196 / 748
13巻
13-3
しおりを挟む
「ラウガは議員としての仕事をこなしつつ、一方では色々な薬を取り寄せたり、複数の薬師に薬を作らせたりということをし始めやした。表向きは病気で苦しむ者に、安くて効果の高い薬を提供したいと発表しており、ラウガが時間をかけて積み重ねた信頼の高さもありやして、疑いを持たれることはなかったようで……」
何とも……静かな狂気は気が付かれないものだからな。それでラウガの行為に妨害が入らずに進むことになってしまったのか。
「薬も過ぎれば毒となる、と言いやす。その言葉通り、ラウガは取り寄せた薬や薬師に作らせた新しい薬を自分の考えの元に混ぜ合わせて、それぞれは薬でありながら、組み合わせると猛毒になるものの開発に自らのめり込み始めやした。そしてつい最近のことですがね、素人の偶然と執念が重なった結果……とうとう『意図的に血華病を引き起こすことができる』薬を完成させてしまいやした」
なんだと!? 自分はついがたっと椅子から立ち上がって、リーダーを半ば睨めつけるように凝視する。
「──親分、残念ながらこれは事実でありやす。あっしらでラウガ周辺を探った結果、間違いなしということがはっきりしたからこそ報告しているんで。ラウガの狂気を止めようとも試みたんでやすがね、ラウガの護衛とやりあう羽目になっちまいやして……部下が怪我しているのはそれが原因なんでさ……誠に申し訳ねえです」
リーダーが頭を下げる姿を見て、自分は無言で椅子に座り直す。
少し考えた後、確認すべきことを聞くために口を開いた。
「確認しておきたい。ラウガはその薬をいつごろ使うのか、予想は立てられるか? もう使うのか、より改良するのか。もう一つは、その『意図的に血華病を引き起こす毒薬』がばら撒かれたら、この街はどうなる?」
自分の質問に、リーダーはしばし考え……返答を始めた。
「薬は近く使われることになると、あっしは見ておりやす。実はラウガは、もうじき老いを理由として議員を辞職すると発表しておりやす。自分に残された時間がほぼないことから、死なばもろともで薬をばら撒く可能性は否定できやせん。そしてもう一つの質問の答えですがね……この南街に住む獣人が全滅してもおかしくねえなと思いやす。ラウガが作り上げてしまったその毒は、今ある血華病の薬では治せないほどの強さを持っていると、部下からの報告にありやす。ラウガ自身は、詐欺で得た資金で大きくなった店の中か、その周りで毒薬を解放するつもりかもしれませんがね……これらの店はほどほどに離れておりやして、全てにばら撒かれたら……この南街全体に血華病が蔓延しやす」
これはもう、義賊が解決できる範疇をとっくに超えている。だが、それでも動かねばならない。
この世界の住人は一度死んだらそれっきりだ。このまま状況が進めば、エルのときのような悲劇が、もっと大規模な形で確実に起きる。のんびりと世間話をしていたあの人達が、元気に走り回っている子供が、みんな死ぬ。
──ソレハダメダ──それはダメだ。
「満足に動けるメンツは少ないが、それでもやるしかないな。この街を、病気が吹き荒れる死の街にするわけにはいかん。それに、ラウガに大悪党の烙印が押されれば、亡くなった奴の家族が悲しむだろう。状況がかなり厳しいのは承知しているが、やるぞ」
自分がそう言うと、リーダーをはじめとした部下達が一斉に頷いた。唐突に降って湧いた話だが、それでも放置してはおけない。
「そして親分、ここから良い話に繋がるんですがね……北の街に住む、獣人連合の隠密に当たる精鋭が、あっしらの届けた話を信用してくださって、一緒に動いてくれるという約束を結んだんですよ」
「それは本当か? むろんお前の報告を疑っているわけではないが、我々は『義』を名乗ってはいるとはいえ、『賊』の一部であることに違いはない。そんな我々に、国の直属部隊である集団が協力してくれる、と?」
今回の話はかなり大きくなってしまっているから、援軍を得られるというのであれば心強いが。
自分の確認に、リーダーは頷いて答える。
「へい、間違いなく約定を取り付けてありやす。向こうにとっても、この一件は何としてでも阻止せにゃならんことでさ。これが証拠となりやす……どうか直接検めてくだせえ」
そうしてリーダーが自分にさし出してきたものは、一通の手紙だった。内容を確認すると、こう書かれていた。
『今回の騒動について、我々よりも詳しく証拠を揃えた上で情報提供を行ってくれた義賊の一団に、まずは感謝を。ぎりぎりの情勢ではあるが、南街全体に血華病が広がり住人が死滅するような事態を回避できる可能性がまだある。我ら北街隠蔽兵も、はっきりとした証拠が掴めたために行動を開始することができた。一度そちらと合流し、こちらの援軍と共に話し合いを行いたい。よろしく頼む──北街隠蔽兵代表カリーネ』
(──この手紙の名前の下にある拇印はインクとかではないな、もしかすると血判か。どのみち、部下に多数の負傷者がいる以上、こちらだけではどうしようもない。会いに行くしかないだろうな……それに、北街の隠蔽兵とやらのほうも援軍を連れてきているようだし……)
