とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
上 下
512 / 752
連載

最後の試練(あくまでのこの階層の)

しおりを挟む
 同行メンバーも同じ考えだったようで、全員が臨戦態勢を解かない。が、ボスが攻撃してこない。あれ? まだ戦いは続くんだ、よね?

「うむ、先ほどの戦いをもう一度儂の中で再確認してみた。お前たちは十分この先に進むだけの力があると判断してよい……よって、戦いはここまでだ。汝らが先に進む事を認めよう」

 ボスがそのようにこちらに告げると、島の外周にあった水の障壁が徐々に低くなって消え去り、扉前まで歩けそうな水の足場が発生。更にボスはゆっくりと後ろに下がってこちらに道を譲った。

「え? 終わり?」「まだ戦うんじゃ?」「本当に通ってよいのか? 罠とかではないのか?」

 同行パーティからもそんな困惑するような言葉が出てくる。確かに、まだボスは十分な余力があるのは間違いないし──自分もここからより熾烈な戦いになると予想していたので困惑しているのは同じだ。

「いやいや、儂はあくまでお前たちに十分な力があるのかどうかを見る為にいる存在じゃからな? そしてそれをお前たちは見せたが故に道を開けたのだ。それにまだまだここに来る者達の力を見る仕事は終わらぬため、儂は勝手に死ぬことは許されておらんのだ」

 ああ、そう言う事か。あくまで試験官としての在り方を全うするって言いたいんだろう。で、これからも試験官を続けなければならないから、これ以上戦闘を続けて万が一にも打ち取られるわけにはいかないと。

「それに、お前たちは話が通じると言う事も理由の一つじゃな。話が通じぬ、話をしても問答無用でこちらを滅するまで戦う連中相手となるとまた対応は変わってくるぞ。先にも言ったが、儂は死ぬことがまだ許されておらんのでの」

 敵意も、騙す意思もボスから感じられない。これは長く《義賊頭》をやってきた自分の直感なので、たぶん外れはない。悪党が出す独特の空気が無いのだ。

「では、通らせていただきます」「おお、すまぬ。先に進む者にやるべきことを忘れておったわ……ほれっ」

 同行パーティが何も言わないので、仕方なく自分が先に進むという意思を伝えた所──ボスが輝く粒子を自分達全員に振りかけた。すると、全回復の効果があった様で消耗していたHPやMPなどが完全に回復した。

「これで良いじゃろう。試練はあと一つじゃが……きついものになるはずじゃ。ゆえに、せめて回復だけはさせて貰ったぞ。頑張ってくるがよい」

 次の階の試練は一体何があるんだ? ボスがわざわざ全回復させるのだから、ちょっとやそっとの試練ではない事は分かる。それを同行パーティも察したようだ。訝しげな眼でボスを見ている。

「──だが、ここでこうしていても始まらんか。進む以外の道はないのだからな。では、皆行こうか」

 タンカーの女性プレイヤーの言葉に、全員が頷く。確かにそのとおりである。ここでボスを疑っていても仕方がない、既に戦う意思を消した相手とこれ以上戦うつもりは自分にも同行パーティにもないし、ボスをにらんでいても何も進まない。足を動かすほかないのだ。

 ボスに見送られながら扉をくぐり、ポータルで飛んだその先に待っていた物は──

「うへぇ……酷いなこれは」「クリアさせる気あるのか、これは」「鬼畜でござるな」

 そこにあったのは、スタート地点からゴールまですべてがアスレチックとなっているエリアだ。当然、コースの長さは最長。しかもスタート地点からはジャンプ台を幾つも乗り継いで上に上がり、そこからゴールに向かってアスレチックエリアを突き進み、ゴール手前で徐々に降りていくという流れになっている。当然これまでにあったアスレチックの仕掛けは全部配置されており、間違いなく最難関だ。

「長いだけではなく、難易度も高い……確かにこれはクリアさせる気がほとんどないと言いたくなるな」

 自分の呟きに、タンカーの女性プレイヤーが何度もうなずいて同意している。しかし、それでも進む以外の道はない。さて、誰から行こうかという話し合いが始まった直後だった。この塔ではすでに何度も見てきた人を模した水のような存在、今回は女性タイプがこの場に現れたのは。

「申し訳ございません、ここのエリアの説明の為にいるべき者が久しく挑戦者が来ない事に飽きて、サボっておりました。私はその者の代理でございます、申し訳ございませんが、説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 息を切らせながらも、そんなセリフを放ってきた。とりあえず、聞かなきゃ始まらないよね? なので、素直に聞くことにした。

