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27巻
27-1
しおりを挟む【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv46
〈精密な指〉Lv54
〈小盾〉Lv44 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv31 〈円花の真なる担い手〉Lv10
〈百里眼〉Lv44 〈隠蔽・改〉Lv7 〈義賊頭〉Lv87
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身・覚醒〉Lv15(Change!) 〈偶像の魔王〉Lv7
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈釣り〉(LOST!) 〈人魚泳法〉Lv10
〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝〉Lv99(The Limit!) 〈薬剤の経験者〉Lv43
〈医食同源料理人〉Lv25
ExP53
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者
魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿つ者 魔王領名誉貴族
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ:《ソニックハウンドアローLv5》
1
VRMMOゲーム「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界の命運をかけた、地上連合軍対有翼人&洗脳された人達(プレイヤー含む)の戦いが始まって数時間。
白羽さん、ピカーシャ、そしてパワードスーツに宿る元有翼人の研究者と共に、地上連合軍の遊撃隊として行動している自分ことアースに対し、本隊から連絡が入った。周囲の島を制圧する戦いは無事に終了、治療を行った後にいよいよ有翼人の本拠地である中央の島へと進軍するので、こちらも合流するように、との指示だった。ちなみに、自分と一緒に空の世界に上がってきた龍神の欠片である幼女は本来戦闘に加われないので、空のドラゴンさんがいる浮遊島で待機している。
もう夜になっちゃってるけど、今日は流石に「ワンモア」の世界の人も寝ないよな。というか寝られるわけがない。地上に帰るのは時間がかかるし、かといってこんな敵陣のど真ん中で寝たら、殺してくださいって言っているのと変わんない。
「いよいよ、中央の島での決戦だそうだ。時間は夜だが……いけるよね?」
「問題ないわ。むしろ日が昇ってからなんて言われたら、じれったくて仕方がなかったわ」
白羽さんにも連絡内容を伝えたところ、ヤル気満々のお返事を頂いた。
いや、「ヤル気」ではなく「殺る気」と言ったほうが正しいかもしれない。話を聞いた白羽さんから舞い上がったモノが、明らかに闘気じゃなくて殺気なんだよなぁ。
もちろん、そこに突っ込みを入れるような真似はしない。それが生き延びるための手段である。
「向こうは治療が終わり次第移動するようだから、こっちもそれにタイミングを合わせて移動するよ。流石にこの少数で突撃は無謀が過ぎるから」
殺る気満々な白羽さんをなだめつつ、自分が今後の予定を告げる。なんというか、暴れ馬をどうどう言いながらなだめている気分になってしまった。彼女はドラゴンだから、喩えとしてはものすごく失礼なんだよねえ。口にしちゃいけないことがまた増えた。
「──なんかさ、変なこと考えてない? そんな気がするんだけど?」
ヒィ、勘づいていらっしゃる。
しかしそこは奥義「社会にもまれたことで身に付けたポーカーフェイス&愛想笑い」を発動! 自分の本心を相手に察せられることがなくなる!
