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27巻
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「チッ。存外に粘るな。ウリエルのパワーの前にさっさと潰されると思ったが……あの忌々しい剣を持っているだけのことはあるというわけか。もっとも、完全に回避できているわけではない以上、いつかは捕まるだろうが」
──悔しいが、奴の言う通りだ。ブレードも使って受け流したりもしているが、ちょくちょく被弾してしまい、そのたびにスーツの装甲は確実に剥ぎ取られている。すでに警告域は超え、スーツのあちこちから機能停止寸前という報告が上がってきている。脚部のダメージは八割を超えた。胴体部分の装甲ダメージは九割。もうあまり持たないな。
『もう限界か……いざとなったら君を脱出させる。だから安心してくれ』
「いや、向こうの攻撃にも慣れてきた。ここからが本番だ! 諦めるのには早すぎるぞ! しっかりするんだ!」
弱音を吐いてきた研究者に活を入れる。弱気になったら避けられるものも避けられない。
舐めてくれるなよ、こっちだって今までいろんな場所でいろんな戦いをやってきたんだ、この程度で心が折れるほどヤワじゃあないんだよ。
相手の動きをよく見て、これまでの経験を活かし、そして――
「ここ!」
『ガギリ!?』
反撃の一太刀を、ウリエルの一機に叩き込んだ。タイミングを見計らって突撃し、バルカンを撃ってきそうなタイミングに合わせて、ブレードの先端で発射口の一つを塞いでやったのだ。
それにより銃弾が詰まった結果、何らかの異常を引き起こしたらしく、小規模な爆発がウリエルの内部で発生した。この程度では撃破とはいかないが、明らかに動きが悪くなる。
『やるじゃないか!』
「だから言ったでしょう? ここからが本番だって!」
反撃を受けたことで、ウリエル達の動きに変化が現れた。ロケットパンチをメインにし、こちらの攻撃が届く範囲内ではバルカンを撃ってこなくなったのだ。
それは、こちらの回避行動を容易にさせる。どういうことかというと……
ここまで被弾していたのは全部バルカンによる攻撃で、それも近距離からの射撃によるものだった。
で、こいつら、バルカンを発射しようとすると、いったん動きが完全に止まる。そしてそこから足を踏ん張って撃ってくる。
この独特なモーションのおかげで、撃ってくるタイミングはもろバレ。ただ、他のウリエルから攻撃されているときに近距離から撃たれたら、流石に回避は困難だった。
しかしそのバルカンによる近距離射撃がなくなれば、かなり楽になってくるというわけだ。
それに、ロケットパンチもかなりの弾速だが、こちらも何のモーションもなく発射することはできないようで、多少のタメがある。
相対するうちにそういったウリエルの特性を理解することができつつあり、回避し続けるのもそう難しくはなくなってきていた。
「ウリエル、何をやっている! そんな下等生物一匹ごときに手こずってどうする! お前達は最新鋭兵器なんだぞ、そいつをさっさと始末して、残ったゴミを踏み潰す作業に入らないか!」
おーおー、有翼人のトップはおかんむりだ。予定通りに進まないと、すぐキレるタイプなのかね。世の中、自分の予定通りに進むことなんてめったにないもんだけど……
そういえば、かつて霜点さんの前に自ら姿を現した理由も、自分が主催していた賭けをあまりに荒らされたからという理由だったな。
『いいぞ、上手く時間が稼げている! 連合軍の者達もかなり息が整ってきたようだ。あと少しすれば、攻撃を再開できるはずだ』
「了解、ではもう少しこのダンスを続けましょうか」
うん、こういう軽口を叩ける余裕が戻ってきた。余裕が生まれればミスは減るものだ。
いいぞ、このウリエルとやらが出てきたときは不安だったが、激しい弾幕を張ってくるシューティングゲームよりは難易度が低い。相手の動きもしっかり見えているし、今の調子でいけば問題なく時間稼ぎの役目を果たせる。このまま頑張ろう。
それから多分数分の間だろうか……ウリエルと殺し合いという名のダンスを続けた。危ないシーンは何回もあったが、何とかやり過ごして時間を稼いだ。その甲斐あって──
「さあ行くぞ、あの勇士を支援しろ! 奴の動きは十分に見せてもらったな? どういう攻撃をするのかも分かったな? では攻撃を開始しろ!」
連合軍指揮官の声だ。それとほぼ同時に、自分と離れた所からバルカンで攻撃を仕掛けようとしていた二機のウリエルに対して、多数の矢が襲い掛かった。その狙いは、ウリエルのバルカン発射口の周辺に集中している。
「チッ、あいつらが復帰したか。まあいい、ウリエル! あちらに二機向かえ! 押し潰せ!」
有翼人のトップの言葉に従い、連合軍のほうに二機のウリエルが向かった。そのウリエルの前に立ちふさがったのは……『ブルーカラー』の面々と雨龍さん砂龍さん。自分もウリエル二機を相手にしているので、ちらりとしか見ることができなかったが、多分間違いないだろう。
「何か、ここまでの戦いでウリエルに対して気が付いたことはあります?」
