上 下
515 / 748
連載

亡霊武者その2

しおりを挟む
 お互いに睨み合って一拍ほどおいたのち……自分と亡霊武者はほぼ同時に前にでた。そして、激突。自分のレガリオンと亡霊武者の持つ大太刀がぶつかり合って激しい火花を散らす。二合、三合と刃を交わしたが、自分も亡霊武者も一切譲らず。単純なパワーなら亡霊武者の方がはるかに上なのだが、こちらは今まで培ってきた技がある。その技をもって、引かずに戦う事を可能としていた。

 七合までお互いの武器を叩きつけ合ったのち、亡霊武者が一歩引いて──すぐさま脳天から真っ二つにする勢いで大太刀を振り下ろしてきた。でも、この手の攻撃はもう嫌というほど見てきたし味わってきた。体を少しだけ左側に動かしてぎりぎりで回避することに成功した直後に、八岐の月の爪による反撃を見まう。

「ぬう!?」「浅いか……」

 亡霊武者の頭部をとらえたと思ったが、軽く引っ掻いただけにとどまったようだ。手ごたえがほとんどない……亡霊武者の反応速度はやはりかなり良いな。もう少し速度を上げるか、体勢をしっかりと崩さないとクリーンヒットは望めないと見て良いだろう。互いに少し後ろに下がり、お互いに構えなおした。

 またにらみ合いになったので、今度はこちらから仕掛ける事にした。レガリオンを一旦地面に突き刺し、すかさず八岐の月に矢を三本番え亡霊武者へと放つ。それを三回繰り返した……亡霊武者は放たれた矢のうち七本は大太刀ではじき返したが、残り二本はしのぎ切れずに体に突き刺さった。一本は左足の太もも辺りに、もう一本は右の肩付近だ。

「その弓、弦は飾りではなかったか!」

 最初は殴り掛かったからな、弓の形をした近接武器だと考えたのかもしれない。でも、ちゃんと矢を放てるからね。むしろもともとは弓に近接攻撃用の爪をつけた、が正しいんだけど──確かにここ最近は、弓として用いるより近接用の爪攻撃として用いる事が多かったかな。さて、これでちゃんと弓として使えると言う事が相手にばれたわけだが、当然亡霊武者は距離を詰めてくる。

(遠距離武器持ち相手に距離を取ったら、火だるまにされるだけだからこの行動は当然だな)

 再びレガリオンを右手に持ち、近接戦闘を再開する。亡霊武者の大太刀がうなりを上げてこちらの首を執拗に狙ってくるがそれらをすべてはじき返す。どうやら、先ほど放った矢のダメージがかなり重かったようだな。亡霊武者がさっさとこちらを殺して一息つきたいと言わんばかりだ。

 だが狙いが自分の首周辺に固まっている為、こちらとしては至極読みやすい。攻撃をすべてなんなく受け流し、相手の大振りを誘う。狙いは、先ほどのタンカーの女性との戦いで見せたあのカウンター動作。あのカウンターをカウンターする事が目的だ。普通の剣ではできないやり方げ此方がカウンターを取れる。だからこそ、振って来て欲しいのだが。

(うーむ、どれもこれも、崩しを入れた所で大きく体勢を悪化させられるような一撃は飛んでこないな……この首狙い自体が、向こうの誘いなのか? 首を執拗に狙ってこちらに攻めのイメージを固定させて、そこに全く別の狙いでバッサリとか?)

 先ほどの脳天から振り下ろしてきたような一撃は全く振ってこない。こちらのカウンター狙いを読んで警戒しているのか? 面倒だが、仕方がない。こちらも攻めようか。首狙いの一発をレガリオンで意図的に大きく弾き、もう片方の刃で大太刀を握っている腕を狙う。だが、この一撃は亡霊武者の小手に阻まれた。小手を疑似的な盾のように扱い、受け流されたのだ。

(今ぐらいの力の入れ具合なら、受け流されてもこちらの体制は崩れない。この感じでこちらも反撃していくか。決して大振りだけはしないようにする事だけは徹底しないといけないが)

 そうして、お互い腹の探り合いをしながらの剣戟が始まった。火花が何回も散り、お互いがお互いの隙を探して、もしくは作るために刃を交わす。そんな状況でも、自分の心は落ち着いていた。確かに亡霊武者は強い、がやはり師匠や有翼人のボスだったロスト=ロスほどの強さは持ち合わせていない。そうして斬り合いを続けると、ついに亡霊武者が焦れた。

「むうん!」

 来た、タンカーの女性が敗れる切っ掛けとなった一撃。これを自分は出来る限りタンカーの女性がやったように受け流し、レガリオンですぐさま反撃を繰り出す。それを待ってましたとばかりに大太刀の柄の先端部でカウンター仕様としてくる亡霊武者。だけど──

(スネークモードに変更!)

