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ミノタウロス戦、中堅

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 次は中堅戦だ。先鋒、次鋒と勝利はしているがこちらも交代の為下がっているためアドバンテージは全くない。そろそろ、ここら辺で余裕が欲しい所だがどうなるか。こちらの中堅戦は、タンカー役の男性プレイヤー。そして相手は──

『それでは、中堅戦に移ろう。次の相手は、こいつだ!』

 現れた次のミノタウロス……でかい。先の二体よりもより筋肉をつけ、より巨体となっている。あの筋肉は、天然の鎧の役目も果たしていそうだ。生半可な剣や槍じゃ、軽傷を負わせるのすら苦労しそうだが……お互いの代表選手が武舞台に立ってにらみ合う。

『準備は良いな? では、中堅戦始め!』

 試合開始の声と共に、ミノタウロスは突進すると思ったが……今回は突進しない。だが、何らかの攻撃モーションには入っているようだ。モーション的に、両手斧を右下から左上に振り上げるような感じがするが……まさか! タンカー役の男性を見ると、彼も同じものを感じ取ったようだ。片手剣を鞘に納めた後に両手で盾をしっかりと構えて防御態勢に入っている。

「ウヲッ!」

 ミノタウロスが両手斧をその場で振りぬいた時、衝撃の波が多数発生。タンカー役の男性に津波のように襲い掛かった──一発二発なんて生易しい物じゃない。数多の衝撃がタンカー役の男性を襲う。その衝撃の強さは、タンカー役の持っている大盾が教えてくれた……一発受けるたびに、頑丈なはずの大盾を確実にへこませていく。それが次々と襲ってくるのだ。並の人間なら、一瞬で飲み込まれてミンチになっているだろう。

「うおおおおおおお!」

 だが、彼は違った。盾こそへこまされてはいるが、後ろに一歩も下がらず防いでいる。いや、下がるどころか一歩一歩、その衝撃の津波の中を前へと進んでいるではないか。更に気が付いたことがある。彼が一歩前に進むごとに、へこんだはずの盾が一部修復されている……そんな性質を持つ盾は、魔盾しかありえない。

(困難の中、前に出る勇気を示す事で一定のリペア効果がある盾、か。タンカーが持つにふさわしい性能と言う事、か)

 衝撃の波が終わっていき、衝撃の数が減るほどに、タンカー役の男性の前進速度は上がる。盾も、いつの間にか完全に修復されて元に戻っていた。そのまま、彼は大盾の重量を乗せたシールドバッシュをミノタウロスに繰り出した。

「ウモッ」

 だが、そのシールドバッシュは容易くはじき返された。ぼよん、みたいな効果音が似合う感じで。やはりあの筋肉は鎧も兼ねている。生半可な攻撃じゃ、先ほどの様にはじき返されてしまうだけだろう。あの筋肉の鎧を破る火力が彼にあればいいのだが。もし無いというのであれば。どうあがいても勝ち目はない。

 片手剣を再び抜いたタンカー役の男性が、ミノタウロスに切りかかる。ミノタウロスも、両手斧で応戦する。だが、まるで両手斧とナイフで斬り結んでいるかのように見える。それだけミノタウロスが大きいのだが……どう見ても、タンカー役の男性の分が悪い。片手剣を振るっても、両手斧とぶつかると吹き飛ばされそうになっている。

 盾で防いでも、両手斧から伝わる衝撃を殺しきれずにたたらを踏む姿が見えている。それぐらい、ミノタウロス側のパワーが一方的すぎるのだ……技術の介入なんか意味が無いとばかりにそのパワーでタンカー役の男性プレイヤーの攻撃や防御の全てを吹っ飛ばしている。

「くっそおおおお!」

 必死で応戦しているタンカー役の男性プレイヤーだが、誰が見ても分が悪い。パーティプレイなら、自分が引き付けて火力がある大太刀使いの二人に攻撃してもらえれば十分なのだが──今は一人で直接対決をしなければならない。それゆえに、火力が絶望的に足りてない。もし彼の獲物が片手斧だったなら……もしくは持っているのが魔剣ならば、まだ勝ちの目はあったはずだ。

「言いたくはないが、アレでは勝ちの目はどうやっても……」

 大将である大太刀使いの女性プレイヤーが、そんな言葉を漏らしている。自分だけではなく、同じパーティの人でもそう言う判断を下さざるを得ないぐらい状況が悪いのだ。彼の名誉の為に言っておくが、決してプレイヤースキルが劣っているなんて事はない。相性が絶望的に悪いのだ、格闘ゲームで言うダイヤグラムで例えるなら十:零がついてしまうほどに。

 それでも彼は粘った。両手斧の一撃を必死で盾や片手剣で受け流し、僅かな隙に反撃を叩き込む。だが、その反撃全てが筋肉の鎧を突破できない。何度切り付けても、何度突き刺しても、同じ場所を執拗に狙っても通じていない。そして、そんな集中力を必要とする戦いを続ければ、プレイヤー自身の消耗が激しくなる。

 目に見えて、彼の反応が鈍ってきているのが分かる。数分前まで反応できていた攻撃が受け流せない。数分前まで防御できていた攻撃が被弾する。しかし、とてもじゃないが責める気なんて起こらない。彼が必死で目の前にいるミノタウロスに対し、どんなに確率が低かろうと勝利の道を探すために必死に応戦している事は痛いほどわかっている。

