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二階目

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 そうして次の階へと再び進む自分と重鎧の彼。だが──

「なんか、一階と比べるとずいぶんと楽なような? 罠の数は多少増えたのは間違いないが、部屋の中にいるモンスターの格はずいぶんと落ちている」

 非常に順調に進んでいる。罠の数は増えたが、自分が見切れるので問題はない。そして部屋の中に入った時に戦わされるモンスターのランクが、ゴブリンレベルに落ちていた。出現する数も極端に増えているような事もないので、重鎧の彼が槍を振るえば鎧袖一触と言わんばかりにふき飛ばされて簡単に全滅する。

「いや、その言葉は罠が見切れるから出るものだ。俺だったら一階よりもこっちの方が辛かったと思うぞ。もしここに一人で来ていた場合は、部屋の中の戦いは確かにすぐ終わるが罠を絶対に踏みまくってまともに動け無くなってる姿が目に浮かぶぞ」

 重鎧の彼の言葉に自分は頷く。出てくる罠はトリモチだとかとらばさみだとか、小さな檻に閉じ込めるような罠ばっかりである。とにかくここの特徴である遅延行為を強いてくる罠ばっかりなので、確かに一回でも引っかかったら、その後が辛い事になるのは確かである。

「軽鎧を着た片方が盗賊系のスキルを持っているんだが、罠を素早く見切れずに突破できなかったという報告を上げてきた事が数回あった。だが、お前さんはそう言う事はなさそうだ。戦闘もできるし……どういう経験を積んできたんだか。やっぱり助っ人に選ばれるというのはそれぐらいの実力がなきゃダメだと言う事なんだろうな」

 まあ、並の実力では助っ人にはなれないんだろうねぇ。自分はまあ、師匠複数にあちこちでとんでもない場所でのアクションやら潜入やら、一般的ではない行動をとにかくやってきた経験が生きている事は間違いない。だからこそ、こういう場所に助っ人として呼ばれても焦らず慌てず冷静さを維持して動ける訳だが。

「このペースを維持できれば、ゴールは間違いないはず。後はトラブルにいかに対処できるか……右側に罠複数、左側を走って! それで回避できる!」

 この階の罠は、数は多いのだが一階の様に罠の起動スイッチなどがまばらにおかれているという事が無い。妙に固まって配置されているのだ……何というか、置き方が雑である。もっとも、途中まではそうやって雑に置くことでこちらの油断を誘い、ゴール付近で突如嫌らしい置き方をしてくる可能性も考慮している。

「また部屋、警戒を!」「モンスターが出てきた時は任せろ、俺が瞬殺する!」

 部屋に入ると、再び出入り口が閉ざされて室内にゴブリン達が次々と現れて来たが──重鎧の彼が振るう槍がうなりを上げて一閃。ゴブリン達の首を一瞬で全て跳ね飛ばした。その一閃は実に美しい軌跡を描いたな……やっぱり戦いになればこの人は頼れる。

「お見事!」「これが俺の役割だからな、先を急ごうぜ!」

 すぐさま部屋を突破して駆けだす。これを数回繰り返して、ついにゴールの鳥かごもどきが見えた。だが、ここで特大の罠が仕掛けられていた。通路には罠の起動装置が十メートル以上に渡って隙間なくびっしりと敷き詰められ、どれか一つでも起動させてしまえば大量のトリモチで動きを封じられる仕組みとなっている。なるほど、ゴールを目の前にしてトリモチ地獄でたどり着けずに奈落に落とす事で、プレイヤーの心を確実に折ろうという考えか。やっぱり性格悪いわ。

「罠の内容は分かった、突破は出来るのか?」「もうちょっと調べさせて欲しい。何か、この罠を突破する方法が隠されているはず。絶対にクリアできないようにハメる事だけはやってこない場所の筈だから」

 幸いここまで素早く進めたのでまだ崩壊が発生する時間にはなっていない。なので罠だけでなく周囲を確認すると……なるほど、罠エリアを越えた先に小さなスイッチが隠されている事が確認できた。スイッチは罠の起動部分に伸びており推す事で罠の起動を止める仕組みであると予想される。

「なるほどな……しかし、あのスイッチはどうやって押すんだ? 助走をつけてジャンプしても、とてもじゃないがあのスイッチ付近まで飛ぶことはできないだろう?」「大丈夫です、こっちがどうにかできますので。ではさっさと片を付けてきます」

 そして自分は壁に向かってジャンプ、そこから壁を蹴って……残滓となってしまった真同化の残されている能力であるアンカー能力を発動。天井に突き刺してもう片方の壁に飛ぶ。再び壁を蹴ると、真同化のアンカーを天井に突き刺して壁に飛ぶを繰り返す。上から見ると、ジグザクと斜め移動をしている形になっているはずだ。

 途中でミスるような事はない。この程度なら焦らない限り余裕をもって達成できる。一応アシスト用に《フライ》は温存していたんだが、頼らずに済んだ。とにかく無事に罠ゾーンを渡り切り、スイッチを押す。僅かな振動の後、罠の起動装置が地面の中に引っ込んだことを確認。今なら渡れるだろう。

