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ボスと話をしてみよう

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 ボスの反応が近くなってきた。あと二つほど島を渡り歩けばいよいよボスの目前だ。そして気が付いたことがある。そのボスが現れるであろうと思われる島は丸く整えられており、地面も綺麗にならされている。一種の武舞台の様に見えるのだ。意図的にそうしているとしか思えないな。

「今回もそうか……ここまでは確信が持てなかったが、今回も多分同じだな。ちょっとだけ足を止めて聞いてくれ、教えておくことがある」

 自分の方を向きながら口を開いたのは短弓使いの男性プレイヤー。自分は頷いて足を止めて話を聞く体勢を取る。

「あのあからさまに人工的な障害物の無い丸い島の上に全員が降り立つとボスが現れる。で、ボスが現れると同時に周囲に水の壁が生成される。これによって逃げる事は出来なくなるが、一方で吹き飛ばされても水の壁に受け止められるから海に落ちるって心配はない」

 ああ、ボスキャラの登場でよくある地形変化の一つ、逃亡禁止フィールドが形成される訳か。特に驚くべきことではないな。

「そしてボスが現れた後なんだが──ここのボスは、こっちが何らかの攻撃をするまでは仕掛けてこない。だから、準備を最初にする。強化魔法を全力で掛けるとかな。そして、詠唱が長い大魔法を撃つ絶好のチャンスだ。大魔法が命中したら攻撃開始の合図だと考えてくれ」

 そう言う取り決めが次に現れるボスに対してパーティにはある、と。それは分かった、勝手に仕掛けないようにしよう。しかし。

「でも、先に言っていなかったか? 首に対してどの攻撃が効果的なのかは最初分からないって」

 この一点だけは確認しておきたい。

「だから、全部の首に当たるように広範囲高威力の魔法をぶつける。これなら三択をせずにダメージを確実に取れるからな」

 との返答。魔法使いの二人に視線を向けると、二人ともゆっくりと頷いた。確かに、分かんないなら全部やってしまえってのは脳筋っぽい考えではあるけど確実でもあるか。もし適切な攻撃じゃないと回復されるような仕組みがあったとしても、最初の一手でやる分には問題ないし。

「了解。それとあと一つ質問があるけどいいかな? ボスって喋れるのかな?」

 自分の問いかけに、?マークが複数頭の上に浮かぶ同行メンバー。自分の質問の意図が分からない、と言う事だろう。

「いや、話しかけたことはないし、向こうからも話しかけてこないから分からん。それがどうかしたか?」

 短弓使いの男性プレイヤーの返答。ふむ、じゃあ話しかけてみようか。

「なら、一つだけ確認。準備をしている最中の時間だけでいい、ボスに話しかけてもいいかの許可が欲しいんだがどうだろうか。ダメならダメでいい、試してみたいというだけだから」

 先手を譲る理由とか、聞いてみたいんだよね。もちろん話しかけても無反応という可能性もあるが……何というか、聞いただけだがボスからちょっと紳士的な雰囲気を感じるんだよね。水の壁じゃなく氷の壁にすれば叩きつけた時のダメージも高いはずだろうし……そもそも壁を出さないでおいて、逃げようとしたら水中にいる手下に任せて束縛した後に海中に引きずり込めばより確実に殺せる。

 壁だけでもそう言う手段を取れるはずなのにやらない。しかも、短弓の男性プレイヤーは水の壁に『受け止められる』と口にした。そう、叩きつけられてダメージを受けると言っていないのだ。そう言う所々に感じられる紳士風な雰囲気を持つボスなら、丁寧に話しかければ話に付き合ってくれそうな気がする。

「──あいつが、話をするかな?」「予想外の提案だが……うーむ」「まあ、準備中に話しかける位は問題ないと思うけど。攻撃とはみなされないだろうし」

 わいわいがやがや、という表現が似合うような話し合いが始まってしまった。向こうにとっては想定外の話だったのか……数分の話し合いがそのまま続いて、出た結論は許可だった。

「お前さんには世話になったからな。そのお礼という意味も込めてOKって事で一致した」

 と言う事らしい。まあ、許可が出たならありがたく話をしてみようか。多分応じてくれると思うんだよね。そして島に向けての移動は再開され、例の人工物としか思えない島の上に全員が降り立った。その直後、島の周囲に吹き上がる水の壁。なるほど、これは確かに壁だな。さらに前方からひときわ大きい水しぶきが立ち上った。

 その水しぶきの中から現れたのは巨大な三つの首を持つ首長竜。首のでかさが、雑魚として現れた連中より一回りでかい。そして島の上に現れたのだが、どうやらこのボス、空中でも泳ぐように移動できるようだ。機動力が低いという可能性は薄いだろう。ただし、襲ってこない。先手を譲るという情報も間違っていなかった。

