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13巻
13-2
しおりを挟む【世界の伝言板】
これは「こちら」の世界の人のみが閲覧できる掲示板です。
1:伝言者
で、いよいよあっちの世界の人が獣人連合に来れるようになるわけだけど、
そのへんどう?
2:伝言者
俺は獣人連合の東のほうにある町に住んでいるんだがよ
不安しかないぜ……
3:伝言者
おいおい、テンションひっくいな。なんでだよ?
4:伝言者
テンション上がる要素がどこにあんだよ
エルフの森の一件を知ってるとどうもな……
5:伝言者
ん? あれはエルフ側にも問題はあったろ?
言うべき部分まで伝えていなかったって面があったんだからよ
6:伝言者
それは分かってるっての。だけどよ、あいつらは情報は常に開かれている
べきだって思い込んでる節があるだろ?
7:伝言者
──否定できないな
確かにエルフ達のように極端に秘密にしすぎるのも問題だが
8:伝言者
だから、どんな情報をどの辺まで伝えれば問題ないのか、毎日会議だぜ?
体動かすほうが好きな獣人が会議漬けってどんな拷問だよ
9:伝言者
うっわあ……それは辛いわねえ
10:伝言者
エルフに肉体労働の日々を送れって言っているようなものね
11:伝言者
でも、あの人達は良いところもあるからね。変化をもたらしてくれるのは
間違いないし、閉ざされかかっている交流を動かしてくれるし
12:伝言者
確かにあの人達が来るようになってから、色々な国に出向く人が増えたね
13:伝言者
メリットもなきゃ嫌すぎるだろーが……
14:伝言者
それらを考慮しても不安しかねえよ!!
15:伝言者
でも、時計の針は進むんだよねー
腹括って受け入れて何とかやっていくしかないよー
16:伝言者
ある意味妖精国は良かったよな、あっちの人がやってくるタイミングが
早かった分、体当たりでやれたから会議とかあんまりなさそうだったし
17:伝言者
でも結構あちこちでもめたりもしたよ?
総合的に見れば大差ないんじゃないかなー?
18:伝言者
妖精国は戦争もあったからね……大勢の犠牲者を出したし
19:伝言者
あの戦争はあっちの人達が援軍に来てくれなかったらもっときつかったね
……なんでもあっちの人って、特殊な神の加護? で死ぬことがないって
話なんでしょ?
20:伝言者
実際どうだかは知らねーが、明らかに無謀なことをやってる奴もいるよな
んでそいつが死んで消えたってことはなかったからな
21:伝言者
まあ、あっちの人達はこっちの世界には一時期来れるだけの存在って噂も
あるし……そういうものと割り切ってるけど
22:伝言者
って、それはまあそういうもんだな、で良いんだよ!
今は受け入れが差し迫っている獣人連合の話だろうが
23:伝言者
でもさ、ここで話してもしょーがなくない?
明らかに混乱ふりまく奴は追放して、協力し合える人は受け入れる、で
いいじゃない?
24:伝言者
他も大体そんな感じだよな
前に、龍の国で大事な木が勝手に伐採されたって事件があったじゃない?
25:伝言者
ずいぶんと前だなそりゃ
そういや、あの件は解決したのか?
26:伝言者
それについては私から話そう
犯人の特定に成功した後に下手人を白洲へと強制召喚し、裁きを下した
下手人には相応の罰金を払わせた上で、追放の刑となった
一時は磔にするという案も出たのだがな……
27:伝言者
あ、そういう決着がついてたんだ
で、やっぱり犯人はあっちの人だったわけ?
28:伝言者
詳しくは言えんが、そういうことだな
やった理由は金儲けのためだそうだ、全くもって嘆かわしい
29:伝言者
たとえどんな人でも、決まりごとは守ってほしいよねー
守れないならこっちに来ないでほしいってのが本音
30:伝言者
全くその通りだな
確かに生まれとか色々と違うが、だからと言ってどんな風にふるまっても
良いというわけじゃない
31:伝言者
そもそも、あちこちに立札を立てることをはじめとして、
こちら側も人を使って決まり事を伝えるようにしているのにな
32:伝言者
はぁ、ますます不安だぜ。獣人連中は気が短いのも多いからな
あちこちであっちの人と喧嘩が起きるようなことにならなきゃいいが
33:伝言者
のんびり屋の獣人の皆さんって、大体南のほうに集まるからねえ
他の場所じゃそうなるかも
34:伝言者
別に難しいことを要求しているわけじゃないんだぜ?
