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26巻

26-2

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「それは、どうしようもないのですか?」
『どうにかすることは可能だ。しかし、その改良が完了するまでにどれだけの時間がかかるか、現時点では全く分からない。残念だが、状況を考えれば現実的な話ではない』

 研究者が己自身の体であるスーツの改良を行い続けているため、用意されていたマイクによる通信で、自分は洗脳対策装置が完成したことを告げられた。それ自体はとても喜ばしいことなのだが……

『対象者の洗脳の進行具合が軽度なら、完全に解くことが可能だ。しかし、ある程度以上進んでしまっていた場合……この装置が脳に非常に大きな負荷をかけてしまう。その結果、脳だけを殺すことになる可能性が非常に高い』

 つまり、洗脳を解くどころか脳死状態におちいる危険があるのだ。改善するにしてもいつ完成するか分からず、そしてそんなに時間をかけてしまったら、洗脳がどれだけ広がるか分かったもんじゃない。
 それに、今のところは白羽さんが十二分に戦ってくれているが、いつまでもこのまま時間を稼げるわけではない。彼女だってあくまで命ある一つの存在であって、いつ何時、予想しない形で負けてしまうか分からないのだから。

「――仕方が、ないのか」
『君の気持ちは分かる、私だって同じだし、こんな結論を出すしかなかった自分自身に怒りだって覚えている。できることなら、洗脳されていいように操られている人々を全員無事に元に戻したいさ! しかし、時間がそれを許してくれない! だったら、せめてこれ以上被害が広がる前に食い止めるしかないという結論しか出しようがないじゃないか!』

 ――マイク越しの絶叫。そして普段は見せない悲しみの感情。当然だが、研究者も不満だったんだ。

「貴方を責めているわけじゃないんです。むしろ装置を作り上げてくれたことに感謝しています。ただ、思ってしまっただけなんです。現実とはこうも残酷なものなのかと」

 全員が助かってめでたしめでたし――そんな結末はない。それをまたこうして思い知らされてしまった。でも、だからといってやらないわけにはいかない。ここで止めなければ、「ワンモア」世界が有翼人の気分次第で命運が決まる地獄となってしまうのだから。

『多くの者を殺すのだから、せめて死んでいった者達が少しでも納得できる結果を出して未来を残そう。悔しいのはやまやまだが、今の私達にできるのはそれだけなのだ――装置の完成、並びに起動により起こりうる弊害へいがい。それらを君の同志へと伝えてくれ。あとは君達の同志の行動開始に合わせて、装置を起動させる。では、自己改造の続きを始めるから、失礼するよ』

 その言葉と同時に、通信が切られた。
 ため息を一つついた後、自分は花畑までやってきて腰を下ろす。
 告げられた言葉は重く、自分が無意識にしていた楽観に冷たい水を掛けられた気分だった。

(装置があれば、洗脳を解いて、再び平穏に生きていくことができるようになると思っていた。だが現実はどうだ……情報を隠すことはできないから、報告会では正直に伝えるけれど、かなり荒れるだろうな)

 障壁発生装置の発見、それを破壊できる魔道具の完成と、良い話が続いて士気が上がっているところにこんな話をするのは、自分としても避けたい。しかし、後になってから伝えるのは悪手だ。嫌な話だからこそ、迅速にちゃんと報告しなければならない。

「――そう肩を落としても仕方がなかろう」

 不意にそんな言葉が聞こえたので振り返ると、そこには幼女が立っていた。

「無念さは理解できる。わらわとて、できるなら洗脳などという下種げすな手段に引っ掛けられ、奴らにいいように使われてしまう者達を救いたい。しかし、それが難しいと告げられた以上、犠牲者をこれ以上増やさぬようにすると割り切るのじゃ。苦しいじゃろうが、そうせねばお主が迷いに殺されるぞ」

