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武舞台に上がって

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 自分と、勝ち抜いたミノタウロスが武舞台上で向かい合った。ミノタウロスはこちらを見ると、ニヤッと笑う。まあ、そう言う態度を取るのは分かる。先ほどのタンカー役の男性と比べれば、自分のガタイは良くない。更に身にまとっている魔王様から貰ったマントも、ほとんどの人からすればボロいマントに見えるように偽装がかかっている。だから、次の相手は楽勝だ、そんな風に思ったんだろう。

 が、このミノタウロスは勘違いをしている。先ほどの彼との勝負に勝てたのは相性が一方的に良かったからに他ならない。例え副将が自分じゃなかったとしても、他のアタッカーの人なら十分こいつに勝てる目はある。それを実践し、証明してみせようじゃないか。

『両者、準備は良いな? では、三回戦、副将VS中堅戦はじめ!』

 試合開始の声が響き渡ると、ミノタウロスはさっきと同じく衝撃の波を生み出す行動を取る。こいつは馬鹿なのか? 最初の人に通じたからってもう一回別の人に同じことをやるのか? しかも、モーションが独特だからやってくることがバレバレな手段を、堂々と晒した後に。反撃してくださいとしか思えない行為だ。

(力はあるし、筋肉による防御もある。だが、その恵まれた体故に戦い方を工夫するという考えを持たなかった、ってタイプか)

 技の発動を待つ理由はない、ヒーローの大技を繰り出す前の派手な演出中には手を出さないなんてお約束じゃないんだから。矢を三本番え、ミノタウロスの左腕、左足、顔の順で射かけてみた。八岐の月とドラゴンの矢の相乗効果もあってか、アーツを使わずにミノタウロスの手、足、そして頭部に全て突き刺さった。

「ギュゴオオオオオ!?」

 絶叫を上げながら、攻撃モーションを解除して痛みにのたうち回るミノタウロス。こいつ、やっぱり痛みに慣れていない。先ほどの戦いは軽いダメージを受けた後は逆上して興奮していたから痛みをあまり感じていなかったのだろう。一方で、最初の一撃を受けた時はあんな小さな傷なのにやたらと動揺して動きが鈍っていた。

 恵まれた天然の鎧の役割を果たす筋肉があったが故に、そうなったんだろうと予想できる。だから、こうして痛みに悶絶している姿は演技ではなく本当に痛がっていると見ていい。なら、どんどん矢を射かけるまでだ。接近戦に付き合う理由もないし、のたうち回っているとはいえ流石に両手斧は手放していない。接近すれば狙ったわけではないが故に不意を撃たれて一撃をもらう事故が発生しかねない。

(無駄にタフだな……普通ならとっくに倒せるだけの矢をプチ混んだのだが)

 一分もすると、ミノタウロスの体はどこもかしこも矢で装飾されていた。もちろん相応の出血もしており、普通ならとっくに倒せているレベルなのだがこいつはまだ沈まない。一方で、もう痛がることすらできないのか荒い息を吐くだけで動きそぶりを見せない。だが、そこまでと決着の言葉がこない以上、戦い続けるしかない。

 なので、頭部を集中砲火することにした。流石に頭部の脳天に矢が刺されば終わるだろう。奴の顔にもすでに何本も矢が刺さっているのだが、脳がある部分だけは直撃を必死で避けてきていた。自分もそこに固執するつもりはなかったんだが、終わらないんだからしょうがない。それに、今の動けなくなった状態なら、回避行動もとれまい。

(これで、お終いだ)

 放った矢は、三本とも見事にミノタウロスの脳天を貫いた。流石にこれは耐えられなかったようで、ミノタウロスは動かなくなった。これでこっちの勝利かな……一応不意打ちに備えて残心は怠っていない。

『そこまで! 副将VS中堅戦は挑戦者側の勝利だ! 次の試合だが……続行する、それで間違いないな?』

 妙にタフだったので時間がかかったが、肉体的にも精神的にも披露は全くしていないので当然続行の意思を伝えた。これで副将VS副将の戦いとなるな。

『では、副将戦だな。次の相手は、こいつだ!』

 現れた次のミノタウロスは……む、先ほどまでのミノタウロスと比べると明らかに小柄だ。獲物も両手斧ではなく片手斧を両手に持っている。でも、あの体は……かなり絞り込んでいるだけで筋肉が無いわけじゃない。細マッチョという表現が適当だろう。また、このミノタウロスは腰巻だけではなく胸当ても装備している。後、肌色に関しては人間と同じような肌色をしている。

(副将として出てきた相手だ、弱い訳がない。油断するなよ、自分!)

