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一気に駆け上がった先に待っていた試練

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 翌日。ログインして真っ先に塔に乗り込み攻略再開。ここからは見つけた扉をみんな変換して一気に駆け上がる。更に二〇階ごとの試練も全部パス。今日は六〇〇階まで行く予定だ。二〇の倍数の階に降りないように調整しながら扉を変換しまくって全速前進の勢いで進むのだ。

 出てくるモンスターも手ごわい奴らが増えてきており、特にリッチが姿を見せ始めたのが厄介だ。こっちに感づけば、一気に手下のスケルトンとかワイトを召還してくるという情報もある為、ひたすらこちらは隠密プレイに徹し、戦闘は回避しまくっている。この進み方は、死者の挑戦状を思い出させるな。何とも懐かしい。

 途中途中の階層でセーブをしながら、ひたすら六〇〇階を目指す。ただ五五〇階を越えたあたりから、レンジャータイプのゴブリンが現れ始めたのが厄介だ。こいつらは他のモンスターに比べてこちらの存在を嗅ぎ付けやすいという能力を持っている。ひたすら隠れて進みたい自分にとっては邪魔以外の何物でもない。

 その分戦闘力は同じ階層にいるモンスターと比べてやや劣るって話なんだが……ここまで来るとモンスター側もパーティを組んでいるのが当たり前になっている。しかも八匹以上で……プレイヤー側は六人までなんだが、モンスター側にはそう言った制限はない様だ。

 故に、見つかればそいつらも同時に相手取らねばならなくなる。更にそいつらが近くに居るモンスターのパーティに対して、獲物発見とばかりに角笛で知らせてしまうのもやめてくれと言いたくなる。すでに一度見つかってしまい、角笛を吹かれるのを阻止できなかったがためにモンスターの集団を一人で相手取らねばならなくなってしまった。

 ただ、幸いにして挟み撃ちにならなかったので──そいつらをやや狭い通路まで引っ張ってから、範囲攻撃特性を持つ弓のアーツで押しつぶした。相手の数を利用させないための戦い方だ。真っ向勝負なんてやってられないからね……相手は二桁、こちらは一人なんだから。囲まれて周囲から袋叩きにされると流石に今の凄まじい装備を身にまとっていても厳しくなる。

 その後は幸い見つかることなく進み、今は五九〇階のセーブポイントにいる。あと一〇階登れれば今日の目標は達成だ。ここに来るまでに一時間二七分か。扉の変換が無ければ絶対に無理な攻略速度だな。休憩がてら掲示板も見てみると……なるほど、今の攻略平均は六〇〇階後半らしい。黒の塔だと──グラッド達が九八〇階に到達したとある。

 白の塔は──ツヴァイ達が更新してるな。九二五階まで到達している。他にも名のある連中がすでに九〇〇階台に到達済みか……黒の塔はグラッド達がぶっちぎりだが、白の方はまだだれが最初に踏破するか分からない状態だな。ツヴァイ達の後ろに複数のパーティが迫ってきているし。

 熾烈な上位陣のデットヒートに対し、賭けも行われている。と言ってもリアルマネーを賭けるとかの危険なものじゃない。純粋に誰が最初に天辺に入るかの予想を皆で楽しむと言った穏やかなものだ。黒の塔はまあほぼ確定なので飛ばすとして、白の塔の予想は盛り上がっている。人気トップはもちろんツヴァイ達だが、それでも三五%。かなり票が割れている。

 折角見つけたので、自分も投票。もちろんツヴァイ達にだ。こういうのはやっぱり知り合いを贔屓しちゃうんだよな。彼等に勝って欲しい。

(さて、一息付けたし自分は自分の為に進まなければ。五〇〇階台の試練を全部飛ばしてきたから、六〇〇階の試練のレベルが上がっているはず……そろそろ行こう)

 塔の攻略を再開し、扉は上位の物に変換させて先を急ぐ。そうして数分後、自分は六〇〇階に到達した。

「来たね……君の話は聞いているよ……試練を伝えるよ」

 六〇〇巻の試練を担当するのは、どうにも眠そうな感じを隠しもしない幼女風の存在だった。ゴスロリっぽいフリフリの服を模した外見までしている。

「目の前に六つの宝箱が見えていると思う……宝箱の中には罠が仕掛けられている物がある……その罠が仕掛けられた宝箱を開けたら失敗……。罠がかかっていない宝箱を開けると、扉が現れる……その扉を十回くぐれたら試練達成……ただし制限時間は五分……五分以内に罠の無い宝箱を開けて扉を十階くぐる。それが試練……」

 つまり、十回連続で罠の無い宝箱を開けて脱出しろって事か。ただ、制限時間が厳しいな。五分を十で割ると……三十秒。一部屋にかけられるのはたった三十秒か。これは相当にきついぞ。