ただ悪口を言わないとか、無駄に争わないとかだぞ?
35:伝言者
あーうん、向こうの人に限らずだけど、人の身体的特徴を悪く言う人って
どうしてもいるんだよねー
36:伝言者
獣人に対してそんなことしたら絶対喧嘩になるね
てか、私は絶対喧嘩すると思う。ウサギ舐めるな! って
37:伝言者
のんびり屋が多い牛族の皆さん以外は絶対そうなるわな
38:伝言者
牛族の皆さんがキレたらめっちゃ怖いけどな
普段キレない分、反動がえげつねえのよ……
39:伝言者
あーあるある
穏やかな人こそ怒ると怖いってのは、よっく分かるわ
40:伝言者
話を重ねるほどに不安になるな、大丈夫かよこれ
――――――――――――――――――――――――
477:伝言者
で、これで残すは魔王領だけってことになるんだな
あっちの人がまだ立ち入れない領域は
478:伝言者
そだね、あまり魔王領に住んでいる魔族の人とは交流がないね
479:伝言者
寒いってのがつらい。それさえなきゃな……
480:伝言者
こっちは吹雪く日すらあるからな
魔王様ももっと他の種族の方でも過ごし易いようにしたいらしいが……
481:伝言者
その辺は魔王様次第か……
でも、さすがに魔王様でも自然が相手じゃな……
482:伝言者
だねえ、新しい防寒具とか、少ない魔力でも寒さに耐えられるようになる
魔道具とかが出てこないと……
483:伝言者
今ある魔道具は、魔力に余裕がある魔族の皆さんじゃないと厳しいもんね
484:伝言者
棲んでいる魔物もめちゃくちゃ強いしな……
試しに魔族の皆さんに協力してもらって戦ってみたことがあったが、歯が
立たなかったぜ
485:伝言者
厳しい寒さに耐えるように進化している分、毛皮などが分厚いからな
生半可な攻撃じゃ表面に傷がつく程度だ
486:伝言者
おまけに魔法もバンバン使うからね。魔族でも油断はできないのよ
487:伝言者
実際、魔物が原因で死亡する魔族は結構いるぞ
ある程度育った子は、他の国へ修行の旅に出すことも検討されている
488:伝言者
魔族の皆さんも結構大変そうだな
悩みがない国なんてものはやっぱりないんだな
489:伝言者
あっちの人が魔王領にも入れるようになる日が来たときにさ、どれぐらい
戦えるんだか気になるな
490:伝言者
もし戦えるんだったら、街から街を移動するときに護衛を頼むことが
増えるかもしれないね
491:伝言者
その場合は、信頼できる向こうの人の情報を得るためのやり取りが今より
増えそうね
492:伝言者
そうだな、護衛を頼んだのに途中で山賊に早変わりするような奴では困る
493:伝言者
向こうの人は、一人一人の差が激しいからな。強さにしろ考え方にしろ
494:伝言者
だから、はっきりした情報が欲しいよね。お金がかかるのはしょうがない
495:伝言者
まあ、命がかかってるからな……護衛関連は特に
496:伝言者
まだまだ先だろうが、そのときのためにもっと情報を集めておかねばな
497:伝言者
向こうの人に関する情報は、これからもっと重要性が上がっていくね……
498:伝言者
冗談抜きで、情報がないと付き合いにくい相手だからな
499:伝言者
共通しているのは人族って部分だけだからね。中身は本当に色々
500:伝言者
要注意人物リストやらが作られるのも当然だわな……
3
軽快に走る馬の上で、自分は流れる景色を楽しんでいた。さすがにピカーシャと比べてしまうと大幅にスピードは落ちるが、それでも十分に速いと言っていい速度だろう。
馬が自分でしっかりと目的地に向けて走っているので、自分は手綱を軽く持つだけで済んでいる。変に指示を出せば、かえって馬が混乱してしまって邪魔になるだけだ。
バッファロー系のモンスターにも何度か遭遇したが、そのときも馬が自分で速度を上げて一気に引き離して逃げ切った。弓矢で牽制しようかとも考えたが、ピカーシャのときとは感じが違う(そもそも、ピカーシャは自分が矢を撃ちやすいようにバランスコントロールなどをしてくれていた)ので、無理をせず馬が走るのを邪魔しないようにだけしていた。