『関節はがっちりガードされているな、腕や足を断ち切るのは難しいだろう。残念ながら頭部も、ブレードで攻撃してもレーザーで攻撃しても、ダメージを与えることは難しいと見る』
研究者の見立てでは、重装甲な見た目にふさわしい防御力は持ってるってことか。頭部までがっちがちとは困ったな。ウィークポイントは、バルカンの発射口ぐらいしかないんだろうか? だがそこを塞いだところで、致命的なダメージには程遠いぞ。
『悔しいが、このスーツにある武装では、こいつらに対して有効打とはならなさそうだ。そこで、君がさっき見せた魔剣で攻撃を試みてほしい。もちろん先程の奥の手ではなく普通の攻撃でいい。そこから突破口が開けるかもしれない』
【真同化】から伝わってくる思念によると、奥義《霜点》を再び振るうまでにはもうしばしの時間が必要らしい。だが、普通に振るう分には問題ない。
スーツの右手部分の装甲のみ解除してもらい、【真同化】を実体化。近くにいたウリエルがロケットパンチで攻撃してきたところを回避し、腕から伸びているワイヤーに【真同化】で斬撃を加えてみる。
『なるほど、物理的な攻撃よりも魔法的な攻撃が効く部分があるな。そのままワイヤーを魔剣で攻撃してくれ! 切り裂けるはずだ!」
研究者の言う通り、【真同化】という魔剣による攻撃は、スーツのブレードを使った攻撃よりも手ごたえがあった。なので左手はブレード、右手は魔剣という二刀流状態に入る。ただ、〈二刀流〉のスキルを持っているわけじゃないから、スキルの恩恵は一切ない。
まずウリエルを挑発するように左手のブレードで攻撃し、ロケットパンチを誘う。首尾よく飛んできたら、できる限りぎりぎりで回避し、伸びた腕が戻される前に【真同化】の斬撃をワイヤーに当てる。
これを四回ほど繰り返すと、ついに何本かあるうちの一本が千切れ飛んだ。これによってウリエルの腕は縮めても正常な位置に戻りきらず、変な方向に折れ曲がったような形になった。あれではもう、まともに飛ばすことはできまい。
『上手いぞ! この調子で、確実に相手の戦闘力を削いでいくんだ! 一気に倒せないことには苛立ちを覚えるが、今はそれしか方法がない』
「分かってますよ、ここで焦ってドジを踏んだら取り返しがつきませんからね。少なくとも相手の能力を潰すことができるのであれば、無意味ではないですし」
それに、こうすればウリエルとの戦い方を味方に教えることができる。実際、あっちでもロケットパンチのワイヤーを断ち切るところが目に入った。そして人数の多さもあって、手際よく両腕のワイヤーを断ち切り、使い物にならなくしていた。
(さて、次の出し物は何だろう? 最新兵器がバルカンとロケットパンチしか攻撃能力を持っていないはずがな──!?)
目に入ってきたのは、ウリエルの肩やふくらはぎに当たる部分の装甲がスライドして展開する光景。当然、そんな部位が無意味に開くわけもない。
そこから出てきたのは……蜂? 現れた複数の蜂は、自分に対して針の先端を向け始め……もう分かる、これはあの超有名ロボットアニメに出てくるビッ◯システムだ!
その危険性に気付いた自分が急いでその場から飛びのいたのと、自分がいた場所に細かい針が突き立つのには、僅かな時間差しかなかった。地面に突き立った針は鈍く光っており、刺されば命はないと宣言しているようにも見える。
――と、ほぼ同時に連合軍側から悲鳴が。どうやらあちらに行ったウリエルもこの蜂型兵器を展開したらしい。そして回避に失敗した人達がダメージを負ってしまったんだろう。
『破壊するんだ! あんなものが四方八方から攻撃を仕掛けてきたらひとたまりもない!』
「く、こういうときに両腕にあったガトリングが使えれば楽だったなのに!」
無い袖は振れないので、【真同化】を伸ばして蜂型兵器を切り裂こうとしたが──ここでウリエルが、その質量を生かしたタックル攻撃を仕掛けてきた。動きが速い! こいつ、今まで移動速度をあえて抑えて騙してたんだな!?
何とかタックルを回避したが、そんな体勢で狙いを正確に定めて【真同化】を振るえるはずもない。逆に蜂型兵器から、第二派となる攻撃が飛んできた。
「あ、あぶあぶあぶぶっ!?」
『更に左から、もう一機が来てるぞ!』
研究者の言葉で接近に気が付けた自分は、タックルを仕掛けてきたそのウリエルを、跳び箱の要領で飛び越えた。
ぶっちゃけこの回避が成功したのはたまたまである……タイミングが少しでも狂っていたら吹き飛ばされていただろう。
だがこれで、僅かながらもフリーな時間を得られた。
「【真同化】っ!」
薙ぐように振り払った真一撃は、数個の蜂型兵器を一度に切り裂いた。幸いそう硬くはないらしく、あっさりと刃が通って分断されると、小規模な爆発を起こした。
が、まだまだ結構な数が浮いているわけで……そいつらがこちらに向けて照準を合わせてくる。
『回避を!』
「分かっていますよ!」
相手の攻撃力がどれぐらいあるのかは分からない。だが、こちらのスーツはすでに装甲をほとんど剥ぎ取られた状態であり、ちょっとした貫通力程度の攻撃でも簡単に破壊されかねない。だからどんな攻撃であっても、食らってしまうわけにはいかないのだ。
