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22巻

22-2

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「こちらも、時間に追われているんです。申し訳ないですが、ご希望にお応えする事はできません」

 自分の言葉を聞いてなお要請を止めなかったまとめ役ドワーフだが……色々とぼやかしながら事情を説明していくうちに、こちらが絶対に曲げない意志を持っている事を感じ取ったのか、ついに折れた。
 その表情は落胆を隠していなかったが、しばらくして「しょうがねえ、こんな助けがある事のほうが少ないってのが世の中だ。分かった、世話になったお礼としてこれを持っていってくれ。きっと役に立つときが来る」と言って、いくつかのインゴットを渡してきた。それは……



【天上のミスリルインゴット】

 ミスリル鉱石を精製した際、手順や温度管理など全ての要素が奇跡的にかみ合ったときの
 み生み出される、貴重なミスリルインゴット。
 このインゴットには何らかの意思が宿る事が多いため、ドワーフでも武器鍛錬に使うのを
 躊躇ちゅうちょする。



「ここ数日、兄ちゃんの相棒の支援を受けながらミスリル鉱石を精製していたときに出来たレアものだ。ワシらでも見たのは数十年ぶりになる。が、こんな一級品を大都に送ったら、これをもっとよこせって言われるに決まっている。このインゴットは狙って作れるものじゃねえと言っても、聞きやしない連中がいるもんだ。だったら、ワシらを救ってくれた兄ちゃん達に渡したほうがきっと有意義な使い方をしてくれるって考えた。だから遠慮せず持っていってくれ。さっきの話しぶりからすると、兄ちゃんは今後危ない橋を渡る必要があるんだろう? そのときに使う武具の材料にしてくれ。このミスリルインゴットなら、弓だって作れっからよ」


 先程の話はだいぶぼやかした上で伝えたのだが、それでも分かってしまう人には分かってしまうか。まあそれはそれで仕方ない。
『羽根持つ男』と戦うときの切り札は魔剣【真同化まどか】なのだが、その切り札を最高の場面で切れるようにするための装備もまた必要だ。今使っている【蒼虎そうこの弓】も悪くない装備だが、以前使っていた【双砲そうほう】の能力を最大限展開させたときほどの火力はない。あの後継を作り出すべきだろうな。
 あとは、もうずいぶん長く使っている両腕の盾、ならびにその中に仕込んであるスネークソードも改良しておかないと、役に立たない可能性が高い。
 その改良のためにも、良い素材はありがたく頂く。訓練して鍛冶技術を高めないといけないけど、こればっかりは人任せにできない。

「ありがたく頂戴します。本当に、大都のお偉いさんもこうして地方が疲弊している状況を理解してくれればよいのですが……いくら下が訴えても、結局どうしても上の命令には逆らえないところがありますからね」

 まとめ役ドワーフがここまで懇願してくる必要があるって事を、大都側だって分かっている人は分かっているだろう。が、一番肝心な命令を出す人達が分かっていない可能性が高い。
 大抵こういうときって、上の人間は、言えば大体何とかなるだろうって考えに凝り固まっているものなのだ。「ワンモア」に限らずリアルでも。

「何もこっちだって、仕事をしねえと言ってるわけじゃあねえんだよ。ただ、精製が大変なミスリルを短期間で大量に供出しろって指示がおかしいってんだよなぁ。大都のほうにそういう訴えを書いた手紙は何度も送ってるが、なしのつぶてって事は、どっかで握り潰しているんだろう。大都がいくつもの街を管理して、食材やら道具屋やらを回さなきゃ困るって言ったって、俺達も奴隷じゃねえし、仕事だって無制限にやれるわけじゃねえんだ。今の大都にいる連中は、そんな事も分からなくなっちまってるんかね……」

 ――遺体捜しも大事だが、こっちも探ってみるか。
 やむにやまれずそういう状況になっているというのならまだいいが、もしも一部の連中の私腹を肥やすためなのだとしたら……そのときは義賊のお仕事をさせてもらう。そして、その場合のお仕置きはキツめにいく所存だ。そうしないと、こうやって働かされている人達の鬱憤うっぷんを晴らせないだろうから。

