386 / 745
25巻
25-1
しおりを挟む【スキル一覧】
〈風迅狩弓〉Lv50(The Limit!) 〈砕蹴(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv46 〈精密な指〉Lv54
〈小盾〉Lv44 〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv31 〈円花の真なる担い手〉Lv10
〈百里眼〉Lv44 〈隠蔽・改〉Lv7 〈義賊頭〉Lv87
〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
追加能力スキル
〈黄龍変身・覚醒〉Lv15(Change!) 〈偶像の魔王〉Lv7
控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈釣り〉(LOST!) 〈人魚泳法〉Lv10
〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝〉Lv99(The Limit!) 〈薬剤の経験者〉Lv43 〈医食同源料理人〉Lv25
ExP53
称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者
託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者
魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿つ者 魔王領名誉貴族
プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
強化を行ったアーツ:《ソニックハウンドアローLv5》
1
ついに開放された空の世界。雨龍さん・砂龍さんの二人(二龍と言うべきか?)と共にそこへ乗り込んだアースこと自分は、来るべき有翼人との決戦に備える作戦に参加し、仕掛けられた洗脳装置を捜し出すべく秘かに活動していた。これまでずっと一緒だった妖精アクアは、見る人が見れば非常に目立つ存在なので、いったん地上で留守番だ。
そして北の浮遊島にある闘技場で、有翼人の過去の歴史を幻視した翌日。「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界にログインすると、こちらはお昼の時間だった。
「あの後、魔王殿への報告はこちらで済ませておいた。お前が心配することは何もない」
との砂龍さんの言葉に、自分はほっと一安心。もう寝ないといけない時間が迫ってきていたことにばかり気を取られて、この作戦の参加者による報告会をついうっかり忘れてしまったんだよな。
「ありがとうございます、助かりました」
自分のお礼に、砂龍さんは短く「うむ」と頷いた。
そして運ばれてくる食事。今日は雨龍さんが作ったようだ。ゆっくりと堪能し、腹が満たされたところで宿を出る。
「今日からは北東の島じゃな。ここは大きな森となっておって、エルフ達が住まう場所に似ているそうじゃぞ」
ふむ、今度は森か……モンスターはいないからあまり気を張る必要がないのは良いことだが……どこかに隠されているであろう洗脳装置を探すには、ちょっと手がかかりそうな地形だな。
「とにかく、行ってみなければ分からぬ。早々に向かうとしよう」
砂龍さんの言う通り、行ってみなければ始まらない。
北の島から中央の島に戻り、そこから北東の島へと移動。そこで目にしたものは、確かに森だった。整った道が数本あり、一定の整備はされているようだ。
『道があるってのがちょっと厄介ですね。森の奥に進まないといけないときに目立ってしまいそうです』
二人にそんな念話を飛ばす。他の人達も道に沿って歩いており、そこから外れる人はいそうにない。そしてそんな道の近くに、洗脳装置を置いておくとは思えんのだよなぁ。もしあったとしても子機止まりで、本命の親機は奥に隠すだろう。裏をかいてくる可能性もないとは言えないが。
『確かにのう、しかも人が多いから誤魔化すのも少し骨じゃの』
雨龍さんも同意見。自分が持っているスキル〈隠蔽・改〉は、人の視線があるところで簡単に気配を消せるレベルではないから、何らかの手段を用意しないと。
『ひとまず宿を探すぞ。その後、ひと通り森の中の道を回って地形を理解して、作戦を立てる。魔王殿からは、こちらの仕事は想定していた以上に速く進んでいるから、慌てなくてよいと言われている』
砂龍さんから念話の返事。ふむ、それならいいか。あまりにもたもたするのは論外だが、急いては事を仕損じるとも言う。焦って相手の警戒心を高めるようなことがあってはならない。向こうもバカじゃないだろうからいずれバレるだろうが、そうなっていいのは全ての島にある洗脳装置の場所を探り当てた後だ。