「今のうちにこっちに!」「分かったぜ! しかし、まるでワイヤーアクションのような動きだったな。それを映画じゃなくてゲームで見られるとは……くそ、キャラクターが複数作れるんだったら絶対に真似したぞ」

 罠エリアを抜けた重鎧の彼がそう口にする。ワンモアは一人一キャラだからね……残念ながらそうはいかないんだよなぁ。

「これも適所適材、と言う事で。とりあえずゴールしてしまおう」「そうだな、さっさとゴールしてしまおう」

 鳥かごもどきに乗り込み、ゴールに到着。中に入ると、誰もそこにはいなかった。

「俺達が最速か! よっしゃあ!」

 重鎧の彼はガッツポーズを決めて大喜びしていた。別にトップになったからって何かある訳じゃないが、それでも嬉しいよね。とりあえず、彼と何か話をしながら待つとしますか。

「という感じでな、魔王領での旅はなかなかにハードだったな。吹雪に会うのは仕方が無いにしても、その後の備えに対する見積もりが甘すぎたって事をあの時は皆で後悔したぜ」

 そして、今は彼のパーティがやってきた冒険譚の一部を聞いている。彼等もなかなかにハードな経験をしてきており、特に先ほどの魔王領内で迷い、吹雪と食料が尽きる寸前で何とか皆で生き延びた時の話は臨場感を出すように彼が話をしてくれたこともあり、面白かった。

「魔王領と言えば、自分は料理を作るので右往左往してた時があったね……とろピグという名前で売り出されている料理なんだけど」「え!? あれアンタが作ったの!? 俺達も食いに行ったが、すげえ旨い角煮だったぞ!?」

 魔王領でピジャク肉を使った料理に四苦八苦しながらも完成した話をすると、どうやら彼は貯めた事があるようで驚かれた。なので、その証明にアイテムボックス内に眠らせてあったピジャク肉の料理を出して彼にふるまう。彼は兜の口部分を開いて、そこに角煮を運ぶ。そんな機能があったのね。

「うっま! そうそう、これだよこれ! まさかここで食えるとは思わんかった! って事は、黒衣の料理人ってのはアンタだったんだな! そりゃプレイヤーじゃ、毎日店に顔を出して料理を出せる訳がねえか……こんなところでこんな事実を知るとはな……それにしてもやっぱりこれは美味いぜ!」

 一人分のピジャク肉料理を彼が食べ終わるころ、この部屋に次のプレイヤーが姿を見せた。軽鎧を着ている人だ。

「マジか!? 俺がトップだと思ったのにな……しかし、この匂い……魔王領の店で食ったあの料理を思い出すな。まて。その食器の食べた後に残されている色……まさか!?」「当たりだぜ。あの時俺たちみんなでうまいうまいと言って食ったあの角煮だ。やっぱりうまかったぜ」

 そんなやり取りが交わされると、軽鎧を着込んだプレイヤーが重鎧の彼に詰め寄った。

「そんなうまい飯を、お前は独り占めにした、と?」「あ! い、いやそうじゃなくてな? つい感動してその、なんだ、食っちまったってだけだ。誓って悪意はない! 本当だ!」

 あのー、それは言い訳にもなってないとおもうんだよねぇ。事実、軽鎧のプレイヤーは更に詰め寄ったし?

「感動したってのはまあいい。俺ももう二度とこの香りを嗅ぐことはないと思っていたからな。だがな……だったらなおさら残せや! 空っぽにしてる時点で、悪意云々のお話はどうでもいいんだ! ただ一つ、お前が独り占めをする形で食っちまったと言う事実があるだけだ!」

 まあ、そりゃそうだ。食い物の恨みはちょっとやそっとじゃ晴れないからね。とはいえ、彼には悪い事をした。えーっと、また数はそれなりにあるな……なので、自分は再びピジャク肉の角煮を取り出した。

「ままま、そこまでにしておきなさい。ほれ、お前さんの分はここに用意したから」

 肩を叩いて注意をこっちに向け、角煮を目の前にもっていく。これで落ち着くだろう。角煮を見せられた軽鎧のプレイヤーは、なぜか動かなくなった。そして多分一分ぐらいしてからこう自分に向かって呟いた。

「──貴方が神か」

 なんでそうなる。しかも、向けてくる気配がすごく真剣だ。自分から角煮を受け取り、テーブルに座ってから兜の口部分を開いて角煮を運んでじっくりと味わう様に咀嚼している。そしてこうつぶやいたのだ。

「美味い……ああ、まさかこの味をこんな場所で再び味わうことが出来るとは……近くに美味い角煮を出す店などなく、もう一度味わうのは難しいと思っていたのに……ああ、何という僥倖」

 コメントしずらい。彼はそのまま、ピジャク肉の角煮をじっくりを味わいながら完食した。まあ、とにかくおいしく食べてもらったのならよかったんだ。うん、それで良しだろう。
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