 もちろん、彼のパーティメンバーも同じだ。ほとんど祈るような姿で勝利を収めてくれることを願っている。しかし、戦闘の状況は非情である。彼の状況がわずかでも好転するような事なく、追い詰められていく一方だ。盾はすでに最初の姿などなかったかのようにボロボロで、鎧も多数の亀裂が入っている。もう持たない事は、誰が見ても……

 それでも、彼は戦っていた。あと一発良いのを貰えば終わるという状況下で、ポーションを取り出す余裕すらない状況下で、一歩も引かずに戦いを続けていた。そんな彼の信念が、ついに届いたのだろうか? 彼の振った片手剣の一撃がミノタウロスの筋肉の鎧を突破した。

「ボモゥッ!?」

 後ろに数歩下がりながら、明らかに動揺を見せるミノタウロス。彼の一撃が通ったのは、左腕の肘付近。大きな傷ではないが、明らかに出血が見られる。この戦いが始まって初めての明確なダメージを与えたことは間違いない。ふと、タンカー役の男性の顔をみる。半分壊れたバケツヘルムの場所から彼の目を見れた。目が死んでいない、またやれると言わんばかりの輝きがある。

「おおおおおおおおおお!」

 吠えた、タンカー役の男性プレイヤーが吠えた。原型の無い盾を構えつつ、距離を詰めて片手剣を振るう。一方でミノタウロスは動揺から立ち直れていないのか、先ほどまでの動きのキレが無い。だが、片手剣は命中しているのに先ほどの様なダメージを与えられている様子が無いか──いや、ダメージは入っている。今までなかった痣や、小さな切り傷が見える。

 それに苛立ったのか、再びミノタウロス側の攻勢が激しくなり始める。しかしタンカー役の男性プレイヤーも一歩も引かない。むしろ、全てに攻撃を見切って見せるとばかりに歯を食いしばって目をぎらつかせて食らいつく。凄まじい闘争心だ、こちらまで中てられて熱くなってくるほどだ。

 二人の間に火花が何度も散る。だが、最初のぶつかり合いと違って五分だ。信じられない、あれだけの力の差と獲物の差があったというのに今は五分の戦いをしている。一体、彼に何があったんだ? それとも、何らかのスキルかアーツの力を解放したのか? だが、何にせよ、この状況なら、先ほどまであった絶望感はない。

 でも、同時にもう一つ自分の直感が感じ取っている物がある。あのタンカー役の男性から今感じるものと、現在は使えなくなっている〈黄龍変化〉の技の一つである黄龍玉を使った時に感じたものがかなり近い事に。つまり彼が、最初とは違って五分の戦いを繰り広げられているのは……

(もしこの直感が正しいのであれば、長時間の戦闘は無理だ! 早く決着をつけてくれないと、彼は最悪この世界から消滅しかねない!)

 そこまで行く前に強制的に停止するセーフティみたいなものがあるならまだしも……もし無い場合、彼は自分達が見ている目の前で消滅することになる。もちろん自分の直感が外れているなら何の問題もないのだが……この直感が外れているとは、到底思えない。今までの経験が、外れていると言ってくれない。

 もはや祈るしかなかった。勝ってくれるというより、無事に終わってくれることだけを。その考えに至った時、彼のパーティが祈っていた理由が分かった気がした。祈りは彼の勝利を祈っていたのではなかった、無事に終わってくれることを祈っていたのではないだろうか? 戦いはまだ終わらない。ミノタウロスの攻勢は収まらない。彼の動きも止まらない。

 そんな戦いの決着は、唐突に訪れた。タンカー役の男性の動きが突如一瞬にぶったその瞬間、ミノタウロスの両手斧が彼の頭部を容赦なくたたき割った。首なしになった彼の体が前のめりに倒れて、消滅した。

『中堅対中堅はミノタウロスの勝ちだ! 少し時間を置いてから次の戦いを始める! ミノタウロス、続行するか? 交代するか?』

 ミノタウロスはこの問いかけに、少し悩んでから続行するという意思を伝えたようだ。次は自分とあのミノタウロスが……いや、それは良い。負けた彼はどうなった!? と、武舞台の横に光が舞い、光が収まるとそこにはタンカー役の男性プレイヤーが寝っ転がる形で現れた。良かった、消滅したわけではなかったようだ。

「すまん、切り札まで使ったのに負けちまった……そして、俺は今回はもう参加できない」

 そんな彼に対し、先鋒で出た女性プレイヤーが彼の頭をたたく。

「あれは使うなって言っておいたでしょうが! 消滅したらどうすんの! ある意味そうなる前に決着をつけてくれたあのミノタウロスには感謝しないといけないわね。負けるのは良いけど、消えちゃったらどうしようもなくなるでしょうが!!」

 ああ、やっぱりそう言う系統の技だったのだ。通りで最初あれだけ押されてたのを五分に持っていけた訳だよ。それだけのリスクを背負っているアーツだからこそ、リターンがあった訳だ。そして、パーティメンバーが祈っていた理由も、そう言う事だったと。

「済まない、助っ人であるそちらに負担をかける事になる……」

 タンカー役の男性の言葉に、自分は首を振る。

「気にしないでください、そう言うのを助けるのが助っ人の仕事ですから。では、行ってきます」

 そう返答を返して、自分は武舞台に降り立つ。さて、自分は副将だから跡が無いな。少なくとも、このミノタウロスは倒さないと大将の彼女にかかる負担が大きくなりすぎる。よし、気合をしっかり入れて行きますか。
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