そして集中的に自分に攻撃を仕掛けてくるようになれば、別動隊が動きやすくなる……バレるにしても、そういう風に持っていきたい。
『了解です、ここの宿は森の中にあるようですから、道に沿って進めばいずれ見つかるはずです』
森の前にはいくつかの案内板が設置されており、そこに森の中にある宿のグレードも記載されている。それを参考に進む道を決めている人も多いようだ。そして自分達は中ぐらいのグレードを選ぼうとしたんだが……その道が一番人が多い。この様子では、満室で宿泊を断られる可能性が高い。
『低い階級の宿は嫌じゃぞ。汚いのが嫌とかではなく、防犯的に穴だらけという可能性もあるからの。まして、わらわ達が身に着けている物の中には、見られたくない物がいくつもあるのじゃぞ? 金銭をケチって大事を引き起こしたくはない』
あー、そういう心配もあるか。手癖の悪い連中がいないとも限らないし、万が一そんな連中に洗脳対策のアンクレットをいじくられたら一大事になる。自分達がそうそう簡単に重要な装備を失うようなミスをするはずがないと思いたいが、そうなる可能性が高まる行動を避けておくほうがいいに決まっている。
『うむ、面倒な連中に絡まれては面倒だからな。先の闘技場では殴り倒すことも可能ではあったが、この島ではそうもいくまい。ここはこの道を行くべきだろう』
砂龍さんはそう言って、グレードの高い宿がある道を選ぶ。特に反論する理由はないな。
『ではそうしましょうか。この道はあまり人がいませんから、満室で泊まれないということもないでしょう』
そうして歩き始めたのだが……しばらく歩いているうちに《危険察知》先生が敵性存在の反応を捉えた。
「雨龍さん、砂龍さん」
「うむ」
「分かっておる」
モンスターではない。この反応は「ワンモア」世界の人族だ。この近くには、自分達三人に加えて、見るからに高級な服を身に纏っている人族男女と子供二人の親子四人、毛が真っ白の老狼獣人が一人、ダークエルフの女性が二人いる。この合計一〇人を取り囲むようにしながら、敵は徐々に距離を詰めてきている。
面倒だ、こんな場所で盗賊に出会うなんてな(こんな動きは盗賊しかしないだろう)。数は三〇人ちょいだ。
「──む」
「姉さん」
「ええ」
やがて老狼獣人とダークエルフの二人も、盗賊の存在に気が付いたようだ。老狼獣人はナックルを手にはめ、ダークエルフの姉妹は弓を手に取った。自分もこのタイミングで弓を手に取る。
と、ここでお互いの視線がぶつかり、皆で頷き合う。人族の親子だけはまだ状況を理解できていないようで、訝しげな目をこちらに向けている。まあ、もうちょっとで分かるよ。向こうは包囲をほぼ完成させているからな、そろそろ仕掛けてくる。
そうして森の中からがさりと音を立てながら姿を現したのは……ギリースーツと言うんだったかな? 葉っぱなどで体を包み、ぱっと見ではそこに人がいるなんて分からないようにしている人族だった。目の前に出てきたのは六人で、短刀やロングソード、クロスボウを持っている。
「お前ら、有り金を全て置いていけ。時間は与えん、有翼人どもが巡回しているからな……逆らうそぶりを見せたら即座に殺す。賢明な判断を期待する」
要求がドストレートですな。クロスボウがこちらに狙いを定めている。
さて、もちろんそんな『相手にとって都合のいい』賢明な判断なんぞをするつもりはないので、攻めに転じるタイミングを計りたいが……人族の親子が倒れ込んでしまった。無理もないな……自分だって現実世界で突然剣やクロスボウを向けられたら怖いよ。
「ふん、何も言わんか。ならお前達の死体から金目の物を頂いていくとしよう」
こっちが誰一人答えなかったので、向こうは早々に攻撃することを決めたようだ。目の前の連中だけでなく、周囲の森に紛れている奴らからの殺気も高まり――そして放たれる矢。
だが、この攻撃で死者が出ることはなかった。
自分はさっき手に取った【八岐の月】を振り回してその矢を弾いた。老狼獣人は必要最少限の矢のみナックルで弾き飛ばし、残りは回避した。ダークエルフの姉妹は高く跳躍することで回避。そして人族の親子四人は──
「貴様らのような外道に、この者達の命を奪わせるわけにはいかぬ」
「下種が。覚悟するがよいわ」
素早く飛び出した雨龍さんと砂龍さんが、飛んできた矢を全て掴み取って守っていた。そんな二人の姿を見て、盗賊側は呆気に取られている……好機ッ!
自分と老狼獣人とダークエルフの姉妹は、一瞬だけ目線を合わせると同時に頷き、各自行動を開始。老狼獣人が姿を見せている盗賊達に突撃し、自分とダークエルフの姉妹は周囲に隠れている盗賊連中に対して矢を射る。
自分は《危険察知》で相手の位置が丸見え状態で、ダークエルフの姉妹はその目の良さでギリースーツの隠蔽性を破っているようだ。
「ぎゃああ!」
「あがぁ!?」
「ぐひっ!?」
「げっ……があぁ……」
無駄撃ちをしないように気を付けながら、盗賊達の命を射抜いて消していく。
時間にして三分前後だろうか?
