とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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五階目に挑戦……できない

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 無事に本物の鳥かごもどきによってゴールに到着すると、三人が先にゴールの部屋の中にいた。

「お、来たな。お疲れさんだ」

 三人とも軽鎧のプレイヤーであり、食事をしていた様子からしてかなり早くゴールできていたようである。

「今回は楽だったな、これと言ったキツイ妨害もなくモンスターも楽勝で」「こっちもだな、おかげでかなり早くゴールできた……そっちはそうじゃなかったようだが」

 ふむ、三階で外れが出た影響なのかな、彼等から簡単だったという意見が出るのは。

「こっちはひどかったぞ、ゴール手前までは良かったが、そこから嫌らしい仕掛けがあったからな……助っ人の彼が見破ってくれなかったら、自分は間違いなく奈落に落とされていたぞ」

 との言葉から、同行していた重鎧のタンカープレイヤーである彼から四階での偽鳥かご&正解の通路隠し&罠山盛りの話が語られた。話を聞いているうちに、軽鎧の三人からはうげー、というような声が漏れていた。

「また助っ人の方にひどい罠が」「むしろ助っ人なら見破ってくれるんだろ? というこの塔からの熱い期待?」「そんな期待はされたくないんですが!?」

 つい、彼らの話に突っ込んでしまった。楽に突破できることに越したことはないんだ、少なくてもきつい罠や意地悪な仕掛けをしても突破してくれるんだろう? というような変な期待なんて乗っけないでくれよ……そう言いたくなってもきっと自分は責められない。

「いや、しかし、なあ?」「偽鳥かごとか今まで一回も出会わなかった仕掛けだぞ?」「俺達だったらまず見破れないからなー……」

 そう口にした後に、自分達だけで顔を見合わせた後に納得した雰囲気を漂わせるのはやめてくださいませんか。ますますフラグが立ってしまいます……

「だが、これで初めての四人クリアじゃないか? 後の二人は……状況的に苦しいだろうからな」

 時間的に今頃までにゴールできていない場合はアウトだろうし、その考えは間違っていないだろうね。

「最後の五階を目の前にしてこれはでかいぞ。今まではほとんどの階層で一人か二人しかゴールできずに難易度の上昇がエグイ事になっていたが、今回は最低でも三人を維持し、ここに来て四人! これは最大のチャンスだ! 何が何でも掴んで次の階層に突撃するぞ!」

 この言葉に誰もがこぶしを突き上げてやるぞ! と気合が入ったところでゴールできなかった部屋にいる面子との通信がつながった。向こうは……ああ、やっぱりゴールできていない二人が映っている。

『そっちに四人いるのか! 初めてじゃないか四人クリアって!?』「ああ、間違いなく初めてだ。最終階を目の前にしてこの結果はでかい! このチャンスを逃さずに絶対にクリアするぞ!」『ああ、多分これを逃したら次のチャンスはいつ来るか分からんだろうし、死に物狂いでやらないとな!』

 向こう側も、気合は十分に入ったようだ。これならば、次の階もきっとクリアできるだろう。さて、そうなると……

「では、自分は誰と同行すればいいでしょうか? 指示をお願いします」

 と問いかけた。すると、同行パーティは相談を始めたわけなのだが……

「誰がいいかね?」「とにかく、とにかくクリア率を上げるの一番だ。今まではクリア人数が重要だが、最後だけはクリアすることが重要だからな」「じゃあ、軽鎧の俺たち三人に──」「お前らは十分やれるだろ! こっちに回してくれよ!」『そうだそうだ! 助っ人は重鎧組に回すべきだ!』『今回は難易度の狂った上昇はないんだ、俺達の誰かが助っ人に来てもらった方が良くないか?』

 そんな感じで、とにかくまず軽鎧組と重鎧組でどっちに来てもらうかの話になった。そのまま話が平行線で三分ほどたっても終わらない。退屈になってきてしまった自分は、彼等から距離を取った部屋の隅っこで調理器具を取り出し、時間つぶしを兼ねた料理を始めた……今日は蕎麦でも打ちますかね、汁はドラゴンの肉を突っ込んで作ろう。これは贅沢ですよ。

 まずはそばを打とう。とりあえず十〇人前位蕎麦ば粉を用意し、水まわしをしながら水と蕎麦粉を混ぜ合わせる。ここでムラを作っちゃうと、全てが台無しになってしまうからな……今回は大丈夫。数回に分けて水まわしを丁寧に行っていい感じになった。蕎麦玉を一つにまとめたら、全身を使ってしっかりとこねる。

 表面がつるっとしてくるまでとにかくこねる。かなり力が必要なので、腕だけでやっちゃダメなんだよね……こね終わっていい感じになった蕎麦玉を丸い形に整えて打ち粉を振った台の上に。ここからは麺棒を使った例の伸ばしを行う。細く伸ばしていく訳なんだけど、きちんと均等に伸ばしていかないとダメ。特に縁が薄くなっちゃうと、破れやすくなってしまう。