「気のせいですよ、考えていたのは、この後の戦いをどう進めるかということだけです」
「そっか、そうよね。それ以外に考えることなんて今はないものね」
ハイ成功。まあ、実際そっちもちゃんと考えているんだけどさ。なにせ、決戦の時が近づくにつれて反応が大きくなっている存在がいるから。
そう、自分と同化したスネークソードの魔剣、【真同化】である。
もうね、早く有翼人のトップを斬らせろ、殴らせろ、血を吸わせろ、って右手の中から訴えてきてるんですよ。吹き出しをつけてもいいんじゃないかなーってぐらいに。
無理もないけどな……魔剣に宿る霜点さんと皐月さんにとっちゃ奴は不倶戴天の敵だ。その他に宿ってる皆さんも、奴が余計なこと、バカなことさえしてなきゃ悲惨な目に遭わなかった、っていう恨みが積もりに積もってるからなぁ。
本人を前にしたらどうなるんだろう、暴走だけはやめてくださいよ……奴にはちゃんと相応の報いを与えるから。
「ところで、治療はどれぐらいかかるのかしら?」
「ええっと、一〇分弱らしいです。終わったらまた連絡をくれるという話です」
結構被害出てたって話だったし、治療がたった一〇分弱で済むというのはすごいことなんだよなぁ。プレイヤー側の掲示板も見てるから、相当な激戦だったってことはよく分かっている。
それによると、なんかツヴァイが無双してたみたい……おそらく何らかの切っ掛けを得て魔剣が強化されたからそんなことができたんだろう。比較的装甲が薄いプレイヤー達のところに強襲かけたのもあったにせよ……炎槍舞とも呼ばれる有名なプレイヤー、ランダさんとの一騎打ちに勝ったのは本人の腕だ。
まあなんにせよ、決戦前にそんな強さを手に入れてたってことが分かったのはありがたい。以前【真同化】の世界で出会ってはいるものの、あの有翼人のトップの本気がどれぐらいのものなのか、まだ全く分からない。だから強い味方が増えるのは、実にウェルカム!!である。
いかん、ぶっ倒したい相手との決戦がいよいよ目の前になったことが原因で、自分のテンションがおかしくなっている。
といっても、ここまで来るのにどれだけあちこち歩き回ったことか! お前は、ゲーム開始当初から見えているが行き方が分からなくて、各種アイテムを集めて各種フラグを立ててようやく行けるようになったら徒歩で数分しかかからない城の中でのんびりこっちの到着を待ってるラスボスかよ!と言いたくなってきたわ、本当に。
ま、まあいい。とにかくここまで来たんだ。あとは何がなんでも勝つだけだ。勝って奴の首を取れば、【真同化】の中にいる皆の無念も晴れるだろう。その後【真同化】がどうなっちゃうのかがちょっと怖いけど……最悪、【真同化】そのものが消滅しても、それはそれでいいと思っている。やっぱり、無念を晴らして満足したら天に帰っていく、っていう展開はすっきりする。
「じゃ、連絡入ったら教えてちょうだい。それまで軽く柔軟をしておくから」
「あ、自分もやっておこう」
柔軟や準備体操をしたってゲーム上の数値的には何にも変わりはないんだけど、やるぞ!って気分にはなる。でも今回に限ってはそっちじゃなくて、今はまだ早い、だから抑えろ抑えろ、爆発するのはもうちょーっとだけ先なんだからな?と、自分の心身に言い聞かせる目的である。
そんなことをしていると、ついに本隊から、治療完了したので移動する、という連絡が届いた。もちろん本当の連絡内容はこんな軽くはないんだが、大体そんな感じであった。
「いよいよ……本当にいよいよね、これに勝てば私も、のんびり地上世界を見て回れるわ」
『これで、やっと私の運命も終点に辿り着く……勝つにしろ、負けるにしろ……でも、勝って終わりにしたい。本来なら地上の人々に頼らずに、私達の手で始末をつけなければいけなかった話なのだから』
白羽さんと研究者、それぞれの言葉に頷いた後、パワードスーツを纏い、これまで休息していた南の島から移動を開始する。直接中央に向かうことはせず、北東の島からやってきているはずの本隊と合流するように動く。もう単独行動の時間はお終いだから、合流してから中央に上陸したほうがいいだろう。
「あ、あれ。あれが本隊の人達じゃない?」