まだ、このスーツは失いたくない……欲を言えば、あの有翼人のトップへのトドメは、このスーツに宿っている研究者に譲りたいという気持ちもある。
バックステップでその場から離れるが、蜂達は射撃をしない。マズい、誘われたかもしれない。バックステップ終わりで地面に降り立った自分に対し、蜂型兵器は一気に詰め寄って射撃を行ってきた。
それを無理やり横に飛び込むようにして、何とか回避する。
「ウリエルの動きの確認は任せます! こっちは蜂型兵器の動きを見るので精一杯です!」
『任された!』
回避しながら、時々【真同化】による反撃で蜂型兵器を撃墜するが、数が減ったようには思えない。もしかすると、撃墜された数だけ即座に追加してきている可能性がある。
蜂型兵器のサイズは、改めて見るとせいぜい一五センチから二五センチぐらいだと思われる。いくらか縮小した状態で格納されているとしたら……かなりの数が載るはずだ。
(それでも、無限ってことはないだろう。回避を重視しつつチャンスを逃さず破壊していけば、いつかは弾切れを起こすはず。そこまでは何としても粘ろう……そこまでいけば、研究者がウリエルのウィークポイントを見つけてくれる可能性もあるし)
この手の持久戦など、もう慣れたものだ。後ろに防衛対象がいない分、むしろ楽かもしれない――そう考えることにする。
こんな風に、あれに比べれば楽、前に比べれば余裕、と考えるのが辛いことを乗り切るコツだ。こういうときにネガティブ思考に陥っても、いいことなんてなにもない。
「さて、気合を入れ直して続けますか」
『ああ、そうだな。まだまだ戦いの途中なんだ。こんなところでへばっているわけにはいかないぞ』
5
蜂型兵器と交戦することしばし。自分と戦い続ける中で、連中の動きも徐々に変わってきた。
最初は、一様に一定距離を保って針を撃ってきていた。しかし、【真同化】によって離れていてもぶった切られるということを学習すると、突っ込んできて突き刺そうとしてくる奴と、今まで通り一定距離を保って針を射出してくる奴の連携が見られるようになった。
しかし自分は、それがどうしたと無理やり思いながら、距離を保つほうは【真同化】で、接近してくる奴はブレードで叩き落として対処する。ブレードだと切り裂くことはできないが、叩き落としたら踏み潰して無力化できる。
(マスター、そろそろ私も動きましょうか?)
そんな立ち回りをしていると、指輪に宿るルエットが久しぶりに念話で話しかけてきた。確かに彼女に【真同化】を動かしてもらえば楽になるんだが……
(いや、いい。今はまだ魔力の温存を最重視してほしい。それよりも一つ質問だ。あの有翼人のトップが繰り出してきた紫電の球体による攻撃……あれを、一回だけでいい、止めることはできるか? もし止められたら、その後は休眠状態に入ってしまっても構わない)
あの攻撃を直撃させられることだけは、何としても避けなければならない。だから、あれを防御できる手段が一枚でもあればありがたい。そんな気持ちで聞いた自分の問いかけに、ルエットの返答は――
(空に向けて受け流していい、という条件であれば、ぎりぎり一発だけなら何とかなると思う。真正面から受け止めるとなると、ある程度減衰させることはできるけど、完全に防ぎ切ることは不可能だと予想するわ)
十分だ。上空には何もないし、二次被害に繋がり得る物は確認できない。
(それでいい、いざというときにそれが十全にできるよう、今は我慢していてくれ。あの攻撃は危険すぎる、直撃を受けたらそこで全てが終わりかねない)
そう伝えると、ルエットは(分かったわ、じゃあそのときまで待機しておくわね)と答えた。
もしルエットにも防御できないのであれば、今相手しているウリエルを倒した後に実体化してもらって、攻撃に参加してもらうつもりだったが……できると言ってくれた以上は温存だ。
ルエットとの念話を終え、蜂型兵器とウリエルのコンビネーションと何とか戦い続けていると、連合軍のいるほうから爆発音と地響きが聞こえてきた。向こうで動きがあったようだが、果たしてその内容はなんだ?
「敵を破壊したぞ! アース、待たせたな! 今からそっちの援軍に行く!」
「ウリエルを二機引き付けてもらったおかげで、相手の動きも倒し方も分かりました! 感謝します!」
聞こえてきたのはツヴァイとカザミネの声。察するに、さっき響いたのは、向こうで戦っていたウリエルが倒された音か。
連合軍の援護射撃によって、自分を狙っていた蜂型兵器が一気に片付けられていく。そうして蜂型兵器が減ったところで、ツヴァイがウリエルに斬りかかった。
「アース、よく見ておけよ! こいつらの弱点は……ここだ!」
ツヴァイの大剣による一撃がウリエルの右腰部分を切り裂く。その直後にくぐもった爆発音が聞こえたと同時に、ウリエルの動きが一気に悪化する。
「そして、次はここなんです!」
今度はカザミネの氷の大太刀が左肩に振り下ろされ、人間ならば心臓がある辺りまでを切り裂く。氷の大太刀が引き抜かれると、ウリエルは途端に力を失って膝をつき、体中に紫電が走る──あ、これ爆発するんじゃないの?
