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静寂ってさ、時々怖い時あるよね

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 しばしの休息を終えて、回復したことを確認したのちに再び前進を始めたが……妙だな。モンスターの反応が突然完全に消えた。これ、伝えておいた方が良いだろう。

「──と言う訳で、モンスターの反応が完全に消失しました。あからさまにおかしいので、前もって報告を」

 自分の報告に、同行パーティの表情が一気に真剣な物へと変わった。どうやら、この状況に心当たりがあるようだ。少し後に、口を開いたのはタンカーの女性プレイヤー。

「そうなると、あいつが来るか……説明する、以前に一度途中からモンスターに一度も出会わなくなることがあった。妙だなと思いつつ警戒しながら進んだところ、扉の前に奴がいたのだ。三つの首を持ち、どの首もブレスや各種魔法を使い、こちらを純粋な力で打ち倒そうとする奴が。つまり、この領域のボスモンスターだな」

 なるほど、ボスが来る前の前兆と言う訳か。嵐の前の静けさを物理的に表現してみた、とかそんな所なのだろうか? モンスターがきれいに周辺からいなくなったこの状況は。

「奴はかなり手ごわい上に、三つの首に対してどの攻撃が通じるかは攻撃を仕掛けてみないと分からん。ただ、近接武器が効く首、弓矢、投擲などが効く首、魔法が効く首とはっきり分れている事だけは前回戦って分かっている。素早くどの首にどれが効くかを見破る事が最初にすべきこととなる」

 なるほど、特定の攻撃じゃないと有効打を与えられないパターンか。ボスにある特殊なアーマー持ちという認識で良いだろう。

「私は奴にぎりぎりまで近づき、ターゲットを取る事とブレスを吐かれた時の盾となる役目を担う。奴がブレスを吐くために口元にエネルギーを集中してきたら、攻撃を止めてすぐさま私の後ろ辺りに集まって欲しい。集中している時こそ攻撃のチャンスだと思うかもしれないが、攻撃を加えてしまうとブレスのチャージ速度が速まる上に威力まで上がってしまう事が分かっている。前回はそれでパーティが崩壊した」

 特定の動作時には、受けたダメージを攻撃に上乗せできる能力もある訳か。しかも、チャージしている時って、その場所に攻撃を加えて中断させることが正しいというパターンも多い。それを逆手に取った仕様という物か。嫌らしい。

「どうやってもブレスの中断は出来ねえと見ていいぜ。とにかくボスがブレスを吐こうとしてきたら、攻撃を止めて彼女の後ろに隠れてくれ。ブレスの攻撃力を高めなければ、ダメージを極限まで抑えることが出来る腕を持っているから信用していい」

 ここで、短弓使いの男性プレイヤーから補足も入る。そうなると、彼女が倒れたらその時点で積みだな。タンカーの彼女の体力には最大限に気を使わなければならないだろう。

「それと、奴が使ってくる魔法は全属性だ。もし、軽減が難しい属性があったら言ってくれ。その属性に対する防御力を高めるアーツを用いて支援させてもらう」

 都のタンカーの女性プレイヤーからの申し出があったが、魔法様から貰ったマントの前に、不得意などあるはずもない。なので大丈夫です、問題ありませんと返答しておく。

「そうか? それならばよいが……全ての属性に対する抵抗力を得るためには、クロースを装備する魔法使い系以外はかなり装備に気を使わなければならないはずだ。相当な努力を払ったか、相当な剛運に恵まれたか、もしくは──凄まじく苦しい道を歩んで、見事到達した先にある報酬を掴んだか、のどれかなのだろうな」

 全ては魔王様から貰ったマントのおかげなんだけどね。他の装備も魔法に対する抵抗や属性に対する抵抗を備えている物があるが、一番属性ないし魔法に対する防御力を備えているのはマントだ。このマントは運もあったが、かつて魔王領で化け物になる可能性を知ったうえでなお一歩を踏み出したあの時の決断力がもたらした物だと言えるだろう。

「そうだ、もちろん攻撃として噛みついてきたり頭突きをしてくることはもちろん、こちらを丸呑みしようとすることがある。丸呑みされた場合は、素早く体内のどこでもいいから攻撃を繰り返すと吐き出されて戻ってこれる。のんびりしていると、体内で溶かされて死亡するからな?」

 嫌そうな表情を浮かべつつ、物理的な攻撃についても教えてくれた。丸呑みは嫌だなぁ……とはいえ飲まれたら即座にアウトじゃないだけまだましと考えよう。むしろわざと丸呑みされて、腹の中に強化オイルとかですポーションをばらまいてやるというのもありかもしれない。その辺も状況次第では仕掛けてみる価値が出てくるかもしれないから、いざという時の選択肢として覚えておこう。