「終わったか」
「ええ、周囲にいた連中は全滅。残りはこの六人だけですね」
人族の親子を護っていた砂龍さんの言葉に、自分が返答。
隠れていた盗賊は皆三途の川を仲良く渡り、最初に目の前に出てきた六人は地に伏している……ダークエルフ姉妹の弓の腕も素晴らしかったので、楽な戦いだった。
さりげなく雨龍さんが人族の家族四人を立たせ、この場から遠ざけた。ありがたい、これで心置きなく最後の始末が付けられる。
「幼子の目があるのでな、今はこの程度に抑えてある」
老狼獣人が小さな声でそう告げてきた。やっぱりそうか、凄惨な光景を見せないための気配りをしたんだな。地に伏した六名は「痛い」だの「苦しい」だの呻いているが、情けをかけるつもりはない。
「く、クソ……俺達をどうするつもりだ」
盗賊のリーダー格の男が上体を起こし、こちらを睨みながらそんなことを問いかけてくるが……
「殺しを仕掛けてきたならば、返り討ちにあった後の結末など容易く分かるだろうが」
「まったくだわ、終わり方は決まってるわよね」
「ましてや不意打ちで射かけたのだもの」
老狼獣人さん、ダークエルフの姉妹の言う通りだ。それに、自分としてはこいつらを生かして有翼人達に渡したくない――こいつらをモルモットにして、連中の洗脳をはじめとする様々な研究が更に進んでしまうという事態を避けたいのだ。そういう展開が『ない』とは言い切れない以上、可能性は確実に潰す。
自分に向けてどこか縋るような目を向けてくる盗賊リーダーに、自分はこう言い放った。
「有り金を全て置いていけと脅し、続けて死体にして奪うと宣言。そしてその言葉を実現すべく戦闘行為を仕掛けた……そこまでやっておいて、返り討ちにあっても許してもらえるなんて、そんな甘い話があると思うか?」
自分の言葉を聞いた直後、盗賊リーダーは左手で何かを持って自分に投げつけようとした。だが、それよりも早く老狼獣人の拳が盗賊リーダーの腕を吹き飛ばした。文字通り、盗賊リーダーの肘から先が吹き飛んだのだ。
速いな。今のは自分でも十分対処できたが、この老狼獣人の拳に対処することは難しいだろう。
盗賊リーダーはその痛みに悲鳴を上げようとした……が、その前にダークエルフ姉妹の一人が盗賊リーダーの顎を蹴り上げて破壊する。おっと、容赦ないけど良い蹴りだ。
「幼い子供に、貴方のような下種の悲鳴なんて耳に入れてほしくないの。分かる?」
あ、そこは同意だわ。こんな連中の醜い声など聞かせたくないよ。ましてや殺されかかった状況でかなりの精神的な疲労が溜まったところに変な声でも聞いたら、トラウマになりかねない。
「通りがかった者に変な誤解を招くのは避けたい。さっさとケリをつけてしまおう」
老狼獣人の言葉に皆が頷き、六人の盗賊にとどめを入れる。連中の死体はしばらくして塵となり、消えていった。
「まったくつまらぬ真似をしてくれる」
老狼獣人が首を振る。その表情は呆れ一色だ。
「まあ、ここで排除できてよかったと考えましょ。この先あいつらの被害者は出ないのだから」
「こんな奴らが活動しているという話は聞いたことがないわね。もしかすると、彼らの初仕事の相手が私達だったのかもしれないわよ? ええ、そうだったと考えましょう、あの下種の手にかかった者はいなかったのだと」
ダークエルフの姉妹の言う通り、これ以上の被害はもう出ない、それで良かったのだとするほかないな。流石に見ていないところで起きてる問題なんか解決できるわけがない。
「こいつらにこれ以上の仲間がいないことを願うばかりだ。観光に来る人も多い場所でこんなことを……いや、逆なのか。人が多いからこそこういう手合いが動くのか」
金の匂い、ってやつだな。
ただ、気になるな……こんな手合いがいることを、有翼人達が全く知らないとは思えない。意図的に泳がせている可能性が浮上してくるぞ……どういう考えがあるにせよ、碌なものじゃないだろうけど。知りたいとも思わない、と普段なら言うところだが、今は知りたい。しかし、その方法が思いつかない。
「あ、ありがとうございました。皆様方がいなければ、私達は今頃物言わぬ骸となって奴らに全てを奪われていたことは間違いありません。皆様方は命の恩人でございます」