手紙をアイテムボックスの中にしまい、最終確認に入る。
「この手紙の主に会うことにしよう。行くのは自分とリーダーだけで良いだろう。他の者は養生し、傷の程度が軽い者は実戦までに回復を間に合わせろ。深手を負っている者は養生に専念しろ、同行は認めない」
話し合いの時間をリーダーに確認すると、大体明日の二一時二〇分頃であると判明。明日は幸い残業はないから、大丈夫だな……
明日また来るようにとリーダーに申し付けて、この日はログアウトした。
4
翌日の夜。再び「ワンモア」にログインすると、こっちの世界も夜中だった。
そしてベッドから抜け出して装備を整えている自分の前に、手下の小人リーダーが天井裏から降りてきた。
「親分、準備はよろしいですかい? 今から向かえばちょうどいい頃合いでさ。お召し物は用意させていただきやした」
今回は鼠色の外套か。早速普段使っている外套を外して、リーダーが持ってきた外套を装備する。
(では向かいやす)
自分とリーダーはできる限り気配を消して、夜の街を駆ける。もっとも、お店が多いエリア以外は静かなものだったが……
しばらくして、リーダーが無言で、ある一軒家を指差した。どうやらそこが話し合いの場となるらしい。《危険察知》などで周りに妙な気配がないことを確認してから、その家に音を立てずに入り込む。
建物の中には、狐の女性獣人や覆面をした忍者っぽい男性、頭と目を隠すマスクを装着している男性などがいた。狐の獣人は「ワンモア」世界の住人で間違いないが、忍者やマスクの人は……プレイヤーか? こっちの世界の人ではないっぽい雰囲気を感じる。
「おお、義賊の頭もやってきたか。全員が予定時刻より早く集まるとはすばらしい。義賊の頭よ、私が手紙を出させてもらったカリーネだ。ここにやってきてくれたことに感謝する」
北街隠蔽兵とやらの代表者は、この狐の女性獣人か──美人ではあるが、深くお付き合いしたいとは思えないタイプだな。まるで、触れただけで猛毒に侵されて死に至る美しい花のような感じがする。
とりあえず自分は、カリーネに軽く会釈をする。その直後、マスクをしている男が近寄ってきて自分に耳打ちをした。
(カリーネに惚れないほうが良いぜ、こいつはとんでもない毒を持っているからよ)
その耳打ちに、自分はつい頷きそうになるが、ぐっとこらえた。カリーネから殺気が突き付けられたからだ。厳密には自分にではなく、マスクの男性に向けてだったが……
「ほほう、怪盗よ。その件については後でじっくりと話し合おうではないか──だが今は、目の前のことに集中させてもらうぞ。今やってきた義賊の頭にも理解しやすいように、もう一度繰り返す。この南街にて、議員でありながら大量殺戮を企てていると判断された男を、できるだけ早くに捕縛、最悪始末して、毒がばら撒かれることを阻止するのが今回の目的だ。怪盗の情報、忍者の探索でもある程度の情報は得られていたが、確実な情報を我々にもたらしてくれたのは、彼ら義賊の一団の手柄だ」
ちなみに、ずっと後で知ったことだが、〈義賊〉も色々なスキルに派生するらしい。自分のように「ワンモア」の世界と関わりが深いと〈義賊頭〉に。隠蔽能力を高く鍛えた上で盗みの成功率が高く、その力で人々に悪事を働いていなければ〈怪盗〉に。体術や剣術、投擲技術が高いと〈忍者〉に――といった風に。
「なるほど、そのちんまい体を侮ってはならぬ、ということでござるな」
覆面に忍び装束と、いかにも『忍者ロールプレイ』をやっていますとひと目で分かる男性がそう口を開く。もちろん口元は覆面で隠されているので、顔はあまり分からない。
「ちっ、情報屋にもっとしっかりしろと蹴りを入れとかなきゃいけねえな」
マスクを被った男性が言う。こちらが怪盗か。
忍者や怪盗は名乗らなかった。となれば、お互いの詮索をしないようにしようという暗黙の了解があるとみていいな。忍者にしろ怪盗にしろ、普段は全く違う姿でいるんだろうし。木を隠すには森の中、人に紛れるには普段着が一番いい。忍者ルックや怪盗マスクなんて人前で着けていたら目立ってしまう。
「さて、情報が揃ったところで、後はどのような行動を起こすかだが……言うまでもなく最終目的は、対象者の一刻も早い捕縛と、毒薬を回収して安全に廃棄するという二点だ。我々北街隠蔽兵は精鋭五〇人を今回の作戦に投入する。隠蔽に優れるだけでなく、戦闘能力も高い者を抜擢した。だが、それでも不安要素の多さは否めない。そこで、怪盗、忍者、義賊の頭、汝ら三名に対して正式に協力を要請したい」
カリーネのこの言葉に最初に頷いたのは自分だ。もとよりラウガの行為を止めるつもりでここに来たのだから、断る理由がない。
「感謝する、義賊の頭よ。他の二人はどうだ?」
ややあって、忍者に怪盗も頷いて肯定の意思を示す。
「拙者が頭領に確認を取ったところ、この一件には解決するまで協力すべしとのことでござる。また、更に援軍として数名をこちらに寄こしてくれるそうでござる」