 そう、その通りだ。もうこのことは割り切るしかないのだ。
 こちらがいくら躊躇ちゅうちょしようと、有翼人と洗脳を受けてしまった人達が攻撃の手を休めることなどない。幼女の言う通り、迷いを抱えたままでは戦いの中で殺されることになるのは間違いない。

「どうしても納得できぬというのであれば、神を恨めばいい。理不尽な出来事への、どこにも行き場のない怒り、悲しみ、悔しさ。そういった感情を引き受けて、人の心の整理をつけさせるのも、神の仕事の一つじゃからの」

 龍神の欠片かけらだからこそ、こんな言葉が出るのだろうか。
 ……神の仕事、ね。人々の負の感情を引き受けるのも、神様の役目か。でも、まあそれは……

「そうするのは最後の手段にします。今は、ほら。そもそも有翼人が愚かなことさえ考えなければ、実行しなければ、こんな事態にはならなかった。有翼人という、自分の感情を向ける先は確かにあるんです。せめてそいつらを打ち取って、もう二度とこんなことにならないようにする。身勝手な考え方ですが、この戦いで永い眠りにつく人々には、それで納得してもらう他ありません――」

 人事を尽くして天命を待つ、という言葉があるが、まだ自分達は人事を尽くしていない。尽くしていないのに、神様に不平不満を言っちゃダメだろう。やるだけやって、全てが終わってから、そこで初めて神様に世の無常をなげく――というのがすじじゃないだろうか。

「うむ、お主の言う通り、今できるのは、これ以上の被害者を出さぬように元を断つことじゃ。それに、洗脳されておっても、確実に死ぬと決まったわけではなかろう? この点に関しては、何らかの策を練るようにわらわの本体に掛け合っておる最中じゃ。あてにされても困るが、何か手段があれば助力する。だから絶望するでない」

 これはとっさに出たなぐさめの言葉に過ぎないのかもしれない。龍神様がそこまで動いてくださるかどうか……今回の事態において、雨龍さんと砂龍さんが龍の国の外に出て活動することだけでも、かなりの例外として目をつぶってくれている状態なのだ。そこに更なる助力を願っても……いや、そこら辺を考えるのはやめておこう。

「ありがとうございます。これ以上奴らの思うままにさせないよう、徹底抗戦ですね、そして一人でも多くの人が洗脳から解放され、元通りの生活に戻れるように努力するしかないですものね」

 そんな話をしているうちに日が傾き始める。
 さて、報告会が始まる前に食事を済ませておくか……



 3


 本日の報告会が始まった。その中で自分は早速、洗脳対策装置の完成、並びに洗脳を受けてしまった人への影響を包み隠さず発表した。

〔なあ、アース。その影響をもっと軽くすることはできないのか?〕

 ツヴァイからこんな質問が来た。おそらく、この報告会にいる人のほとんどが同じことを思っているだろう。

〔それは自分からも聞いてみました。返ってきたのは、普段表に出さない怒りと悲しみと、どうしようもない無念さが入り混じった否定でした。洗脳されてしまった人を皆無事に治してあげたい。しかし、その改良を行う時間が我々にはもうないのだ、と〕

 皆が黙った。時間がないことは、彼ら自身もよく分かっているのだ。
 洗脳にかけられてしまった人が二度と帰らぬ可能性が高くとも、これ以上時間をかけてはますます有翼人の戦力が増していってしまうことが。
 少なくとも洗脳の具合が浅い人々は解放できる状況になった今こそが、本格的な戦いを始める頃合いであり、むしろこれ以上時間をかけては勝機を逃すことが。
 それを皆が分かっているのだ。

〔無念だが、我々にできるのは有翼人の無法っぷりをここで阻止することだ。時機を読み間違えば、もっと大勢の人々が奴らの尖兵として使い捨てにされよう。それは何としても阻止せねばならぬ! 現時点をもって、耐え忍ぶことを第一とした前半戦の終了を、魔王の名の下に告げる! これより我らが有翼人のところに乗り込み、直接相手を叩く後半戦へと移行! 後詰めの者達はドラゴンの皆と共に空に上がるぞ!〕