 気合を入れなおした自分と、ミノタウロスが武舞台上で向き合う。なるほど、それなりの圧を感じる。いや、そうじゃないな。さっき戦ったミノタウロスよりはるかに強い。目の前のミノタウロスはパワー馬鹿じゃない、武人であると直感で感じる。さっきのような楽勝な戦いにはならないな。

『準備は良いか? では三回戦副将戦、はじめ!』

 開始の声が響いたが、自分も相手もその場から動かない。いや、お互いに小さくけん制を繰り返している故に大きく動く事が無いと言うべきだろう。やっぱり目の前のミノタウロスは一定以上の武術を収めた武人で間違いない。中堅戦までのミノタウロスとは全く異なる存在だ。

 互いにけん制を続けていたが、このままでは何も始まらない。しかし、うかつに手を出せばカウンター攻撃を貰いそうな雰囲気なんだよね。ましてや、今回は両手斧と比べれば火力は下がるが小回りが利く片手斧の二刀流だ。下手に手を出すのは……と思っていたら、向こうが先に我慢できなくなったのか、両手斧を前に構えて突っ込んできた。

 かなりの速度なので、矢を構える余裕はない。クロスさせるような動きで二本の片手斧が自分に向かって振るわれたが、自分はこれを少しだけ後ろに下がったうえでボスシングのスウェーのように上体をそらして回避。回避直後にレガリオンを振るって反撃したが、これをミノタウロスは後ろに飛びのいて回避した。

(早い、今までのミノタウロスとは圧倒的に違うこの速度が今回のミノタウロスの武器か。確かに、この速度を武器にするなら過剰な筋肉は邪魔になるか。一般的なミノタウロスとは全く違うな……)

 お互いに攻撃を行って両者ともに被弾せず。再びにらみ合う形になるが、今度は自分から仕掛けた。矢を二本番えて、八割ぐらいの力で放つ。この自分の攻撃に対して、ミノタウロスは一本は回避。もう一本は片手斧で弾く事で防いだ。なるほど、飛び道具に対する対処能力もかなりの物を持っている。

 と、ここでミノタウロスが右手の片手斧を投擲してきた。もちろんそれを自分は回避したが──大体分かってるよ、ブーメランのように戻ってくるんだろう? なので回避した片手斧に向かって矢を一本放つ事で遠くに弾き飛ばした。すぐに向き直って、ミノタウロスに接近する。が。この時すでに、ミノタウロスの右手には片手斧が握られていた。

(予備を持っているようには見えなかった。なら、あの片手斧は魔剣の一種か?)

 自分の接近に合わせて、両手の斧を上から振り下ろしてくるミノタウロス。自分はその攻撃を横っ飛びでよけた後に転がりながら態勢を整え、反撃とばかりに矢を放つ。この反撃だが、ミノタウロスはぎりぎりで体を捻って回避して見せた。これも躱すか……やるな。

「ルゥルルルルルル……」

 変わった声だが、ミノタウロスもこちらを認めたのだろうか。何となく、いい戦士だと褒められたような気がする。それにしてもずいぶんと声の感じが女の子っぽいんだけど、気のせいだろうか?

「そちらも強い、素晴らしい武人だ」

 自分がそう返答すると、ミノタウロスがわずかに笑って、すぐに表情を引き締めた。こちらもそれに合わせて気持ちをより引き締め、気合を入れなおす。お互いに様子見は終わった訳だし、ここからが大事だ。お互い少しにらみ合って、今度は自分とミノタウロス、両者ともに前に出る。

 お互いの近接武器の間合いとなり、火花を散らす。ミノタウロスの片手斧は左右どちらも重く、フェイントも交じるのでかなり厄介だ。もしかすると、このミノタウロスは両利きなのかも……が、こちらとて負けるつもりはない。八岐の月とレガリオンの二刀流で、次々と襲い来る片手斧二刀流をはじき返す。

 お互いにこうして斬り合っても、ミノタウロスに隙が見いだせない。今まで戦った中でも厄介さは上位に入るな、このミノタウロス。パワーがあるのにそれを過信せず、テクニックやフェイントでの騙し合いまで行っているのだから。気が全く抜けない攻防が続いている。

 この均衡が崩れると、たぶんそのまま決着まで行く可能性が高い。こういう戦いは、一度崩れると崩された側が立て直せないままずるずると負ける事が多いからだ。無論、建て直したり逆転することもあるが、そうそうはない。向こうもそれを分かっている、だから何が何でもこちらを崩したいのだ。だが、こういう時こそ落ち着いて冷静に。僅かなチャンスを見落とさないようにしっかりと観察を。

 戦い続けて、ついにその時が来た。我慢できなくなったのだろう、こちらのガードや受け流しを力で圧し潰そうとしたのだろうか? ミノタウロスがより一層のパワーを乗せて、左手に持った片手斧を自分の頭上から振り下ろしてきた。それをぎりぎりまで粘ってから回避する。回避されて焦ったのか、ミノタウロスは片手斧を勢いよく地面に叩きつけてしまった。

 その叩きつけられた片手斧を右足で踏んで、一瞬だが動きを封じる。そこに、レガリオンで切り付ける──ミノタウロスの肌を切り裂き、鮮血が舞う……最初の一手は、取ったぞ。
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