そう思って距離を取ると、案の定ウリエルは爆発を起こして無残な姿になり、残ったパーツが大きな音と共に地面に落下した。さっきの地響きはこれか。
残ったウリエルは、自分が【真同化】でウリエルの右腰部分を攻撃して動きを悪化させたところを、再びカザミネが切り裂いて爆発させて始末した。
ふむ、どうやら弱点部分だけは装甲の性質が違うのか? 【真同化】を使ったとはいえ、ずいぶんあっさり攻撃が通じた。
「これでお終いだ、ご自慢の最新兵器もこんなもんだぜ!」
ツヴァイが炎の大剣の切っ先を有翼人のトップに向けながら、ドヤ顔で宣言する。そのツヴァイを、有翼人のトップは憎らしげに睨んでいた。
「魔剣か。貴様らを倒した後は、地上から魔剣を全て奪い取る必要があるな。だが、それを知れたことは収穫であると考えるとしよう。それに、ただ魔剣持ちであるなら倒せるというわけではあるまい。特にそっちの氷の魔剣を持った男。貴様と同じように、ほんの僅かの隙間を通す斬撃をできる者がそういるとは思えん」
なるほど、弱点であることは確かだが、カザミネの技量あってのものであるのか。そうなると、カザミネが倒されてしまうと一気に苦しくなるかもしれない。
「お褒め頂けましたが、貴方から褒められても嬉しくはないですね」
当のカザミネは、大太刀を構えながら有翼人のトップにそう返す。うん、お互い敬意を持って戦った相手であればカザミネも喜んだだろうが、そういう存在じゃないよなぁアイツは。
「まあいい。ウリエルは倒されたが、十分に時間は稼げた。それでは、次の攻撃といこうか。さて、耐えられるかな?」
げ、再びあの紫電を纏った光球が生み出された。しかも今回は生成が早い! あの野郎、回復ついでに撃つ準備をちゃっかり整えてやがったんだな!
ツヴァイやカザミネ、地上連合軍のほうからも慌てた様子が伝わってきたが……一人だけ、この状況を想定していた者がいたようだ。
『ふん、その行動は私の予想の範疇から出ていない。悪いが、外の者達に、今は障壁を張るのではなく地面に伏せるよう伝えてくれないか? 例の改造した島からの砲撃をここで行う。あの光球ごと、奴を吹き飛ばしてみせるさ……発射準備はもう完了している、あとは細かい誤差を修正するだけだ』
そう、スーツに宿っていた研究者がすでに手を打っていたのだ。
だから自分は、大声で「地上連合軍は今すぐ地面に伏せろ! でかい一撃が来るぞ!」と叫んだ後、真っ先に地面に伏せる。
「アース、でかい一撃ってなんだ!?」
「いいから伏せろ! 隠し玉を持っていたのは向こうだけじゃないってことだ! 巻き込まれないようさっさと伏せろ!」
自分の声の様子から、本当に何かがやってくると感じ取ったのだろう。ツヴァイもカザミネも、地上連合軍の皆も一斉に地面に伏せた。
「でかい一撃だと? では見せてもらおうか、その一撃とやらを。まあ、こけおどしだと思うがな……そして、この一撃でお前達は皆消滅する。そら、撃てものなら撃ってみろ!」
そんな有翼人のトップの言葉と共に、こちらに向かって光球が発射されたのとほぼ同時に──
『最終発射シークスエンス完了! 古代技術式砲塔改良型〝Fallen Angel Buster〟──発射!!』
研究者の言葉が聞こえた。それから一瞬の間も置かず……すさまじい轟音が発生した。更に、紫電の光球と研究者が発射した攻撃――直訳すると『堕天使を破壊するモノ』――とがぶつかり合い、全てがものすごい光に包まれたのだった。
(目を開けていられない!)
スーツの中にいる自分でもこうなのだから、他の人にとってはいったいどれほどの眩しさか……失明とかしないといいのだけれど。
その状況はしばらく続き、収まった後もとてもじゃないがしばらく立ち上がれなかった。
さて、とんでもない一撃が放たれたわけだが……奴はどうなった?
様子を窺いながら立ち上がった自分が最初に目にしたものは、伏せる前には存在しなかったはずの、無数のウリエルの残骸の山だった。
『あの四機だけしかいないとは考えてはいなかった。だが、私の攻撃を防げないと判断してすかさず前に呼び出して盾にしたのか! これでは仕留め──』
それを確認した研究者の声が聞こえたとき、自分は咄嗟に右斜め前に転がった。すさまじい殺気に体が自然と反応して、半ば無意識に回避行動をとったのだ。
この行動は正しかった……それまで自分がいた所には、大きな斬撃の跡が付いたのだから。
「忌々しい! ここでウリエルを大量に失うことになるとは……まさかここまでの隠し玉があるとは思っていなかったぞ、地上の屑どもが! しかし、あれだけの攻撃だ。二回目はあるまい? あったとしても、もうこの戦いの最中には使えまい」
目に見えない剣(?)にて攻撃を行いながら、有翼人のトップはそう指摘してきた。体のあちこちに血が滲み、服が紅に染まっている。
それに対して研究者が言葉をこぼす。
『今の砲撃は、古代技術兵器の中でも最大限破壊力に特化した物に、これまで得てきたデータと技術を融合させた、私の切り札だった。直撃すれば、あの光球を消し飛ばし、障壁を破壊し、奴自体も塵と出来ていたはずだったが……あれだけの数のウリエルを盾として凌がれてしまった』