 魔王様がそう決断を下した。いよいよ後半戦、終わり良ければ総て良しと言えるように、奮闘しなければならない。

〔まず、空に上った者達はダンジョンがあるという二つの浮遊島を押さえよ。そこを我々の前線基地とする。有翼人共は手ごわい、一回二回戦っただけで奴らの島を攻め落とせるとはとても思えん。帰る場所をしっかりと確保せねばならん。また、洗脳対策装置の完成によって、前代魔王殿の体から作り出した洗脳対策魔道具を持たぬ者でも、防衛ならば参加できよう。予定より運んでもらう兵士が増えてしまうが……ドラゴンの王よ、よろしいか?〕

 魔王様の言葉に続いて、レッド・ドラゴンの王様の返答が聞こえてくる。

〔むろんだ、こちらも数を増やす手筈てはずはすでに整っている。可能な限りの数のドラゴンを派遣して、有翼人共を存分に食いちぎってやるつもりだ。物資の運搬なども含めて、魔王殿の期待以上の成果を出すことを約束しよう〕

 洗脳対策装置が完成した結果、当初の予定より派遣する規模の拡大が可能になったことの目に見える成果だろう。
 いいぞ、こっちが勝つ可能性がしっかりと上がっている。

〔我々も、兵士達には教えられるだけのことを教えた。あとはドラゴンの皆と共に戦えば、有翼人達が相手であろうとも十二分に渡り合うことができよう。そして龍神様から、今回の一件は放置できぬというお言葉と共に、我々自身が戦いの場に出向く許可を頂いている。雨龍と共に今回の戦に力を貸すことを、今ここで約束しよう〕

 この声は砂龍さんか。師匠ズも参戦してくれるのはありがたい。

〔ちょっといいかな? 僕も提案が一つあるんだけど〕

 ここで別の声が割って入った。これはグラッドPTの魔法使い、ガルだな。提案ってのは何だろう?

〔俗に言う『埋伏まいふくの毒』みたいなことをしたいんだ。見つけておいた障壁発生装置を爆破すれば障壁は弱まると思うんだけど、それは周囲の島々だけなんだよね。中央の浮遊島だけはどうなるか分からない。そこで……僕達のPTは、途中までは有翼人達側についているふりをする〕

 ――そういえば報告では、東西南北の浮遊島に六〇個、他の島に四八個見つけたと言ってたけど、中央の浮遊島に関しては報告がなかったな。

〔そして皆が周囲の浮遊島を攻撃、突破して有翼人達の目がそちらに向いたときに……奴らの本拠地でも、特に一番厳重に守っている建物に、僕らが殴り込みをかける。おそらくそこの奥深くに、何か重要な物があると踏んでるんだ。例えば、障壁発生装置の親機とかがね〕

 なるほど、それは十分可能性がある話だ。厳重に守るってことは、そこに何かがあるって証左でもある。もちろん裏をかいて何もないという可能性もあるが……グラッドPTメンバーには探索にけているジャグドがいる。何の確信もなくこんな提案をしたとは思えない。

〔なるほどな。現在空の世界の事情に最も詳しい一角であるそなたらがそう言うのだ、その提案を受け入れよう。我々と相対したときは、適当に戦っているふりをしてくれ。こちらもできるだけ合わせる。ただ、アドリブが多々混じることになるだろう。その加減はそちら次第となるが〕