「さすがに今回の話は放っておけねえよな。怪盗としての仕事をさせてもらうぜ」
忍者と怪盗の返答を聞いたカリーネは、一瞬ではあったが、ホッとした表情を浮かべる。
「協力に感謝する。作戦では、大まかに三班に分かれる予定だ。作戦実行日に強襲をかけて注意をひく陽動チーム。対象の男……ラウガを捕らえる、もしくは抹消する捕縛チーム。猛毒を回収し、ばら撒かれる悪夢を回避する回収チームの三つだ。私の計画では、義賊は陽動に、忍者は捕縛に、怪盗は回収に加わってもらおうと考えていたが……どうだろうか? 意見があれば述べてもらいたい」
カリーネの話を聞いてしばし考えたが……義賊のメンバーは、戦闘能力に特化してはいない。盗みの能力はそれなりだが、怪盗よりかはランクが落ちるだろう。そうなると、消去法で陽動チームしか居場所がないか……リーダーに目で確認を取ると、考えていたことは同じのようだ。
リーダーは頷いて口を開く。
「お頭は、陽動チームで良いと言っとりやす」
忍者や怪盗側からもこれといった意見は出ず、作戦を詰めていく話し合いがログアウトの時間まで続いた。決行は、リアル時間の明日二二時半と決定した……ラウガの凶行を止めるために、失敗はできないな。
翌日。リアルの仕事が忙しい時期ではないので、会社に明日の有給休暇を申請したところ、あっさりと受理された。むしろもっと積極的に消化しなさい、と上司に言われてしまった。
とにかくこれで、今夜夜更かしをしても問題ない。
その後はきっちりと仕事をこなして定時で上がる。今日は長い戦いになりそうなので、休暇が取れて良かった。
「ワンモア」にログインしたら、【レアポーション】などの回復アイテムや【強化オイル】を製作しておく。持てる量ぎりぎりまで生産を行ったおかげで〈上級薬剤〉スキルのレベルがずいぶん上昇した。
のんびりと休憩して消費したマジックパワーを回復させた後、義賊の子分と宿屋の部屋の中で合流してから集合場所へと向かう。合流した子分の人数は八人にとどまった。残りは負傷を完治させることができなかったようだ……
が、今回の仕事はなかなか厳しい内容だ。中途半端な状態ならば来ないほうがいい。
「親分、今回はとてもじゃねえですがひと筋縄じゃいきやせんね。ラウガの野郎を守っているのは間違いなく、獣人連合における正規の護衛でやした……あっしらが戦ったときの情報ももちろん今回の協力者全員に伝えてありやすがね……最悪、今回の戦いでは相手を皆殺しせざるを得ない展開になる可能性があることは否定できやせん」
そんなことを、リーダーが自分にだけ聞こえる声で伝えてくる。嫌な話だが、大事なことだ。
躊躇して作戦を失敗すれば、ラウガはほぼ間違いなく毒薬をばら撒くだろう。そうなってしまえばもう、南街に『血華病』が蔓延し、住民が倒れていく姿を見ていることしかできなくなる。
今は百を助けるために一を切り捨てるしかない状況、というわけか。残酷だが、この南街を崩壊させるわけにはいかないから、最悪の状況になった場合はそれもやむを得ない。
「無用な殺生はもちろんしたくないが、だからといって狂気に走る者を放置できん……ラウガの憎しみは分からんでもない。しかし、その矛先が明らかにおかしい方向に向かっているからな……」
狂った矛先に、関係ない人々の血をつけるわけにはいかない。ラウガをはじめ、相手を捕縛することが難しいのであれば、討つしかない。そんな結末を迎えたくはないが、可能性がある以上は覚悟しておかなければいけないだろう。
そんな暗い結末について考えながら合流地点に到着すると、すでにそこには大半のメンバーが揃っていた。皆、作戦開始前の最終チェックに余念がない様子だ。
「来たでござるな。今日はよろしく頼むでござる」
到着した自分に声をかけてきたのは、昨日の忍者だ。その後ろには、忍び装束を着た男女が数人いる。おそらくそれが、昨日言っていた援軍なのだろう。
「こちらこそよろしくお願いしやす。失礼ながら親分は人前では声を出さないようにしておりやすので、昨日に引き続きあっしが代理で喋らせていただきやす。どうかご理解くだせえ」
リーダーが自分の代わりに挨拶をしてくれる。忍者が、そうなのでござるか? と質問するようなまなざしを向けてきたので、そっと頷いておく。頼りになる部下がいるからこそできる芸当だな。
「昨日はそんな外套を被っている上にひと言も喋らなかった故、何かあるとは思っていたでござるが、徹底しているでござるな。了解でござる。それと、ひとまず今回の作戦を行っているカリーネ殿に挨拶をしてきたほうが良いでござる」
忠告してくれた忍者に頭を下げてから、カリーネさんのもとに向かう。居場所は忍者が教えてくれたので、すぐに見つかった。
「おお、義賊の頭も時間前に集合してくれたか。先の打ち合わせ通り、汝ら義賊の一団には陽動を頼むことになる。異論はないな?」
カリーネさんからの最終確認に、自分は頷く。動かせる手下も八人しかいなくなってしまったが、陽動ならば直接剣を交えて戦う必要はなく、一歩引いたところで敵を引っ掻き回せばいい。とにかく自分達は、怪盗が毒薬を盗み、忍者達がラウガを確保するまで、なるべく多くの敵を引き付けて他のチームに邪魔が入る確率を少しでも下げるのが目的となる。