また、途中にはいくつもの分かれ道があった。おそらくダンジョンとか、集落とかに向かう道なのだろう。この辺は今はまだ考えなくていいか。とりあえずこの先の街で起こっているという問題を何とかしてから、のんびりと歩き回るようにすればいい。
速度を緩めてスタミナの回復を図るときもあったものの、止まることは一切なく、馬は最後まで自分を運んでくれた。
街の入り口前まで到着すると、狼のお兄さんがこっちにやってくる。
「ようこそ、獣人連合の南街へ! その馬はレンタルですね? 返却は私が承ります」
馬が足を止めたので、自分はゆっくりとその背から降りる。それから馬の背中を撫でて、ありがとうと感謝の気持ちを伝えておいた。
「それでは、お願いします」
馬を狼のお兄さんに預けて、南街に入る──ふむ、街の中に入った第一印象は、すごく穏やか。全体的にのんびりしているというか、まったりしているというか……街を歩けば、牛の獣人さん、狐の獣人さん、犬の獣人さん、兎の獣人さんがのんびりと話をしているところをよく見かける。ちょっと聞き耳を立ててみたが、今夜の晩御飯の献立とかの世間話ばかりで、剣呑な雰囲気はない。
(だが、部下の義賊はこの街に問題があると言ってきたんだよな)
ふにゅふにゃほわーん……無理やり擬音で表現するとここはそんな感じの空気だが、その空気を隠れ蓑に何かよからぬことを考える奴がいても、おかしくはないか。とりあえず宿を見つけて、部下から話を聞かないとな。前回から時間が経っているし、きっと新しい情報を手に入れていることだろう。
(時間的にも、今日はログアウトしてもいい頃合いだしな。宿屋はどこかなっと……ってか、周りの人に聞けばいいか)
案内板みたいなものはない。もしくは自分が見落としていたのか……とにかくちょっと宿屋が見つからなかったので、世間話に興じていた獣人の皆さんに、宿屋までの道を教えてもらった。
あと、全く関係ないことなのだが……この街の女性は胸が非常におっきい人ばっかりです。女性のプレイヤーが来たらブチキレるんじゃないだろうか?
なんてことを考えながら教えてもらった道を進んで見つけた宿屋は、牛の獣人さんが店番をしていた。この方もまたおっきい。なんとも目のやり場に困るな……
「いらっしゃいませ、『牧草のまどろみ』へようこそ。お食事ですか? お泊まりですか?」
どうやら妖精国と同じで、一階で食事ができるようになっているようだ。試しに後で食べに来てみようか……何が出て来るのかちょっと楽しみ。
「一人なんですが、しばらく泊まる部屋を一つお願いします」
自分の言葉に、店番さんは台帳を取り出して記帳を要求してきた。書き込み終わると、部屋の鍵を渡される。
「お客様の部屋は、201号室になります。また、お泊まりの方は食事を無料とさせていただいておりますので、お気軽にご注文ください。それでは、ごゆっくりどうぞ」
食事は無料か。とりあえず一〇日分の宿泊代金として八〇〇〇グローを支払い、自分の部屋に行くため階段を上る。体格が良い獣人族が使うためか、宿屋の中は全体的にがっしりとした作りで、頼もしい雰囲気があるな。人間なら二〇〇人ぐらいがこの一室内に集まってもびくともしなさそうだ。
201号室に到着し、これまた大きな扉を開けて中に入る。
「一人部屋だってのに、ずいぶんと大きいな……余所の国の宿屋だと一〇人部屋ぐらいだ」
ベッドもテーブルもデカくてがっしりとしたものが使われている。リアルの自分が住んでいる部屋が小さく思えてくるよ……そんな変な部分で少しダメージを受けつつも、馬に乗り続けた疲労もあるので、武装を解除して背伸びをする。
(さて、あとはあいつらからの連絡待ちだな。大抵なんかあったときにはすぐに自分の泊まっている宿屋を見つけてくるし……こっちは待っているだけで良いはずだ。それにしても、こんなのんびりした街で、悪党は何を企んでいるんだ……?)
