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六つ目の部屋

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 六つ目の部屋に向かう途中で、音が聞こえてきた。聞き間違うはずもない、このフロアの崩壊が始まった事を知らせる音だ。

「時間は、もう残り少ないか」「次の部屋をさっさと終わらせないとまずそうだな、急ぐぞ!」

 六つ目の部屋に駆け込むと、部屋が封鎖される。そして天井からゆっくりと霧が降りてきて手前が見えなくなり──霧が晴れるとそこには氷で作られた風神と雷神の像が現れていた。

『試練を告げる。我らを見事打ち倒して見せよ』『我らがこの階層の最後の護りである。見事、越えて見せよ』

 どうやら、この部屋は隠しも騙しもない純粋な勝負の場である様だ。ならば、こちらも全力で応えるのみ。でも一応チェックして……

「罠の類は一切なし、向こうも真っ向勝負をお望みの様です」「それが分かればいい、時間もないんだ、一気に押し通るぞ!」

 そこからは流れで、自分が雷神。そして同行者は風神の像を相手取る形となった。でも、これでいい。雷神の像は雷を用いた攻撃をしてくる事は予想をするまでもない。そうなると、金属製の鎧を着ている同行者では辛い展開になる。感電によるダメージや麻痺などが引き起こされるからだ。

 無論、ここに来ている猛者が対策を全くしていないなんて可能性はないとは思うが、それでも金属系統の鎧を身に着けていない自分が対処した方がベターなのは事実だろう。レガリオンを右手に、八岐の月を左手に持つ変則二刀流のスタイルを雷神の前で取る。

『我を相手するのは貴殿か。こい、先に進み事を成せる器であるかどうかを見せてもらうぞ』

 そう言うが早いか、雷神の像から複数の雷撃が放たれる。だが、比較的遅かったので自分は余裕をもってすべてを回避し、レガリオンによる近接戦闘を行うべく距離を詰める。

『ならば、これはどうだ?』

 今度は頭上から幾つもの雷撃が次々と落ちてくる。だが、この程度の攻撃なら師匠に付けてもらった修行の方がはるかに厳しい。これらもすべて余裕をもって回避し、自分は雷神の像の腕部分辺りに狙いを定めてレガリオンで斬りかかる。レガリオンの刃は氷でできた雷神の像の腕をある程度削り取ったが、大きなダメージを与えられた感じはしない。

 ならば連続で攻撃するのみ、と考えたが──雷神の像から新たな攻撃の気配を感じ取ったのでバックステップで距離を取る。直後、雷神の像が雷を壁のように形成しながら発射してきた。そう言うカウンター攻撃も持っていると……が、それならばこちらは八岐の月の射撃攻撃でその壁を討ち貫くのみである。

 ドラゴンの矢を取り出し、レガリオンは真同化の残滓で空中に固定して八岐の月に番えて放つ。雷の壁を矢は容易く貫通し、雷神の像に突き刺さった音が聞こえてくる。二射、三射。相手が像故に動かない為、外すはずがない。

「雷を盾にしたところで、意味などない! 他の手が無いならこのまま撃ち抜かせてもらうだけだ!」

 なんて言葉を吐きつつ、攻撃を継続する。このまま終わるとは思えないので、さっさと相手に次の手札を切らせたい。何せもうこのフロアの崩壊は始まっているのだ。まだ音は遠かったが、確実に迫ってきている事もまた事実。もたついてはいられない。無論、相手にこれ以上の手が無いなら言葉通りに撃ち抜かせてもらうだけだ。

『ならば、これでどうだ!』

 雷神の像は雷の壁を消し、像から飛んでくる雷撃と上から降ってくる雷撃を組み合わせてこちらを追い詰めようしてしてきた。が、まだまだ温い。たまに飛んでくる避け難いタイミングでやってくる雷撃は矢による射撃で相殺しているし、攻撃の継続には何の支障もない。

「この程度の雷撃、師との修行に比べれは児戯に等しいと言わせて頂こうか!」

 強がりでも何でもない。こちらの射撃の手数は全く減っていないし、命中率だって落ちていない。雷神の像もそれは分かっているはずだ。さて、本当にこれ以上何もないのか? このまま終わるというのであればそれもまたよし。さっさと倒して風神の相手をしている同行者の手助けに行くだけだ。

『──なるほど。言うだけはある。ここまでの道のりを越えてこの高さまで来るだけはある。ならばこちらも、本気で相手をするに足りると判断してよかろう』

 動かなかった雷神の像が、動き始めた。像からアイスゴーレムになったという感じか……見た目が雷神というだけで。さて、それよりも本気で相手をすると明言してきたのだ。しっかりと相手を見ないとな。こちらに向けて強い気を向けてくるようになったし、本当に本番はここからと言う事なのだろう。