「すまねえが、カリーネの姐さんに質問でさ。ラウガが住んでいるのは議員専用の邸宅でやすが、陽動時にはどれぐらいまでなら家にある物を破壊しても目をつぶってくださるんで?」
ああ、そうか。今回はどうしても破壊は起こるからな。その辺を確認しておかないといけないか。
「そのことだが……ラウガの確保か殺害、毒薬の確保さえ成れば、全てにおいて目をつぶる。極端な話、邸宅が全壊してしまったとしても、目的さえ達成されるなら問題はない。そんなことよりも作戦の成功が最優先だからな」
それなら最初から邸宅ごとぶっ壊せばいいじゃないか……という考えは早計だ。そんなことをしたら、毒薬が入っている容器も割れてしまう。幸運にも割れなかったとしても、回収はかなり難しくなるだろう。とにかく、毒がばら撒かれてしまったり、ラウガに逃げられてしまって毒薬を別の所で作り出されてしまったりしたら、こちらの負けだ。ここで確実にラウガの狂気を止めなければならない。
「分かりやした。あっしらにできる限りのことはさせていただきやす」
リーダーと共にカリーネさんに頭を下げて、いったんその場から離れる。あとは全体の準備が整って作戦開始時間が来るのを待つだけだ。
で、作戦開始までもう少しというところで怪盗があわただしく到着。カリーネさんから、もう少し時間に余裕を持って来い、だから貴様は……などとお仕置きをされていた。なんだかなぁ……
そんなコミカル(?)なやり取りも少しだけあったが、さすがに作戦実行の時が迫って来ると、緊張感のある雰囲気が漂い出す。
各自の準備も完了したところで、自分達はついに行動を開始した。
複数の班に分かれ、少人数ずつで目的地であるラウガの邸宅を静かに目指す。
今回の作戦に参加するメンバーはそれぞれ決められた場所で待機し、カリーネさんの合図を待つ。
作戦開始の指示は、移動開始前に配られた赤いビー玉みたいなもので伝えられることになっていた。このビー玉もどきが割れたら作戦開始ということらしい。
そして数分後、ついに自分の手元にあったビー玉もどきが割れた。その直後、まず動いたのは怪盗チーム。一番奥まで潜り込んで毒薬を盗んでこなければならない怪盗チームは、ラウガのいる議員邸宅の中にするするっと潜り込んだ。
その少し後に動いたのが忍者チーム。こちらも、怪盗チームほどではないにしろ、ラウガの寝室がある奥まで向かわねばならない。
忍者チームが議員邸宅の中に潜り込んでから一〇分後に、陽動チームが議員邸宅の前で騒ぎを起こし、邸宅の護衛者達をおびき寄せて足止めする手はずとなっている。
そして時間が経ち……いよいよ自分達の出番がやってきた。わざと陽動チーム全員で足音を立てて議員邸宅に近寄る。当然、そんな多人数の足音を聞いた護衛者達は、いったい何事だとばかりに玄関前へと集まってくる。
「貴様ら、こんな深夜に何をしに来た! ここは獣人連合南区の議員様がお休みになられている邸宅だぞ! それを知ってのことか!?」
護衛者の一人がそう叫ぶが……覆面をつけたカリーネさんと思われる女性が容赦なく、これが答えだとばかりに無言で剣を振り下ろす。
その攻撃を、護衛者はとっさに盾を構えて受け止めた。すぐさま後ろに飛び跳ね、距離を取るカリーネさん。
「貴様! 貴様らの考えはよく分かった! 総員、こいつらを一人残らず切り伏せろ! 議員様を殺しに来た賊どもだ! 議員様の近くで護衛している連中にも、すぐに敵襲だと伝えろ!」
すでにそれなりの人数が集まりつつあった護衛者達だが、更に家の色々な場所から出て来る出て来る……何人いるんだ、というか、どうやってそんな人数が隠れていたのだと突っ込みたくなった。
「緊急時故、隠し門の使用を許可する! この賊集団を絶対に逃がすな!!」
更に、最初に声を上げた護衛者……おそらくは隊長格がそう声を張り上げる。その直後、壁などからゴゴゴゴッと音が響いたと同時に、隠されていた複数の出入口が開放され、そこから護衛者達がこちらに向かってきた。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv29 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv38 〈百里眼〉Lv28 〈技量の指〉Lv33 〈小盾〉Lv28 〈隠蔽・改〉Lv2 〈武術身体能力強化〉Lv66 〈スネークソード〉Lv49 〈義賊頭〉Lv26 〈妖精招来〉Lv12(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv4
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv1 〈上級薬剤〉Lv26(←3UP) 〈釣り〉(LOST!) 〈料理の経験者〉Lv17 〈鍛冶の経験者〉Lv28 〈人魚泳法〉Lv9