「ありがとうございます、それでは説明をさせていただきます。このエリアは最初から終わりまでアスレチックとなっておりますが、それに対応した仕組みが取られています。今まで皆様が経験してきたアクションエリアでは一度落ちるとその者は即座に失格でしたが、ここに限り、二回まで失敗が許されます。また、失敗した後の復帰時にすべての体力と魔力が全快します」

 ああ、残機制となってるのかここは。長いから一回失敗で即座にアウトというのは無しって事ね。

「また、このアクションエリアでは魔物も出現します。もし今までのアクションエリアでは鎧を脱いで行っていたというのであれば、それはお勧めできません。もちろん魔物を無視して進んでも構いませんが……それはそれで苦しい事になるでしょう」

 あー、ついにモンスターも襲ってくるのか。多分空を飛べる奴が大半だろうな……そうなると、確かに無視してごり押しと言う訳にはいかないか。

「そして、これが一番大事なのですが……皆さまは全員が一緒に同行します。代表者となる挑戦者以外は特殊な移動式リフトに乗った状態で観戦することになり、このリフトに乗っている皆さまは一切のダメージなどを受ける事がありません。そして、交代も戦闘中や落下中を除いたほとんどの状態で自由に行えます。その場その場での適任者を一名、代表として出していただく形となります」

 ぬ、ここに来て大幅なルール変更が。役割分担で得意な所はやって苦手な所は他の人に任せる事が出来るのか。なら、アクション性が高い所は自分、短弓の男性プレイヤー、ニンジャさんが担当。あるかは分からないが弾幕が激しい所はタンカーさんが担当、魔法を使う所は魔法使いの男性プレイヤー二人にお鉢を回せばいいと。

「全ての要素がこのアスレチックには含まれておりますので、誰を出すのかをよく考えてください。ただし、アスレチックに代表者が誰もいない状況が十秒続くと強制的に全員が失格となります。それを忘れないでください」

 流石に制限時間はつくか。そうしないといざって時は安全地帯のリフトに退避して安全なタイミングを悠々と待つという、インチキな攻略法が成立してしまう。

「なるほどでござる、そのようなルール故にここのアスレチックはここまで異様に長いのでござるか」「はい、それを説明するための担当者がいるのですが……誠に申し訳ございませんでした」

 ニンジャさんの言葉に、人を模った水のような存在は深々と頭を下げた。確かにここはルールの説明が無きゃ分からないよね……自分も最初はここを一人で踏破しなきゃならないのか!? と思ったから。だがルールを聞けば、なるほど、それならまあ分かると納得したが。

「それと、もう一つルールがあります。このアスレチックエリアにて体力や魔力の回復は専用の道具のみでしか行えません。魔物を倒す、所々に落ちている物を拾うなどの方法で獲得できます。誰にどのようなタイミングで使うのか、時には力尽きて回復するという選択を取る事が必要になるやもしれません」

 はい、アクションゲームのお約束ですね。やっぱりそうか、としか自分は思わない。アイテムを好きなだけ持ち込んでガンガン回復できるのであれば、難易度はかなり落ちるからね……

「専用の道具以外禁止かぁ……なかなかきつそうね。予想通りでもあったけど」

 大剣使いの女性プレイヤーは自分と同じ意見だったようだ。ま、アクションゲームを多少でもかじれば予想がつく制限だよね。他の面子もやっぱりなーという感じであって、腹を立てている人はいない。

「まとめると、一、このアクションエリアは代表者を出す交代制。二、一人につき二回までミスが許される。三、今までと違ってこのアクレチックエリアにはモンスターが出る。四、回復するためのアイテムはモンスタードロップから得るか落ちているのを拾う。これで間違いないな?」

 二杖流の魔法使い男性プレイヤーの言葉に、人を模した水のような存在は「その通りです、間違いありません」と頷いた。簡潔に説明すればそう言う事だ。ただ、最初から簡潔な説明だけでは足りないことが多いからしっかりとした説明が行われたのだろう。

「じゃあ、まず最初に決めるのは誰が最初に行くかって事だな。最初はある程度上に登るまでいくつものジャンプ台を乗り継いでいかなきゃいけないからな……俺が、ニンジャか、助っ人の彼が適任だろうが……助っ人にいきなり頼るのはアレだし、ニンジャはまだ温存したい。だから消去法で俺が出る形になるが、皆良いか?」

 話を聞き終えた短弓使いの男性プレイヤーがそう告げてトップバッターに立候補してきた。反対意見は出ず、彼が最初の代表となる事で決定した。なので、彼以外の面子は皆現れた縦横十五メートルずつあるリフトの上に乗る。さて、ここを乗り越えれば試練はクリアだ。絶対にクリアしてやる!



*****


今後、新刊作業が終わるまでの間不定期更新とさせていただきます。
活動報告の方にも書かせていただきます。
しおりを挟む
感想 4,731

あなたにおすすめの小説

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。