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最後の試練(あくまでのこの階層の)

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 同行メンバーも同じ考えだったようで、全員が臨戦態勢を解かない。が、ボスが攻撃してこない。あれ? まだ戦いは続くんだ、よね?

「うむ、先ほどの戦いをもう一度儂の中で再確認してみた。お前たちは十分この先に進むだけの力があると判断してよい……よって、戦いはここまでだ。汝らが先に進む事を認めよう」

 ボスがそのようにこちらに告げると、島の外周にあった水の障壁が徐々に低くなって消え去り、扉前まで歩けそうな水の足場が発生。更にボスはゆっくりと後ろに下がってこちらに道を譲った。

「え? 終わり?」「まだ戦うんじゃ?」「本当に通ってよいのか? 罠とかではないのか?」

 同行パーティからもそんな困惑するような言葉が出てくる。確かに、まだボスは十分な余力があるのは間違いないし──自分もここからより熾烈な戦いになると予想していたので困惑しているのは同じだ。

「いやいや、儂はあくまでお前たちに十分な力があるのかどうかを見る為にいる存在じゃからな? そしてそれをお前たちは見せたが故に道を開けたのだ。それにまだまだここに来る者達の力を見る仕事は終わらぬため、儂は勝手に死ぬことは許されておらんのだ」

 ああ、そう言う事か。あくまで試験官としての在り方を全うするって言いたいんだろう。で、これからも試験官を続けなければならないから、これ以上戦闘を続けて万が一にも打ち取られるわけにはいかないと。

「それに、お前たちは話が通じると言う事も理由の一つじゃな。話が通じぬ、話をしても問答無用でこちらを滅するまで戦う連中相手となるとまた対応は変わってくるぞ。先にも言ったが、儂は死ぬことがまだ許されておらんのでの」

 敵意も、騙す意思もボスから感じられない。これは長く《義賊頭》をやってきた自分の直感なので、たぶん外れはない。悪党が出す独特の空気が無いのだ。

「では、通らせていただきます」「おお、すまぬ。先に進む者にやるべきことを忘れておったわ……ほれっ」

 同行パーティが何も言わないので、仕方なく自分が先に進むという意思を伝えた所──ボスが輝く粒子を自分達全員に振りかけた。すると、全回復の効果があった様で消耗していたHPやMPなどが完全に回復した。

「これで良いじゃろう。試練はあと一つじゃが……きついものになるはずじゃ。ゆえに、せめて回復だけはさせて貰ったぞ。頑張ってくるがよい」

 次の階の試練は一体何があるんだ? ボスがわざわざ全回復させるのだから、ちょっとやそっとの試練ではない事は分かる。それを同行パーティも察したようだ。訝しげな眼でボスを見ている。

「──だが、ここでこうしていても始まらんか。進む以外の道はないのだからな。では、皆行こうか」

 タンカーの女性プレイヤーの言葉に、全員が頷く。確かにそのとおりである。ここでボスを疑っていても仕方がない、既に戦う意思を消した相手とこれ以上戦うつもりは自分にも同行パーティにもないし、ボスをにらんでいても何も進まない。足を動かすほかないのだ。

 ボスに見送られながら扉をくぐり、ポータルで飛んだその先に待っていた物は──

「うへぇ……酷いなこれは」「クリアさせる気あるのか、これは」「鬼畜でござるな」

 そこにあったのは、スタート地点からゴールまですべてがアスレチックとなっているエリアだ。当然、コースの長さは最長。しかもスタート地点からはジャンプ台を幾つも乗り継いで上に上がり、そこからゴールに向かってアスレチックエリアを突き進み、ゴール手前で徐々に降りていくという流れになっている。当然これまでにあったアスレチックの仕掛けは全部配置されており、間違いなく最難関だ。

「長いだけではなく、難易度も高い……確かにこれはクリアさせる気がほとんどないと言いたくなるな」

 自分の呟きに、タンカーの女性プレイヤーが何度もうなずいて同意している。しかし、それでも進む以外の道はない。さて、誰から行こうかという話し合いが始まった直後だった。この塔ではすでに何度も見てきた人を模した水のような存在、今回は女性タイプがこの場に現れたのは。

「申し訳ございません、ここのエリアの説明の為にいるべき者が久しく挑戦者が来ない事に飽きて、サボっておりました。私はその者の代理でございます、申し訳ございませんが、説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 息を切らせながらも、そんなセリフを放ってきた。とりあえず、聞かなきゃ始まらないよね? なので、素直に聞くことにした。