ExP37
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
何とも……静かな狂気は気が付かれないものだからな。それでラウガの行為に妨害が入らずに進むことになってしまったのか。
「薬も過ぎれば毒となる、と言いやす。その言葉通り、ラウガは取り寄せた薬や薬師に作らせた新しい薬を自分の考えの元に混ぜ合わせて、それぞれは薬でありながら、組み合わせると猛毒になるものの開発に自らのめり込み始めやした。そしてつい最近のことですがね、素人の偶然と執念が重なった結果……とうとう『意図的に血華病を引き起こすことができる』薬を完成させてしまいやした」
なんだと!? 自分はついがたっと椅子から立ち上がって、リーダーを半ば睨めつけるように凝視する。
「──親分、残念ながらこれは事実でありやす。あっしらでラウガ周辺を探った結果、間違いなしということがはっきりしたからこそ報告しているんで。ラウガの狂気を止めようとも試みたんでやすがね、ラウガの護衛とやりあう羽目になっちまいやして……部下が怪我しているのはそれが原因なんでさ……誠に申し訳ねえです」
リーダーが頭を下げる姿を見て、自分は無言で椅子に座り直す。
少し考えた後、確認すべきことを聞くために口を開いた。
「確認しておきたい。ラウガはその薬をいつごろ使うのか、予想は立てられるか? もう使うのか、より改良するのか。もう一つは、その『意図的に血華病を引き起こす毒薬』がばら撒かれたら、この街はどうなる?」
自分の質問に、リーダーはしばし考え……返答を始めた。
「薬は近く使われることになると、あっしは見ておりやす。実はラウガは、もうじき老いを理由として議員を辞職すると発表しておりやす。自分に残された時間がほぼないことから、死なばもろともで薬をばら撒く可能性は否定できやせん。そしてもう一つの質問の答えですがね……この南街に住む獣人が全滅してもおかしくねえなと思いやす。ラウガが作り上げてしまったその毒は、今ある血華病の薬では治せないほどの強さを持っていると、部下からの報告にありやす。ラウガ自身は、詐欺で得た資金で大きくなった店の中か、その周りで毒薬を解放するつもりかもしれませんがね……これらの店はほどほどに離れておりやして、全てにばら撒かれたら……この南街全体に血華病が蔓延しやす」
これはもう、義賊が解決できる範疇をとっくに超えている。だが、それでも動かねばならない。
この世界の住人は一度死んだらそれっきりだ。このまま状況が進めば、エルのときのような悲劇が、もっと大規模な形で確実に起きる。のんびりと世間話をしていたあの人達が、元気に走り回っている子供が、みんな死ぬ。
──ソレハダメダ──それはダメだ。
「満足に動けるメンツは少ないが、それでもやるしかないな。この街を、病気が吹き荒れる死の街にするわけにはいかん。それに、ラウガに大悪党の烙印が押されれば、亡くなった奴の家族が悲しむだろう。状況がかなり厳しいのは承知しているが、やるぞ」
自分がそう言うと、リーダーをはじめとした部下達が一斉に頷いた。唐突に降って湧いた話だが、それでも放置してはおけない。
「そして親分、ここから良い話に繋がるんですがね……北の街に住む、獣人連合の隠密に当たる精鋭が、あっしらの届けた話を信用してくださって、一緒に動いてくれるという約束を結んだんですよ」
「それは本当か? むろんお前の報告を疑っているわけではないが、我々は『義』を名乗ってはいるとはいえ、『賊』の一部であることに違いはない。そんな我々に、国の直属部隊である集団が協力してくれる、と?」
今回の話はかなり大きくなってしまっているから、援軍を得られるというのであれば心強いが。
自分の確認に、リーダーは頷いて答える。
「へい、間違いなく約定を取り付けてありやす。向こうにとっても、この一件は何としてでも阻止せにゃならんことでさ。これが証拠となりやす……どうか直接検めてくだせえ」
そうしてリーダーが自分にさし出してきたものは、一通の手紙だった。内容を確認すると、こう書かれていた。
『今回の騒動について、我々よりも詳しく証拠を揃えた上で情報提供を行ってくれた義賊の一団に、まずは感謝を。ぎりぎりの情勢ではあるが、南街全体に血華病が広がり住人が死滅するような事態を回避できる可能性がまだある。我ら北街隠蔽兵も、はっきりとした証拠が掴めたために行動を開始することができた。一度そちらと合流し、こちらの援軍と共に話し合いを行いたい。よろしく頼む──北街隠蔽兵代表カリーネ』
(──この手紙の名前の下にある拇印はインクとかではないな、もしかすると血判か。どのみち、部下に多数の負傷者がいる以上、こちらだけではどうしようもない。会いに行くしかないだろうな……それに、北街の隠蔽兵とやらのほうも援軍を連れてきているようだし……)
手紙をアイテムボックスの中にしまい、最終確認に入る。
