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試練開始

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「さて、では第一戦のメンバーを決める訳だが……先鋒として出てくれないか?」

 タンカー役の男性プレイヤーが、自分にそう話しかけてきた。なるほど、まずはこちらの腕前の程の確認とルールに慣れてもらいたいって事だな?

「了解です、ここの雰囲気をまずは体験してきます」

 自分の言葉に、タンカー役の男性プレイヤーは頷いた。

「説明が必要なくて助かる。あと、大体きつくなってくるのは三回戦目からなんでな。そうなる前に一回はどういう形で戦うのかを実際に経験しておいてほしかった。では他のメンバーだが……次鋒は俺で──」

 と言う感じで、先鋒として自分が出る事になった。メンバーを決めると、武舞台の前に五つの足場がせり上がってくる。これに乗れと言う事か?

「左側から先鋒。次鋒って感じになってるから一番左に乗ってね」

 魔法使いの女性プレイヤーの言葉に従い、一番左の足場に乗る。足場の大きさは三×三メートルぐらいの大きな物なので余裕をもって乗る事が出来る。上に乗ると、より高くせり上がった。これで登録完了と言う事になるのだろう。

『それでは、第一回戦を始めるぞ。今回の相手はこいつらだ!』

 その声と共に武舞台の上に赤い光が漂い、一匹のゴブリンが召喚された。ただ、その肌は黒光りしており、普通のゴブリンではない事は間違いない。流石にここにきて、普通のゴブリンを持ってくる訳はないね。

『先鋒の人は、武舞台に降りてくれ。不意打ちはないから安心してくれていい。武舞台に降りて、両者の準備が整った所で開始となる』

 正々堂々、と言う事か。なので自分は武舞台に降り立ち、ある程度の間合いを保ったところで武器を構える。ゴブリンも腰に下げていた一対のショートソードを手に取って二刀流となり、戦闘態勢に入る。

「なんだあれ? 弓と同時にダブルブレードまで構えたぞ? あれで戦えるのか?」「見たことないスタイルだね、とりあえずは見てみよう」「助っ人に来る人なんだから、弱いって事はないだろうけど」

 後ろから、同行しているパーティたちの言葉が耳に入ってくる。まあ、戦っている所を見せて十分にやれるところを見せればいいだろう。こういうのはこちらの動きを見せて、納得してもらうのが一番早いのだから。

「何時でもどうぞ」「ゴブッ!」

 自分とゴブリン、どちらからも初めていいという意志が込められた声が上がる。ゴブリンの方はたぶんそうだろうという予想込みだけど……やる気は伝わってくるので間違いはないはずだ。

『両者の戦闘意思確認よし、では一回戦先鋒VS先鋒戦、はじめ!』

 その声とほぼ同時に自分とゴブリンは動き、一瞬で決着はついた。ゴブリンが振ってきた左手のショートソードの一撃を自分が八岐の月についている爪で弾いた後に、右手のレガリオンで首を刎ね飛ばしたからだ。首は武舞台を転がり、そしてゴブリンの体と同時に消えた。

『そこまで、勝者挑戦者側! 連戦するかい? それとも交代するかい?』

 もちろん連戦だ。流石にこれだけで交代したら、さぼりと思われかねない。

「連戦します、次の相手を出してください」

 その後、ゴブリンオンリーで武器が槍、大太刀、大剣、体術の順番で出てきたがそれらすべてを首を刎ねて終わらせた。まあ第一回戦だからレベルがあまり高くない連中で固めてきたんだろうな。強さで言えば、多分龍の国一が武周辺のモンスターを多少強化した? ぐらいか。今この塔に上る人なら、相手にならないレベルだ。

『そこまで! 第一回戦は挑戦者の勝ちだ! 数分の休息を挟んで第二回戦へと移行する。それまでに次のメンバー五人の選出をしておいて欲しい!』

 とりあえず、これで自分も一定レベルの強さを持っている事は分かってもらえただろう。武舞台を下りて同行パーティの所へと戻る。

「なるほど、この難所に助っ人として呼ばれるだけの事はある、と……素晴らしい剣技の冴えだ」

 大太刀を背負っている女性プレイヤーの言葉に、他の面子もうんうんと頷いている。どうやら、助っ人に来たはいいが頼りない人間……という印象はもたれずに済んだようだ。

「凄まじい首刎ね術だな……まさか五匹全部の首を刎ねて一瞬で終わらせるとか予想してなかった。いくらそう強くはないゴブリンとはいえ、あそこまで綺麗に決めるとなるとそれなりに難しいはずなんだが」