 ガルの提案を、魔王様は呑むことにしたようだ。だが、この策は手を抜いて戦っていることが有翼人達にバレたら一瞬で瓦解がかいするから、難度は高い。

〔そこら辺はどうにでもするよ~、こちらも伊達に今まで戦ってきたわけじゃないからね。奴らに一泡も二泡も吹かせられるチャンスをくれるってだけで、こちらは満足だから〕

 が、ガルの言葉からは気負きおいが全く感じられない。この辺は流石歴戦の猛者もさといったところか。
 彼らは「ワンモア」で最強を目指すと豪語し、その言葉にふさわしい行動をこれまで続けてきている。だから、こんなシチュエーションもむしろ楽しみに変えてしまうのだろう。頼もしい話である……
 本当に、仲間に引き入れてよかった。彼らが洗脳されて敵に回っていたらどうなったことか、そんなの考えたくもない。

〔では俺達……えー我々『ブルーカラー』は、各島の障壁発生装置の破壊が完了したら、そっちに合流する予定だ。なので、後でいいから細かい合流タイミングの打ち合わせをしたい……んですが大丈夫ですか、魔王様?〕

 ツヴァイが敬語になり切れてない口調で魔王様に尋ねた。まあ、魔王様もそこら辺を気にした様子はなく、すぐに了承した。

〔では自分からも……皆様の攻撃開始に合わせて、自分も戦場に出ます。ただ、見慣れない姿ですので、そちらが島を制圧して前線基地を作り上げ終えましたら、事前に挨拶あいさつに行こうと考えております〕

 自分はあのパワードスーツを着て戦うことになるから、事前に姿を知らせておかないと敵だと誤認されてしまう可能性があるからね。そんな行き違いで消耗するなんてばからしい話だ。

〔そういえば、そんなことを言っていたな。ではそのように頼む。貴殿も立派な戦力の一部だ、戦う前に欠けてしまうようでは困る〕

 魔王様の了承のお言葉も頂けた。前線基地が形になったという報告を受けたら、すぐに向かえるようにしておこう。その後はもう、戦いの開始を待つばかりになる。

〔では各自、これからの決戦に向けて活動を開始せよ! この一戦に、地上に息づく全ての生命の未来が懸かっている! 負けは許されない、何が何でも勝つぞ! いいな!〕
〔〔〔〔応っ!!!〕〕〕〕

 この日の報告会はこれで終了した。ログアウト前に、地上から上がってくるドラゴンを確認できたら、洗脳対策装置のスイッチを入れてほしい、と研究者に伝えておく。
 いよいよ有翼人との戦争が本格的に始まろうとしている。
 有翼人共、お前らの計画もここまでだ。



 4


 翌日ログインすると、メールが一件来ていた。
 ツヴァイからか、えーっとなになに?
〝行動開始する前にこの掲示板を確認、絶対に!〟って簡潔な一文と、掲示板の名前が載ってるだけか。
 ツヴァイがそう言うんだ、確認してみるか。
 メールに書いてある掲示板の名前を検索……『緊急事態専用掲示板』か。また分かりやすいな。



 空の世界)緊急事態専用掲示板No.8(得体のしれないモンスターが無数に湧き始めた


 47:名無しの冒険者 ID:EGsre68er
 で、結局、犬型や人型の機械が出てくるダンジョンがある二つの島に
 大量に湧いたモンスターは正体不明のまま?
 正体に繋がりそうな手がかりは一切掴めてないってことでOK?


 48:名無しの冒険者 ID:5hER45wfe
 そうとしか言いようがない
 黒い人型と馬鹿でかい黒い存在にしか見えねーもん


 49:名無しの冒険者 ID:5odt85yid
 一応運営にも聞いたが、バグや問題は発生してないってことだから、
「ワンモア」お得意の異常事態が突発発生って考えて間違いない


 50:名無しの冒険者 ID:AEFfe732g
 その上あいつらマジで強いんですが
 魔法はバカスカ撃ってくるし、ドラゴンのようなブレスも吐いてくるから、
 喧嘩売った奴らは即全滅してた。どーしろってんだよあれ


 51:名無しの冒険者 ID:52jr4rFw2
 ここに来て突然状況が変わっちゃったな
 ダンジョンでかなり狩ったから、報復イベントでも発生したのかこれ


 52:名無しの冒険者 ID:9srg3d3Wd
 いや、そうとも言えん
 ある程度近づいただけなら、こちらを警戒こそするが攻撃はしてこねえ
 その後速やかに離れれば何もされなかったぞ
 何でもかんでも攻撃してくるってわけじゃなさそう?


