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23巻

23-2

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「なるほどのう。空を舞うのも水中で戦うのも多々やってきたとなれば、高低差がある戦いも多く経験してきておるのじゃな。それに加えて、単独で立ち回る事によって磨かれてきた視界の広さもあるのじゃろう。速度に惑わされず、敵を盾にして攻撃を防ぐといった芸当は、その視界の広さと経験から来る読みがなければできぬ事じゃしの……砂龍よ、この戦いの記憶は他の者の刺激になるかもしれん。分体を用いて見せてやるというのはどうじゃ?」

 参考にならんと思いますよ? 右腕であればどこからでも出せるという【真同化】の能力ありきの立ち回りで、普通のスネークソードじゃ絶対に再現は無理だからなぁ。そもそも、リーチの長さも一般的なスネークソードとは比べ物にならない。距離さえ詰められれば、アーツを用いて、拘束しながらダメージを与えたりする事は真似できると思うけど。

「それでも、停滞している修業の刺激にはなる。スネークソードの使い手は、他の場所で修業してている者の中にもいるからな……新しい立ち位置を得る事にでも繋がれば、新たなやる気も出てこよう」

 スネークソードの使い手になら、まったく参考にならないわけでもないの、か?
 少なくとも、他にPTメンバーがいるのなら、さっきの自分ほどの動きはしなくてもいいはずだ。他のメンバーに隙を作ってもらうなり誘い出してもらうなりした後に飛び出して、空中にいる砲台役を締め上げれば……いけるかもしれない。

「アースよ、先程の戦いを公開してもよいか? 無論我々の稽古を受けている信を置ける者にしか見せぬし、細工して外見でお前だと分からぬようにする。お前にとっては手の内を見られる事になる故に無理強むりじいはできぬが、一考してもらえないだろうか?」

 この師匠ズの言葉に、自分はつい「ぬう……」と普段は出さないような声を漏らしながら腕組みをして考えた。確かに刺激にはなるだろうが……
 もちろん、師匠ズが人の見極めを間違うとは思えないが、万が一という事もある。それに、今は正しくても後々道を外れる人物もいるかもしれないわけで……裏の仕事の障害として立ち塞がられたら厄介だ。

「今すぐに答えを出してくれ、とは言わん。だが、今まで決まった戦法を多用してきた者達にとっては、間違いなく刺激になる。事情を明かすと、その決まった戦法が足かせとなり、敵の動きに翻弄ほんろうされてほぼ何もできない者達が多いのだ……」

 珍しく、砂龍さんの表情が苦虫を噛み潰したようなものに変わる。うーん、ここは砂龍さんの話をもっと聞いてから決断するか。共に戦う面子メンツがあっさり敵の攻撃で沈むようじゃ、さすがに困るからな……

「とりあえず、もう少し詳しい話を聞きたいのですが。その内容によっては、明日からの予定を曲げる必要性が出てきますし」

 まだとにかく情報が足りない。どういう風に翻弄されているのかぐらいは分からないと、こちらからの意見は出そうにも出せないぞ。

「ならば、分体に戦いを再現させて、どのような感じになっているのかを見せよう。鎧を着た分体が鍛えられている側、普段着のほうが有翼人を模した側だ」

 砂龍さんがそう言うと、西洋のフルプレートのような鎧を着た六体の分体と、普段着姿の四体の分体がまたたく間に発生する。
 ふむ、これいいなぁ。一見は百聞にかず、の言葉通りだ。
 さて、ここからどう動くのか……と、早速、大盾を構えたタンカー役の分体が前に出たか。まあこの動きは基本だな。