 時々綿棒に伸ばした蕎麦を巻き付けたりしながら、最終的に一・五ミリぐらいになるように伸ばす。そこまで行ったら今度は蕎麦を数回にかけて畳んでいく。そう、畳んで包丁で切れる大きさにするわけだ。これは見たことある人もそれなりに多いんじゃないだろうか? 後は畳んだ蕎麦を、包丁で等間隔に切れば蕎麦の完成。完成した蕎麦はアイテムボックスの中にいったん入れておく。

 ここでちらりと同行者たちの方を見たけど、議論がかなりヒートアップしているようでまだまだ終わる気配が無い。これなら汁の方も作っていいな。と言っても、こっちは各種調味料にドラゴンの肉を贅沢に投入して、今までの感覚を生かして作るだけ。後、味を決めるために今回も多少鳥系の肉も投入。かつて妖精国であった戦争中に打ったうどんを思い出すねぇ。今回作ったのも暖かい汁がメインだ。ざる蕎麦にしたくなったらまた蕎麦を打てばいい。

(よし、良い感じ)

 後はさっきしまった蕎麦を再び取り出して、茹でて、汁に投入したら上からネギの代用品であるリドとゴマを振りかけて完成。ドラゴン肉が入っている点を除けばシンプルな蕎麦だ。


 竜の蕎麦 制作評価8

 ドラゴン肉、並びに鳥の肉から染み出したうまみ入りの汁と共に食う美味しいお蕎麦。その味故に、するすると胃袋に入ってしまう事は間違いない。

 一定時間体力自動回復 一定時間防御力増加(中)


 先に作った九食分をアイテムボックスの中に収めてから試食すると……うん、蕎麦もよく打てているし、ドラゴンの肉もおいしい。汁もすごく旨味が出ているがしつこくないので食べにくさを感じることなく食が進む。あっという間に完食した……やはりドラゴン肉は旨いな、残りはもう少ないので大事に使わなければ。さて、話し合いはどうなったかな?

 そう思って再び彼らの方に視線を向けると、全員が自分を見ていた。流石に匂いがすればそりゃ注意も引いちゃうか。とりあえず声を掛けよう。

「えー、誰についていけばいいのか決まりましたか?」「「「「お願いしますお金出します先ほどの蕎麦を食わせてください」」」」

 決まっていなかった。ただ単純に食べ物のにおいに釣られてこっちを向いていただけだった……

「いや、蕎麦なんて皆さん普通に食ってるでしょう?」「先ほどの蕎麦からは、そのいつも食ってる蕎麦からはしない香りがしてたんです! 匂いもすごく良くて……お願いです、食わせてください。お金はいくらでも出します」

 ドラゴン肉の匂いだろうな、まず間違いなくそれだ……しょうがないので、一人一〇〇〇グローを貰って四人分を提供した。この値段を高いとみるか安いとみるかはその人次第だろうが、それでも彼等からすると──

「めっちゃうめぇ……」「蕎麦もいいけど、この肉がすげえ旨い。リアルでも食いてえ」「汁も良いな……あっさりしてるけどすごい旨味。出汁は何なんだ?」「リアルの蕎麦はあんまりおいしいって思った事ないけど、これは格別すぎる」

 という反応だったから、高いとは思われなかっただろう。

『くっそお……クリアできなかったらこんな拷問が待ってるとか聞いてねえ!』『俺も食いたかった!』

 あ、まずい。こういう事からパーティの方かいってのは始まるからな。なので──

「次のダンジョンに入る前に一人分渡しますよ? もちろんお代をいただけるのでしたら、ですが」

 と、ゴールできなかった部屋にいる二人には伝えておいた。これなら大きな亀裂を生む事は無いだろう。しかし、蕎麦にここまで食いついてくるとはなぁ。多分雰囲気とか声などから若い子達だろうから、ハンバーグとかはともかく蕎麦にはあまり食指が伸びないだろうって思ったんだがなぁ。まあ、うどん県なら若くてもうどんに食指を伸ばす可能性は高いけど……

「打ったそばってこんな美味いんだ」「これは打ち手のやり方次第だぜ? 俺の親が蕎麦打ちを趣味にしててたまにやるんだけど、こんなに美味しくないし」「汁一つとってもこれはすごいいい奴だよ。というか食べる事に夢中になっていたから見逃したけど、この肉ってなんなんだろう」「ドラゴンの肉って書いてあったぞ」

 食べ終わった後の感想で、最後の一人がドラゴンの肉と口にしたことで一斉に視線が向いた。なのでその言葉と視線に対する返答をする。

「ずーっと前の話なんだけどね。あるドラゴンと一対一で戦って、打ち取った事が一回だけあるんですよ」

 この自分の返答を聞いて、彼らが色めき立ったことは想像に難くないだろう。それは良いんだけど……そろそろ自分が同行するメンバーを決めて欲しいんだよねぇ……脱線した原因を作っている以上強くは言えないんだけど、さ。
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