「一応言っておくと……もしここまでの試練を飛ばしてこなかった場合、突破しなければならない扉の数は半分だった……だけど君は飛ばしてきたからペナルティとして扉の数が増えている……」

 それでも一つの部屋にかけられるのは一分だけだろう? どのみちきつい事に変わりはないじゃないか……だが、それでもここを突破しなければならない。覚悟を決めて、こういう時に使う道具を取り出す。道具にゆがみなどは無し。まあちゃんと点検はしているんだが、仕事にかかる前に最後の点検をするのは大事だからね。

「そちらが宝箱に触ったら制限時間の消費が始まるよ……自分の好きなタイミングで始めてね……」

 との事なので、六つの木製の宝箱を目で確認。外見に違いは無し、見た目で罠があるかどうかは流石に分からないな。宝箱に触るまでは盗賊系統のスキルも無効化されているようで、何の反応もない。ま、そりゃ当然か。なので一度深呼吸をしてから宝箱の一つに触れた。それと同時に、盗賊系のスキルも起動したことを感じる。

(なるほど、罠がある箱は二つって感じだな。ならそれ以外を開けよう)

 罠の反応がない箱を開けると正解だったようで、扉が現れる、当然すぐに扉をくぐるとまた六つの宝箱があるが……これも六つのうち四つに罠があるとスキルが教えてくれる。多分序盤は、スキルで簡単に看破できるんだろう。後半になればそうはいかないはず。だから今は少しでも時間の貯金を作る。

 そのまま三つ目、四つ目までは〈罠発見〉のスキルのみで見破ることが出来た。ただ、流石にそれはここまでだ。五つ目の部屋にある七つの宝箱からは〈罠発見〉の反応がない。これは妨害されているとみていいだろう。ここからは宝箱をスキルと今までの経験でチェックしていかなければならない。

(一つ目は……罠あり。二つ目、これもダメ。三つめは……これも仕掛けがあるな、ダメだ)

 罠を解除するのではなく見破ればいいので、一つ一つの宝箱にかける時間は短い。それでも複数調べれば相応の時間がかかってしまう、早く罠が無い箱を見つけたい──五つ目は何もない。箱を開けると扉が現れた。六つ目の部屋は……宝箱の数が八、更に宝箱が鉄製になっている。

(これも罠あり、こっちもだ……こいつは……こいつも罠がある。するとこいつか!? こいつだ!)

 この六つ目の部屋はかなり手こずった。宝箱を調べて六つ目でようやく罠なしの箱を発見したのだ。かなり時間を使ってしまった、急がなければ。しかし、そんなこちらの感情を笑うかのように七つ目の部屋には宝箱の数が九個になっていた。嘆きたくなるが、そんな時間すら惜しい。宝箱に駆け寄って罠の有無を調べる。

 幸い、この部屋は三つ目の宝箱が罠なしだった。次の八つ目の部屋はついに宝箱の数が二桁の十個に。更に宝箱が銀になっていた。流石にここまでくれば分かるが、宝箱が豪華になるほどに罠の方もレベルアップしている。そう、存在をうまく隠すようになっていくのである。それでも、突破しなければならない。

(七五〇階に、すでにこっちを待ちわびている存在がいるからな)

 もたついてはいられないのだ。すぐに罠の有無を確かめるべく動き出す。が、罠の無い宝箱が見つからない。七つ目、八つ目……くそ、これはよりによって最後が当たりのパターンか! 時間を目いっぱい使わされた。もうどれだけ残っているか分からない、序盤の貯金はもうとっくに使い果たしたとみるべきだ。しかし、それらを確認する暇はない。

 蹴破るような勢いで九つ目の部屋へ。宝箱の数は何と十五。ここに来てはこの増やすペースを上げてくるとか悪辣すぎるだろう。それでもやるしかないのだ……六つ目の箱が当たりだった。そうして最後の部屋に入った訳だが……宝箱の数がなんと二十。更に宝箱が金色に輝いている。だが、さらに厄介な要素が入ってきて──

(これ、宝箱の鍵を先に開けないと罠があるかどうかの判別が出来ないように細工されている!?)

 鍵開けを強要されるとは。それでも仕方がないのでやるのだが──が、この鍵開け、かなり難易度が高い。しかも強引にやったら絶対罠が発動するだろう。こういうのは連動していると考えておくべきだから……それでも必死に取り組んだのだが、その声は三つ目の箱を調べている時に聞こえてきた。

「は~い……時間切れ~。残念でした、またどうぞう……」

 その言葉の直後、自分の足元が突如落とし穴となって落下させられた。こうして、自分は五九五階まで戻されてしまったのである。くそう……
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