計算に計算を重ねて、いけると思ったからこそ放った攻撃も、計算外の方法で大幅に減衰させられてしまうと厳しいだろう。
『そして悔しいが、奴の言う通りだ……今の一撃で、我々が護ってきた島にあったあらゆる施設の機能がダウンした。もう復旧は望めない。そもそも、すでに砲身が焼き切れてしまったはずだ。それだけ無理をさせて放ったというのに……私は、やはりあいつには勝てないのか……』
研究者の言葉から戦意が消えていく。
だが、それじゃ困る。
こっちにはまだ手札が残っている。なのに勝手に諦められたら、勝てるものも勝てなくなる。仕方がない……
──悔しいが、奴の言う通りだ。ブレードも使って受け流したりもしているが、ちょくちょく被弾してしまい、そのたびにスーツの装甲は確実に剥ぎ取られている。すでに警告域は超え、スーツのあちこちから機能停止寸前という報告が上がってきている。脚部のダメージは八割を超えた。胴体部分の装甲ダメージは九割。もうあまり持たないな。
『もう限界か……いざとなったら君を脱出させる。だから安心してくれ』
「いや、向こうの攻撃にも慣れてきた。ここからが本番だ! 諦めるのには早すぎるぞ! しっかりするんだ!」
弱音を吐いてきた研究者に活を入れる。弱気になったら避けられるものも避けられない。
舐めてくれるなよ、こっちだって今までいろんな場所でいろんな戦いをやってきたんだ、この程度で心が折れるほどヤワじゃあないんだよ。
相手の動きをよく見て、これまでの経験を活かし、そして――
「ここ!」
『ガギリ!?』
反撃の一太刀を、ウリエルの一機に叩き込んだ。タイミングを見計らって突撃し、バルカンを撃ってきそうなタイミングに合わせて、ブレードの先端で発射口の一つを塞いでやったのだ。
それにより銃弾が詰まった結果、何らかの異常を引き起こしたらしく、小規模な爆発がウリエルの内部で発生した。この程度では撃破とはいかないが、明らかに動きが悪くなる。
『やるじゃないか!』
「だから言ったでしょう? ここからが本番だって!」
反撃を受けたことで、ウリエル達の動きに変化が現れた。ロケットパンチをメインにし、こちらの攻撃が届く範囲内ではバルカンを撃ってこなくなったのだ。
それは、こちらの回避行動を容易にさせる。どういうことかというと……
ここまで被弾していたのは全部バルカンによる攻撃で、それも近距離からの射撃によるものだった。
で、こいつら、バルカンを発射しようとすると、いったん動きが完全に止まる。そしてそこから足を踏ん張って撃ってくる。
この独特なモーションのおかげで、撃ってくるタイミングはもろバレ。ただ、他のウリエルから攻撃されているときに近距離から撃たれたら、流石に回避は困難だった。
しかしそのバルカンによる近距離射撃がなくなれば、かなり楽になってくるというわけだ。
それに、ロケットパンチもかなりの弾速だが、こちらも何のモーションもなく発射することはできないようで、多少のタメがある。
相対するうちにそういったウリエルの特性を理解することができつつあり、回避し続けるのもそう難しくはなくなってきていた。
「ウリエル、何をやっている! そんな下等生物一匹ごときに手こずってどうする! お前達は最新鋭兵器なんだぞ、そいつをさっさと始末して、残ったゴミを踏み潰す作業に入らないか!」
おーおー、有翼人のトップはおかんむりだ。予定通りに進まないと、すぐキレるタイプなのかね。世の中、自分の予定通りに進むことなんてめったにないもんだけど……
そういえば、かつて霜点さんの前に自ら姿を現した理由も、自分が主催していた賭けをあまりに荒らされたからという理由だったな。
『いいぞ、上手く時間が稼げている! 連合軍の者達もかなり息が整ってきたようだ。あと少しすれば、攻撃を再開できるはずだ』
「了解、ではもう少しこのダンスを続けましょうか」
うん、こういう軽口を叩ける余裕が戻ってきた。余裕が生まれればミスは減るものだ。
いいぞ、このウリエルとやらが出てきたときは不安だったが、激しい弾幕を張ってくるシューティングゲームよりは難易度が低い。相手の動きもしっかり見えているし、今の調子でいけば問題なく時間稼ぎの役目を果たせる。このまま頑張ろう。
それから多分数分の間だろうか……ウリエルと殺し合いという名のダンスを続けた。危ないシーンは何回もあったが、何とかやり過ごして時間を稼いだ。その甲斐あって──
「さあ行くぞ、あの勇士を支援しろ! 奴の動きは十分に見せてもらったな? どういう攻撃をするのかも分かったな? では攻撃を開始しろ!」
連合軍指揮官の声だ。それとほぼ同時に、自分と離れた所からバルカンで攻撃を仕掛けようとしていた二機のウリエルに対して、多数の矢が襲い掛かった。その狙いは、ウリエルのバルカン発射口の周辺に集中している。
「チッ、あいつらが復帰したか。まあいい、ウリエル! あちらに二機向かえ! 押し潰せ!」
有翼人のトップの言葉に従い、連合軍のほうに二機のウリエルが向かった。そのウリエルの前に立ちふさがったのは……『ブルーカラー』の面々と雨龍さん砂龍さん。自分もウリエル二機を相手にしているので、ちらりとしか見ることができなかったが、多分間違いないだろう。
「何か、ここまでの戦いでウリエルに対して気が付いたことはあります?」