空を移動していると、白雨さんが移動中の本隊を発見。簡単な挨拶を交わして無事合流し、先に本隊に合流していたギルド『ブルーカラー』の面子が乗っているドラゴンの近くまで行って、雑談に興じる。
「──という感じで、先の島での戦いでは、私達の存在は霞んでしまっていましたね」
「ツヴァイの魔剣である大剣の二刀流が更に強化されたからな……まさに鎧袖一触と表現しても過言じゃないぐらいに敵を吹き飛ばす、見事な暴れっぷりだった。カザミネの言う通り、プレイヤーの記憶に俺達のことは残っていないだろうな」
カザミネやレイジがここまで言うんだから、自分が想像した以上の暴れっぷりだったのかもしれない。確かに掲示板を見直すと、ツヴァイ以外の『ブルーカラー』のメンバーに対するコメントがないな。まさにツヴァイ一色だ。
「被害が少なくて済んだからいいだろ。地上連合軍に大きな被害が出ていたら、中央を攻められなかったんだぜ?」
ツヴァイの言う通りだな。もし戦力が大幅に減っていたらキツイどころの話じゃないもんな。中央への侵攻を中止せざるを得なくなった可能性だってあった。そしてもしそんなことになってしまっていたら、有翼人達が地上への反撃を開始するのは、まあ間違いなかっただろう。その場合、どれだけの被害が出ることか……あっという間に地上側が圧倒されて、僅かな生存者が地下に潜ってレジスタンスになる、なんてSF映画みたいな展開になったやもしれん。
「そこは間違いなく助かったよ。有翼人の中枢を成す連中がどれだけの能力を持っているのかは未知数なんだ、戦力は少しでも温存できたほうがいいに決まってる」
自分の言葉に、皆が頷く。不意を突いてのツヴァイの大暴れは実にグッジョブ。プレイヤー相手に真っ向勝負でぶつかっていたら、どれだけ戦力が削られたか分からん。
「皆様、そろそろ話はお終いにしましょう。いよいよ、中央の島への上陸が迫ってきましたよ」
カナさんの言う通り、本隊の一番先頭が、島に着陸すべく高度を落とし始めている。一方で、中央の島はこれといった防衛活動を始めたりはしていない。ちょっと拍子抜けだが……とにかく、妨害がないのは好都合だ。
次々と地上連合軍が島に降り立ち、ついに全軍が地面に足をつけた。
かくして最終決戦の場に乗り込んだわけだが……まだ、有翼人達に動きはない。
「やけに、静かですね~……」
ミリーの言葉に、自分は頷く。不気味なほどに静まり返っていて、人の気配がないな……〈義賊頭〉のスキルを活かして周辺を調べるが、これといった反応はない。
罠か? いや、この場所は有翼人達の本丸のはず。ここを簡単に使い捨てにするはずがない。向こうはどう動くつもりなんだろうか?
2
地上連合軍が島に降り立って数分が経過しても、有翼人側のアプローチは何もない。なので、こちらから打って出ようとした――その時だった。
あちこちから機械音が響き渡った。全員が警戒する中、島の中央にある一番大きな塔以外の建物が、地面の中に沈んでいく。
いや、そうではなく……収納されていく、と言ったほうがいい。
そして建物があった場所に残る穴は、鋼鉄製らしき板状のものが塞いでいく。
「指揮官、これはいったい……」
「警戒を怠るな! それと下手に動くな! 何らかの罠かもしれん、周囲をよく見ろ!」
指揮官の言葉に従って動かない連合軍をよそに、島の建物は次々と地面の下に収納されていく。
やがて全ての建物だけでなく、木や花壇なども全て収納され、中央の塔以外はまっ平らな地面が出来上がった。
そこへ、腕組みをしながらどこからともなく降りてきた存在。それは──
「よくもまあ、ここまで来たものだ。まずはおめでとうと言わせてもらおうか。周囲の島に配置した戦力を全て撃破してきた、その戦力と戦う意思は、称賛に値する」
自分の右手が熱い。【真同化】が熱い。より厳密に言うならば──【真同化】に宿る記憶の中の怒りが、悲しみが、悔しさが、やり切れなさが……こびりついたいろんな感情が、奴に向かって燃え上がっている。
そう、そいつは七枚の羽根を持つ、あの――霜点さんの記憶で出会った『羽根持つ男』! ついに、ついにこうして対峙するところまでやってこられた。
