とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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アイテム分配、そして洞窟を抜けると

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 入っていた物を精密に調べた結果、上鋼の両手剣、魔剣キリサキという名前が付いた大太刀、上質な弓、魔鋼のガントレット、ヘビーアーマー、幻獣のレザーアーマー、幻影のクロース。呪力石は解放が二つ、地刃、空白の呪力石。ポーションは二つともMP回復だった。

 上鋼は鋼よりワンランク上の装備、魔剣切り裂きはそれ自体の威力もさることながら、振る事で相手を割く風が生成されるので中距離攻撃が可能な大太刀。上質なトネリコの弓は単純に能力が高く、魔鋼のガントレットは威力に加えてなぐった相手からわずかにMPを吸収する能力がある様だ。

 鎧のヘビーアーマーは純粋な重鎧、防御力が高い。幻獣のレザーアーマーは革鎧としては防御力に優れ、軽い為負荷が少ない。幻影のクロースは装着者の姿を僅かにブレさせる事で、相手からの攻撃を当たりにくくする効果がある様だ。

 呪力石の中であった空白の呪力石は、今まで使った事のある呪力石の効果を石に込めることが出来るレアものという話。なので使ってしまった昏睡をチョイスした。ポーションは説明は不要だろう。

 装備の行き先は、ヘビーアーマーがタンクに、上質の両手剣、魔剣キリサキは対応したスキルを持っている男性プレイヤーに。上質なトネリコの弓はアーチャーの女性プレイヤーへ、魔鋼のガントレットは格闘攻撃で戦う女性プレイヤーに。そして呪いが解かれた上質な木の弓は自分に回された。幻影のクロースは当然魔法使いに。そして残った幻獣のレザーアーマーなのだが。

「俺が欲しい」「俺だって欲しいんだが」「私も欲しいわ」

 前衛である男性プレイヤー二人と女性プレイヤーが少々もめてしまった。話し合いでは結局決まらず、じゃんけんで決める事に……その結果は。

「よし、俺の勝ちだな」「仕方がない……」「そうね、これ以上時間は掛けたくないから受け入れるわ」

 手にしたのは大太刀使いの男性プレイヤーだった。これで彼は積極的に前に出られるようになるだろう。他の鎧が出たら、アイテムを回せばいいし……それまでの辛抱だな、他の前衛は。武器は出てるんだが、防具があんまり出てない弊害だなぁ。こうしてアイテム分配もおらわせて再び前進して次の部屋に入ると。

「モンスターもアイテムもなし、か」「罠はありそうだから慎重に進まなきゃいけないけどね」

 と言った感じで何もなし。そんな部屋がいくつか続いて──

「お、あそこから光が入ってきている」「洞窟を抜けられるな。次は確か、高地だったな」「見えない壁は無いから注意してくれよ。見えない壁があるんだろうと馬鹿な考えをもって地面から足を踏み外し、落下死した馬鹿が身をもってその危険性を教えてくれたからな」

 ふむ、ゲームによっては地形の外に足を踏み外すと強制的にワープさせられるパターンもあるのだが、ワンモアでは容赦なく落下死する訳か。

「了解です、落ちないように注意しながら進みます」

 洞窟の最後の部屋で罠を踏んで全滅──なんてオチにならない様、注意して光の方に向かって進む。幸い厄介な罠はなく、全員無事に洞窟を脱出。洞窟から出て周囲を見渡すと……幾つもの足場が確認できる。そして、ある程度足場の端近くに立って下を見下ろすと──底が見えない真っ暗な世界が広がっていた。下まで光が届かないのだろう。

「ここのモンスターは基本的に飛んでいるか、力自慢でこちらをがけ下につき飛ばそうとしてくるかという連中ばっかりだ。露骨に難易度が高くなっていて、個々での全滅は何度も味わっている」

 タンカー役の男性プレイヤーがそう教えてくれた。不安定な足場を最大限に生かせる面子と言う事ね。これはかなり手ごわいな……それでも進む他ないのだが。しばらくの間は罠もなく、モンスターもいなかったのだが……そいつは空から現れた。

「何か、空から赤いものが下りてきているような」「来たわね、そいつは自分の近くにモンスターを呼ぶ習性があるのよ。流石に一回に呼べるのは一匹だけど、何度もやられたらあっという間にモンスターだらけになって全滅させられるわ。弓の射程に入ったら即座に叩き落として! 耐久力は低いから、当たれば落ちるわ!」

 召還系のモンスターか。降りてきた赤いものは、全身真っ赤なカラス……を一回り大きくしたような奴だった。でも耐久性は低いというのは間違っていなかったようで──

「てい」「ギャア!?」

 アーチャーの女性プレイヤーの一撃であっさりと倒されていた。齟齬数回にわたってやってきたが、自分が見つけてアーチャーの女性プレイヤーが叩き落とすという流れですべて倒せている。