「大都に行ったとき、それとなく聞いてみますよ。核心には迫れるわけもありませんが、噂話ぐらいなら聞けるでしょうし。人の口に戸は立てられぬとも言いますからね」

 実際は、調べて黒だと分かったら乗り込むんだけど、それを言う必要はない。変に口を滑らせればかえって迷惑をかけてしまう場合もあるんだからな。義賊は陰でひっそりと仕事をして、そっと去るべきなのだ。

「無茶はしてくれるなよ? こっちだって何も兄ちゃんを面倒な目に遭わせたくてこんな話をしたわけじゃねえんだしよ」

 もちろんそこは分かっている。こっちが勝手にやるだけだ。自分のやった行為を人のせいにするのは、やっちゃいけない事の一つだ。自分の歩く道は自分の意思で決める。

「ええ、分かっています。では、そろそろ失礼しますね」
「引き留めて悪かったな……頑張れよ」

 こうして地底世界で二つ目の街を後にし、蒸気トロッコへと乗り込んだ。仕事が一つ増えたが……これもまた、旅の一部か。


 三つ目、四つ目の街も大差なかった。ドワーフの職人達が疲れているところも、魔王様の遺体が見つからなかった事も。
 どちらの街でも、滞在中はアクアがドワーフ達を癒していたのだが、さすがに大都に近寄るにつれて他のプレイヤーの姿を見る事が多くなってきた。なので、アクアは街中では小さくなって目立たないようにしていたようである。そのためアクアの存在に気づいたプレイヤーはほとんどいない。
 まとめ役ドワーフの言葉もほとんど同じ。大都は俺達を使い潰すつもりなのか?という感じで、大都に対して反感を持ちつつあった。確かに、アクアが来なかったらかなりの数の職人さんがぶっ倒れていたはずの仕事量である……リアルで言うブラック企業となり果てる寸前だ。
 潰れちまったら、ミスリルを供出してもらっている大都だって困るだろうに。
 そんな風に考えながら、四つ目の街を発つべく蒸気トロッコを待っていると、後ろから他のドワーフとは違う、トレンチコートに酷似した軍服らしきものをまとったドワーフがやってきた。どうやら彼も蒸気トロッコに乗るようだ。
 それから数分後、大都方面へ向かう蒸気トロッコに乗り込み、適当な席に腰かける――と、先程の軍服ドワーフが、なぜか自分の傍に座った。他にも空いているというのにわざわざ。何か話があると見ていいな……なら、さっさと話してもらうか。

「自分に、何か用事がおありで?」

 他の客はおらず、話をするにはちょうどいい――偶然なんだろうか? この軍服ドワーフがそうセッティングした可能性もある。

「この路線――黄金線おうごんせんの通る各街を回って、様子を調べていた。無論、こんな事を他の者に言ったりしない。だが、貴殿は別だ。同胞が多大な世話になっている貴殿には忠告をしておけと、こちらの部隊長から通達が出ている」

 ほう、忠告ですか。まずは聞いておこう。どう対応するか考えるのはその後でいい。

「その忠告、伺いましょう」

 自分の返事に頷いて、軍服ドワーフが話を続ける。

「貴殿の存在について、すでに大都ミスリルでも噂が立ちつつある。疲弊した職人を短期間で回復させ、働かせる事ができる者がいると。その噂は今回の一件を引き起こした上層部連中の耳にも入っており、奴らはその者を利用してもっとミスリルを作り出させようという計画を立てているとの話もある。捕まらぬように注意を払うべきだな……それと、心苦しいだろうが、ここから先は同胞がどんなに疲弊していようとも回復させないほうがいい。貴殿の姿を上層部のネズミ達が知れば、何かしら難癖なんくせをつけて喜々として捕縛しに来ないとも限らんからな」

 自分を捕まえようとする者がいる一方、こうして忠告に来る者もいる。今の大都では、派閥争いかなんかでも起きてるのかね? ……ついでだから、こっちが疑問に思っていた事を質問してみようか。