「あと一つ、説明が抜けている。奴は直接攻撃を成功させると、低確率ながらその戦闘中に限りランダムでメインにセットしているスキルレベルを一から四ダウンさせるという恐ろしいスキルを持っている。このスキルによりこちらのスキルレベルがダウンしてしまうと、特定のスキルレベルで使えるアーツが使えなくなってしまう」

 ここで、二杖流の男性プレイヤーから更なる説明が入った。うっわあ、ここに来てついにドレインスキル持ちを追加してきたか。あくまで戦闘中のみで終了後には戻るんだろうが。

「分かりやすいのはスキルレベル五〇や九九で覚えられるアーツだな。これらは一でも下げられて四九や九八にされると発動が出来なくなる。それだけではなく、発動しようとして失敗すると体が強制的に硬直させられる。時間にして大体五秒ぐらいか……戦闘においては、十分、致命傷を喰らう可能性がある時間だ。忘れないでくれ」

 レベルダウンによるスキル封じは予想できたが、硬直まで追加するところに殺意が溢れている。五秒は十分に相手を殺せる時間だ。首を刎ねる……モンスターとしては首だけを食いちぎるという表現の方が正しいか。とにかく、その手の即死攻撃をやすやすと通せる時間である。

「何というか、すさまじくえぐいですね。正直、黒の塔に出てくるような相手では?」

 正直、白の塔に出てくる相手としては強すぎる相手ではないだろうか? ブレスの中断無効、全属性魔法使用、ドレイン持ち、即死にかなり近い攻撃持ちと、一瞬でパーティを崩壊させることが出来る能力をこれでもかというぐらいに積んでいる。

「ああ、それは俺達も思った。それでも、避ける事は出来ない。倒すしかないんだ。それに、今回はこれだけの情報がある。前回は勝てなかったが、情報を引き出すためと考えれば無駄じゃあなかった。更に援軍としてお前さんもいる。十分に勝機はあるさ」

 と、金の杖を持った魔法使い男性プレイヤーに肩を軽くたたかれる。その期待に応えられるだけの活躍をできると良いのだが……こればかりはやってみなければなんともいえない事だから。

「敵の反応はまだないのね?」「ええ、まだ何の反応もありません。街中でもないというのにここまで反応が一切ないというのは、かなり不気味ですね……」

 大剣使いの女性プレイヤーからの確認に、自分は返答。〈危険察知〉にはまだ何の反応も上がってこない。ボスはもう少し先で待ち構えているのだろう。

「なら進むしかないだろう。どうせ今回も、我々を扉の一つ前の島で待ち構えているのだろうさ。だから今は、ほどほどに緊張を解いておくんだ。奴との戦闘が始まる前に、少しでも精神を休めておいた方が良い」

 と、タンカーの女性プレイヤーは口にした。しかし、それってなかなか難しい事なのですが……と、言王とした所で、自分の左右の肩が掴まれた。掴んだのは、左肩が短弓使いの男性プレイヤーで、右肩がニンジャさんだった。二人は無言で、首を振っている。ああ、なるほどね。この手の話に反論しても意味はないと。

(分かりました、何も言いません)(無茶ぶりして済まないでござる、しかし彼女はどこかの道場の師範代らしいので、やれちゃうのが困るところなのでござる)

 自分の小声に、ニンジャさんからそんな返答が。ウーム、それにしてもまた道場……そりゃまあ、日本各地にはまだそれなりにあるからそういう人が複数いてもおかしくはないが。

(ただ、高所恐怖症という弱点はあるんだがな。だが、それをからかったりするなよ。一度ニンジャがやらかして、酷い事になっていたからな)

 こちらは短弓使いの男性プレイヤー。目がちょっと遠い所を見ているんですが……ま、他者の弱点をからかうのはダメだよ。そう言う事をしちゃったら、お仕置きされても文句は言えない。

(了解です、心得ておきます)

 自分の返答に、両者ともに深く何度もうなずいていた。そんな自分たち三人を怪訝そうに見ていたのが大剣持ちの女性プレイヤー。悪口を言い合っている訳ではないので、そんな疑うような視線を送らないで欲しいな。一部の人にはご褒美かもしれないが、自分はちょっと。そんな交流? を行いながら進むこと数分、ついに反応が。

「反応がありました、強い反応が三つ。恐らくこの三つは首の事かと」「こっちも反応があった。間違いない、今回も奴が立ちふさがっている」

 自分と短弓使いの男性プレイヤーはほぼ同時に声を上げた。一度接敵経験がある短弓弓使いの男性プレイヤーは、相手の正体が分かる。戦うべきボスは、情報通りと言う事で確定した。

「よし、では向かおうか。前回のリベンジマッチだ」「「「「「おう!」」」」」

 同行パーティが、気合を入れて前進していく。自分は心の中で気合を入れるに留め、彼等の邪魔をすることは控えた。さて、いよいよボスか。張り切っていってみよう。
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