「ありがとうございます、それでは説明をさせていただきます。このエリアは最初から終わりまでアスレチックとなっておりますが、それに対応した仕組みが取られています。今まで皆様が経験してきたアクションエリアでは一度落ちるとその者は即座に失格でしたが、ここに限り、二回まで失敗が許されます。また、失敗した後の復帰時にすべての体力と魔力が全快します」

 ああ、残機制となってるのかここは。長いから一回失敗で即座にアウトというのは無しって事ね。

「また、このアクションエリアでは魔物も出現します。もし今までのアクションエリアでは鎧を脱いで行っていたというのであれば、それはお勧めできません。もちろん魔物を無視して進んでも構いませんが……それはそれで苦しい事になるでしょう」

 あー、ついにモンスターも襲ってくるのか。多分空を飛べる奴が大半だろうな……そうなると、確かに無視してごり押しと言う訳にはいかないか。

「そして、これが一番大事なのですが……皆さまは全員が一緒に同行します。代表者となる挑戦者以外は特殊な移動式リフトに乗った状態で観戦することになり、このリフトに乗っている皆さまは一切のダメージなどを受ける事がありません。そして、交代も戦闘中や落下中を除いたほとんどの状態で自由に行えます。その場その場での適任者を一名、代表として出していただく形となります」

 ぬ、ここに来て大幅なルール変更が。役割分担で得意な所はやって苦手な所は他の人に任せる事が出来るのか。なら、アクション性が高い所は自分、短弓の男性プレイヤー、ニンジャさんが担当。あるかは分からないが弾幕が激しい所はタンカーさんが担当、魔法を使う所は魔法使いの男性プレイヤー二人にお鉢を回せばいいと。

「全ての要素がこのアスレチックには含まれておりますので、誰を出すのかをよく考えてください。ただし、アスレチックに代表者が誰もいない状況が十秒続くと強制的に全員が失格となります。それを忘れないでください」

 流石に制限時間はつくか。そうしないといざって時は安全地帯のリフトに退避して安全なタイミングを悠々と待つという、インチキな攻略法が成立してしまう。

「なるほどでござる、そのようなルール故にここのアスレチックはここまで異様に長いのでござるか」「はい、それを説明するための担当者がいるのですが……誠に申し訳ございませんでした」

 ニンジャさんの言葉に、人を模った水のような存在は深々と頭を下げた。確かにここはルールの説明が無きゃ分からないよね……自分も最初はここを一人で踏破しなきゃならないのか!? と思ったから。だがルールを聞けば、なるほど、それならまあ分かると納得したが。

「それと、もう一つルールがあります。このアスレチックエリアにて体力や魔力の回復は専用の道具のみでしか行えません。魔物を倒す、所々に落ちている物を拾うなどの方法で獲得できます。誰にどのようなタイミングで使うのか、時には力尽きて回復するという選択を取る事が必要になるやもしれません」

 はい、アクションゲームのお約束ですね。やっぱりそうか、としか自分は思わない。アイテムを好きなだけ持ち込んでガンガン回復できるのであれば、難易度はかなり落ちるからね……

「専用の道具以外禁止かぁ……なかなかきつそうね。予想通りでもあったけど」

 大剣使いの女性プレイヤーは自分と同じ意見だったようだ。ま、アクションゲームを多少でもかじれば予想がつく制限だよね。他の面子もやっぱりなーという感じであって、腹を立てている人はいない。

「まとめると、一、このアクションエリアは代表者を出す交代制。二、一人につき二回までミスが許される。三、今までと違ってこのアクレチックエリアにはモンスターが出る。四、回復するためのアイテムはモンスタードロップから得るか落ちているのを拾う。これで間違いないな?」

 二杖流の魔法使い男性プレイヤーの言葉に、人を模した水のような存在は「その通りです、間違いありません」と頷いた。簡潔に説明すればそう言う事だ。ただ、最初から簡潔な説明だけでは足りないことが多いからしっかりとした説明が行われたのだろう。

「じゃあ、まず最初に決めるのは誰が最初に行くかって事だな。最初はある程度上に登るまでいくつものジャンプ台を乗り継いでいかなきゃいけないからな……俺が、ニンジャか、助っ人の彼が適任だろうが……助っ人にいきなり頼るのはアレだし、ニンジャはまだ温存したい。だから消去法で俺が出る形になるが、皆良いか?」

 話を聞き終えた短弓使いの男性プレイヤーがそう告げてトップバッターに立候補してきた。反対意見は出ず、彼が最初の代表となる事で決定した。なので、彼以外の面子は皆現れた縦横十五メートルずつあるリフトの上に乗る。さて、ここを乗り越えれば試練はクリアだ。絶対にクリアしてやる!



*****


今後、新刊作業が終わるまでの間不定期更新とさせていただきます。
活動報告の方にも書かせていただきます。
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