「この手紙の主に会うことにしよう。行くのは自分とリーダーだけで良いだろう。他の者は養生し、傷の程度が軽い者は実戦までに回復を間に合わせろ。深手を負っている者は養生に専念しろ、同行は認めない」
話し合いの時間をリーダーに確認すると、大体明日の二一時二〇分頃であると判明。明日は幸い残業はないから、大丈夫だな……
明日また来るようにとリーダーに申し付けて、この日はログアウトした。
4
翌日の夜。再び「ワンモア」にログインすると、こっちの世界も夜中だった。
そしてベッドから抜け出して装備を整えている自分の前に、手下の小人リーダーが天井裏から降りてきた。
「親分、準備はよろしいですかい? 今から向かえばちょうどいい頃合いでさ。お召し物は用意させていただきやした」
今回は鼠色の外套か。早速普段使っている外套を外して、リーダーが持ってきた外套を装備する。
(では向かいやす)
自分とリーダーはできる限り気配を消して、夜の街を駆ける。もっとも、お店が多いエリア以外は静かなものだったが……
しばらくして、リーダーが無言で、ある一軒家を指差した。どうやらそこが話し合いの場となるらしい。《危険察知》などで周りに妙な気配がないことを確認してから、その家に音を立てずに入り込む。
建物の中には、狐の女性獣人や覆面をした忍者っぽい男性、頭と目を隠すマスクを装着している男性などがいた。狐の獣人は「ワンモア」世界の住人で間違いないが、忍者やマスクの人は……プレイヤーか? こっちの世界の人ではないっぽい雰囲気を感じる。
「おお、義賊の頭もやってきたか。全員が予定時刻より早く集まるとはすばらしい。義賊の頭よ、私が手紙を出させてもらったカリーネだ。ここにやってきてくれたことに感謝する」
北街隠蔽兵とやらの代表者は、この狐の女性獣人か──美人ではあるが、深くお付き合いしたいとは思えないタイプだな。まるで、触れただけで猛毒に侵されて死に至る美しい花のような感じがする。
とりあえず自分は、カリーネに軽く会釈をする。その直後、マスクをしている男が近寄ってきて自分に耳打ちをした。
(カリーネに惚れないほうが良いぜ、こいつはとんでもない毒を持っているからよ)
その耳打ちに、自分はつい頷きそうになるが、ぐっとこらえた。カリーネから殺気が突き付けられたからだ。厳密には自分にではなく、マスクの男性に向けてだったが……
「ほほう、怪盗よ。その件については後でじっくりと話し合おうではないか──だが今は、目の前のことに集中させてもらうぞ。今やってきた義賊の頭にも理解しやすいように、もう一度繰り返す。この南街にて、議員でありながら大量殺戮を企てていると判断された男を、できるだけ早くに捕縛、最悪始末して、毒がばら撒かれることを阻止するのが今回の目的だ。怪盗の情報、忍者の探索でもある程度の情報は得られていたが、確実な情報を我々にもたらしてくれたのは、彼ら義賊の一団の手柄だ」
ちなみに、ずっと後で知ったことだが、〈義賊〉も色々なスキルに派生するらしい。自分のように「ワンモア」の世界と関わりが深いと〈義賊頭〉に。隠蔽能力を高く鍛えた上で盗みの成功率が高く、その力で人々に悪事を働いていなければ〈怪盗〉に。体術や剣術、投擲技術が高いと〈忍者〉に――といった風に。
「なるほど、そのちんまい体を侮ってはならぬ、ということでござるな」
覆面に忍び装束と、いかにも『忍者ロールプレイ』をやっていますとひと目で分かる男性がそう口を開く。もちろん口元は覆面で隠されているので、顔はあまり分からない。
「ちっ、情報屋にもっとしっかりしろと蹴りを入れとかなきゃいけねえな」
マスクを被った男性が言う。こちらが怪盗か。
忍者や怪盗は名乗らなかった。となれば、お互いの詮索をしないようにしようという暗黙の了解があるとみていいな。忍者にしろ怪盗にしろ、普段は全く違う姿でいるんだろうし。木を隠すには森の中、人に紛れるには普段着が一番いい。忍者ルックや怪盗マスクなんて人前で着けていたら目立ってしまう。
「さて、情報が揃ったところで、後はどのような行動を起こすかだが……言うまでもなく最終目的は、対象者の一刻も早い捕縛と、毒薬を回収して安全に廃棄するという二点だ。我々北街隠蔽兵は精鋭五〇人を今回の作戦に投入する。隠蔽に優れるだけでなく、戦闘能力も高い者を抜擢した。だが、それでも不安要素の多さは否めない。そこで、怪盗、忍者、義賊の頭、汝ら三名に対して正式に協力を要請したい」
カリーネのこの言葉に最初に頷いたのは自分だ。もとよりラウガの行為を止めるつもりでここに来たのだから、断る理由がない。
「感謝する、義賊の頭よ。他の二人はどうだ?」
ややあって、忍者に怪盗も頷いて肯定の意思を示す。
「拙者が頭領に確認を取ったところ、この一件には解決するまで協力すべしとのことでござる。また、更に援軍として数名をこちらに寄こしてくれるそうでござる」
「さすがに今回の話は放っておけねえよな。怪盗としての仕事をさせてもらうぜ」
忍者と怪盗の返答を聞いたカリーネは、一瞬ではあったが、ホッとした表情を浮かべる。