「アース、準備はよいかの? 動かすぞ?」

 雨龍さんの確認に自分は頷き、どういった戦闘が繰り広げられたのかが目の前で再現されていった。そして、先程砂龍さんの口から『決まった戦法』という言葉が出てきたわけが、よーく理解できた。
 タンカーが守り、アタッカーがダメージを稼ぎ、ヒーラーが傷をいやす、というバランスは良いのだが……まず、有翼人役には挑発関連のアーツが一切効いていない。まあ、モンスターじゃないんだから無理もないとは思うが……それと、空中の分体が放つ雷は上空から落ちるタイプなので、前衛後衛など関係なくヒーラーが直接狙われて焼かれていた。
 問題はそれだけではない。タンカー役が、激しい出入りを繰り返す敵の動きに全くついていけていない。そのため盾をすり抜けて何度も攻撃を受けてダメージを蓄積させられ、判断力を削られたところに短剣の強烈な一撃を貰って膝をつく。近接武器を持つ軽装備アタッカー達はまだ善戦していたが、地上の分体に気をとられ過ぎて、上空からの雷攻撃を何度も貰ってダウンしていた。
 そんな風に前衛が大して持たずにバタバタとやられるため、アタッカーの魔法使いは詠唱時間の短い小さめの魔法ばかりを使わされていた。ただ、周囲は良く見えているようで、チームの中では一番健闘していた。この魔法使いがいなければ、もっと早くに全滅していただろう。

「魔法使いの人の動きは非常に良いですね、ですがそれ以外が……」

 正直、もうちょっと前衛の人達がしっかりしてほしいとは思った。こくかもしれないが、ただ一人魔法使いだけが八面六臂はちめんろっぴの大活躍なのだ。牽制けんせいし、敵の追撃を阻止して前衛を持たせ、ときには回復を支援し、それでいて攻撃もおろそかにしない。よくMPが持つなと思う。
 それだけに、惜しい。詠唱時間が長い火力の高い魔法を撃つチャンスがあれば勝てている、というイメージが見えるだけに。

「うむ、あの魔法使いはトップクラスだな。魔法の腕が良いだけではなく、周囲の状況が良く見えている。雷も高確率で回避しておるし、短剣に狙われても棒術や体術で回避してみせる。その分、他の者の不甲斐ふがいなさがより目立ってしまうのじゃが。ついでに言っておくと、これが一番長く持った戦いじゃ。他はこの数分の一の時間で全滅判定を出さざるを得なかったでのう」

 雨龍さんが補足してくれる。そっか、これが最高なのか……動きから察するに、今の有翼人役の分体は自分の相手と同じ初級レベルだったが、さすがにこの戦いようじゃ厳しいな。師匠ズが自分の動きを参考に見せたいと言い出したのも無理はない。
 有翼人との戦いでは、どっしりと構えて待ち構える……他のゲームでは『ガン盾』とか『待ち』とかって表現されるような、とにかくじっと構えて待つというやり方じゃダメなんだよな。動かなければ、空中から落とされる雷のいい的だ。さすがの大盾も、上まではカバーしてくれない。もし上に持ち上げれば今度は体がお留守になる。

「確かにモンスター相手ならあの戦い方で良いんですけどねー……相手は速度に優れ、空中からの攻撃を得意とする有翼人です。あんながっちり固まっていては狙い撃ちされるだけ……タンカーといえどもある程度のフットワークを持たないと厳しい。それが装備の重量的に厳しいのなら、せめて軽装のアタッカー役が何とかしないと……」

 自分の言葉に、師匠ズも頷く。

「動きから察するに、あの魔法使いさんがいくつも指示を飛ばしていたようですが、他の面子がそれについていけていなかった……か。今まで成果を挙げていたやり方を崩すのは、心理的にも辛いのは分かるが……あの動きじゃ有翼人にはついていけない。というか、前衛が後衛に体術で負けてどうすんのよって話もあるな」

 最終的には、魔法使いさんが粘って分体を一体落とす事に成功したものの、抵抗はそこまでで終了した。魔法使いさんの体術はあくまで魔法の詠唱を邪魔されないようにしたり、致命的な一撃を回避したりするためだったようで、殴ったり蹴ったり投げたりまではさすがにできなかった。

「重鎧を着た者が鈍重になるのは仕方がないにしても、軽装の者が動けていないのがよろしくないという点は、我らも同じ意見だ。それに、相手の速度に惑わされ、普段なら余裕を持って回避なり反撃なりができる短剣の速度にすらあわを吹く始末。力も技もお前よりはるかに優れているはずの者達なのだが……この戦いぶりを見て、彼らを鍛えてきた魔王殿も少々どころではなく苛立いらだっているようでな」

