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騙しの変化球

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 四つ目の部屋へと足を踏み入れると当然のように閉じ込められた事は予想通りなので良いんだが……部屋の中央が突如急激にへこみ、へこんだ底からマグマが噴き出してきた。そのマグマの中から二体のゴーレムが立ち上がる。体はお約束と言わんばかりにマグマそのものでできており、厄介そうである。

 マグマの中からゆっくりとした足取りでこちら側に向かってくる。サイズは……多分四メートルはない、か? だがマグマの中から出てきてもその表面はマグマが流れており、下手に触れば一瞬で大やけどをさせられる──なんてかわいい話では済みそうにない。いきなり難易度が跳ね上がったような気がする……

「マジかよ……あんなゴーレムに斬りかかったら、逆に溶かされそうだ」

 同行者のつぶやきも最もだ。ゴーレムが一歩此方に近づくだけで、体に感じる熱量が跳ね上がる。あんな存在に接近戦を挑め、というのはあまりにも酷だろう。

「飛び道具系のアーツはありますか?」「あるにはあるけどよ……厄介な事にその大半が炎を飛ばしたり、炎を刃にして飛ばすっていう感じでな。あいつに炎が効くと思うか?」

 なるほど、それは困ったな。とりあえずゴーレムが近寄ってくるたびにこちらは距離を取っている。部屋の中央はまだマグマが存在するが、周囲は普通に走り回れるからな。とりあえず射撃しながら距離を取る引きうち戦法はとれる。

「でも大半と言う事は、そうじゃないアーツもあるって事ですよね?」「そうだが、火力は期待できねえぞ? 何せ初期に覚えたアーツだから、さっきまで存在を忘れていたぐらいだ」

 それでもないよりはずっとましだろう。接近戦が出来ないと思われる以上、飛び道具で何とかする他ないんだ。

「それでもいいです、とにかく撃ちまくってダメージを蓄積させて倒すしかないですよ!」「確かにそうか、まさかここでアクションシューティングな動きをすることになるとはなぁ」

 とにかく、二体とも今の所は動きが遅い。ダメージを与えれば徐々に足が早くなってこいつを追い詰めてくる可能性もあるので、まずは攻撃をどちらか一方に絞って様子を見たい。

「好きな方に攻撃してください、自分も同じ奴に攻撃を行います」「OK、じゃあこっちからだ!」

 同行者のタルワールから、真空の刃っぽい攻撃がマグマゴーレムに飛び、命中する。こちらも同じゴーレムに対して矢を撃ちこむ。全弾命中するが、ゴーレムはそれでもこちらに前進してくる。効いているのかいないのか、よく分からない。それでも攻撃しない事には始まらないので、とにかくゴーレムの片方に絞って攻撃を叩き込む。

 そうやって数分ほどゴーレムに攻撃を加え続けるが、効いている気がしない。同行者の飛び道具アーツは共核、自分の放っている矢はドラゴン骨から作られた一級品の矢だぞ? それでこうも手ごたえが無いというのは……一方でゴーレムの接近が高速になると言う事もない。戦い方として、このままでいいのか?

 いや、やっぱりおかしい。こうもここまでしっくりこないとなると、気持ち悪いという感情が大きくなる一方だ。ゴーレムは反撃の飛び道具などを放ってきたりはせずにひたすら鈍足移動でこちらを追うだけ、こちらの攻撃はすべて命中しているが手ごたえをあ感じられない。こんな場所に来て、こんなモンスターをなぜ配置した? ただタフなだけなモンスターで時間稼ぎと考えても、違和感を感じる。

(何か、見落しがある? ゴーレムを観察しても、常時マグマが流れているので例の文字が彫り込まれているかどうかが確認できないし……そもそも、この塔は特定の行動が出来ないと詰む、というやり方はしないという感じだったのだがここに来て急に方向を転換した? それも妙な話だよな)

 なお、例の文字とはemethの事だ。これは真理、という意味があるらしい。で、この文字の頭のeを消すとmethという死を意味する言葉となり、ゴーレムは即座に破壊されるという物である。確かこれはヘブライ語、だったかな? そうやって、物事を変質、もしくは反転させることで──反転?