「協力に感謝する。作戦では、大まかに三班に分かれる予定だ。作戦実行日に強襲をかけて注意をひく陽動チーム。対象の男……ラウガを捕らえる、もしくは抹消する捕縛チーム。猛毒を回収し、ばら撒かれる悪夢を回避する回収チームの三つだ。私の計画では、義賊は陽動に、忍者は捕縛に、怪盗は回収に加わってもらおうと考えていたが……どうだろうか? 意見があれば述べてもらいたい」
カリーネの話を聞いてしばし考えたが……義賊のメンバーは、戦闘能力に特化してはいない。盗みの能力はそれなりだが、怪盗よりかはランクが落ちるだろう。そうなると、消去法で陽動チームしか居場所がないか……リーダーに目で確認を取ると、考えていたことは同じのようだ。
リーダーは頷いて口を開く。
「お頭は、陽動チームで良いと言っとりやす」
忍者や怪盗側からもこれといった意見は出ず、作戦を詰めていく話し合いがログアウトの時間まで続いた。決行は、リアル時間の明日二二時半と決定した……ラウガの凶行を止めるために、失敗はできないな。
翌日。リアルの仕事が忙しい時期ではないので、会社に明日の有給休暇を申請したところ、あっさりと受理された。むしろもっと積極的に消化しなさい、と上司に言われてしまった。
とにかくこれで、今夜夜更かしをしても問題ない。
その後はきっちりと仕事をこなして定時で上がる。今日は長い戦いになりそうなので、休暇が取れて良かった。
「ワンモア」にログインしたら、【レアポーション】などの回復アイテムや【強化オイル】を製作しておく。持てる量ぎりぎりまで生産を行ったおかげで〈上級薬剤〉スキルのレベルがずいぶん上昇した。
のんびりと休憩して消費したマジックパワーを回復させた後、義賊の子分と宿屋の部屋の中で合流してから集合場所へと向かう。合流した子分の人数は八人にとどまった。残りは負傷を完治させることができなかったようだ……
が、今回の仕事はなかなか厳しい内容だ。中途半端な状態ならば来ないほうがいい。
「親分、今回はとてもじゃねえですがひと筋縄じゃいきやせんね。ラウガの野郎を守っているのは間違いなく、獣人連合における正規の護衛でやした……あっしらが戦ったときの情報ももちろん今回の協力者全員に伝えてありやすがね……最悪、今回の戦いでは相手を皆殺しせざるを得ない展開になる可能性があることは否定できやせん」
そんなことを、リーダーが自分にだけ聞こえる声で伝えてくる。嫌な話だが、大事なことだ。
躊躇して作戦を失敗すれば、ラウガはほぼ間違いなく毒薬をばら撒くだろう。そうなってしまえばもう、南街に『血華病』が蔓延し、住民が倒れていく姿を見ていることしかできなくなる。
今は百を助けるために一を切り捨てるしかない状況、というわけか。残酷だが、この南街を崩壊させるわけにはいかないから、最悪の状況になった場合はそれもやむを得ない。
「無用な殺生はもちろんしたくないが、だからといって狂気に走る者を放置できん……ラウガの憎しみは分からんでもない。しかし、その矛先が明らかにおかしい方向に向かっているからな……」
狂った矛先に、関係ない人々の血をつけるわけにはいかない。ラウガをはじめ、相手を捕縛することが難しいのであれば、討つしかない。そんな結末を迎えたくはないが、可能性がある以上は覚悟しておかなければいけないだろう。
そんな暗い結末について考えながら合流地点に到着すると、すでにそこには大半のメンバーが揃っていた。皆、作戦開始前の最終チェックに余念がない様子だ。
「来たでござるな。今日はよろしく頼むでござる」
到着した自分に声をかけてきたのは、昨日の忍者だ。その後ろには、忍び装束を着た男女が数人いる。おそらくそれが、昨日言っていた援軍なのだろう。
「こちらこそよろしくお願いしやす。失礼ながら親分は人前では声を出さないようにしておりやすので、昨日に引き続きあっしが代理で喋らせていただきやす。どうかご理解くだせえ」
リーダーが自分の代わりに挨拶をしてくれる。忍者が、そうなのでござるか? と質問するようなまなざしを向けてきたので、そっと頷いておく。頼りになる部下がいるからこそできる芸当だな。
「昨日はそんな外套を被っている上にひと言も喋らなかった故、何かあるとは思っていたでござるが、徹底しているでござるな。了解でござる。それと、ひとまず今回の作戦を行っているカリーネ殿に挨拶をしてきたほうが良いでござる」
忠告してくれた忍者に頭を下げてから、カリーネさんのもとに向かう。居場所は忍者が教えてくれたので、すぐに見つかった。
「おお、義賊の頭も時間前に集合してくれたか。先の打ち合わせ通り、汝ら義賊の一団には陽動を頼むことになる。異論はないな?」
カリーネさんからの最終確認に、自分は頷く。動かせる手下も八人しかいなくなってしまったが、陽動ならば直接剣を交えて戦う必要はなく、一歩引いたところで敵を引っ掻き回せばいい。とにかく自分達は、怪盗が毒薬を盗み、忍者達がラウガを確保するまで、なるべく多くの敵を引き付けて他のチームに邪魔が入る確率を少しでも下げるのが目的となる。
