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亡霊武者、その3
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亡霊武者の二刀流大太刀の猛攻に対して自分はしばらく受けに専念し、相手の太刀筋を観察する。確かに力強く、確かに早い。しかし、やはり欠点があった。攻撃のパターンが大きく減っている。具体的に言うと六つのパターンを適度にランダムで繰り出してきているだけなのだ。
(これだったら、こうなる前の方がよっぽど強かったな……)
武器の動かし始めの動作だけで、これが来る、これが来ると分かってしまうのだ。更に言うなら攻撃を繰り出した後、次にできる動作はそう多くない為、次に繰り出してくる攻撃方法がある程度絞れてしまう。これによって亡霊武者の攻撃は、ますます柔軟性がない単調な攻撃になってしまっている。
例えば、X字を書くように両方の大太刀を振り下ろした後は、刃を逆にして再び剣を振り上げるか、横薙ぎにしてくるかぐらいしかできない。振り下ろしたのにその動きをキャンセルしてもう一回すぐさま大太刀を振り下ろすと言った格闘ゲームのような動きは不可能なのだ。いくら力や速度があっても、そのレベルが自分にとって見切れる範疇にあるのだから、これでは逆に弱体化したと表現していい。
そのため、途中から始めた自分のレガリオンによるカウンター攻撃が次々とあっけなく決まっていく。もはやただの作業になってしまっているな……ダメージを受けても相手の動きは鈍らないが、更なる速度を持っていないのであるならば、何の脅威も感じない。ただただ心を静かにして、ひたすらカウンター攻撃を当て続けて倒すのみ。
一応警戒してはいたが、亡霊武者の更なる奥の手は無かったようだ。ひたすら速度とパワーだけを重視した単調な攻撃を延々と続け、それらすべてを自分はカウンターしてダメージを確実に蓄積していく──やがて亡霊武者の輝いていた左目の紅色が消えて、亡霊武者は両手に持っていた大太刀を両方共に地面へと落とした。少しだけ転がって、大太刀二本は力なく動きを止める。
「我が武、届かずか」
そうつぶやいて、膝をついた。なので、自分はレガリオンを元に戻して鞘に納めながら、先ほどの戦いで思った事を正直に口にすることにした。
「先ほどまで発動していた力を振り回している時の方が弱かったぞ。確かに力も速度も上がってはいたが、肝心の攻撃がお粗末に過ぎる。ある程度の手練れならば、あのような力を使わずに大太刀を振るっていた時の貴殿の方が強かったと評するだろう」
雨龍&砂龍師匠や、蹴り技の資料であるルイさんでも、たぶん同じことを言うだろう。自分が先ほどの亡霊武者のような事をしたら、なってないと怒鳴られて地獄のしごきが始まるだろうな。そんなつまらない手段に堕するような真似は許さんとばかりに。
「──そうか、そうか──完全に我の負けだ。この場から出られる扉を今開こう」
亡霊武者の言葉通り、先に一つの扉が現れた。あれを開ければ、アスレチックエリアが再開するのだろう。その扉に向かうと、背後から亡霊武者の声が聞こえてきた。
「生きている時に貴殿のような者と戦ってみたかったものよ。さすれば、我が武ももっと磨かれたであろう。あのような力に頼らずとも、もっと打ち合えたであろうな……」
この亡霊武者は、確かにこの塔の中で今まで出てきたモンスターと比べると異質な存在だった。今後、彼のような存在とまた戦う時があるのかもしれない。さて、扉を開けるとまぶしい光と共にアスレチックエリアに戻ってきたことが分かった。それとほぼ同時に、リフトの方から交代してくれ! と言う事も聞こえてきた。
(ボスは越えたし、交代しよう)