 53:名無しの冒険者 ID:TJhdx65fW
 でもさ
 あいつらは撃滅しなくちゃいけない危険な存在だって、
 有翼人のトップが直々に放送してたよな
 近づかなかったら攻撃してこないってのも、今だけなんじゃね?


 54:名無しの冒険者 ID:EDFsrg5V1
 それはあるかも
 何か優先してることがあるだけで、
 それが終われば攻撃してくるんじゃないかって推測もできるな


 55:名無しの冒険者 ID:JTsd5df6a
 じゃあ、今のうちに叩かないとマズいパターン?


 56:名無しの冒険者 ID:RHg5eFw7c
 多分そっちじゃないかって話が、うちのギルドでは流れてる
 討伐隊を組んで乗り込んだギルメンもいたけど、
 100人ちょっとじゃどうしようもなかったって
 ガッツリ装備を整えてても、相手の数と火力が狂ってるから、
 一瞬で溶けたってさ


 57:名無しの冒険者 ID:EGg5wefg4
 マジかよ……
 レイドボスが徒党を組んでるようなものか
 いやいや、レイドボスが徒党を組むんじゃねえ!


 58:名無しの冒険者 ID:ASFfe5wd8
 でも、どうにかせんとあかんだろうな
 何回も乗り込んで、少しずつでいいから削っていくしかないのかも
 おそらくこの手の奴は、倒せば復活はしないタイプだろう


 59:名無しの冒険者 ID:JTtj5gE23
 あと、そいつらが現れたって話を聞いたのとほぼ同時に、
 状態異常が一つ常時点灯したんだが、皆はどうよ?
 状態異常の名前は[洗脳抵抗]って出てんだが


 60:名無しの冒険者 ID:ERGg5W7bC
 ああ、俺だけじゃなかったんだ!?
 みんな新しいモンスターの話ばっかりだから、俺だけなのかと思ってた


 61:名無しの冒険者 ID:fgkwedwa9
 ふむ、確かにそっちも気になるよな
[洗脳抵抗]ってことは、新しく現れたモンスター(?)が
 こっちに何らかの精神攻撃を加えてきてると考えるべき?


 62:名無しの冒険者 ID:RGrgf3wdg
 そうじゃない?
 少なくとも昨日ログアウトする前には、こんな状態異常はついてなかったし


 63:名無しの冒険者 ID:fgeg6eFG1
 そっちの意味でも、できるだけ早く奴らを倒さなきゃいけないって話が
 より現実味を増したな
 もっと本格的な討伐隊を組まないとヤバくね?


 64:名無しの冒険者 ID:EFfew8523
 うちのギルドは他のギルドと連携して討伐隊を組む予定
 このままじゃ大変なことになりそうだからね


 65:名無しの冒険者 ID:EFQE53wdV
 洗脳はヤバすぎるっしょ、どういう風におかしくなるかが分からんし
 そうなる前に早めに対処しなきゃならんよね


 66:名無しの冒険者 ID:Pg52ewdvw
 だから、有翼人のトップが直々に放送流したんだろうな
 誰にとってもこのままじゃとんでもないことになる


 67:名無しの冒険者 ID:EFGe5gw2d
 有翼人側も装備はどんどん貸し出してくれるって言ってるから、
 戦える人は積極的に討伐隊に加わってね
 マジでお願い