『関節はがっちりガードされているな、腕や足を断ち切るのは難しいだろう。残念ながら頭部も、ブレードで攻撃してもレーザーで攻撃しても、ダメージを与えることは難しいと見る』
研究者の見立てでは、重装甲な見た目にふさわしい防御力は持ってるってことか。頭部までがっちがちとは困ったな。ウィークポイントは、バルカンの発射口ぐらいしかないんだろうか? だがそこを塞いだところで、致命的なダメージには程遠いぞ。
『悔しいが、このスーツにある武装では、こいつらに対して有効打とはならなさそうだ。そこで、君がさっき見せた魔剣で攻撃を試みてほしい。もちろん先程の奥の手ではなく普通の攻撃でいい。そこから突破口が開けるかもしれない』
【真同化】から伝わってくる思念によると、奥義《霜点》を再び振るうまでにはもうしばしの時間が必要らしい。だが、普通に振るう分には問題ない。
スーツの右手部分の装甲のみ解除してもらい、【真同化】を実体化。近くにいたウリエルがロケットパンチで攻撃してきたところを回避し、腕から伸びているワイヤーに【真同化】で斬撃を加えてみる。
『なるほど、物理的な攻撃よりも魔法的な攻撃が効く部分があるな。そのままワイヤーを魔剣で攻撃してくれ! 切り裂けるはずだ!」
研究者の言う通り、【真同化】という魔剣による攻撃は、スーツのブレードを使った攻撃よりも手ごたえがあった。なので左手はブレード、右手は魔剣という二刀流状態に入る。ただ、〈二刀流〉のスキルを持っているわけじゃないから、スキルの恩恵は一切ない。
まずウリエルを挑発するように左手のブレードで攻撃し、ロケットパンチを誘う。首尾よく飛んできたら、できる限りぎりぎりで回避し、伸びた腕が戻される前に【真同化】の斬撃をワイヤーに当てる。
これを四回ほど繰り返すと、ついに何本かあるうちの一本が千切れ飛んだ。これによってウリエルの腕は縮めても正常な位置に戻りきらず、変な方向に折れ曲がったような形になった。あれではもう、まともに飛ばすことはできまい。
『上手いぞ! この調子で、確実に相手の戦闘力を削いでいくんだ! 一気に倒せないことには苛立ちを覚えるが、今はそれしか方法がない』
「分かってますよ、ここで焦ってドジを踏んだら取り返しがつきませんからね。少なくとも相手の能力を潰すことができるのであれば、無意味ではないですし」
それに、こうすればウリエルとの戦い方を味方に教えることができる。実際、あっちでもロケットパンチのワイヤーを断ち切るところが目に入った。そして人数の多さもあって、手際よく両腕のワイヤーを断ち切り、使い物にならなくしていた。
(さて、次の出し物は何だろう? 最新兵器がバルカンとロケットパンチしか攻撃能力を持っていないはずがな──!?)
目に入ってきたのは、ウリエルの肩やふくらはぎに当たる部分の装甲がスライドして展開する光景。当然、そんな部位が無意味に開くわけもない。
そこから出てきたのは……蜂? 現れた複数の蜂は、自分に対して針の先端を向け始め……もう分かる、これはあの超有名ロボットアニメに出てくるビッ◯システムだ!
その危険性に気付いた自分が急いでその場から飛びのいたのと、自分がいた場所に細かい針が突き立つのには、僅かな時間差しかなかった。地面に突き立った針は鈍く光っており、刺されば命はないと宣言しているようにも見える。
――と、ほぼ同時に連合軍側から悲鳴が。どうやらあちらに行ったウリエルもこの蜂型兵器を展開したらしい。そして回避に失敗した人達がダメージを負ってしまったんだろう。
『破壊するんだ! あんなものが四方八方から攻撃を仕掛けてきたらひとたまりもない!』
「く、こういうときに両腕にあったガトリングが使えれば楽だったなのに!」
無い袖は振れないので、【真同化】を伸ばして蜂型兵器を切り裂こうとしたが──ここでウリエルが、その質量を生かしたタックル攻撃を仕掛けてきた。動きが速い! こいつ、今まで移動速度をあえて抑えて騙してたんだな!?
何とかタックルを回避したが、そんな体勢で狙いを正確に定めて【真同化】を振るえるはずもない。逆に蜂型兵器から、第二派となる攻撃が飛んできた。
「あ、あぶあぶあぶぶっ!?」
『更に左から、もう一機が来てるぞ!』
研究者の言葉で接近に気が付けた自分は、タックルを仕掛けてきたそのウリエルを、跳び箱の要領で飛び越えた。
ぶっちゃけこの回避が成功したのはたまたまである……タイミングが少しでも狂っていたら吹き飛ばされていただろう。
だがこれで、僅かながらもフリーな時間を得られた。
「【真同化】っ!」
薙ぐように振り払った真一撃は、数個の蜂型兵器を一度に切り裂いた。幸いそう硬くはないらしく、あっさりと刃が通って分断されると、小規模な爆発を起こした。
が、まだまだ結構な数が浮いているわけで……そいつらがこちらに向けて照準を合わせてくる。
『回避を!』
「分かっていますよ!」
相手の攻撃力がどれぐらいあるのかは分からない。だが、こちらのスーツはすでに装甲をほとんど剥ぎ取られた状態であり、ちょっとした貫通力程度の攻撃でも簡単に破壊されかねない。だからどんな攻撃であっても、食らってしまうわけにはいかないのだ。