と、そこに人族の家族の父親がやってきて頭を下げ、自分達に礼を述べた。
「構わぬ、あの手の愚か者によって殺されてよい命ではないと思ったから救ったまでよ」
これは老狼獣人の言葉。
「子供を怖がらせる悪党は嫌いなの」
「あんなクズに子供が傷つけられるなんて許せないものね。そんな勝手な理由だから気にしなくていいわよ、おじ様」
とダークエルフの姉妹。
「ま、自分も似た理由です。そしてこうしてお礼の言葉も頂きました。これ以上の何かは望みませんので」
最後に自分。格好はつけたが、本心でもある。こんなときのお礼なんて言葉で十分。むしろここで恩に着せて金やら物やらを要求したら、下種になり下がるというものではないだろうか。
「皆様、本当にありがとうございました。皆様のような方々がいてくださって本当に助かりました」
もう一度こちらに向けて大きく頭を下げると、家族のもとに戻っていく父親。母親や子供達もこちらと砂龍さんと雨龍さんにも頭を下げた後、四人は再び道を歩き出した。老狼獣人とダークエルフの姉妹も先に行き、そして待っていた自分に合流する雨龍さんと砂龍さん。
「あのような愚か者がこのような場所にもいるとはな」
顎を撫でながら、渋い顔をしている砂龍さん。
「あの手のバカはいつの時代にもいるのう……まったく、悪党の最後など碌なものではないと知っておろうに。それとも、自分だけは最後まで捕まらずにやり通せるとでも思い上がるんじゃろうかの。そこも含めて実に愚かじゃ」
雨龍さんの言葉ももっともだ。自分は大丈夫だなどと、大した理由もなく思い込んじゃうんだよな。でもいつかはさっきのように捕まって、その屍を野に晒すか、相応の場所に引っ張られていって首を刎ねられるか、そういう運命だ。
「まあ、とにかく悪事は食い止めました。今は先に進みましょう」
自分の言葉に、雨龍さんと砂龍さんは頷く。さて、あと少し歩けば宿があるはずだ。どんな宿が立っているのかな?
2
宿屋は木材で出来ている建物だった。サイズがデカく、一種の城のようだ。ただし日本風ではなく西洋風なので、自分にはどうもしっくりこなかったが。内装は華美ではないが趣があり、高級感を出していた。
無事に部屋を確保したところで、まずはひと息……と行きたかったのだが、砂龍さんから念話が入る。
『さて、アースよ。先程の襲撃、お前はどう見た?』
──さっきの盗賊か。あの手の連中がいること自体はおかしくはないんだが……とりあえず思ったことを挙げてみよう。
『まず考えられるのは、単純にこの空の世界の観光に来た者達からなら容易く財貨を奪えそうだと考えた奴らであった可能性。この場合は有翼人側の監視の目をかいくぐっている形ですね。それから二つ目として、何らかの理由で有翼人側がわざと泳がせていた可能性もありますね』
自分の予想に、砂龍さんは首を横に振った。ふむ、すぐさま否定できるだけの根拠が砂龍さんにはあるのか。なら、ここはいったん話を聞いておこう。
『あの人族の親子を護りながら、襲ってきた賊どもを観察した。そしてあやつらは十中八九、有翼人の洗脳の影響を受けた状態にあったと見ておる。その理由は、奴らの頭部から、我らが捜している例の洗脳の魔道具と同じ波長が感じ取れたからだ。それも一人二人ではなく全員の頭から、な』
有翼人の洗脳による影響は、もうそんな段階に移行していたのか? だとすると、自分達は何の罪もない人を殺したことになるのだろうか? ……いや、攻撃されたからには戦わねばならなかったし、悲劇が生まれる前に止められたこと自体は間違いではないと思っているが。
『──言っておくが、あやつらはおそらく洗脳を受ける前から賊であったろう。襲い方、戦い方共に手慣れていたからな。いくら洗脳したとしても、知らぬ動きを無理やりやらされたならば、ぎこちなさが出るだろう。しかし、あの連中にそのような不自然さはなかった。だから、罪なき者を斬ったなどと考えなくてもよい』
なるほど、砂龍さんの見立てではそういう感じか。確かに自分から見ても、あの襲ってきた連中にそういった不自然さは感じなかったな。
『想像するに、あやつらはかなり前から有翼人どもに攫われていたのやもしれん。効率の良い洗脳の仕組みを作るための実験動物としてな。悪党ならば、長く姿が見えなくとも、どこかで返り討ちにあって野垂れ死にしたのだということで済まされるであろうから』
