とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
上 下
538 / 727
連載

高台エリア攻略

しおりを挟む
 その後もオーガやカラスを倒しつつ先を目指す。時々トラップを踏んでしまう事はあったが、幸いにして大きな事故につながる事はなかった。そしてこの高台エリアも終わりを迎えようとしていた。だが、明らかにその先にはいかせないとばかりにオーガが布陣して守りを固めていたのだ。数にして十五匹。更に赤いカラスも数匹飛んでおり、あと少し前に自分達が進めば容赦なく襲い掛かってくるだろう。

「うわぁ……高台における最終関門って事なんだろうが。何が何でもここでこちらの戦力を削る気満々じゃねーか」

 うんざりしたような声を両手剣使いのプレイヤーがあげたが、皆同じような気持ちだろう。今までの連中と違い、彼らは持ち場を離れる事が無い。更にその場所に入る為の道は一つしかなく、嫌でも真っ向勝負を強いられる事になるだろう。

「地刃、二つ切っちゃっていいと思う。地刃でごっそり削って、残りは一気に圧し潰す。十五匹もオーガが居るんだから、真っ向勝負は流石に無茶よ」

 アーチャーの女性プレイヤーの言う事はもっともだろう。対処法が分かっているとはいえ、流石にこちらの倍以上の戦力とガチンコ勝負をしたら事故が起きる確率は非常に高い。ここまで上手くやってこれたのに、アイテムをケチってガタガタになって進めなくなるというのは最大の悪手だろう。

「反対意見は? 無いならその策で行こう。最初に地刃を二つ立て続けに使ってオーガ達の集団を削る。カラスは飛んでいるから通じないが……そこは弓を使える二人に任せたい。カラスが消えたら、後はMP消費なんて考えずにアーツで押し切ろう。相手はこちらの倍以上いるのだから、セーブしようなんて思うなよ!」

 タンカー役の男性プレイヤーの言葉に、皆で頷く。地刃の呪力石を魔法使いの女性プレイヤーとアーチャーの女性プレイヤーが一つづつ持ち、オーガ達が待ち受ける最後の高台広場へと足を踏み入れる。当然反応してオーガ達もこちらに向かって前進を始める。

「後二歩引き付けろ、あと一歩、よし、使ってくれ!」

 大太刀使いの男性プレイヤーの言葉に従って、まずアーチャーの女性プレイヤーが地刃の呪力石を地面に叩きつけた。その直後、オーガとカラスの後方から土でできた刃が発生し、オーガとカラス太刀を切り付けた。オーガは直撃したが、カラスは先も言った通り空を飛んでいるので当たらない。

 自分はこのターンはカラスを射殺し一匹減らした。次のターンで魔法使いの女性プレイヤーが呪力石を地面にたたきつけ、再び地刃を発生させる。これにより、オーガが三体ほど沈んだ。ダメージはもちろんある程度のムラが存在しているんだろうが、残ったオーガ達の体力が極端に残っているという可能性は流石にないだろう。

「よし、後はカラスを後衛が落としてくれたら突撃だ! 一気に終わらせて次に進もう!」

 そのタンカー役の男性プレイヤーが発した言葉に応えるために、自分とアーチャーの女性プレイヤーが三ターンかけて全てのカラスを叩き落とした。それを確認した彼は「突撃!」と声を発したのちに盾を構えてオーガ達の元に突進。もちろん残り三人の前衛もすぐ後に続く。当然自分とアーチャー、魔法使いの女性プレイヤーもオーガに対して攻撃を加える。

 その結果、誰一人欠けることなくオーガ達の集団を殲滅する事に成功した。大きくダメージを受けた人もおらず、こちらの理想通りの戦いが出来たと言っていいだろう。レベルも全員一上がり、多少ではあるが強くなった。

「無事に終わりましたね、あと残りエリアは二つですが……」

 魔法使いの女性プレイヤーが歯切れの悪い言い方をする。この先はもっと厄介なエリアが待っているのは当然として、更に何かしらの嫌な情報があるのだろうか?

