーツ

《ソニックハウンドアローLv5》

付与ステータス 最大HP低下 最大MP大幅低下 黄龍封印
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