まだ、このスーツは失いたくない……欲を言えば、あの有翼人のトップへのトドメは、このスーツに宿っている研究者に譲りたいという気持ちもある。
バックステップでその場から離れるが、蜂達は射撃をしない。マズい、誘われたかもしれない。バックステップ終わりで地面に降り立った自分に対し、蜂型兵器は一気に詰め寄って射撃を行ってきた。
それを無理やり横に飛び込むようにして、何とか回避する。
「ウリエルの動きの確認は任せます! こっちは蜂型兵器の動きを見るので精一杯です!」
『任された!』
回避しながら、時々【真同化】による反撃で蜂型兵器を撃墜するが、数が減ったようには思えない。もしかすると、撃墜された数だけ即座に追加してきている可能性がある。
蜂型兵器のサイズは、改めて見るとせいぜい一五センチから二五センチぐらいだと思われる。いくらか縮小した状態で格納されているとしたら……かなりの数が載るはずだ。
(それでも、無限ってことはないだろう。回避を重視しつつチャンスを逃さず破壊していけば、いつかは弾切れを起こすはず。そこまでは何としても粘ろう……そこまでいけば、研究者がウリエルのウィークポイントを見つけてくれる可能性もあるし)
この手の持久戦など、もう慣れたものだ。後ろに防衛対象がいない分、むしろ楽かもしれない――そう考えることにする。
こんな風に、あれに比べれば楽、前に比べれば余裕、と考えるのが辛いことを乗り切るコツだ。こういうときにネガティブ思考に陥っても、いいことなんてなにもない。
「さて、気合を入れ直して続けますか」
『ああ、そうだな。まだまだ戦いの途中なんだ。こんなところでへばっているわけにはいかないぞ』
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蜂型兵器と交戦することしばし。自分と戦い続ける中で、連中の動きも徐々に変わってきた。
最初は、一様に一定距離を保って針を撃ってきていた。しかし、【真同化】によって離れていてもぶった切られるということを学習すると、突っ込んできて突き刺そうとしてくる奴と、今まで通り一定距離を保って針を射出してくる奴の連携が見られるようになった。
しかし自分は、それがどうしたと無理やり思いながら、距離を保つほうは【真同化】で、接近してくる奴はブレードで叩き落として対処する。ブレードだと切り裂くことはできないが、叩き落としたら踏み潰して無力化できる。
(マスター、そろそろ私も動きましょうか?)
そんな立ち回りをしていると、指輪に宿るルエットが久しぶりに念話で話しかけてきた。確かに彼女に【真同化】を動かしてもらえば楽になるんだが……
(いや、いい。今はまだ魔力の温存を最重視してほしい。それよりも一つ質問だ。あの有翼人のトップが繰り出してきた紫電の球体による攻撃……あれを、一回だけでいい、止めることはできるか? もし止められたら、その後は休眠状態に入ってしまっても構わない)
あの攻撃を直撃させられることだけは、何としても避けなければならない。だから、あれを防御できる手段が一枚でもあればありがたい。そんな気持ちで聞いた自分の問いかけに、ルエットの返答は――
(空に向けて受け流していい、という条件であれば、ぎりぎり一発だけなら何とかなると思う。真正面から受け止めるとなると、ある程度減衰させることはできるけど、完全に防ぎ切ることは不可能だと予想するわ)
十分だ。上空には何もないし、二次被害に繋がり得る物は確認できない。
(それでいい、いざというときにそれが十全にできるよう、今は我慢していてくれ。あの攻撃は危険すぎる、直撃を受けたらそこで全てが終わりかねない)
そう伝えると、ルエットは(分かったわ、じゃあそのときまで待機しておくわね)と答えた。
もしルエットにも防御できないのであれば、今相手しているウリエルを倒した後に実体化してもらって、攻撃に参加してもらうつもりだったが……できると言ってくれた以上は温存だ。
ルエットとの念話を終え、蜂型兵器とウリエルのコンビネーションと何とか戦い続けていると、連合軍のいるほうから爆発音と地響きが聞こえてきた。向こうで動きがあったようだが、果たしてその内容はなんだ?
「敵を破壊したぞ! アース、待たせたな! 今からそっちの援軍に行く!」
「ウリエルを二機引き付けてもらったおかげで、相手の動きも倒し方も分かりました! 感謝します!」
聞こえてきたのはツヴァイとカザミネの声。察するに、さっき響いたのは、向こうで戦っていたウリエルが倒された音か。
連合軍の援護射撃によって、自分を狙っていた蜂型兵器が一気に片付けられていく。そうして蜂型兵器が減ったところで、ツヴァイがウリエルに斬りかかった。
「アース、よく見ておけよ! こいつらの弱点は……ここだ!」
ツヴァイの大剣による一撃がウリエルの右腰部分を切り裂く。その直後にくぐもった爆発音が聞こえたと同時に、ウリエルの動きが一気に悪化する。
「そして、次はここなんです!」
今度はカザミネの氷の大太刀が左肩に振り下ろされ、人間ならば心臓がある辺りまでを切り裂く。氷の大太刀が引き抜かれると、ウリエルは途端に力を失って膝をつき、体中に紫電が走る──あ、これ爆発するんじゃないの?
