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ミノタウロス戦、先鋒と次鋒

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 武舞台に降り立った、魔法使いの女性プレイヤーとミノタウロスが、ともに準備完了の意思を告げる。

『両者の戦闘意思を確認、三回戦の先鋒VS先鋒戦始め!』

 戦闘開始直後にミノタウロスが大きく吠えた。それと同時にミノタウロスの体からうっすらと湯気らしきものが浮かび上がる。こっちで言う《ウォークライ》系統のアーツでも使ったのだろうか? ただの演出だけ、なわけは無いだろう。

 一方で魔法使いの女性プレイヤーもいくつかのアーツを発動していた。ダメージ軽減系や魔法ダメージ増強系、移動速度増加系は確認できた。アーツの名前は忘れてしまったが、多分間違っていないはず。軽減で即死を防ぎ、魔法ダメージの増加で銭湯時間の短縮、移動速度増加で回避力を上げたという所か。

 お互い自分にバフをかけ終わると、いよいよ戦闘が始まった。ミノタウロスは当然両手斧の間合いに魔法使いの女性プレイヤーを入れるべく突進する。そのミノタウロスの行動は予想通りとばかりに、魔法使いの女性プレイヤーは短い詠唱で多数の弾をばらまける魔法を詠唱したようだ。威力は低いが、確か相手の動きを阻害するノックバック能力が優秀な魔法だ。

 ミノタウロスの大きな体躯もあって、魔法弾はすべて命中。しかし、ミノタウロスの突進は一瞬遅くなったぐらいで止まらない。しかし、その一瞬で良かったのかもしれない。魔法使いの女性プレイヤーは、その一瞬で空中に飛び上がり魔法を詠唱。ミノタウロス側は魔法使いの女性プレイヤーが間合いぎりぎりのタイミングで飛び上がった事で、見失っているようだ。

『《トールハンマー》!」

 空中にいる女性プレイヤーは大きなハンマー型の雷を相手に叩きつける魔法を詠唱し終え、ミノタウロスに向かって叩きつけた。激しい雷光と轟音が武舞台の上を支配し、ミノタウロスの姿を隠す。それらが収まった武舞台の上には、あちこちから血を流して明らかにかなりのダメージを受けたことを隠し切れないミノタウロスがいた。

 しかし、ミノタウロス側も黙ってはいない。上に標的がいる事を理解し、猛然と跳躍。斧を振りかざす──が、その斧に捉えられたと見えた魔法使いの女性プレイヤーの姿が掻き消える。どうやら、見えていた彼女の姿は幻影だったようだ。

「こっちよ」

 そして、本体がミノタウロスの後ろから現れた。ミノタウロスは跳躍した上に斧を振り下ろした姿を晒しており、回避は出来ない。魔法使いの女性プレイヤーも当然それを理解したうえで魔法を詠唱し、ミノタウロスの着地の直前に魔法を放った。

「受けなさい、《アッシュ・シャイン!》」

 彼女の左手から放たれた極太の光線が、武舞台の上を真っ白に染め上げる。この魔法は轟音こそ上げないが、その光量はすさまじく、射線上にいたミノタウロスの姿をかき消してしまった。その数秒後、光が収まった先には何もいなかった……

『そこまで! 先鋒VS先鋒戦は挑戦者側の勝利だ! 連戦するか? 交代するか?』

 この問いかけに、魔法使いの女性プレイヤーは交代すると告げて武舞台を降りる。すごい魔法だった、あれが空の世界にいた時に敵に対して有効だと言われていた光の攻撃魔法、《アッシュ・シャイン》か。ミノタウロスの体を、武器ごと消し去っちゃったぞ……あんな極太レーザーを空の世界のダンジョンでプレイヤー達は撃っていたのか。

「お疲れ、しかし早々に大魔法連発したな?」「ミノタウロス系はタフだもの。MPをケチってちまちま削ろうなんてやったら、魔法使いは事故が怖いわ。斧の一撃を受けたら、防御魔法使っていても魔法ごと一気に叩きおられて即死しかねないもの。結果として、MP効率なんて投げ捨てて速攻で倒すのが一番安全なのよ。今回は助っ人もいるから、その判断は素早く下せたわ」

 下がった魔法使いの女性と、控えに回っていた人の会話が耳に入る。まあ、そうだね。魔法使いはどうしても一撃貰うと危険だという問題から逃れられない。それだったら、相手を崩して大魔法で一気に消し飛ばした方が良いという考えになるのも無理はないか。やられてしまったら、この先がきつくなるもんな。

『それでは次鋒VS次鋒戦だ! 両者武舞台へ!』

 その言葉に再び武舞台に視線を戻すと、次鋒として出るもう一人の魔法使い女性プレイヤーと、今度は肌色が鈍く銀色に光るミノタウロスが上がってくる。そのミノタウロスを見たとたん、武舞台に上がっている女性プレイヤーの表情が一気に悪くなったのが見えた。何があった?

