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試練突破

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 走り始めて数分、罠などの妨害要素は一切ない一本道の通路を走り続けている。一体この道は何時まで続くんだ? いい加減ゴールが見えてきてもいい所なのだがまだゴールの鳥かごは見えてこない。

「くそ、どこまでこの道は続いてやがる! 崩壊の音が迫ってきてるってのにまだゴールが見えてこねえ!」

 同行者も同じ感想を抱いたようだ。だが、今できる事はただひたすらに前に向かって走るだけ。そう考えてひたすら走っていた自分達に、ついに崩壊が迫る。

(く、崩壊に追いつかれる!)

 一回だけ後ろを振り返ると、自分達の多分四十メートル前後付近が崩れていっている。このままでは追い付かれてしまう……と、そのタイミングだった。

「見えたぞ、ゴールの鳥かごだ!」

 同行者の声に反応して前を向くと、確かに遠くに鳥かごがぶら下がっているのが確認できた。やっと見えたか……だが、後ろの崩壊は確実に迫っている。間に合うか微妙な距離だ。

「とにかく走れ走れ走れー!」「了解!」

 同行者の声に短く答え、歯を食いしばって走る。もう崩壊の音はすぐ後ろにまで迫っている、後ろを振り向いて確認する必要はないほどに。だが、今までの経験からくる直感で分かってしまった。

(多分間に合わない!)

 風神と雷神戦で、予想以上の時間を使ってしまっていたようだ。このままでは……仕方がない。

「真同化、済まないがまた頼む!」

 真同化の残滓を呼び出し、鳥かごに向かって先端を飛ばす。先端が鳥かごの端にたどり着き、何回も巻き付いて固定したことを確認してから同行者の手を掴んだ。

「何をしたんだ!?」「このままでは間に合わない! だからちょっとした技で一気にあの鳥かごに飛ぶ! しっかり手を掴んでくれ、行くぞ!」

 同行者の返答を待たずに、真同化の残滓を使ってのワイヤーアクション。空を駆けて鳥かごへと一直線。ちらっと後ろを見ると、先ほどまで自分達が走っていた場所はすでに虚空に飲み込まれており、判断があと少し遅れていたら間違いなくあそこに落ちていただろう。

「おおおおお!? なんだかわからんけどすげえ!?」

 同行者が真同化の残滓によるワイヤーアクションに奇声を上げていた。そして鳥かごに到着したら、素早く中に入る。これでこの試練も終わりだろう。一応この鳥かごをチェックしたが罠の類はない。後はゴールまで登っていくのを待っていればいい。鳥かごの下に広がる世界は完全に虚空の世界になっており、時間切れを告げていた。

「──間に合ったのが信じらんねえ。アンタがいなきゃ間違いなくダメだったな。他の連中はどうなったか……だが、とにかくこれで詰まっていた試練をやっとクリアできたって事だけは間違いねえ。先に礼を言っておくぜ、本当に助かった」

 そう言って頭を下げてきた同行者に、こちらも軽く会釈をして応えた。やがて鳥かごがゴールにたどり着き、自分と同行者は降りていつものようにゴールできた人のみが入れるエリアに足を踏み入れた。

「誰も居ねえな……」「ですね」

 もしかすると、まだ鳥かごで登ってきている途中の人がいるかもしれない。そう自分が考えた瞬間を見計らったように、クリアできなかった部屋にいる人達との通信がつながった。向こうは五名……つまり、そう言う事か。

『おおおおお! 遂にクリアか!』『やっとクリアだ、これで先に進めるぞー!!』『クリアグッジョブ!』

 向こう側からは、そんな称賛の声がいくつも飛んできた。そして、最初この試練にやってきた時と同じように一枚の紙が降ってきたので手に取ってみる。


 今回の試練をクリアしたと認める

 試練を受けていた六人はこの後現れる扉をくぐれば先に進める。

 援軍は退去する形となる。もちろん試練を突破させたのだから五階分の進捗とさせてもらう。


 どうやら、クリアしたのは間違い無い様だ。なかなか厳しかったから、これでクリアできていないという判定が下ったらたまった物ではなかったが……なんにせよ、無事に終わってホッとする。と、ここで最後に同行した軽鎧の同行者が握手を求めてきた。