「だが、これ以上の侵攻を許すわけにはいかない、この島にいる我が同胞は、この先の世界を統べるために必要な人材だ。今までお前達が倒してきたどうでもいい奴らとは違ってな。だから、最高戦力である我が、お前達を直接叩き潰すために出てきたのだ。そしてこれは、お前達に対する敬意でもある。地上からやってきた最後の戦士に対する敬意だ」
そんなことを言いながら、奴は腕組みをやめて両手を大きく広げた。
地上連合軍の誰もが、奴に対して武器を構えた。こいつを倒せば、やっとこの空での戦いは終わる。こいつを倒せば、地上に悲劇が到来することはない。そして、自分は【真同化】の中にいる霜点さんや皐月さんをはじめとする大勢の人々の仇を討てる。
「さあ、かかってくるがいい。ことごとくをすり潰し、絶望を与え、苦しみの中で殺してやろう」
その言葉に、カチンときたのだろうか? それともタイミングを計っていたのだろうか? 数名の地上連合軍の兵士が飛び出して、有翼人のトップに斬りかかろうとした。
だが、そのとき自分はすさまじい悪寒を感じ、大声で叫んだ。
「ダメだ、地面に伏せろ!」
奴が不可視の障壁を持っているのは分かっている。その障壁を破る必要があるから、自分も弓で攻撃しようとしていた。しかし、それとは全く別の脅威を感じ取ったのだ。【真同化】の世界で攻撃された不可視の剣とも全く違う感覚。
その直感に従って、自分は叫んだのだが──
飛び出した兵士のうち、伏せられたのは身体能力が特に高い獣人の兵士二人のみ。残りは……見えない何かに斬り裂かれて地面に転がった。
かなりの深手だが、治療すればすぐに戦線復帰できる! そう思ったのだが……斬られた兵士達が力を振り絞って立ち上がり、自軍に戻ろうとしたその時──彼らの体が爆発した。血飛沫が舞い、彼らの体が力なく地面に崩れ落ちる。その表情は一様に『なぜこうなったのか理解できない』と訴えていた。
「ほう、今の攻撃はお前達の目には全く見えていないはずだが……それでも気が付いた者がいるか。少しは楽しめるかもしれんな」
有翼人のトップが、自分に対して感心したような目を向ける。それに自分はつい歯ぎしりしてしまう。
こんな早期に警戒されたのはちょっとマズい。今まで一回も使わず温存しておいた【真同化】独自の特殊アーツ《霜点》を振るうまでは、ノーマークでいたかったのに。
「い、いかん! 早く彼らを治療──」
指揮官がそう指示を飛ばすが……崩れ落ちた兵士達の体はさらさらと崩れ落ちていく。
まさか、これはかつてエルがやられたのと同様の性質を持つ攻撃か!?
こちらの世界の住人は、やられてしまっても五分が過ぎる前に蘇生薬を与えられれば、普通は復活できる。しかし、エルはそんな時間を与えられることなく即座に死亡した。そう、ハイエルフの攻撃によって……
それと同じ性質の攻撃を、なぜこいつが使うことができる? ──いや、多分順番が逆なんだ! あのときのハイエルフが使った攻撃は、こいつら有翼人の攻撃を模倣したか、もしくは教わったもの。そう考えたほうが納得がいく。
「悪いが、倒しても倒してもその都度復活されてしまっては、こちらとしても面倒でね。我が武器によって命が尽きれば、即座にこの世界から退場してもらうことになる。それでも戦えるかね? 地上の戦士達よ」
マズい、奴の雰囲気に全体が呑まれる。指揮官もその空気を感じ取ったようで、全員に遠距離攻撃を指示した。
魔法と矢とドラゴンブレスが、有翼人のトップに向かっていくつも飛んでいく。自分もスーツの各種兵装を使って攻撃を仕掛ける。だが、自分も含めてこの場に集った地上連合軍の誰の遠距離攻撃も、奴の不可視の障壁を突き破ることができなかった。正直、ここまで堅いとは思わなかった。
「まあまあの攻撃だな。確かにこれだけの攻撃力があるならば、各島に派遣しておいた戦力がやられたのも納得がいくというものよ。では、次はこちらの番だな。さあ、耐えて見せよ」
その有翼人のトップの言葉の後に、奴の頭の一メートルほど上に、紫電を放つ球体が生まれた。
あれは……マズい。大きさこそ半径二メートル程度だが、すさまじいエネルギーの塊だ。あれを何の対策もせずにもろに受けたら、ここにいるほとんどの連中が一瞬で吹っ飛ぶぞ!?