「次のエリアからは全く情報が無い。モンスター、地形、罠、何一つ分からない。ここからはこっちも手探りとなる──大変になるが、それでも進まなきゃ試練をクリアすることが出来ない。頼むぞ」

 大太刀使いの男性プレイヤーの言葉に、自分は頷いた。高台エリアを後にして、足を踏み入れた次のエリアは……城だった。それも立派な西洋タイプの城で、壁は白く塗られており手入れが行き届いているのか光を反射して輝いていた。城の周囲にはこれまた立派な西洋風の庭園が広がっており、完全な左右対称なつくりとなっていた。そんな城を、金属出てきた柵が覆っている。

「なんか、別の意味で驚いたわ。でも、エリア的にはここ、よね?」

 格闘家の女性プレイヤーの戸惑いの声に、他の全員が戸惑いながらも頷く。高台エリアを出た後は一本道でここに繋がっていたし、間違いはないはずだ。でも確かに、ここまでの道のりと違って突然趣が変わったという感じはする。

「門は空いている……ようだな。周囲にも敵がいる様子はないが……入っていいんだ、よな?」

 タンカー役の男性が金属製の柵を流用して作った感じの門を軽く押すと、あっさり開いた。自分も周囲を見渡すが、敵がいる気配はしない。ただ、城に向かってまっすぐ伸びている道以外からは、嫌な感じがする。

「どうする? 城に一直線に向かうか、それとも庭園を少し調べるか」「城に向かう方が良いと思う。なんかこう、庭園から嫌な感じがする。庭園を荒らさない方が良いと思う」

 両手剣の男性プレイヤーの言葉に、自分は感じた事を口にした。今回は君子危うきに近寄らず、の方だと思う。この庭園、妙に綺麗すぎるんだよな。不気味な感じがどうしてもぬぐえない。

「彼がそう言うのなら、私は素直に城に向かう事に票を入れるわ。彼の直感を無視すべきじゃないと思う」「確かにな、俺も同意見だ。藪をつつかない方が良いと思う」

 自分の意見に、アーチャーの女性プレイヤーと大太刀使いの男性プレイヤーがすぐさま賛成。反対意見は特に出なかったので、左右に広がる庭園には一切足を踏み入れず城の門前まで移動。城の木製の門だが、これまた簡単に開いた。なのでルートは間違いはなさそうだ。全員で中に入ると、足元には赤い絨毯が敷かれ、左右には甲冑の人形が置かれている通路が広がっていた。

「まさに映画なんかに出てくる、西洋の城! って感じがするな」「高級感が半端ないな……土足で入るのにちょっと躊躇してしまうな……」

 そんな言葉が出てくるのも無理はないだろう。天井にはシャンデリアが飾られていて通路を明るく照らし出し、壁にはしみの一つすらない。まさに映画やアニメなどに出てくる王様が住まうにふさわしい場所という感じがする。

「だが、ダンジョン扱いなんだろうから油断はできないわよ? 左右に飾ってあるのがお約束的な甲冑たちが動き出してもおかしくは──」

 アーチャーの女性プレイヤーがそこまで口にしたその瞬間だった。飾られていた甲冑のいくつかが動き出したのは。恐らく、こいつらはリビングアーマーに分類されるモンスターだろう。手に持っているのは全員がハルバードだ。敵が来ない時はこうして飾り鎧の中に紛れて待機しているんだろう。

『ご要望と』『ご期待に』『添えさせていただいた』『お約束、という奴です』

 なんて事を、動き出したリビングアーマー達が順番に口にした。一方でアーチャーの女性プレイヤーは言わなきゃよかったとばかりに両手で顔を覆っている。でも結局は襲ってきたんだろうし、彼女の失言と言う訳ではないだろう。

「ずいぶんとユーモアがある方々ですねぇ」『お褒めにあずかり』『恐悦至極』

 何処かのんびりとした魔法使いの女性プレイヤーの言葉に、リビングアーマーたちは優雅に一礼して見せた。何というか、その、こういう対応されるとやりにくいんだがねえ。

「でも、こちらも進まなきゃならないんでね。悪いが押し通るぞ」『構いません』『ただしこちらも全力防衛』『単純に言えば、我々を越えていけと言う事です』

 タンカーの男性プレイヤーに言葉には、ハルバードを構えて次々と言葉を繋げるリビングアーマー達。まあ、あちらさんはそれが仕事だもんね。侵入者にどうぞ進んでくださいなんていうはずがない。言う場合は、何かしらの罠に仕掛けるためか城の主が通せと言った場合だな。

「じゃあ、始めましょうか」『不意打ちしないのは、好感が持てます』『勝っても負けても、恨みっこ無し』『いざ尋常に、勝負という奴です』

 自分の言葉にはそんな反応を返してくるリビングアーマーたち。ああもう、本当にやりにくいな! それでも前に進むためには致し方ない……戦いますか。
しおりを挟む
感想 4,741

あなたにおすすめの小説

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。