「素晴らしい援軍だった。援軍のシステム上名前を聞けないのが残念だが──アンタが来てくれて本当に良かった。もしこの塔のどこかで会う事があったら、今度はこっちが出来る範囲で協力させてもらうよ」

 自分は頷き、彼の握手に応えた。これで彼らも先に進める。彼等もこの塔の頂上までたどり着く事を応援させてもらう。もちろん、応援するだけでなく自分もしっかりと上らなきゃいけないが。

「その時が来たときは、遠慮なく頼らせてもらいます。お互い、塔の天辺にたどり着くまで頑張りましょう」

 握手を終えると、通信越しに──

『本当にありがとな!』『一緒に戦えて楽しかったぜ、また会えたらよろしくな!』『本当に助かった、感謝する!』『素晴らしい援軍だった、ありがとなー!』『本当に、俺達で力になれる事があったら遠慮すんなよ! 名前は分からなくても俺達の兜を見ればこっちの事が分かるはずだ!』

 と、五人からも各自感謝の言葉を貰った。援軍を無事終えることが出来たな、というのはこの瞬間が一番強く感じるね。そして、扉をくぐっていく彼らを見送りながら自分は退去。いつもの彼の場所へと戻ってきた。

「今回も見事だった。あと残りは五階分だ、それで試練も終わる。今日はもう休むと良いだろう……それと申し訳ないのだが、次に援軍として出向いてもらう先は相当な難易度の場所となっている。しっかりと休息を取り、心身ともに充実させてから来て欲しい」

 なんてことを言われた。そうだな、こちらからも一つ質問を振ってみるか。

「了解です。それと一つ質問なのですが……援軍として動ける人はあまり増えていないのですか? こちらが得た情報からしますと、需要はかなり多そうなのですが」

 この自分の質問に、彼はややしかめっ面になりながら答えてくれた。

「正直、要望が多すぎるな。無論容易く進めないようにする為の試練なのだが……相性が悪い、どうしても後一手が足りない、そう言った理由で先に進むごとが困難な状況が多い事は認めよう。だが、主からは難易度を下げる事だけはまかりならぬ、それでは試練にならぬという言葉を貰っているからな──だからこそ、援軍が欲しいと言う事に繋がるのだが」

 ああ、そう言う緩和は入らないようにされている、と。そうなるとやっぱり援軍として動ける人を増やしたいところだなぁ。

「こっちも一定の査定をしないとならないからな。援軍として送ったはいいが、その結果足を引っ張るような展開を迎える展開を招くのはもちろん論外だ。それに前も言ったかもしれないが、力だけあってもダメだ。援軍で出向いた先で争ったり、揉め事を起こしたりする可能性が高い者を送り込むような事は出来ない」

 この査定が大変そうなんだよねぇ。だから援軍として出向くのにふさわしい人物がなかなか増えない。が、彼の言う通り援軍が足を引っ張ったり揉め事を起こすような事があってはならないというのも正しい。あくまで手伝いに行くのに、逆の事をしてどうするんだという話である。

「その結果、遅々として増えないというのが現状だな。なので、この試練を突破しても時々でいいから援軍として動いてくれると非常に助かる。もちろん試練を突破すれば五階層の進捗とさせるのは同じだ。ぜひ検討して欲しい」

 お願いではなく懇願の色が濃い。だが、それを直接口にすることはおそらく上から止められている……という雰囲気を持った営業の人と同じ雰囲気を感じた。まあ、普通に進む方が塔の攻略速度としては早くなるから、そっちの意味でも口にはしずらいか。

「分かりました、とりあえず今は休息を取りますね。教えて頂きありがとうございます」「いや、こちらこそ聞いてもらえて助かった。あまりこういう話は出来なくてな……」

 お疲れだねぇ……とりあえず今日はこのままログアウト。援軍として働くのはまた明日だ。
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