 って事は、これ魔族の皆さんか。おっかしいなぁ、魔族の皆さんはかなりの猛者もさ揃いのはずなんだが……初めて見る戦法だからか全然対処できていない。このままでは、有翼人との戦いで、何もできずに負けるぞ。
 そんな質問を師匠ズに投げてみたが――

「我らもそう思っておった。今のままではどうあがいても勝ち目がない。無論、先程活躍していた魔法使いのような者もぽつりぽつりと出てきてはおるが、全体から見れば圧倒的に少数じゃな」

 うーん、魔族の皆さんに限った話じゃなく、この世界の種族って基本的に長生きなんだっけ? もしかすると、今までの訓練で染みついた動きが、新しいものを受け入れる事を無意識に拒んでいるのかもしれない。人間だって、歳をとった人に新しい事を始めろと言っても、それはなかなかに難しい。
 ああ、うちの親戚にも、パソコンどころかスマホとかタブレットの操作にも四苦八苦して、なかなか覚えられない人がいたなぁ。そして自分だって、あと三十年ぐらい経って様々な技術が進歩し、そうして生まれた新しいものを使えと言われたらどうだろう? すんなりと身に付けられるかどうか……自信がないな。

「──が、今は、覚えられない、できないは禁句か。できなきゃ、これから待つ戦いではただ死ぬだけ……」

 自分の呟きに、師匠ズが頷く。師匠ズも、何も憎くてこんな事をやっているわけではないのだ。できなければあっさり死ぬだけ……いや、人質として利用された挙句、玩具おもちゃにされてひどい結末を迎える可能性が高い。あいつらの事だ、腹立たしい笑い声を上げながらそれぐらい仕掛けてくるだろう。
 ただでさえこちらは兵力が少ないし、相手の武器がどんなものかって情報が少ない中、乗り込まなきゃいけないんだ。そこに人質への拷問や船頭でこちらの情報まで知られてしまったら……いよいよ勝ち目がなくなる。
 そうなったらどうやって勝てというのだ。

「そうだ、そんな結末を迎える未来しか見えぬ状態だ。そしてその後に待ち受けるは長きにわたる悪夢。いつ終わるか分からぬ悪夢。そんな結末を迎えないためにも、改善せねばならんのだ……」

 有翼人共はろくでなしだからな。もちろん、中には良い奴もいる可能性はある。が、現時点ではそんな奴の心当たりはゼロだ。こちらに味方してくれる存在がいるとは考えにくい以上、こちらの面子だけでどうにかしなければいけない。
 そう、どうにかしなければいけない以上……選択も自然と定まる。

「師匠、明日からの訓練をちょっと変更してほしい。明日は何の制限も付けずにお願いしたい。その代わり、師匠達が面倒を見ている人達の前で初級レベルの分体四人と戦う。魔剣の能力は極力抑えて、普通のスネークソードと大差ない使い方しかしない。外套も、この特注品じゃなくて市販されている物を使う。どうでしょう?」

 今日の訓練内容を他の人に見せても、魔剣ありきとしか見られないだろう。だから、魔剣の能力などは一切なしで動いて見せる。それに、そうしたほうが【真同化】をはじめとしたこっちの手の内を知られずに済む。師匠ズの要求と自分の利益をすり合わせれば、これが多分ベターだと思うのだが。

「──分かった、感謝する。外套はこちらで用意しよう。当日の移動も任せておけ。その代わり、それなりの動きを彼らの前で見せてもらおう。我らの弟子として、そこだけは譲れぬぞ」

 こんな形で人前に出て、戦う姿を見せる日が来るとはなぁ……が、今回は仕方がない。やるべき事をやるだけだ。
 そして、今日はまだ終わりではない、そろそろ料理の修業の時間だ。
 師匠ズに頭を下げ、この龍の国の王の奥方様が待つ台所へと向かう。今日はどんな料理を作ることになるのだろうか?