「マズイ、まさかあいつが次鋒で出てくるのかよ」

 更に、中堅のタンカー男性プレイヤーまで、そんな言葉を吐いた。この反応から察するに、あの銀色のミノタウロスは魔法職キラーなのだろう。だが、当然交代もできず……無情にも次鋒戦が始まってしまった。

「嘆いたってしょうがないよね!」

 と、一方で武舞台上の魔法使い女性プレイヤーは腹をくくったのか、それとも開き直ったのか。声を上げると魔法を詠唱して──両手剣を生み出した。だが、その両手剣は普通の剣ではありえない紅く透き通っている姿をしていた。更に刀身には無数の雷光が纏わりついている事も確認できた。彼女は魔法を放って戦う一般的な魔法使いじゃなく、近距離で戦うバトルメイジタイプか。

「はあああああ!」「ブゥモモオオオオ!」

 両手剣と、斧が正面から激突した。二回、三回と切り結ぶがどちらも引かない。魔法使いの女性プレイヤーは魔法で強化しているから押されないのだろう。しかし、さらに数回切り結ぶと、両手剣が真ん中から折れてしまった。

「ブモッ!」「勝ち誇るのは早いよ!」

 それを見てどうだ! と声を上げたミノタウロスの声と行動に、魔法使いの女性プレイヤーは待ったをかける。折れた両手剣が、一瞬で再生された。なるほど、MPを注げば折れてもすぐに修復出来るという能力も持っているんだろう。ただ、その修復にどれだけMPが必要なのかが分からない以上、楽観視は出来ないけど。

 再び両者が激突、前衛顔負けのぶつかり合いが行われている。そして、ここまで一回も魔法使いプレイヤーは攻撃魔法をミノタウロスに対して放っていない。やっぱり、あのミノタウロスには攻撃魔法が効かない、もしくは大幅に軽減されてしまうんだろう。だからMPの無駄遣いをしない為に魔法の両手剣一本に絞って戦うスタイルを取っているのだろう。

「セイアアアア!」「ブモモモモモー!」

 また両手剣と斧がぶつかって盛大な火花が散る。かれこれ、こうやって戦闘開始から十分が経過している。しかし、退屈とは無縁だ。一進一退、目を離せない戦いだ。一度、魔法使いの女性プレイヤーの両手剣の先端が、ミノタウロスの頬をかすめた。しかし、かすめただけで頬がざっくりと切れた。当然相応の出血があった。

 しかし、その血に興奮したミノタウロスはますます攻撃の激しさをました。更に、理由は分からないがそうなってからしばらくして頬から出ていた出血が止まっていた。自己再生力が高いのか? それとも……別の要因があったのか? とにかく、お互いの獲物はお互いの体を一撃で屠ることが出来るのだと分かってしまった。

 何方かが、一発、相手に会心の一撃を叩き込めるか。それだけの勝負となっていた。PvPでもここまで張り詰めた勝負はそうそうないと思う。一撃、一撃で決着がつく。それは戦っている両者が一番分かっているのだろう。だが、両者とも笑っていた。こうやって戦うのが楽しくて楽しくてたまらないとでも言いたいのだろうか? 奇妙な空間がそこにはあった。

(この戦い方が、彼女の本命のやり方なのかは分からない。だが、下手な前衛よりよっぽどやる。やっぱり、世界ってのは広いな。こんな人がこうして居るんだから)

 いろんな戦いは今までたくさん経験してきた。それでも、やっぱり知らない世界が存在している。だからこそ、世界をめぐるのは面白かった、楽しかった。戦いに限った話じゃない、いろんな場所にいるいろんな人を見るのが楽しかった。それを家に居ながら実現できたこの世界が存在していたことに、感謝しないといけないという思いが浮かんでくる。

「お互い、十分に出し合ったでしょ。次を最後の一撃にしない?」「──ブモゥ」

 更に数分刃を打ち付けあった後、魔法使いの女性プレイヤーはそうミノタウロスに告げ、ミノタウロス側も「いいだろう」という感じの声を上げた。先ほどまでの激しいぶつかり合いから一転して静かになり、両者が文字通りの最後の一撃、決着をつけるべく繰り出すその一撃の為に力を貯めている事が分かる。

 両者が飛び出したのはたぶん、限りなく同時。両者ともに選んだのは、上段からの振り下ろし。両者ともに笑みを浮かべながら、小細工なしの一撃を加えながらすれ違った。それからややあって、大量の血飛沫と共に魔法使いの女性プレイヤーは地面に付した。が──その直後、ミノタウロスの体が左肩から腹部まで見事に裂けた。

「ブモ……ウゥゥ……」

 見事だ、と言いたかったのだろうか。最後に言い残して、地面に倒れると同時に消滅した。一方で魔法柄の女性プレイヤーは……吐血こそすれ、まだ生きていた。

『そこまで! 次鋒VS次鋒戦も挑戦者側の勝ちだ! 交代だろ? OK、交代してくれ!』

 こうして、次鋒戦も終了した。なお、次鋒として出た魔法使いの女性プレイヤーだが、残り体力はほぼ空。一パーセント以下しか残っていなかったそうである……無茶もいい所だ。それと同時に、戦いを経てわかった。あの二人は外見こそ双子だが、それ以外は大きく違うと……。
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