「目が良いんだな」「早めに見つけてくれるおかげで、余裕をもって撃ち落とせるわ」

 レベルが上がった事で、〈百里眼〉の一部が解放されたのかも。洞窟を出てから、結構遠くが見えるようになっている。この目も武器の一つなので、ある程度であったとしても解放されたのはありがたい。さて、他には……

「あの。こちらから時計の二時ぐらいの方向に複数のオーガがよりマッチョに進化したような連中を確認。あれが力自慢でがけから突き落としてくる連中ですか?」

 この自分の報告に、前衛の四人がびくっと震えたのを自分は見逃さなかった。どうやら、間違いない様だ。前衛四人は散々叩き落されたんだろうな……一種のトラウマになっていると推測できる。

「やっぱり来たのか……もう落ちたくない落ちたくない落ちたくない」「高所恐怖症になったらワンモアは責任を取れ!」「アイツコワイアイツコワイ」「もうやだ、ボディスラムからのジャイアントスィングで投げ捨てられるのは嫌!」

 前衛四人が壊れた。落ち着くまで待つほかないだろう──そして多分四分弱ぐらい後。どうにか彼らは落ち着きを取り戻した。

「済まない、落とされた時の事を思い出していた」「フラッシュバックした」「もうトラウマだよちくせう」「サーズ坂道の恐怖再びよ……」

 落ち着いたものの、明らかに顔色が良くない。しかし、あのマッチョっぷりからすると遠距離攻撃だけではまず倒せないだろうな。ある程度削る事は出来るだろうが……今の前衛陣が先ほどの洞窟までと同じ動きが出来るかは甚だ疑問が残る。恐怖心やトラウマで、ちゃんとした判断が出来ない可能性が高い。

「それでも進むしかありません。でも、できるだけ避けたいですね」

 魔法使いの女性プレイヤーの意見に同意する。ただ、どっちに行けば次のエリアに入れるのかがまだ分からない。とにかく、あいつらのいる方向とは別に進んでみることにしよう。それで道が見つかれば良し、見つからなければ──覚悟を決めてもらう他ない。

「ほら行くわよ、とにかくできるだけ回避して進むようにするから」

 アーチャーの女性プレイヤーの言葉に、本当に渋々と言った感じで前進を再開する前衛陣。ただその足取りは明らかに重い。相当なトラウマによる重圧を彼らは感じているんだろう。無論、それを笑うつもりなどない。下を見たが、真っ暗な世界しかなかった……あんな場所に投げ捨てられるのは相当な恐怖を覚えるのが普通だ。

 無論ある程度表現は柔らかくしてはいるのだろう。だが、それでも怖いものは怖い。命綱などない状態で、高台からそこが見えない所へと付き落とされるのだ。一回でも味わったら、恐怖で足がすくむ人も大勢いるだろう。自分もそうなってもおかしくない。

 なので、彼らが少しでも楽に進めるようにマッチョなオーガを避けて進む。しかし、先に進む道が見つからない。やっぱり、覚悟を決めてもらうしかない、か。しかし、どうやって口にした物か。

「ほら、これ以上援軍の彼を困らせないでください。これだけ探して出来具が見つからないのです、今回はオーガを倒すしかないですよ」

 と、魔法使いの女性プレイヤーが自分の考えを読んでくれたのだろうか……オーガを倒すしかないと口にしてくれた。ありがとうと小さく頭を下げると、彼女もいえいえという感じで微笑んでくれた。

「やっぱり戦わなきゃならないのか……後衛の皆、できるだけ近づかれる前に削って欲しい。接近戦で戦う時間が短いほど、事故が起こる可能性を減らせるからな……」

 半分死んだような目で、両手剣使いの男性プレイヤーが発した言葉に自分を含めた後衛武器持ちのプレイヤーは頷いた。

「女は度胸よ! 今度は私がアイツらを地獄に叩き込んでやるわ!」

 半分自棄になったような感じの格闘攻撃で戦っている女性プレイヤーが声を出しながら気合を入れていた。ただその気合の入れ方が、両頬を殴ってから首を掻っ切ってやるのジェスターだったんだよね。プロレスが好きなんだろうか……ちょっと怖かったのは秘密である。なんにしろ、ここから先に進むためにはあのオーガと戦って、その先の道を進むしかない。

 こうして、まるで決死隊のような雰囲気を漂わせる前衛の面子と共に、オーガに向かって進みだした。何とか彼らを少しでも楽させるような支援をしないと……
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