なので自分がリフトに戻ると、入れ違いで金色の杖を持った男性プレイヤーがリフトから飛び出していった。リフトからアスレチックエリアの先を見ると、モンスターと穴はあるがそこまで起伏が激しくないエリアのようだ。そうなると、詠唱時間が短い魔法を駆使してモンスターを倒しながら先に進める魔法使いが出るのは良い手段かもしれない。
そんな事を考えていると、不意に肩をたたかれた。振り返ると、肩をたたいたのはタンカー役の女性だった。
「素晴らしい物を見せてもらった。スネークソードを存分に生かした戦いを間近で見られたのは実に幸運だった。それで、その。先ほど使っていたスネークソードを見せてもらえないだろうか? 出来れば、二本を繋げた状態で」
ふむ、さっきの戦いで興味を強く引いてしまったか。よく見れば、他の面子もうなずいている。ま、手に取ってみたいと言う訳でないのならそれぐらいは良いか。鞘から抜いた二本を組み合わせ、再びレガリオンの形にして目の前でじっくりと見せる。
「というか、こういう形の剣ってアリだったんだな……ダブルブレード、って言うんだっけか?」「まあ、有名な宇宙を舞台にした映画などではそういう言い方をしてた様な筈」「で、これ両方スネークソードなんだよな……正直、よく使いこなせるなと思うんだ。俺がやったら、自分の首を自分で落としてしまいそうだ」
レガリオンを見て、やいのやいのとそれぞれが好きなようにレガリオンを評している。まあ、自分もスネークソードをかなり使い込んで、さらに真同化も使ってより動きを学び、その上で振るっているから──それだけの下地が無かったら自分は間違いなくレガリオンを使いこなせないし、クラネスさんもレガリオンを作ろうとはしなかっただろう。
「大太刀二刀流の猛攻を、時にはソードで、時にはスネークで全て捌き切ったどころか、カウンターまで取ってたんだよな」「まさに理想的なスネークソードの戦い方って奴だったんだろう。スネークソードを使う人は山ほど見たが、さっきのような戦いはそうそう見れないから、つい見入ってしまっていたよ」
自分はソロメイン故にあんまり他の人の戦いって目にしてないから……基本的に他の人を見るとなると、師匠達が基準になってしまっている所があるな。あ、そうなると大半の人からすると自分もバグってる存在って事になるのかな……否定がしずらい話だな、そもそも龍神が修行をつけてくれるなんて事はそうそうない訳で。
(巡り合わせは、本当に恵まれていたからなぁ。苦労をした先にはそれ以上の良い出会いがあって……でも、だからこそ有翼人のボスに勝つことが出来た。胸糞悪い結末を防げた。そして今、こうして塔に登れる力を持っていられる。感謝しないとな)
ほとんどの人はとっかかりすら得られない。自分はそのとっかかりを得られた幸運があった。しかし、そこから先はそのとっかかりをしっかりとつかみ取る意思と、努力が必要になる。面倒だから、やりたくないからという感情で手放した人も多いはずだ。自分はそこを手放さなかったからこそ、今があるのだ。
「それにしても、ほんと綺麗な剣だよね。でも、これがいざ力を発揮すると、敵を情け容赦なく切り刻む訳で」「武器はそういう物だろ。綺麗なだけで役に立たないものは武器とは言わん」「普段は片手斧一本な私だが、ここまで他の武器に心惹かれるのは初めてだ。貴殿とはもっと早く出会いたかったものだ……先の戦いをもっと早く見れていればと、悔いが残る」
タンカー役の女性は悔しそうだなぁ。ある意味酷な事をしてしまったのかもしれないが、仕方ないと割り切ってもらおう。自分としても、まさかここまで食いついてくるとは思っていなかった。それか、先ほどの亡霊武者との戦いが、彼女の琴線に触れたからこそ、ここまで食いつくという結果を生んだのか?