「そもそも、なぜこれほどまでにミスリルを必要とするようになったのです? 職人を潰せば、自分達も潰れてしまうという事が分からないわけでもないでしょうに」

 この質問に対し、軍服ドワーフは「タイミングの悪い事に、今はそれが分からない奴らが上にいるのだ」と呟く。

「貴殿の言う通り、下を粗末に扱う者は最終的には己が身を潰す。しかし、今の上層部の大多数は目先の金銭に目がくらんでいる……ドワーフの恥さらしだ。己が手でミスリルを打ち、精製した事のない貧弱な者が、現場の苦労を一切理解せずにもっとミスリルを作れと軽々しく指示を出しているのが、今回の騒動の原因だ。いくら、地上から訪れた多くの者達が我らの作る武器を欲して、ミスリルの需要が跳ね上がって大きな商機が訪れたとはいえ、今の上層部の指示をまともに受けていたら職人は皆過労で死んでしまう。まともな上層部の一部といくつもの部門が緩和しろと要請しても、上層部の多数派に否決され、金に目がくらんだ奴らは聞く耳持たずに入ってくる金を数えている」

 ああ、やっぱり大都全体がこの状況を良しとしているわけではないのか。しかし、そんな上層部という名の馬鹿が指示を飛ばしているってのはマズいだろう。このままじゃ、反乱が起きるぞ。
 そう自分が考えている事を察してか、軍服ドワーフが更に言葉を続ける。

「数日中に、今の上層部のやり方は大都を治める存在にふさわしくないとして、不信任案が出るだろう。不信任案が出た時点で、全ての命令は一時凍結される決まりだ。案を出すのが遅れたのは、まさかここまで要請を長く続けるとは当初読めなかったからだ。確かにミスリルが必要であった事自体は事実だからな。だが、今のやり方は不当であると認めさせるだけの証拠も、もう出揃った。そして不信任案が通れば今の上層部は追放され、鉱山で数十年ミスリル鉱石を掘る立場になるだろう。そうして、自分達の指示がいかに狂ったものであったかをその身で理解するはずだ」

 ふむ、そこまで話が進んでいるのか。これなら、自分に義賊としての出番はなさそうかな。自浄作用がきちんと働くのであれば、自分のような者がしゃしゃり出る必要はない。影働きをする者に頼らないで済むのが一番なのだから。

「あと数日こらえれば、このような事態は終わると。なら、自分も次の街ではひっそりと身を潜めていたほうが良さそうですね。今まで通りにやると、そちらに必要以上の負担をかける可能性が高いのであれば尚更です」

 大都まではあと駅二つの距離まで近づいてきている。連中に自分達の姿を掴まれ、捕まって利用されて今の計画を潰すような事態を呼び込んでしまったら、彼らに申し訳が立たない。

「貴殿の姿に関する情報は、勝手ながら今までは上層部に届く前にこちらで握り潰していた。が、さすがに噂まではどうにもならん。これまでさんざん同胞を助けてもらっておいて申し訳ないのだが、理解を求めたい。なに、数日の辛抱よ」

 これなら、従わない理由はないな。数日は大人しくしておきます、と自分が伝えると、軍服ドワーフはすまんな、と返してきた。

「まったく、やはり親の七光りなどろくなものではないな。一から鍛えられ、苦労してきたドワーフを上に据えなければ、今回のような騒ぎになる。その点も、案に盛り込んでおく事にしよう」

 あ、何でそんな馬鹿が上層部にいるのかという理由も教えてくれるのね。
 親の七光りかぁ……もちろん、本人がしっかりと勉強して親のポストに就く場合もあるが、今回はダメな奴だったようだな。まああと数日で一網打尽にされるようだし、関わる事はないだろう。裁かれて反省しろってところだろ。
 次の駅に到着すると、自分は降り、軍服ドワーフは大都まで戻るのだと言ってそのまま乗っていった。
 それから自分はこの街のまとめ役ドワーフのところに顔を出し、街の近くにテントを張る許可を貰った。このとき、アクアは外套の中に入れて、姿がバレないようにしておいた。狭い外套の中で窮屈そうだったが、アクアも事情を理解してくれていたので暴れたりはしなかった。
 テントを設置した後、歩ける範囲で街の周囲を探検したが、ある程度マップを埋めた事以外の成果は挙がらず、テントに戻ってログアウトした。