軽く体をほぐしながら待つこと数分、予想通り、天井裏からトントンと叩く音が聞こえてきた。
「いいぞ、入れ」
自分の精神を〈義賊頭〉に切り替えて、天井裏にいると思われる部下に告げる。さて、今回はどんな話なのやら。前回の妖精国のときのように何とかできればいいのだが。
スッ、と着地の音を立てずに、義賊小人――〈義賊頭〉としての自分の部下が、リーダーをはじめ勢ぞろいで降りてきた。
どうやってこんな大勢が潜んでいたんだ? と一瞬だけ考えた。それが一瞬だったのは、部下達の大半が包帯を巻き、負傷している姿を見てしまったからだ。無傷なのは、リーダーを含め四人だけのようだった。
「いったい何があった? 諜報、潜入の手練れであるお前達がそこまでの手傷を負うとは……話せ」
すると部下達は一斉に頭を下げた後、リーダーだけが前に進み出た。
「申し訳ありやせん、お頭の前に無様な姿を晒しているあっしらをどうかお許しくだせえ。今回のヤマは……それだけやべえんです。お頭には良い話と悪い話の両方がありやす。どちらから話しやすか?」
結局どちらも聞かなきゃいけないのなら……
「悪いほうから話せ。できるだけ詳しくだ」
自分の言葉を受けて、リーダーは口を開いた。
「では、報告いたしやす。今回の相手は……この国の代表である議員の一人でありやす」
……!? それはどういうことだ?
「この南の街に、ラウガという年を取った狐の獣人の議員がおりやす。話の発端は今から三〇年ほど前まで遡るんですがね、この南街で『血華病』という獣人のみに伝染する死亡率の高い病気が猛威を振るいやした。ラウガの妻と二人の娘も血華病に罹ったらしいんですがね……結果から言っちまいますと、その三人は助からなかったようでして」
伝染病か。リアルの歴史にも猛威を振るって大勢の人が死んだ話があるな。
「もちろん、死んだのはラウガの妻や娘だけではありやせん、当時の獣人が大勢命を落としやした。それはラウガも分かっちゃいるんでしょうがね、ここで問題がありやして、当時の混乱に乗じて詐欺行為を働いていた連中がかなりいたらしいんで。詐欺と聞いてお頭も予想できたとは思いやすが、効きもしないでたらめなものを血華病の特効薬として売っていたらしいんでやす」
なるほど、病気に罹って助かりたい一心でいる人達の弱みに付け込んで金をむしり取った、か。だが、ここまでだとそれとラウガとやらが今現在脅威になる理由とは繋がらないような気がするぞ。
「たちが悪いことに、この血華病の治療薬、予防薬が当時非常に高額かつ少数ながら存在していたことが、詐欺師達の言葉に現実味を与えちまったらしく、大勢の人が購入したと記録にありやす。当然ラウガも、妻や娘のために買ったんでやしょう。が、当然偽物が効くはずもなく……真相を知ったラウガは詐欺師達に復讐を誓った……のが全ての始まりとなりやす」
今回は、非常に面倒な話になりそうだ……とにかく、今は続きを待つしかないようだな。
「あっしの話は、あくまで手に入れた情報をまとめたものでやすからね、全てが正しいとは言い切れやせん。ですがそれでも、親分にはできる限り報告すべきですんで……」
リーダーの言葉に、自分は静かに頷いて先を促す。
「病気の猛威が下火になり、亡くなった人達の葬儀がひと通り済んだ頃、ラウガは動き出したようで……偽薬売りの詐欺師を探し出すために、ひたすら病気の流行に耐えて生き延びた人達に話を聞いて回り、似顔絵などを作って目星をつけていったようでやす。また、そんなラウガに同調して、夫や妻、子供を失った人達が積極的にその活動に加わり始めやした。そうして街の再建の裏側で、詐欺師達のあぶり出しが行われていたことは間違いないようで、へえ。当時は国のほうも病気の対策に振り回されていて、犯罪者の指名手配や捕縛まで手が行き届いていなかったようでやして……」
ふむ。薬という命に直結する事柄で詐欺を働いた者を、被害者達が結託して追い詰めていこうとしたという流れは理解できる。確かにそれだけの病気の流行後では、司法機関がまともに機能していなかった可能性が高いだろうからな。
「──その結果、偽薬詐欺師は一人、また一人と捕まり……私刑により殺されたようでさ。大枚はたかされた上に家族の命を救えなかった恨みが、国に判断を任せるよりも今ここで確実に……という思考を強めたであろうってのも否定できやせんね」