「これ以上眺めている訳にはいかないな、それにあれだけのボス相手に一人で挑んで倒して疲れているだろう。なのに我が儘を聞いてもらった、ありがとう」
タンカー役の女性の言葉に自分は頷き、レガリオンを分割して鞘に納めなおす。さて、こんな会話をしている内に、アスレチックエリアは結構進んでいた。出来るだけMPをを温存するために燃費の良い魔法を駆使してモンスターを倒しながら突き進んでいる金色の杖を持つ男性プレイヤー。アクションも激しくないので、交代する理由はないのだろう。
「もうしばらくは彼に任せておいていいみたいですね」「ああ、お前さんは本当によくやってくれたよ。ここからは俺達が頑張らないとな……助っ人に頼りっぱなしでクリアなんて、先にも言った気がするが本当に情けないからな」
自分の言葉に、二杖流の男性プレイヤーがそう返答を返してくれた。確かに、自分の仕事はひと段落だろうし、ここから先は彼らに任せて良いだろう。あくまで自分は助っ人、この試練のメインキャストは彼らの方なのだ。その主役を横に置いて、わき役がいつまでも居座ってちゃあ盛り上がるものも盛り上がらないから。
しばらくはここから、彼らの活躍を観戦させてもらう事としよう。彼らがどうしようもないほどに苦戦する状況になるまでは、飛び出さない。
(これだったら、こうなる前の方がよっぽど強かったな……)
武器の動かし始めの動作だけで、これが来る、これが来ると分かってしまうのだ。更に言うなら攻撃を繰り出した後、次にできる動作はそう多くない為、次に繰り出してくる攻撃方法がある程度絞れてしまう。これによって亡霊武者の攻撃は、ますます柔軟性がない単調な攻撃になってしまっている。
例えば、X字を書くように両方の大太刀を振り下ろした後は、刃を逆にして再び剣を振り上げるか、横薙ぎにしてくるかぐらいしかできない。振り下ろしたのにその動きをキャンセルしてもう一回すぐさま大太刀を振り下ろすと言った格闘ゲームのような動きは不可能なのだ。いくら力や速度があっても、そのレベルが自分にとって見切れる範疇にあるのだから、これでは逆に弱体化したと表現していい。
そのため、途中から始めた自分のレガリオンによるカウンター攻撃が次々とあっけなく決まっていく。もはやただの作業になってしまっているな……ダメージを受けても相手の動きは鈍らないが、更なる速度を持っていないのであるならば、何の脅威も感じない。ただただ心を静かにして、ひたすらカウンター攻撃を当て続けて倒すのみ。
一応警戒してはいたが、亡霊武者の更なる奥の手は無かったようだ。ひたすら速度とパワーだけを重視した単調な攻撃を延々と続け、それらすべてを自分はカウンターしてダメージを確実に蓄積していく──やがて亡霊武者の輝いていた左目の紅色が消えて、亡霊武者は両手に持っていた大太刀を両方共に地面へと落とした。少しだけ転がって、大太刀二本は力なく動きを止める。
「我が武、届かずか」
そうつぶやいて、膝をついた。なので、自分はレガリオンを元に戻して鞘に納めながら、先ほどの戦いで思った事を正直に口にすることにした。
「先ほどまで発動していた力を振り回している時の方が弱かったぞ。確かに力も速度も上がってはいたが、肝心の攻撃がお粗末に過ぎる。ある程度の手練れならば、あのような力を使わずに大太刀を振るっていた時の貴殿の方が強かったと評するだろう」
雨龍&砂龍師匠や、蹴り技の資料であるルイさんでも、たぶん同じことを言うだろう。自分が先ほどの亡霊武者のような事をしたら、なってないと怒鳴られて地獄のしごきが始まるだろうな。そんなつまらない手段に堕するような真似は許さんとばかりに。
「──そうか、そうか──完全に我の負けだ。この場から出られる扉を今開こう」
亡霊武者の言葉通り、先に一つの扉が現れた。あれを開ければ、アスレチックエリアが再開するのだろう。その扉に向かうと、背後から亡霊武者の声が聞こえてきた。
「生きている時に貴殿のような者と戦ってみたかったものよ。さすれば、我が武ももっと磨かれたであろう。あのような力に頼らずとも、もっと打ち合えたであろうな……」
この亡霊武者は、確かにこの塔の中で今まで出てきたモンスターと比べると異質な存在だった。今後、彼のような存在とまた戦う時があるのかもしれない。さて、扉を開けるとまぶしい光と共にアスレチックエリアに戻ってきたことが分かった。それとほぼ同時に、リフトの方から交代してくれ! と言う事も聞こえてきた。
(ボスは越えたし、交代しよう)