うーむ、有翼人はそんなことも笑ってやりそうなイメージだから、的外れだとは思えない。仕込みに時間をかけて、洗脳がバッチリ済んでいる……そんな連中が襲ってきた理由って、まさか。
『狙いは自分に雨龍さんと砂龍さん、だったのか? 他の人達は近くにいたから巻き添えを食っただけ?』
自分の念話に、砂龍さんは頷く。
『我もそう考えている。つまり、こちらが邪魔になるから消したいと思う存在が出てきたのだろう。これは今夜の報告会で言っておかねばならんことだ。そしてそういった状況となると、洗脳装置捜しは困難になった。しかし……まだ潜伏しておらねばならぬ時である故に、力押しの戦法を仕掛けて大きな騒ぎを起こしたくはない』
そのとき、雨龍さんが口に人差し指を当てて、ドアの向こうを指さした。
──なるほど、人が集まっている。数は六、か。全員が有翼人だ。
『殺気や戦意は感じられぬから、踏み込んでは来ぬだろう。しかし、目を付けられたのはやはり確かじゃな。今夜の報告会で、我々はいったん地上に帰ると伝えたほうがよさそうじゃ。その後、我ら龍の力を使って再び空に上り、例のおかしな地点を探索する方向に切り替えるとしよう』
ここまで疑われた以上、これ以上探索を続けるのは危険だからな。地上に降りるしかないという点も同意できる。しかし。
『一つ質問が。龍の力で再び空に上がるとの話ですが、自分達が空に浮いていたら、いやでも目立つと思うんですよ。それにそんな姿を見られたら、有翼人から完全に敵だと認識されて、余計厄介なことになりませんか?』
また空に上がれるということ自体に疑いは持っていない。このお二方の正体は龍だからね……ただ問題は、空を飛んだりすればどうしても目立つってことなんだよ。この空の世界では、有翼人が提供している小型戦闘機もどきで誰もが普通に空を飛び回れるわけだし。
『その点だが、一度龍の国に戻り、龍神殿と相談してみようと考えている。もしかすると、何かしらの解決手段があるやも知れぬからな』
今回は、地上全体が侵略を受ける危機。だから龍神様が何かしらの非常手段を使うことを許可する可能性はある。
『分かりました、一度地上に降りて新しい手段を考えることにしましょうか。このままここにいても詰まってしまう未来しか見えません』
魔王様達も、状況を伝えれば反対することはなさそうだ。いったん引いておくのもまた戦法のはず。
『ついでに、闘技場のチップで手に入る物を持ち帰っておこうかの。魔王殿のもとに持っていけば、新たな対抗策や魔道具が生まれるきっかけになるやも知れぬ』
そういやこの前の闘技場で、雨龍さんは自分の勝ちに賭けてたよな。あそこの景品には使うと洗脳を受けてしまうカラクリがあるから、それを持ち帰って研究することで新たな対抗策の可能性を生み出せたら大きい。
『うむ、ではその方向で報告を行うか。我らを責める者も多少いるやもしれぬが、予定が狂う以上、そこは受け止めるほかあるまい』
本来の予定では、洗脳装置を全て自分達が見つけ出すことになっていたからな。
『傷口を広げるよりはましだと同意してくれる人もいるはずです。誰か一人でも捕縛されて洗脳対策のアンクレットの存在が有翼人側に知れたら、それこそ取り返しがつきません』
自分の意見に、雨龍さんと砂龍さんも同意する。
本音を言うなら一刻も早く地上に降りたいが、慌てた結果、碌なことにならないパターンは何度も見てきた。自分がそのパターンにはまる行動は慎もう。今はまだ何食わぬ顔でゆっくりと行動するべきだ。
『なんにせよ、今はここで休息だ。連中もまだ確信までは至っていないのだろう、すぐに踏み込んでくる気配はない。だからこちらもこの状態を維持する。それでよいな? むろん、いつ流れが変わるかは分からん。油断はするな』
自分と雨龍さんは砂龍さんの念話に頷く。
さて、そろそろ報告会の時間だ。やや気が重いが、事実を報告しなければもっとひどいことになる。包み隠さずに報告しないとね。
38
お気に入りに追加
26,943
あなたにおすすめの小説
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。