とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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罠とモンスターと宝箱

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 洞窟に入って、厄介な罠が増えた事は分かったが……モンスターの方は河原との違いはそう無い様だ。河原に出てきたゴブリン達の順当なパワーアップした存在が襲ってくるのだが、倒すのに苦戦するといった感じはしない。まあ、これは河原で手に入れた鋼のスネークソードのお陰なのかもしれないが。

 更に洞窟に入った事で、鋼鉄製の武器、スケイルメイルやチェインメイル、プレートアーマーなどの重鎧、軽鎧が次々と見つかり前衛の攻撃力、耐久力は大きく上がっていた。モンスターからの攻撃をたまに受けるが、大したダメージは受けていないようだ。もちろん何度も食らえば危ないだろうが、同行者たちはそんな間抜けではない。

 レベルも上がって十五となり、こちらの戦力は確実に強化されている。いい感じだと思っていた所に、自分の鼻に違和感のある匂いが届く。

「なんか、火薬のような匂いが……」「何か、焼けるようなにおいがする」

 前が自分、後ろがアーチャーの女性プレイヤーの発言だ。自分と女性プレイヤーはお互いを見合って、共に頷く。この先に、何か仕掛けがある。

「止まって。この先に爆発物関係の仕掛けがあるみたい。私と援軍の彼が爆発物特有の匂いを感じ取ってる。このまま無策で前に進むのはやめた方が良いよ」

 彼女の発言で、前衛も進みを止める。

「どうする? ここに来る前にいくつかの道はあった。そっちに行くべきか?」「爆発系の罠は、対策が出来る物が無いと一気に全滅もあるからな」「ああ、四回目だっけか? 部屋自体が爆発の罠で、スイッチ押したら一瞬で全滅したなぁ」

 どうやら、すでに苦い経験をしたことがあるようだ。そうなれば、当然引き返すか前に進むにしても何らかの対策を考えるかになるな。

「引き返して他の道を探そう。そっちで先に進めないとなれば、この先を通過する手段が必ずあるはずだ」「詰みの状態だけは極力つからないからな、ここ。大抵やられた時は判断ミスだし」

 と言う事で、引き返して他の道に進む事に。無難な選択だろう……そうなると問題は他の場所を調べても先に進む道が見つからなかった時だが、それはあとで考えよう。いくつかの部屋を見つけ、モンスターを倒し、戦利品を手に入れてというサイクルに戻ってから四つ目の部屋に前衛が足を踏み入れたその瞬間だった。

「しまった!」

 タンカー役の男性プレイヤーが突然大きな声を上げた──と同時に、強制的にワープするような形で部屋の中に全員が移動させられた。出入り口が全て岩で塞がれ、先ほどまで部屋の中にいなかったはずのモンスターが突然部屋の中に多数現れた。これはモンスターハウス! 厄介なトラップだ!

「全員まずは動くなよ! 誰かが焦って行動すれば取り返しがつかないぞ!」

 両手剣使いの彼の声に従い、攻撃したい感情を押さえつける。さて、冷静になって考えよう。ローグライクにおけるモンスターハウスの対抗手段は、一つ目が部屋から出る事。二つ目がアイテムを使う事。もちろん圧倒的な実力があればごり押しもできるが──さて、部屋から出る事は出来ないので一番目は却下。ごり押しもちょっとな。だからアイテムを使うべきだな。

「アイテムを使いましょ、ここで使わなかったらいつ使うのよ!」「そうだな、俺も使っていいと思う。地刃を使って全体を削って後は各個撃破でいいと思うぞ」「だめだ、遠距離攻撃が出来る奴らがいる。そいつらが弱ったモンスターを攻撃してとどめを刺されてレベルアップされたら厄介過ぎる! 昏睡を切るべきだ!」

 全員でアイテムを使えば──は許されない。攻撃は全員一ターンに一回ずつできるが、アイテムは一ターンにつき一回しか使えないという制限が課されているとの事で何を切るかで少しもめているのだ。

「しかし、昏睡はこの先を見据えて温存したい」「気持ちはわかるけどさ、温存して結局使わないままやられましたになりそうな状況よ? 撤退できない状況である以上、一番強力な物を使うべきよ」

 お互いの言い分は分かる。何方も間違ってはいない……けど、最終的には何かの札を切るしかないのだ。

「爆弾魔のボンバーオーガがいれば昏睡一択なんだけど……あ、ボンバーオーガってのは爆弾を投げてくるオーガみたいなモンスターを私達がそう呼んでるの」

 と、魔法使いの女性プレイヤー。そんなモンスターもいるのか、危なすぎるだろう。しかも洞窟で爆弾って……現実でやったら崩落間違いなしだ。まさにゲームだから出来る事の一つだな。

