とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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試練の場は移り変わる

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 幸いここはローグライクシステムで動いている状況下なので、向こうも突然襲い掛かってくることは無い。無いが、こちらも行動できる回数は限られる。次の一手を間違えば、こちらも手痛いダメージを受ける事は間違いない。だからこそ、次の一手の重要性は重い。

「俺が抑えるか?」「無理だ、装備が整ってない以上いくらタンクと言えでも大ダメージは避けられない!」「むしろここでタンクが大ダメージを受けるのはまずいわ、何かしらの事故で落とされかねないもの」

 タンクの人の提案に、即座にノーが出る。自分も同意見だ、装備がある程度整って相応の硬さがあるならいいが今はまだそう言うレベルじゃない。スキルもまだまだ封じられている物が多いのだから、タンクとしての仕事もやりにくいだろう。

「アイテムを使った方が良いでしょう、温存しておきたい気持ちは分かりますが、ケチってやられる方が愚策です」「ああ、俺もそうすべきだと思っていた。錯乱か昏睡を使うべきだろう」「錯乱はちょっと怖いわね、同士打ちでモンスターがモンスターを倒したら急速に進化して状態異常が解けてしまうし」

 ああ、そう言う仕組みもやっぱりあるんだ。恐らくこの時点で進化したモンスターを相手取ったらまず勝てないだろう。無論倒す方法はあるんだろうが……有名な技、お金ぶん投げによる大ダメージという手段は使えない。というか、お店とか一切ないそうでお金も全く落ちないそうだ。

「じゃあ、昏睡を使う。使ったらとにかく攻撃して殲滅しろ! いいか? 三、二、一、使用!」

 タンカー役のプレイヤーが、昏睡の呪力石を地面に叩きつけると白い霧が周囲に立ち込めて──数秒後、モンスター達は全員地面に転がって眠りこけていた。当然そこに総攻撃だ。睡眠が解ける前に全滅させたい。そんな願いは無事に叶い、五匹の呼び出されたゴブリン達をせん滅。全員のレベルが一上がった。

「良かった、殲滅できた」「というか召還トラップ出てくるの早すぎんよ。容赦なさすぎだわ」「冷や汗をかいたぞ……」

 無事に戦闘が終了し、全員で胸をなでおろした。現れた連中は一撃が重い奴、毒持ち、トリッキーなやつと揃っていたから、判断をしくじっていればひどい事になっていただろう。その様な事態を招く前に殲滅できたのは本当に良かった。

「しかし、切り札になりうる昏睡を使ってしまったな……」「仕方ねえ、命あっての物種だ。援軍の来てくれた人の言う通り、ケチってやられたら間抜けすぎるしな」

 さて、とにかく危機を切り抜けて地面を確認すると、そこには一本の剣が落ちていた。先ほどのゴブリンのどれかが落としていったのだろう。同行者の両手剣使いの同行者が拾い上げる。

「ふむ、片手剣……じゃないな。これ、スネークソードだな」「じゃあ、自分でしょうか? 他に使い手の方はいませんよね?」

 一応確認した後に、スネークソードを受け取る。ふむ、最初はスネークソード? と表記されるのか。装備したら小隊が分かるってパターンかな。さっそく身に着けてみると、表記が鋼鉄のスネークソードに変わった。+修正も-修正もなしか。まあ、-修正がかかっていたら呪われているんだろうが。

 攻撃力は六か。でも今まで使っていた初期配布品は一しかなかったのだから大幅に強化された事になる。これなら自分も火力を出せるようになるだろう。

「特に呪いとかもなし、特殊能力もなし……ですが攻撃力は鋼鉄なのでそれなりにある感じですね」「お、鋼鉄引けたか。中盤までは何とかやっていける奴だな」

 なるほど、じゃあこれで十階前半まではやれる獲物ってことか。序盤に火力のある武器を拾えると楽になるのもローグライクのお約束かな。そこから先は、さらに良い物を拾うか強化していくかって感じになるんだろう。

 そこから先はこれといったトラブルはなかった。時々同行者が罠を踏んで木の矢が飛んできたり、モンスターが複数襲ってきたりもしたが十分に余裕を持って対処できた。河原エリアが終わる直前のチェックでは、全員のレベルが一二まで到達し、全員の武器が初期武器を脱出できていた。まあ、自分のように鋼鉄製を拾えた人もいれば、木製と初期武器とほぼ変わらない物しか拾えなかったなどの差はあるが。

「トラブルは序盤にあったが、それ以降は安定していたな」「食事をしたら次に行きましょうか。次は洞窟エリアです、ここみたいに周囲を見渡す事は出来ないのでモンスターの接近はかなり近くまで寄らないと分かりません」

 洞窟か……ここから難易度を大きく上げてきそうなんだよな。

「それと、罠に地雷とかもでてくる。地雷は踏むと体力を一気にもっていかれる危険すぎる罠だ。タンカーが持てる地雷防御の大楯が手に入ればかなりマシになるんだが……運しだいだな」