『では行くぞ? 不意を打ったなどと言われるのは心外だからな、心の準備をしろ』「その様な事は言わない、試練を続けてもらいたい」

 雷神からの言葉に返答を返すと、雷神の像がわずかに笑ったように見えた。その直後、雷神は雷撃を放つと同時にその巨体に見合わない速度で自分へと突撃してきた。ならば、自分は雷撃を矢で相殺した後に雷神に向かって八岐の月の爪による近接攻撃を行う。

『むうん!』

 雷神はその太い氷の左腕によるパンチを繰り出してきた。こちらはその腕を回避しつつ、反撃として腕の側面に爪による斬撃を上から下へと振り下ろす形で叩き込む。少々耳障りな音と共に、四つの傷跡が雷神の腕につけられる。

『ぬう!?』「もう一太刀!」

 更に今度は下から上に振り上げる形で爪を当て、更に傷を刻んだ。これは少々効いたのか、雷神は左腕をひっこめる。そして、代わりと言わんばかりにこちらに向かって左足によるローキックを叩き込もうとしてきた。そのローキックを自分は縄跳びの感覚で飛び越え、真同化の残滓で固定していたレガリオンを再び右手に握って雷神の胴体を狙った斬撃を放つ。

 この斬撃は当たりはしたが、浅いと感じた。有効打にはなっていない。何というか、柔らかめの壁で威力を減衰させられたような手ごたえを感じた事から、何らかの防御手段を雷神が発動させたのだろう。雷神が後ろに下がりながら雷撃を幾つも放ってきたので、自分は当然再びレガリオンを真同化の残滓で空中に固定し、矢による攻撃を放って雷撃を切り裂きつつ攻撃をあてる。ここで休ませるつもりはない。

『ぬう! 加減無しの雷撃ですら切り裂く矢か!』「ドラゴンと龍の力まで借りている以上、無様な負けは許されてないんですよ!」

 八岐の月、そして矢。それらを扱う技量。何方もドラゴンや龍を始めとした多くの人の協力があってこそ手に入れることが出来た逸品であり力だ。それを使っている以上、たとえ雷神であったとしても易々と負けるような事は許されない。むしろ負けたら自分が自分を許せない。更に、これは雷神本体じゃなくて氷の像、ゴーレムに過ぎない。そんな相手に負けたとあっては──恩人たちに顔向けができない。

『ならば、これでどうだ! 我が渾身の一撃を受けてみよ!』

 そう口にしつつ、雷神は数多もの雷撃を一つにまとめ、極太の雷撃として自分に放ってきた。その雷撃を自分は矢を同時に五つ番えた八岐の月による射撃で押し返す。多少の余波こそ来たが、自分に対してなんのダメージも与えることなく雷撃は消し飛んだ。これぐらいできなきゃ、砂龍師匠に申し訳が立たん。

『──あの一撃を、矢による攻撃でたやすく消し飛ばすか』

 一方で雷神の像はそんな言葉を口にすると、ゆっくりと胡坐をかいて座った。それと同時に、自分に向けていた気も消え去っていく。終わりにする、と言う事で良いのだろうか。

『見事だ、あの雷撃すら無傷でやり過ごせるだけの技量を持つことを見せてもらった以上、先に進む資格があると判断した。故に、我は負けを認めよう。首を落としたいのであればするがいい』

 負けを認めて戦う意思を見せなくなった相手をわざわざ切る趣味はないからなー……無論、相手が悪党であれば容赦なく斬りおとすが。その手の連中は降参したと見せかけて、こちらが背中を向けたりしたら襲い掛かってくるという手段をよくやるからな。そんな形でやられる事の無い様にできるときに殺っておくのだ。

「負けを認めたのなら、それ以上はこちらもやりませんよ。無抵抗の相手の首を斬り落とす趣味もないですから。さて、そうなると後は風神側だが……」

 視線を向けると、向こうもほぼ終わっている状態だったようだ。風神の像は左腕を斬りおとされており、右足もズタズタにされていた。風神の動きは明らかにぎこちないものになっており、このまま戦闘を続けたとしても風神側がやられる一方になるだけだろう。

『見事だ。ここまで我ら相手に戦えるのであれば、貴殿らはこの塔の頂上に至ることが出来るだけの力があるとみて良いだろう。我らは負けを認め、門を開く。進むが良い』

 風神の言葉通り、部屋の封鎖が解かれた。それと同時に、崩壊がかなり近くまで迫ってきている事に気が付く。どうやら、部屋の封鎖で音をごまかされていたらしい。他の部屋にはそんな仕掛けが無かったので、してやられた気分になる。

「急ぐぞ!」「了解!」

 慌てて部屋を出て良く同行者に続いて、自分も部屋を出てひたすらに一本道の通路をひた走る。最後に戦った風神と雷神の像の言葉を信じるのであれば、あとは何もないはずだが……一応警戒は解かずに走り続ける。ゴールはそう遠くはないはず、崩壊に捕まる前にたどり着けるか? 今はひたすらに走り抜けるしかない。
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