「なあ、俺達じゃ決められない。そちらから何か意見はないか?」

 話が纏まらないので、ついにこっちに振られた。モンスターを見渡すと、殺気マシマシでこちらをにらみつけている。いや、もしかしたらさっさと行動しろよと責め立てているのかもしれない。そうだとしたら申し訳ない。

「昏睡を切るべきでしょうね。ここで事故って一人か二人落ちたらこの先が辛いですよ? 蘇生アイテムはめったに落ちないって話ですし、確実性を重視した方が良いかと。確かに温存したい気持ちは分かりますが、この状況でケチったら後悔すると思いますが」

 モンスターに睨まれつつ、自分の意見を述べる。どうやら自分の言葉で彼らは昏睡を使う事を決断したようだ。叩きつけられた呪力石から昏睡の効果が部屋に広がり、モンスター達は次々と眠りに落とされていく。

「寝ているうちに一匹でも多く減らせ! ただ、モンスターハウスには罠が多く仕掛けられている可能性が高い! 焦って罠のチェックを怠り、地雷を踏むような事が無いようにな!」

 大太刀使いの男性プレイヤーの言葉を切っ掛けとして、行動を全員が開始した。寝ている相手なので攻撃が外れる事はない……と思いきや、予想外の寝返りなどで攻撃を失敗する人が数人いた。なるほど、ローグライクゲームで寝ているモンスターに攻撃ミスをするのはこう言う事なのかと少し納得してしまう。嫌な事だけどさぁ。

 それでも何とか、昏睡の効果が切れるまでに部屋の七割強のモンスターを排除できた。残ったモンスターは飛び道具を使う連中だが、毒などは使ってこない連中うばかり。今の前衛なら攻撃を受けてもほぼノーダメージにできる。後は慎重に罠を確認しながら距離を詰め、確実に始末した。

「よし、終わったな。お疲れさん」「後は宝箱から何が出るか……昏睡が補充できれば一番いいんだが」「誰も欠ける事なく乗り切れてよかったわ」

 戦闘終了後、軽い労いの声を掛け合っていると部屋の中央に宝箱が現れた。何というか、ずっと前にやった死者の挑戦状だっけか? あのイベントを思い出すな。

「──なんだこれ、宝箱に鍵がかかってるぞ」「マジか!? 嘘だろおい……宝箱をぶっ壊すしかないのかよ」「下手に壊すと中身が大幅に減るのよね……」

 どうやら、鍵開け能力が彼等にはない様だ。だが、ここに来るまでに手に入れたアイテムのの中にロックピックらしきものが無かったか? 幾つかそれっぽいものを拾った記憶があるんだが。

「ちょっと待った。宝箱を壊す前に今持っているアイテムをちょっと確認させてほしい」「ん? そりゃいいけどよ……何をするんだ?」

 許可を取ってアイテムを確認する……あった、普段使う道具には程遠いけど、ピッキングに使えるアイテムが四っつほどある。この宝箱の鍵のレベルがいかほどか次第だが、何とかやれそうだ。

「この四つのアイテムを使わせてほしい、これは鍵開けに使うアイテムだ。鍵開けが出来な勝った時は、宝箱を破壊して中身を取り出そう」「鍵開けできるの!? だったらお願い、私達は全員その手のスキルを持ってないのよ」

 アーチャーの彼女の言葉に頷いた。やっぱり彼らはこの手の技術は持っていなかったらしい。アイテムを手にして宝箱の鍵開けに挑む。ふむ、レベルはそう高くないな。これなら十分に行けそうだ──よし、行ける。鍵の開く音がかすかに聞こえた。鍵開けは成功だが……これ、罠も付いているな。罠が付いているのは、やはり自分が参加しているからだろう。

「鍵は開いたが、また罠が残ってる。もう少し待って欲しい」「ああ、構わない。俺達は静かにしている」

 同行者たちに振り向きながらそう口を開くと、タンカーの男性プレイヤーから許可が出た。それに頷いて罠の解除に移る。ふむ、この罠は不用心に宝箱を開けると針が飛び出す仕組みだな。針が飛び出すって事は、その先端に毒が塗られているとみるべきだろう。だが、その機構はちょっと雑だな。動作しないようにするのはそう難しくない。

「よし、行けた。開けるよ」

 罠を解除し、宝箱を開けるといくつもの装備や呪力石が入っていた。更にはポーションが二つに、日本の売られているお守りの様なものも確認できた。

「おお! ナイス!」「シーフはこういう時にいると本当にありがたいよな」「装備がいっぱい、更にお守りまで! あ、解放の呪力石まである!」

 中身を吟味する同行者パーティ。この宝箱を開けた時に出てきたアイテムに一喜一憂する瞬間は久々だ。さて、では装備して鑑定の時間だな。呪われていても先ほど手に入った解放の呪力石で呪いを消せるとの事なので、遠慮なく装備して良いという話だし。さて、当たりはあるかなー?
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