 レガリオンの刃がソードモードからスネークモードへと変化。こうなれば当然、亡霊武者のカウンターは成立しない。そのままの勢いて、レガリオンによるカウンターをカウンターする攻撃が突き刺さる。手ごたえ、有り。

「謀られたか! 小癪な真似を!」「その動きは一度見た、だからこそ対策が立てられた」

 後ろに飛び跳ねながら発してきた亡霊武者の憎らしげな声にそう返答しながら、すかさずレガリオンの刃による追撃を行う。大太刀の間合いからはギリギリ外れている為、カウンターを受ける心配はない。先ほどの戦いとは逆な展開になりつつある。焦って逃げが多くなる亡霊武者に、ひたすら追撃を入れていく自分。レガリオンの刃は、亡霊武者の体にいくつもの傷を作ってゆく。

「おのれ……」「そんなに距離を開けて良いのかな?」

 距離を開ければ当然、八岐の月による射撃攻撃で追い込むだけ。アーツは使わない、ドラゴンの矢と八岐の月の組み合わせならアーツを使わずとも押し切れる。それに、タンカー役の女性との戦いで亡霊武者の動きは学ばせてもらった。それに、最初に感じた物こそ砂龍師匠のそこそこの強さを発揮した時の物と同等ぐらいかと思ったが、こうして遣り合ってみるとそこまでの物ではないな。

(だが、まだ隠してある技なり手段なりがあると見て戦っていた方が良いだろうな。この手のボスが、あっさり終わるとは思えないし)

 そうして確実に、急ぐことなく亡霊武者を追い詰めてゆくと──亡霊武者に付き従っていた複数の鬼火が、自分に向かって飛んでくる。なるほど、この鬼火はやっぱり飾りじゃなく武器の一種だったか。鬼火の突撃を避けると、鬼火はさらにこちらに向かって青白い炎の熱線を照射してきた。メカ物に出てくる自立兵器か。

「使いたくはなかったが──我の力だけでは勝てぬとみた。故に使わせてもらうぞ」

 鬼火たちからの攻撃を回避していると、そんな言葉と共に再び亡霊武者がこちらに向かって接近してきた。複数の鬼火による突進&熱線の照射に加えて、鬼面武者自身の大太刀による攻撃。これが本気か。なるほど、これは確かに少々厄介だ。だが──対複数相手の戦闘は今まで何度もやってきた。その経験があれば、恐れるほどの状況じゃない。

 大太刀を回避しつつ、鬼火をレガリオンや八岐の月の爪による攻撃でかき消す。鬼火は一定間隔で復帰してくるようだが、それでも数が一時的に減るなら意味はある。それに、一つの人魂を消すのに二回も三回も攻撃をあてなければならないと言った事もない。しっかりと当てれば一発で鬼火は消し飛ぶ。ならば、鬼火を適度に消しつつ亡霊武者に対峙した方が良い。

「なぜだ、なぜそうも焦らず正確に対処できる!?」

 大太刀を振るいながら、攻撃を当てることが出来ない亡霊武者が腹立たしげに自分に向かって叫んでくるが……あー、この手の攻撃は結構アニメで見てきたし、ゲームなんかでも味わっているんだよね。そしてなにより、雨龍師匠や砂龍師匠が今まで自分に課してきた修行内容から比べればはるかに見劣りする。だからこちらとしては油断はできないが、焦る要素は欠片もないのだ。

「申し訳ないが、このぐらいの同時攻撃は何度も受けてきた経験があるので」

 復帰してきた鬼火をまた消し去りながら、そう亡霊武者に向かって一言。それに自分じゃなくったって、複数の相手からの同時攻撃はタンカーなら誰だって何度も味わったことがあるはずだけどね。自分はソロだったから、タンカーとか関係なくこの手の攻撃を受けた経験がある。

 そんな状況中で戦いを続けていたが、何度も消し去っでいる人魂の方が先に力尽きたらしい。ついに呼び出される事が無くなってしまった。さて、向こうはこれでどう出るか……と、自分が考えていた所で亡霊武者の左目が激しい紅色に輝いた。何か、まだしてくるな?

「うおおおオオオオッ!」

 咆哮し、今まで使っていた大太刀を右手一本で持ち──さらに紫色を纏った大太刀をもう一本、虚空から取り出して左手に握った。これは……さっきタンカー役の女性プレイヤーがやったことを、大太刀二刀流でやるって事か? と言う事は、こっちが本命の本気と言う事になるのだろう。流石にさっきの人魂だけではボスとしてはパンチが弱いと思っていたが。

 大太刀を構えなおした亡霊武者は、こちらの様子を僅かに伺い猛然と突進してきた。左右の大太刀が間合いに入ったとたんにXを描くような形で振り下ろされる。まともに受ける理由はないので、バックステップで回避。自分の少し前を大太刀の切っ先が走り抜けた……反撃としてスネークモードのレガリオンで突き攻撃を行ったが、振り上げた大太刀によって弾かれた。

(なるほど、パワーとスピードの向上は間違いない。ボスが使う以上、防御力の低下というデメリットがない可能性もある、か。ならばやる事は変わらない。コツコツと丁寧に捌いて確実にダメージを与えて倒す、だな)

 本格的な第二ラウンド突入に、気合を入れなおす。さあ、ここを突破しなくてはな。まだまだ先があるのだから、これ以上同行パーティのダメージを増やす訳にはいかない。
しおりを挟む
感想 4,725

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。