なので自分がリフトに戻ると、入れ違いで金色の杖を持った男性プレイヤーがリフトから飛び出していった。リフトからアスレチックエリアの先を見ると、モンスターと穴はあるがそこまで起伏が激しくないエリアのようだ。そうなると、詠唱時間が短い魔法を駆使してモンスターを倒しながら先に進める魔法使いが出るのは良い手段かもしれない。
そんな事を考えていると、不意に肩をたたかれた。振り返ると、肩をたたいたのはタンカー役の女性だった。
「素晴らしい物を見せてもらった。スネークソードを存分に生かした戦いを間近で見られたのは実に幸運だった。それで、その。先ほど使っていたスネークソードを見せてもらえないだろうか? 出来れば、二本を繋げた状態で」
ふむ、さっきの戦いで興味を強く引いてしまったか。よく見れば、他の面子もうなずいている。ま、手に取ってみたいと言う訳でないのならそれぐらいは良いか。鞘から抜いた二本を組み合わせ、再びレガリオンの形にして目の前でじっくりと見せる。
「というか、こういう形の剣ってアリだったんだな……ダブルブレード、って言うんだっけか?」「まあ、有名な宇宙を舞台にした映画などではそういう言い方をしてた様な筈」「で、これ両方スネークソードなんだよな……正直、よく使いこなせるなと思うんだ。俺がやったら、自分の首を自分で落としてしまいそうだ」
レガリオンを見て、やいのやいのとそれぞれが好きなようにレガリオンを評している。まあ、自分もスネークソードをかなり使い込んで、さらに真同化も使ってより動きを学び、その上で振るっているから──それだけの下地が無かったら自分は間違いなくレガリオンを使いこなせないし、クラネスさんもレガリオンを作ろうとはしなかっただろう。
「大太刀二刀流の猛攻を、時にはソードで、時にはスネークで全て捌き切ったどころか、カウンターまで取ってたんだよな」「まさに理想的なスネークソードの戦い方って奴だったんだろう。スネークソードを使う人は山ほど見たが、さっきのような戦いはそうそう見れないから、つい見入ってしまっていたよ」
自分はソロメイン故にあんまり他の人の戦いって目にしてないから……基本的に他の人を見るとなると、師匠達が基準になってしまっている所があるな。あ、そうなると大半の人からすると自分もバグってる存在って事になるのかな……否定がしずらい話だな、そもそも龍神が修行をつけてくれるなんて事はそうそうない訳で。
(巡り合わせは、本当に恵まれていたからなぁ。苦労をした先にはそれ以上の良い出会いがあって……でも、だからこそ有翼人のボスに勝つことが出来た。胸糞悪い結末を防げた。そして今、こうして塔に登れる力を持っていられる。感謝しないとな)
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タンカー役の女性は悔しそうだなぁ。ある意味酷な事をしてしまったのかもしれないが、仕方ないと割り切ってもらおう。自分としても、まさかここまで食いついてくるとは思っていなかった。それか、先ほどの亡霊武者との戦いが、彼女の琴線に触れたからこそ、ここまで食いつくという結果を生んだのか?
「これ以上眺めている訳にはいかないな、それにあれだけのボス相手に一人で挑んで倒して疲れているだろう。なのに我が儘を聞いてもらった、ありがとう」
タンカー役の女性の言葉に自分は頷き、レガリオンを分割して鞘に納めなおす。さて、こんな会話をしている内に、アスレチックエリアは結構進んでいた。出来るだけMPをを温存するために燃費の良い魔法を駆使してモンスターを倒しながら突き進んでいる金色の杖を持つ男性プレイヤー。アクションも激しくないので、交代する理由はないのだろう。
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自分の言葉に、二杖流の男性プレイヤーがそう返答を返してくれた。確かに、自分の仕事はひと段落だろうし、ここから先は彼らに任せて良いだろう。あくまで自分は助っ人、この試練のメインキャストは彼らの方なのだ。その主役を横に置いて、わき役がいつまでも居座ってちゃあ盛り上がるものも盛り上がらないから。
しばらくはここから、彼らの活躍を観戦させてもらう事としよう。彼らがどうしようもないほどに苦戦する状況になるまでは、飛び出さない。
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