 ここまでは、直接ダメージを与えてくる罠は木の矢の罠だけで、当たっても大したダメージにはなっていなかった。だが、地雷となればそうはいくまい。やっぱり、ここからが本番なんだろう。

「その分出てくるアイテムの質もぐっと良くなってくる。洞窟でできる限りいいアイテムを拾えることを祈りたいな」「最低限全員の防具とタンカーの大盾、火力の良い武器が欲しいところよね。後弓の呪いを解かないといけなかったわ」

 そう言えば、アーチャーの人の弓は呪われていて外せなくなっていたな。良いものが出ても呪われていたんじゃ身に付けられない。そうなる前に呪いを解くアイテムが出てきて欲しい所だ。

「食事は皆済ませたな? では行くぞ。ここから先は一回の判断ミスで全滅もありうる。慎重に行こう」

 大太刀使いプレイヤーの言葉に自分は頷いてから先に進む。そして進んだ先は……まさに洞窟。ちょっとした小部屋と言った感じの広さがある。落ちているアイテムはなく、モンスターも確認できない。一方で三つある通路の先は真っ暗で見えない。普段なら見えるぐらいの暗さなんだがなぁ。

 とりあえず通路の一つに進む。通路は三人が横並びで歩けるぐらいの広さ。そこまで窮屈さは感じない。それでも視界が悪すぎるため、通路の先はほんのちょっとしか見えないな……これでは確かに、モンスターの接近はぎりぎりまで気が付けないだろう。通路を曲がった先で鉢合わせと言う事も十分ありうる。

 とりあえず、この通路にモンスターはいなかった。次の洞窟の小部屋の中には、何かの呪力石と思われるものが二つ転がっていた。それ以外にはなにも見当たらないが……レベルが上がった事で〈義賊頭〉の能力の一部が解放されたのだろうか? この部屋からは嫌な感じがする。

「ちょっと待って欲しい。なんかこの部屋……嫌な感じがする。あそこにあるアイテムを拾うのなら、十分に注意を払って進んだ方が良いと思う……」

 自分の言葉に同行者たちは皆お互いを見合って……頷いた。

「分かった、罠が無いかを確認しながら進もう。何もないならそれでいいのだからな」

 タンカー役の彼を先頭に、武器で罠が無いかを確かめつつ進む。ゆっくりと呪力石の近くまで来たその時。罠が見つかった。それも複数。呪力石の近くに地雷が三つ、モンスターを呼び出す罠が二つ隠されていた。これを、レベルが上がった事でごく一部だが能力が解放された自分の〈義賊頭〉が感じ取ったのだろう。

「うわ、容赦ない罠配置だ」「のこのこアイテムを取りに行っていたら地雷を踏んでいただろうな」「地雷を踏めば周囲にあるアイテムは破壊されてしまう……更に地雷は連鎖して爆発するからな。全滅していたかもしれない」

 おいおい、地雷が連鎖して爆発ってしていいのか? 自分の知る限り、地雷にはそんな特性はないはずなんだが……ここにある地雷限定の特性と言う事にしておこう。恐らく彼らはそれを味わった事があるから口にしたんだろうし……自分は経験するなんて御免被る。

「なんで分かったの?」「分かったというか、こう、何というかすごく嫌な感じがした。アニメなんかに出てくる泥棒とか怪盗が理屈じゃなくって勘で罠を感じ取って回避する、みたいな感覚だと思う」

 同行者の格闘家からの問いかけにはそう返した。表現としてはまさにそんな感じだったんだよね──歩き出そうとしたその瞬間に、違和感を覚えて踏み出しかけた足を戻して周囲を観察し始めるときの様な……

「もしかして、盗賊スキル持ちか? そう言うプレイヤーなら、勘で罠を察知してもおかしくないな。遠慮せずに次からも言ってくれ。外れても文句なんか言わないぞ」

 両手剣のプレイヤーの言葉に頷く。いつものようには行かなくても、こうして危険に気が付けるのであればローグライクにおいて破格と言える能力だ。自分だって失敗したくはないから、嫌がられても言うつもりだったんだが……それでも同行者が言ってくれと口にしてくれた方が気が楽である。

 なんにせよ、罠を避けて二つの呪力石を獲得することが出来た。片方は河原で使ってしまった昏睡、もう片方は地刃の呪力石(じじん、と読むらしい)。地刃の呪力石は、叩きつけて破壊する事で敵対者に対して地面化は急速に生えてきた刃がモンスターを切り刻む範囲魔法みたいな物らしい。

(後半のモンスターには火力が足りないんだろうが、中盤までなら十分に状況を打破できるって感じかな?)

 だが、手札が増えた事は間違いない。だからこそ、罠を仕掛けておびき寄せるような配置を行ったのだろうが──とにかく洞窟の滑り出しとしては上々だろう。この調子を維持したまま、この試練も突破したいところだ。
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