(──もしかして、このゴーレムに大きな虚飾があるとするならば)

 ここまで考えていた自分に、一つの答えが浮かび上がった。このゴーレム達に有効な攻撃は近接攻撃なのではないだろうか? という考えだ。マグマという触れたら危険だという一般認識を利用し、遠距離攻撃にプレイヤーが動くように誘導していたのではないだろうか──確かめる方法は単純だ、接近してレガリオンで切り付けてみればいい。

「おい!?」

 突如ゴーレムに接近していく自分を見て同行者が焦った声を上げたが、自分はそれをあえて無視してマグマゴーレムに接近した。そして、確信する。ある程度近づくまではすさまじい熱気を感じたのだが──ダメージはマントのお陰でなかったので感じただけだったが──近接武器の間合いになったとたん、その熱気が嘘のように消えたのだ。むしろ、涼しいぐらいである。

 レガリオンで、マグマゴーレム……いや、偽マグマゴーレムに対して攻撃を行った。マグマの表面があっさりと切れて、本体にダメージが通ったと感じられるしっかりとした手ごたえが。このマグマは視覚効果だけの物だったのか!? なんにせよ、理解した。こいつらは接近戦で倒さなければならないタイプだ。

「今確認! こいつらのマグマは見た目だけのダミー! 近接武器の間合いに入れば、熱気もない!」

 その一方で、ゴーレムも動く。今まではこちらをゆっくりと追うだけだったのが、突如足と手から細い隠し腕を一本づつ、合計四本展開してきた。その手には剣が握られている。どうやら、向こうも本気を見せてくると言う事か。四本の手から、次々と斬撃や突きが自分に対して繰り出される。

 それらの攻撃はすべて、こちらを後ろに下がらせて再び熱気を浴びせて消耗させようと考えている事は間違いないだろう。が、この程度の攻撃で下がってはやれない。攻撃をいなしたり弾いたりしながら機会を待ち、数少ないチャンスに反撃の一撃を確実に叩き込む。

「本当だ! 騙されたぜ! 接近すれば全然熱くないなんて、引っ掛けもいいところだろこれ!」

 向こうはもう一体のゴーレムに接近戦を挑んだようだ。あくまで一体に集中したかったのは遠距離戦の時の話だ。接近戦の方が良いとなれば、一人が一体を受け持った方が良い。っと、自分と戦っていたゴーレムが後ろに下がり始めた。分が悪いと感じたのか、マグマの中に逃げ込もうという腹か?

(だが、こいつらの体の表面を流れていたマグマは偽物だった。じゃあ、この部屋の中央に噴出しているマグマは……どっちだ? 本物か、それとも偽物か)

 答えを知りたいなら、確かめるしかない。ゴーレムが下がっていくのに合わせて自分は前に出た。そのまま下がっていくゴーレムと前に出て良く自分。そしていざ、マグマの近くまで来たが……答えは、偽物。熱くもないし、踏んでみた所砂利道の上を歩いているような感じしかしない。

(こいつらは、見た目でこちらを欺き、時間稼ぎをするタイプだったと言う事で確定だな。そうと分かれば同行者の彼にも伝えなければ)

「中央のマグマも偽物だ! マグマに見えるが実際は砂利道のような感じだ! ゴーレムが逃げようとしたら迷わず追って問題なし!」「分かった、こっちは任せろ! 手ごたえ的にあと少しって感じだ!」

 同行者の返答を聞いた後、自分もゴーレムにレガリオンで攻撃を叩き込む。今の手ごたえは……良いのが入った。こっちのゴーレムの耐久力も、そうないな。あと一押しって所だろう。四本腕の攻撃も鈍くなってきている、これは誘いじゃなくて本当にダメージが蓄積したからこその反応だと見て良い。

(ならば集中、ここは一気呵成に落としきる!)

 相手の攻撃を数回避け、大ぶりの一撃を誘う。腕の一本が突いてきたところを上に大きく跳ね上げる。そうして作ることが出来た相手の隙に、八岐の月で横に、すぐさまレガリオンで盾に切り付け十字型の斬撃を完成させる。人力クロスラインと言った所か。アーツじゃないので演出とかは特にないけどね。

 この二連撃がとどめになった様で、偽マグマゴーレムは一歩、また一歩を後ろに下がった後に尻餅をついた。その後、体が崩れていった。あの時に接近戦を挑まなければいけないと気が付くことが出来なかったら、もっと苦戦させられただろう。こういう騙しの手段も交えてくるとは、本当に面倒くさいな。

「終わりだ!」

 そんな声に自分が視線を移すと、同行者の曲剣が二本ともゴーレムの体深くを切り裂いていた所だった。この一撃を受けたゴーレムは、自分の時と同じように後ろに下がってから尻餅をついて消失した。それと同時に、部屋の封鎖が溶けた。これで先に進める。

「完全に騙されたな、遠距離攻撃を続けていたら崩壊が起きるまでここで足止めされていたって感じだな」「見破れてよかったです、では先に進みましょう」

 力押しだけでなく騙しの手段も交えてきた。次はどっちだ? それとも全く違う一手を打ってくるのか? なんにせよ、素直に進ませてくれない事だけは確かなようだ。
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