 68:名無しの冒険者 ID:WEFqf5fWcw
 しばらくあの孤島に挑むのは中止かな
 こっちを先に何とかしないと取り返しがつかないかも



 なるほど、掲示板の内容から察するに、プレイヤーからは空に上がってきた魔族の兵士の皆さんやその他の協力者、そしてドラゴンさん達がモンスターにしか見えないようになってるな。以前、空から地上に戻ったときに街の人がモンスターに見えたプレイヤーがちらほらいたと聞いていたが、その症状がまんべんなく蔓延まんえんしちゃったと見るべきだろう。
 そして、それに向けた討伐隊も次々編制されている、と。編制だけじゃなくて実際に攻められているわけだが。
 それでも、現時点では危なげなく撃退できているようで安心だ。ま、正真正銘のドラゴンブレスはレッサーの吐くそれとは格が違う。それも一体二体じゃない、数多くのドラゴンが一斉にブレスを吐けば、ほとんどの存在が一瞬で灰になるってもんでしょう。
 ツヴァイには〝掲示板を見た〟と簡潔にメールを送っておく。掲示板を見たってことが伝われば、自分が現状を把握したとツヴァイも理解してくれるだろう。
 さて……いつものように起きて、いつものように幼女と白羽さんと共に食事をとる。
 それらが終わったタイミングで、懐かしい鳴き声と共にこちらにやってくるあおい物体。

「ぴゅいいいいいいいいいい~!!」

 その物体は自分にダイレクトアタックしてくる。しかし羽毛が柔らかいので痛みを感じることはなく、もふっとした感触が自分の全身を覆う。

「アクア、お前もついにこっちに来たんだな」
「ぴゅい!」

 自分が最初に空に上がって以来だから、アクアの鳴き声を聞くのは本当に久しぶりだ。幼女と白羽さんにもアクアを紹介しておく。まあ、幼女のほうは分かっていたようだけど、念のためにってやつだ。

「へー、君がアースの相棒をやってた子なんだ。私もアースと一緒に戦うから、よろしくね」
「ぴゅい♪」

 挨拶も無事済んで、しばし雑談。アクアの修業内容とか、自分が空に上がってこの浮遊島にやってきてからどういう日々を送ってきたのかなどを、お互いに報告し合った。
 そしてそんな話をしていると、後ろで扉が開く音がした。

『地上からの部隊が次々と来ているようだな。私も自己改造が済んだ。いつでも戦いに出られるぞ』

 改造に専念してしばらく表に出てこなかった研究者が、新しいスーツと共にその姿を見せた。以前よりひと回り大きくなってるな……その分だけ新しい装備を詰め込んだのかもしれない。カラーリングも光沢のある蒼をメインに金の縁取ふちどりという感じになっていた。

『装甲の強化、武装の充実を図った結果、どうしても大型化は避けられなかった。これでもできるだけハイパワーかつコンパクトになるよう目指したのだがな……ともかく、性能は十分に向上したと胸を張れる。これから始まる戦いも耐え抜けるはずだ』

 こちらも、これで準備は整ったな。あとは後発隊の動きに合わせて打って出るだけだ。
 そうしてこれからのことを話し合おうとした、そのとき。
 報告会用の通信が前触れもなく繋がる。聞こえてきたその内容は――

〔報告、報告! 我々が前線基地を造成中の島に、大勢の人々が乗る飛行物体が四つ、接近しているとの情報がブルー・ドラゴン殿から入った! 数が多いため、上陸される前に叩くことを決定した! 空戦部隊はただちに迎撃せよ! 今までの訓練の成果を見せる機会である、戦果を期待する!〕

 掲示板にあった討伐隊がやってきたのか? とにかく今聞こえてきた内容を、ここにいる皆にも伝える。

『なるほど、こちらでも飛行物体を四つ、確認できた。一つにつき一八〇人が乗っているようだな。確かにこの数をそのまま上陸させてしまうと、少々よろしくない展開になりそうだな。動きがとりにくい空中にいるうちに叩いてしまおうという考えは理解できる』

 とは研究者のコメントだ。


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