流行り病という避けられない不運はさぞ苦しかっただろう。それでも、病に倒れた家族が助かっていればまだやり直せたんだろうが……
薬を手に入れてこれで助かる、という希望から絶望に叩き落とされ……そして薬が偽物であったと知れば、詐欺師に殺意が向かうのは当然か……こんなところまで生々しく作る必要があったのかと開発陣に問いたい。
「そんなわけで、詐欺師は物理的な意味で一人一人消されていったんですがね……やはり捕まえることができなかった奴もいたんでさ。また、詐欺師側から反撃を受けて命を落とした者もかなりいたようでやす。ラウガの同志も徐々に少なくなる中、流行り病の傷が表面上癒え始めた頃には一〇年以上の月日が経っていたようで」
やりきれんな。私刑が正しいというつもりはもちろんないが、何ともやりきれない。だが、話はまだ終わってはくれないのだろうな。
「それから更に数年が過ぎ、さすがにラウガの怒りも時間という薬によって収まりかけてきた頃……ラウガは、詐欺師の一人を見つけてしまったんで。そいつは特に大物だったんでやすが、当時同志を返り討ちにされて逃げられちまってたんです。しかもなんとその詐欺師は、流行り病による混乱の後に店を大きくした薬屋の大旦那に収まっていたって話でさ。ここでラウガの怒りが再燃してしまったのが記録から窺えやす」
店が大きくなったのは、詐欺で手に入れたお金を使って……か。
「ラウガは必死に調べたみたいですがね……そいつをしょっ引ける証拠は何一つ見つけることができなかったようで。十数年も昔の話となるとなかなか証拠が揃いやせんし、当時の似顔絵も、時間が全体の雰囲気を変えちまっていやしたから、これまた弱い。それでもラウガが気が付いたのは、目元などの部分は変わっていなかったからかもしれやせん。一応あっしらも調べやしたが、今の商いはまっとうなやり取りしかありやせんでした」
リーダー達が調べても埃が出ないってことは、根底には黒い金があったとしても、少なくとも今は後ろ暗い行為をしていないのか。
「そして、それだけの時間が流れていやすからね。当然、ラウガの同志も寿命で退場していたり、疲れ果てた末に寝たきりになってしまったりしていやす。ラウガ本人も歳を食って体が弱ってしまってやして、直接の復讐はすでにできなくなっておりやした。そもそも、表向きはまっとうな商いをしている店に殴り込んだら、世間的には悪党側になっちまいますがね……」
資本金の出所を探るなんてことは、一般の人には絶対にできないだろう。何とも歯がゆいが……どうしようもないな。
「ここでラウガははっとしたようで、南の街を駆けずり回っている姿を多くの人に見られておりやす。ラウガが気付いたのは『当時の自分達から逃げ切った詐欺師達の中には、その店のように何食わぬ顔で商いをしている輩が他にもいるのではないか』と……そしてその予想は当たっちまいやした。ラウガ自身が探し出したのが三つ、老骨に鞭を打ってラウガの同志が見つけたのが二つ……あったようでやす」
ギリッ、と誰かの歯ぎしりの音がした。部下の誰かがついやってしまったのだろう。自分としてもそれを表に出しても咎めはしない。
「普通は、もうどうしようもない、と諦めるんでしょうが……ラウガの心に灯った怒りと憎しみの炎がそれを許しやせんでした。知恵を絞った結果、国の上層部に食い込み、その立場を利用して詐欺師達にぼろを出させる策を打つため、ラウガはこの国の議員に立候補したんで。生活していく上での不満を街の人達に訴え、議員になったら少しずつ改善を行うという政策を前面に打ち出したんですな」
──最初の動機はともかく、この時点ではまだラウガが問題になりそうにはないが。
「かくして、同志の協力もあり……ラウガは議員に当選し、活動を始めやした。時間は限られていやすが、証拠もなくいきなり詐欺師達の店を告発できる段階でもなく、ぐっとこらえて議員としての仕事を務めて信頼を高めるのに数年。更にその裏で同志と共に詐欺師達の店を洗い出すのに数年……議員としての信頼を高めるほうは上手くいっていたようでやすが、詐欺師達の尻尾を掴み、家族を失わせた罪を償わせる目的は一向に進まなかったようで……このあたりからラウガが徐々に狂気に蝕まれ出しやす」
──来たか。
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