 片手剣二刀流の男性プレイヤーはそんな事を口走りながらうんうんと唸っている。ただの経験と修行の結果でしかないんだけどね、こちらとしては。

「なんにせよ、次は俺達の力を見せるのが筋だろう。リーダー、次は俺が先鋒で出たい。良いか?」

 大太刀を背負った男性プレイヤーの言葉に、タンカー役の男性プレイヤーは頷いた。

「どのみち、その予定だったからな。次鋒は俺のままだ。今回控えには彼とお前さんに回ってもらう。それで行くぞ」

 控えは自分と、魔法使いの片方が選ばれたか。先程の出番では副将に配置されていたまあこれはそこまで出番を回すつもりはないからこその配置だと自分は想っている。魔法使いはどうしても攻撃にMPを消費する。だが副将や大将に配置してそこまで出番を回さなければ消耗させることはない、それゆえの配置。今回も対象はもう片方の魔法使いプレイヤーだ。同じ考えだろう。

『では、二回戦をそろそろ始めるぞ。次の相手はこいつらだ!』

 その声と共に武舞台に現れたのは、赤黒い肌をしたオークと思われるモンスターだ。では、同行パーティの実力を拝見と行こう──そして、二回戦も問題なく終わった。全体を通してみても被弾はあった物のほんの数回であり、この塔に居るだけの実力は十分に備えている事が確認できた。被弾したと言っても多少掠った程度の物であり、怪我とは言えない。これでお互いの腕前は信に足るものだとお互いに理解できた。

『そこまで、第二回戦も挑戦者側の勝利だ! 数分後三回戦を始める。分かっているとは思うがここからが本番だ、メンバー選びは慎重に行ってくれ!』

 武舞台から降りてきたメンバーと、次から誰を出すかの話し合いを行う。次からが本番だと明言されたからな、ちゃんと考えないと……

「ここまで温存してもらっているからMPは余裕がありますし……そろそろ出ます。消耗度合いによっては一回で交代になるかもしれませんが」

 と、ここまで一回も戦っていない魔法使いの片方が手を上げた。すると、もう片方も手を上げる。

「では私が次鋒ででます。ですので、中堅以降を決めて下さい」

 ホントにこの二人は声もそっくりすぎて聞き分けも出来ない。偶然の一致だったら怖いんだよなぁ……流石にリアルの知り合いとか、他のゲームで知り合って双子キャラやろーって話をした上で作ったと言われた方が納得がいくし安心できる。

「では俺が中堅を勤めよう。済まないが、副将として入って欲しい」

 この言葉に自分は頷いて同意する。タンカー役の男性プレイヤーが中堅、自分が副将で決定。これで残すは大将だけだ。

「なら、私が大将を務めよう。これで決定だな」

 大太刀を背負った女性プレイヤーの一言で大将も決定。選出された全員が、例の足場に乗る。

『出場者は決まったか? あと三十秒後に第三回戦が始まる。それまで少しでも呼吸を落ち着けておいて欲しい』

 ならば、言われたようにするだけだ。肩の力をほどほどに抜いて、自然体でリラックス。さてと、そろそろ三十秒発ったかな?

『では、三回戦を始めるぞ! 今回の相手は、こいつらだ!』

 武舞台に現れたのは……大きな両手斧を持ち、牛の頭を持ち、巨大な体躯を持つ……そう、ミノタウロスだった。両手斧は鈍い輝きと一部に血の跡が見受けられ、一発もろに食らえば、この斧の錆になるぞと言わんばかりの主張をしてきている。それにしても、急激に敵の強さが跳ね上がってない? ここからが本番と言う言葉通りに。

「ミノタウロス系が三回戦で出てくるなんて……ちょっと厳しいかも」

 そんな言葉を残して、先鋒の女性魔法使いが武舞台に降り立った。今は、見守るしかない。彼女が勝つことを。


******


メインpcをただいま修理に出しています。
これはサブpcで書いてあげています。更新が不安定になるやもしれませんが、よろしくお願いします。

まさか一年ちょいでダメになるとか……最短記録です。
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