「本日はとにかく魚を焼いていただきます。単純な作業ではありますが、数は多いです。油断して焦がしたりしないようにしてくださいね」

 そう言って、大量のさけの切り身を指さす奥方様。今日は質より量……ではなく、量も質も求められる日らしい。
 こういうときは、だ。必要最小限の事だけを考えて心を無にする──のはできないので、頭を空っぽにして目の前の料理のみに注意を払う。無駄を省き、工程を最低数にまで削り、そうして生まれた余裕で良い焼き加減を保つ。
『今どれぐらい焼いたっけ?』とか『あとどれぐらい残っているんだっけ?』の二つは、特に考えてはいけない。作業に終わりがないという事はあり得ないので、ただひたすら黙々と目の前にある鮭の切り身を焼く焼く焼く!
 だが、その一枚一枚がきちんと中まで火が通るように、美味おいしくなるように注意を払う。自分にとっては山ほどある切り身だが、食べる側からすればその食事で口にする大事なおかずの一品。美味しくない飯を食さなきゃいけない時間なんて、拷問に等しいだろう?

(切り身を網に置く、具合を見極める、炭の量を調整する、焼き上がれば次の切り身を置く)

 馬鹿でかい七輪に似た調理器具で、大量の鮭の切り身を相手にひたすら調理調理。その鮭の切り身がついになくなり、本日の料理訓練は終了である。
 ふと時計を見ると、焼き始めてからすでに一時間弱が経過していた。ああ、そんな長時間やっていたのなら、料理スキルもレベルアップした事だろう。

「お疲れ様でした、今日の訓練の目的は、長時間の調理をこなす忍耐力と、長時間であっても調理の腕を鈍らせない技術の育成を重視していましたが……すでにあなたには備わっていた要素のようでしたね。ですが、忍耐力を常に鍛える事は無駄にはならないでしょう」


 まあ、ね。無駄にはならないよ。スキルレベル的にもプレイヤースキル的にも。生産で短気を起こせば何もかも上手くいかない。基本的に物を作るってのは忍耐力がいるよね……成果が遅々として上がらなくても、その先には良い結果があると信じてやらなきゃいけないときはざらにある。
 ──生産だけじゃなくて戦闘においても短気はダメか、短気を起こして突っ込めば、たいていは返り討ちにされるものだからね。状況を考慮した上で作戦上あえて突っ込むのであれば、話は変わってくるけど。

「ええ、様々な街で何度か露店を開いたりしていますので、長時間調理をし続ける行為自体にはある程度慣れはあります。まあ、何度やっても疲れますが……訓練ならば、疲れを覚えるくらいの作業をこなさなければ意味がないでしょうし」

 疲れない訓練ってあるのかな? ないよね? 疲れないって事は、頭も体も使ってないって事になる、はず。例外はあるかも知れないけど、ちょっと自分には思いつかない。
 勉強は頭を使うし、運動は体を使う。そのどちらも使わない訓練なんて、あてはまるものがあるのか? 座禅なんかの精神修養は、体と頭に加えて心も鍛えるから尚更キツい。

「そうですね、楽な修練など修練ではありません。痛みや疲労などで体を鍛え、勉学や実戦で頭を鍛えなければなりません。そして得た力をおかしな方向に使わないようにする心を、日々の訓練でつちかわなければなりません。どれか一つでも欠ければ、その人物は大成しないでしょう」
「ごもっともなお話です」

 だから、自分も奥方の話に頷いた。この力と心の話は色んな作品で題材に取り上げられるけど、どちらかが欠けているといつもろくな事にはならんかったな。
 力がない場合ってのは分かりやすい、悪党に勝てずにうつ展開など悲惨な展開になる。では心がない場合はどうか? 主人公が悪党になる、で収まればマシなほう。最悪バケモノ……外見がモンスターであるって話ではなく、暴れ回るだけの正真正銘のバケモノになって世界の全てに幕を引く、なんて話もあったな。自分は、そんなバケモノになる気はないぞ。

「私も、人に言うごとに自分にも言い聞かせています。特に龍族は力ある種族……その力を心なき愚かな考えの下に使えば、災いの元となる。その事を決して忘れてはならないと」

 ──そんな龍族、いや龍が出てきたとしたら、どれほどの被害が出るのだろう? 以前妖精国で起きた戦争時に見た雨龍さんの力は絶大だった。龍の力とは、あれと同じレベルのはずだ。どう少なく見積もっても、人族の領域が灰と砂に埋もれるまで一日も必要としないだろう。