「障壁展開! ドラゴンの皆はブレスで少しでも相殺を! 残りは全力で障壁の維持に努めろ! 来るぞ!!」
指揮官の言葉と各自の行動のどちらが早かったか。あっという間に複数の障壁が展開し、ドラゴン達は再びブレスを吐く態勢に入った。
その様子を見て、有翼人のトップはにやりと笑ったかと思うと、頭上の球体をこちらに向けて放ってきた。球体は進むと共に大きさを増し、あっという間にこちらを呑み込むほどのサイズになる。
ぎりぎりまで引きつけてから、全ドラゴンがブレスを放った。障壁もより強固になった。
だが、それだけ防御力を高めても嫌なイメージが拭えなかった自分は、最前面まで出ていき、スーツのシールドを全力で起動させた。
その数秒後、紫電を纏った球体は迎え撃ったドラゴンのブレスをものともせずに障壁に接触し、世界は光に包まれ……音が消えた。
──どれぐらいの時間が経ったのか。それともほんの数秒だったのか? 軽く失神をしていたらしい自分が目を覚ますと、目に入ってきたのはスーツが訴える各種警告だった。
『――オプションとして連れてきていた飛行ユニットは全滅。両腕のガトリングも使用不可能。右肩のキャノンは再使用可能になるまで長い時間がかかる。装甲は全体の七五%が吹き飛んだ。シールドシステムはオーバーヒート、こちらも再起動まで時間かかかる。おおよそ戦闘力は六九%低下した。だがその代わり、何とか、何とかあの球体が引き起こした大爆発の大部分を抑え込めた。後ろにいた人々は完全に守り切ったぞ』
瞬間的な大ダメージによって、スーツのあちこちが動かなくなったか回復に時間がかかる状態にされた。ここまで愛用してたガトリングは完全に不能。キャノンもおそらくこの戦いがよっぽど長引かない限りは使用できないだろう。ライフルは吹き飛ばされてしまったようでロスト。現時点でまともに使える武器は、左肩のレーザーとブレードだけだ。
(まだ、まだ戦いは始まったばかりなんだぞ!? それだってのにスーツの機能がここまでズタボロに……だが、このスーツがなければ……地上連合軍の全員が吹っ飛んでいたんだろうな。あれだけの障壁を張って、ドラゴンのみんながあれだけブレスを吐いて相殺していたはずなのに、この損害……が、これだけの一撃、そうたやすく連射はできないと願いたい。次撃たれたら、もはや全滅しかねない!)
──少し時間が経って、耳も機能を取り戻してきた。その耳が最初に捉えたのは、拍手の音だった。
「よいぞ、よいぞ。よく耐え忍んだ。面白くなってきたぞ。我に歯向かってくる最後の愚か者達は骨がありそうだ。そうでなければわざわざ姿を見せた甲斐がない。我がこうして自ら戦うのはこれが最後となる、だからもうしばしあがいてくれよ? 簡単に潰れてしまってはつまらんからな」
あれだけの攻撃を放っても消耗など全くないようで、有翼人のトップは余裕たっぷりだ。やはり、《霜点》で奴の不可視の障壁ごと叩き伏せるしかない!
しかし、まだどこで使えばいいかのタイミングが掴めない。一回使うごとに自分の命を削る大技だから、確実に決めないといけない。使い勝手の悪い諸刃の剣だが、これしか手段が思い浮かばない。
そう考えていると、【真同化】から懐かしい声が聞こえてきた。この声は──
(ついに時は来た。今こそ我が名を冠した技、《霜点》を振るうのだ。いいか、よく聞け。この剣に集った多くの者達のあらゆる力を今、剣に注いでいる。その力で、お前の肉体にかかる多大な負担を軽減させる。だが、それも三回までだ。いいか、その三回で決着をつけろ!)
(接近するところまでは貴方にお頼みします。接近した後、太刀を振るう力は私達が受け持ちます! しかし兄の言う通り、これは三回が限度です。必ずその三回のうちに決着をつけてください! 私達の無念を晴らすための力を、全て貴方に託します! お願いします、こんな悲しみを生み出し続ける愚か者を、他の誰でもないあなたが持つ人の力をもって誅してください!!)
霜点さんと皐月さん、あの兄妹の声だ。
やはりあいつにダメージを与えるには《霜点》しかない! 一回ダメージを与えれば、奴も今のような余裕を保つことはできないだろう。そうなればきっとどこかで大きなミスをする。そしてそのミスに付け込めれば、こちらにも勝ちの目がある。
(よし、ならば少々強引にでも、スーツの力を使って切り込もう。装甲は剥ぎ取られたし武器もほとんどが使えなくなったが、機動力は死んでない! ならまだまだやれる!)
右手を強く握りしめ、気合を入れ直す。
見ていろ、その余裕たっぷりの顔を引きつらせてみせるぞ……
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