「すまねえが、カリーネの姐さんに質問でさ。ラウガが住んでいるのは議員専用の邸宅でやすが、陽動時にはどれぐらいまでなら家にある物を破壊しても目をつぶってくださるんで?」
ああ、そうか。今回はどうしても破壊は起こるからな。その辺を確認しておかないといけないか。
「そのことだが……ラウガの確保か殺害、毒薬の確保さえ成れば、全てにおいて目をつぶる。極端な話、邸宅が全壊してしまったとしても、目的さえ達成されるなら問題はない。そんなことよりも作戦の成功が最優先だからな」
それなら最初から邸宅ごとぶっ壊せばいいじゃないか……という考えは早計だ。そんなことをしたら、毒薬が入っている容器も割れてしまう。幸運にも割れなかったとしても、回収はかなり難しくなるだろう。とにかく、毒がばら撒かれてしまったり、ラウガに逃げられてしまって毒薬を別の所で作り出されてしまったりしたら、こちらの負けだ。ここで確実にラウガの狂気を止めなければならない。
「分かりやした。あっしらにできる限りのことはさせていただきやす」
リーダーと共にカリーネさんに頭を下げて、いったんその場から離れる。あとは全体の準備が整って作戦開始時間が来るのを待つだけだ。
で、作戦開始までもう少しというところで怪盗があわただしく到着。カリーネさんから、もう少し時間に余裕を持って来い、だから貴様は……などとお仕置きをされていた。なんだかなぁ……
そんなコミカル(?)なやり取りも少しだけあったが、さすがに作戦実行の時が迫って来ると、緊張感のある雰囲気が漂い出す。
各自の準備も完了したところで、自分達はついに行動を開始した。
複数の班に分かれ、少人数ずつで目的地であるラウガの邸宅を静かに目指す。
今回の作戦に参加するメンバーはそれぞれ決められた場所で待機し、カリーネさんの合図を待つ。
作戦開始の指示は、移動開始前に配られた赤いビー玉みたいなもので伝えられることになっていた。このビー玉もどきが割れたら作戦開始ということらしい。
そして数分後、ついに自分の手元にあったビー玉もどきが割れた。その直後、まず動いたのは怪盗チーム。一番奥まで潜り込んで毒薬を盗んでこなければならない怪盗チームは、ラウガのいる議員邸宅の中にするするっと潜り込んだ。
その少し後に動いたのが忍者チーム。こちらも、怪盗チームほどではないにしろ、ラウガの寝室がある奥まで向かわねばならない。
忍者チームが議員邸宅の中に潜り込んでから一〇分後に、陽動チームが議員邸宅の前で騒ぎを起こし、邸宅の護衛者達をおびき寄せて足止めする手はずとなっている。
そして時間が経ち……いよいよ自分達の出番がやってきた。わざと陽動チーム全員で足音を立てて議員邸宅に近寄る。当然、そんな多人数の足音を聞いた護衛者達は、いったい何事だとばかりに玄関前へと集まってくる。
「貴様ら、こんな深夜に何をしに来た! ここは獣人連合南区の議員様がお休みになられている邸宅だぞ! それを知ってのことか!?」
護衛者の一人がそう叫ぶが……覆面をつけたカリーネさんと思われる女性が容赦なく、これが答えだとばかりに無言で剣を振り下ろす。
その攻撃を、護衛者はとっさに盾を構えて受け止めた。すぐさま後ろに飛び跳ね、距離を取るカリーネさん。
「貴様! 貴様らの考えはよく分かった! 総員、こいつらを一人残らず切り伏せろ! 議員様を殺しに来た賊どもだ! 議員様の近くで護衛している連中にも、すぐに敵襲だと伝えろ!」
すでにそれなりの人数が集まりつつあった護衛者達だが、更に家の色々な場所から出て来る出て来る……何人いるんだ、というか、どうやってそんな人数が隠れていたのだと突っ込みたくなった。
「緊急時故、隠し門の使用を許可する! この賊集団を絶対に逃がすな!!」
更に、最初に声を上げた護衛者……おそらくは隊長格がそう声を張り上げる。その直後、壁などからゴゴゴゴッと音が響いたと同時に、隠されていた複数の出入口が開放され、そこから護衛者達がこちらに向かってきた。
【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv29 〈剛蹴(エルフ流・一人前)〉Lv38 〈百里眼〉Lv28 〈技量の指〉Lv33 〈小盾〉Lv28 〈隠蔽・改〉Lv2 〈武術身体能力強化〉Lv66 〈スネークソード〉Lv49 〈義賊頭〉Lv26 〈妖精招来〉Lv12(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身〉Lv4
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv1 〈上級薬剤〉Lv26(←3UP) 〈釣り〉(LOST!) 〈料理の経験者〉Lv17 〈鍛冶の経験者〉Lv28 〈人魚泳法〉Lv9
ExP37
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
55
お気に入りに追加
26,947
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。