「龍の力は、そのほんの一部ではありますが、過去の戦場にて見せていただいた事があります。あの力が破壊のみに使われるときが来るなどとは考えたくないものです」

 この言葉は偽りなき本心だ。そんな日が来ないでほしい。龍族には知り合いもいるし、刃を向けたくはない。

「そんな日が来ないよう、私としましても律すべきところは厳しく律していく心構えでおります。血で血を洗う世界など、迎えたくはありませんから」

 まったくだ……そんな未来などお断りだ。「ワンモア」でも、リアルでも、ね。



【スキル一覧】
風迅狩弓ふうじんかりゆみ〉Lv
50(The Limit!) 〈砕蹴さいしゅう(エルフ流・限定師範代候補)〉Lv46
〈ドワーフ流鍛冶屋・史伝しでん〉Lv99(The Limit!) 〈精密な指〉Lv49 〈小盾〉Lv43
〈蛇剣武術身体能力強化〉Lv26 〈円花の真なる担い手〉Lv7 〈医食同源料理人〉Lv25
隠蔽いんぺい・改〉Lv7 〈妖精招来〉Lv22(強制習得・昇格・控えスキルへの移動不可能)
 追加能力スキル
黄龍変身こうりゅうへんしん〉Lv14 〈偶像の魔王〉Lv6
 控えスキル
〈木工の経験者〉Lv14 〈釣り〉(LOST!) 〈人魚泳法〉Lv10 〈百里眼〉Lv40
義賊頭ぎぞくがしら〉Lv68 〈薬剤の経験者〉Lv41
 ExP42
 称号:妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 ドラゴンと龍に関わった者
    妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 災いを砕きに行く者
    託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人
    妖精国の隠れアイドル 悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人
    魔王の代理人 人族半分辞めました 闇の盟友 魔王領の知られざる救世主 無謀者
    魔王の真実を知る魔王外の存在 天を穿うがつ者 魔王領名誉貴族
 プレイヤーからの二つ名:妖精王候補(妬) 戦場の料理人
 強化を行ったアーツ:《ソニックハウンドアローLv5》



 3


 翌日。用意してもらった何の力もないただの外套を身に纏ってから、師匠ズの力で、ある場所へ向かう。
 着いた先がどこなのか、自分には分からない……有翼人の目と耳がどこにあるか分からない以上、不用意に情報を口にはできないという師匠ズの言葉に従い、一切聞かない事にしている。

「ここだ。ここで訓練の面倒を見ている」

 ずっと前、フェアリークィーンと話をするときに結界を張られた事があったが、それに似たような感覚を味わった後に、戦闘用の大きな舞台がいくつもある、とても広い空間が目に映った。洞窟の内部のような感じだが、魔法の照明が複数配置されているおかげで、昼間と大差ない明るさである。
 その舞台の上では、魔族の皆さんと獣人族の皆さんが戦っている姿が見えた。おそらく組手の最中なのだろう。武器や魔法も使っているが、一定ダメージを受けたら舞台の外に追い出される仕組みらしく、そのために全力でやり合えるようだ。

「教官のお二人がいらっしゃった! 総員訓練をいったん中止せよ! 整列だ!」

 師匠ズの姿に気がついた魔族の一人がそんな大きな声を出してから一分後。激しく戦っていた全員が、師匠ズの前にきちんと整列していた。まるで映画で見る軍隊のようだが……それだけ師匠ズの二人に敬意を払っているんだろう。
 自分は少し離れた場所に立っている。自分が師匠ズと話していた姿を見られていたようで、特にとがめる人はいない。

「うむ。今日も、我らの分体を相手に有翼人共の動きを学んでもらう。また、あそこにいるのは別の場所で鍛えていた者だ。今日はお互いの動きを見せ合ってもらう。お前達は普段通りに訓練を積めばよい。では、各事準備を整えろ。用意が終わったら順次分体を出す」

 砂龍さんの言葉が終わるとほぼ同時に全員が移動を開始し、二分後には全ての舞台の準備が終わっていた。
 その舞台の上に次々と分体を出していく師匠ズ。すぐさまあちこちで戦いが始まる。一つのチームが六人なのは、プレイヤーのPTメンバーの上限数と同じだな。


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