「じゃあ、戦闘準備。話をしたいならどうぞ」

 大剣も血の女性プレイヤーの言葉に自分は頷き、ゆっくりとボスの前に武器を構えずに歩み寄って一礼。

「戦いの前ですが、少しだけ言葉を交わしたいと考えております。宜しいでしょうか?」

 さて、どういう態度を見せてくるだろうか? 無反応? それとも──

「ほう、このような儂にも話しかけてくるか。良いだろう、戦いを始める前の間なら付き合おうぞ、人の子よ。どのみち先手はそちらに譲るのだ、好きにするがいい」

 三つ首のボスの声は、穏やかなおじいちゃんと言った感じの声だった。実はすごい人、強い人なおじいちゃんが、普段はのんびりとお茶をすすりながらのんびりしている──そんなイメージが脳裏に浮かんだ。

「ありがとうございます、いくつかどうしても伺いたいことがありますのでこうしてお声をかけさせていただきました。一つ目は、この水の壁です。挑戦者を倒すのであれば氷の壁にして、突飛ばした時のダメージを増やすなり……もしくは壁自体を用意せず、海に叩き落して溺死させるなりした方が追い払いやすいと思うのですが」

 この問いかけに対する返答は。

「確かにな、そうすればお前たちを排除する事はより容易なるじゃろう。しかし、それでは本質にそぐわぬ。儂は絶対に先に進ませないために存在している門番ではない。前に進む意思があるか、困難に立ち向かう意思があるかを見極めるための試験を課す存在。その試験は簡単ではいかんが、極端に難しすぎてもいかん。海に落ちたら負けとする試練は他にあるじゃろう? ならば儂と戦う時はそのような事態で負けになる事は無しにするために水の壁を作っておる」

 なるほど。純粋な戦闘力と諦めない意思を見たいのに、海に落ちると言った事故で終わってしまうのは困る、そう言う事だった訳だ。それならば水の壁を作る理由も理解できる。

「先手を譲る理由も、それに付随する。十分に準備を整え、好きなタイミングで戦えれば挑んでくる者の力をはっきりと見ることが出来る。この塔をさらに先に進むに値するだけの実力を持っているか、も儂の試験する内容の一つ。だが、不意打ちに対する対処は部下達がやっておる。そしてここまでこれたのであれば、次は十全に準備を整えた状態での戦いを見たいからのう」

 おっと、先手を譲る理由まで教えてくれた。これまた試験官としての考えからか。紳士的な理由ではなかったが……分かったのですっきりした。

「ありがとうございます、色々とわかってすっきりしました。しかし、自分にこう教えてしまってもよろしかったのですか? その、この塔の主にあまり教えてはいけない、などと忠告を受けている事はないのですか?」

 そう自分が問いかけると、ボスは大きく笑った。

「ははは、その心配はない。こうして武器を向ける前に話しかけてきた者には話して構わぬと言われておる。いわば、その度量に対する見返りと言ったところか。無論、試験は手を抜かぬぞ? だが、気に入った者が相手に居れば無意識に手を抜いてまうかもしれぬがのー」

 後半はすっとぼけるかのように棒読みしたボス。やっぱりこの塔の中にいる試験管達に、塔の主は一定の裁量を任せている。登らせたくない相手と、登るべき価値のある存在を、そうやってふるいにかけていると言う事になるのだろうか? それとも、塔の主の気まぐれなのか? こればっかりは、塔の主に話を聞かねば分からないだろう。

「あのー、歓談中済まないんだが。そろそろ始めてもよいだろうか? 本当に空気を読まないと言われても反論できないんだが」

 と、ここでタンカー役の女性プレイヤーが申し訳なさそうに肩をすぼめながら自分とボスに話しかけてきた。どうやら、向こうの準備が整ったようだな。つまり、おしゃべりタイムはここまでって事だ。

「ああ、了解。じゃあ始めましょうか。お話に付き合って下さり、ありがとうございました」「よいよい、儂に話しかける度量のある者との話は楽しいからの。では、試験を始めるかの、全力でかかってくるがよい!!」

 優しいおじいちゃんという雰囲気は一瞬で立ち消え、一気に風格のあるボスとしての空気を身にまとった。よし、ではやるか。がっかりさせないようにしないとな。自分は素早く、後ろに下がって定位置についた。

「よ、よし。では手はず通りに始める! 戦闘開始!」

 タンカー役の女性プレイヤーがやや戸惑いの含んだ声をあげながらも声を上げる。そして放たれたのは電撃交じりの大きな竜巻を巻き起こす魔法。その魔法はボスの巨体をすべて包み込んだ。さて、ここからが本番だ。




*****

申し訳ありません、多くの用事が入ってしまい明日の更新が難しいので一日繰り上げて今日行いました。
残り一月、皆様も用事が増えると思いますがお互い体にだけは気を付けて乗り切りましょう。
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