そう思って距離を取ると、案の定ウリエルは爆発を起こして無残な姿になり、残ったパーツが大きな音と共に地面に落下した。さっきの地響きはこれか。
残ったウリエルは、自分が【真同化】でウリエルの右腰部分を攻撃して動きを悪化させたところを、再びカザミネが切り裂いて爆発させて始末した。
ふむ、どうやら弱点部分だけは装甲の性質が違うのか? 【真同化】を使ったとはいえ、ずいぶんあっさり攻撃が通じた。
「これでお終いだ、ご自慢の最新兵器もこんなもんだぜ!」
ツヴァイが炎の大剣の切っ先を有翼人のトップに向けながら、ドヤ顔で宣言する。そのツヴァイを、有翼人のトップは憎らしげに睨んでいた。
「魔剣か。貴様らを倒した後は、地上から魔剣を全て奪い取る必要があるな。だが、それを知れたことは収穫であると考えるとしよう。それに、ただ魔剣持ちであるなら倒せるというわけではあるまい。特にそっちの氷の魔剣を持った男。貴様と同じように、ほんの僅かの隙間を通す斬撃をできる者がそういるとは思えん」
なるほど、弱点であることは確かだが、カザミネの技量あってのものであるのか。そうなると、カザミネが倒されてしまうと一気に苦しくなるかもしれない。
「お褒め頂けましたが、貴方から褒められても嬉しくはないですね」
当のカザミネは、大太刀を構えながら有翼人のトップにそう返す。うん、お互い敬意を持って戦った相手であればカザミネも喜んだだろうが、そういう存在じゃないよなぁアイツは。
「まあいい。ウリエルは倒されたが、十分に時間は稼げた。それでは、次の攻撃といこうか。さて、耐えられるかな?」
げ、再びあの紫電を纏った光球が生み出された。しかも今回は生成が早い! あの野郎、回復ついでに撃つ準備をちゃっかり整えてやがったんだな!
ツヴァイやカザミネ、地上連合軍のほうからも慌てた様子が伝わってきたが……一人だけ、この状況を想定していた者がいたようだ。
『ふん、その行動は私の予想の範疇から出ていない。悪いが、外の者達に、今は障壁を張るのではなく地面に伏せるよう伝えてくれないか? 例の改造した島からの砲撃をここで行う。あの光球ごと、奴を吹き飛ばしてみせるさ……発射準備はもう完了している、あとは細かい誤差を修正するだけだ』
そう、スーツに宿っていた研究者がすでに手を打っていたのだ。
だから自分は、大声で「地上連合軍は今すぐ地面に伏せろ! でかい一撃が来るぞ!」と叫んだ後、真っ先に地面に伏せる。
「アース、でかい一撃ってなんだ!?」
「いいから伏せろ! 隠し玉を持っていたのは向こうだけじゃないってことだ! 巻き込まれないようさっさと伏せろ!」
自分の声の様子から、本当に何かがやってくると感じ取ったのだろう。ツヴァイもカザミネも、地上連合軍の皆も一斉に地面に伏せた。
「でかい一撃だと? では見せてもらおうか、その一撃とやらを。まあ、こけおどしだと思うがな……そして、この一撃でお前達は皆消滅する。そら、撃てものなら撃ってみろ!」
そんな有翼人のトップの言葉と共に、こちらに向かって光球が発射されたのとほぼ同時に──
『最終発射シークスエンス完了! 古代技術式砲塔改良型〝Fallen Angel Buster〟──発射!!』
研究者の言葉が聞こえた。それから一瞬の間も置かず……すさまじい轟音が発生した。更に、紫電の光球と研究者が発射した攻撃――直訳すると『堕天使を破壊するモノ』――とがぶつかり合い、全てがものすごい光に包まれたのだった。
(目を開けていられない!)
スーツの中にいる自分でもこうなのだから、他の人にとってはいったいどれほどの眩しさか……失明とかしないといいのだけれど。
その状況はしばらく続き、収まった後もとてもじゃないがしばらく立ち上がれなかった。
さて、とんでもない一撃が放たれたわけだが……奴はどうなった?
様子を窺いながら立ち上がった自分が最初に目にしたものは、伏せる前には存在しなかったはずの、無数のウリエルの残骸の山だった。
『あの四機だけしかいないとは考えてはいなかった。だが、私の攻撃を防げないと判断してすかさず前に呼び出して盾にしたのか! これでは仕留め──』
それを確認した研究者の声が聞こえたとき、自分は咄嗟に右斜め前に転がった。すさまじい殺気に体が自然と反応して、半ば無意識に回避行動をとったのだ。
この行動は正しかった……それまで自分がいた所には、大きな斬撃の跡が付いたのだから。
「忌々しい! ここでウリエルを大量に失うことになるとは……まさかここまでの隠し玉があるとは思っていなかったぞ、地上の屑どもが! しかし、あれだけの攻撃だ。二回目はあるまい? あったとしても、もうこの戦いの最中には使えまい」
目に見えない剣(?)にて攻撃を行いながら、有翼人のトップはそう指摘してきた。体のあちこちに血が滲み、服が紅に染まっている。
それに対して研究者が言葉をこぼす。
『今の砲撃は、古代技術兵器の中でも最大限破壊力に特化した物に、これまで得てきたデータと技術を融合させた、私の切り札だった。直撃すれば、あの光球を消し飛ばし、障壁を破壊し、奴自体も塵と出来ていたはずだったが……あれだけの数のウリエルを盾として凌がれてしまった』
計算に計算を重ねて、いけると思ったからこそ放った攻撃も、計算外の方法で大幅に減衰させられてしまうと厳しいだろう。
『そして悔しいが、奴の言う通りだ……今の一撃で、我々が護ってきた島にあったあらゆる施設の機能がダウンした。もう復旧は望めない。そもそも、すでに砲身が焼き切れてしまったはずだ。それだけ無理をさせて放ったというのに……私は、やはりあいつには勝てないのか……』
研究者の言葉から戦意が消えていく。
だが、それじゃ困る。
こっちにはまだ手札が残っている。なのに勝手に諦められたら、勝てるものも勝てなくなる。仕方がない……
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