 翌日ログインすると、ドワーフの街が大騒ぎとなっていた。まとめ役ドワーフのところに軍服ドワーフが数人来て、今回の過剰労働の件についての説明が行われていたのである。
 どうやら、あの蒸気トロッコで出会った軍服ドワーフが話していた案とやらが無事に可決されて、上層部からの命令がストップしたようだった。
 自分も話を聞きたいので、やってきた軍服ドワーフの傍に近寄る。さて、どうなったかな。




 3


(ふむふむ、こうなりましたか)

 軍服ドワーフから聞いた話や張り出されていた紙を読んで分かった事は――
 まず、今回のミスリルの過剰製錬を要求した上層部連中は揃って捕縛、上層部からの永久追放処分を受けた。彼らが今回の一件で積み上げた財産は最低限の生活費だけを残して没収の上、今回過剰労働させられた職人ドワーフ達に分配される。
 また、捕縛された元上層部のドワーフ達は、これから二〇年にわたってミスリルの採掘及び精製事業に強制従事させられるようだ。ちなみに二〇年が経過しても、精製できたミスリルの量が一定数に到達しない限り服役は終わらない、とも記載があった。
 ずいぶんと話が早いが、それだけ今回の一件には早々にケリをつけたいって考える人が多かったんだろう。
 それと、今回の件とは全然関係ないが、地底世界の地形がある程度分かった。
 まず三角形を描き、三つの頂点に丸を描く。この丸が三大都の位置となり、その三大都から一本ずつ直線を伸ばしたのが、蒸気トロッコの路線となる。アイアン都とミスリル都を繋ぐ路線が黄金線。アイアン都とオリハルコン都を繋ぐ路線が銀光線ぎんこうせん。ミスリル都とオリハルコン都を繋ぐ路線が銅力線どうりょくせん、と呼ばれているようである。
 で、今回の一件に関与していたのはあくまで大都ミスリルにいる上層部だけで、他の大都は関係ないそうだ。
 少し話がそれたが――今回のミスリルの大量発注が生じたのは、やはりプレイヤーが地底世界に押しかけたのが最大の理由のようだ。ミスリル製の武器を買う人だけでなく、インゴットを買って自分で武器を打つ鍛冶屋も相当数いたので、消費が激しくなったらしい。
 そこら辺の話を聞いて、鍛冶系の掲示板を開いてみると、やはりミスリル関連の話がいくつも載っていた。ただ、ミスリル製の武器はなかなか作れないって愚痴ぐちばっかりだったのが気になる。彼らはドワーフの職人さんと交流を持ってないんだろうか? ファンタジーでお約束の素材を目の前にして、気がはやるのを抑えられなかっただけなのかもしれないけど。
 話を聞いた職人ドワーフ達は「これでやっと休めるな」とか「よし、金が入るなら今日は飲むぞ!」といった感じで、もう上層部云々うんぬんと言わないのが印象的だった。ざまあみろとか恨み言の一つもないのにはびっくりした。もう終わった事だからさっさと忘れて次へ、って考える人ばっかりなんだろうか?
 ……その代わり酒場に直行するドワーフの多いこと多いこと。まあ、しばらく休暇を取って英気を養ってから平時の仕事に戻れって指示があった事が、その後押しになっているのかもしれないけど。
 何にせよ、これで過労死するドワーフが出ずに済んだのだから、それでいい。これでうれいなく魔王様の遺体捜しができるというものだ。
 早速、今日もアクアを伴って街の外に出かける。しばらく歩いて人の目がなくなったらアクアに大きくなってもらって背に乗り、行動を開始。
 いつも通りアクアに走ってもらってマップを埋めるかたわら、魔王様の遺体に関係しそうな話題がないか、地底世界関連の掲示板にも目を通す。

(冷気を漂わせる滝に、地肌が金色に輝いているから掘ってみたけど石しか出なかったハズレ鉱脈っぽいもの。当たり鉱脈を見つけたはいいが同業者に一気に掘られて鉱石が枯渇こかつした場所。やたらと命を収穫する者がたむろっている天然砦っぽい場所に、ダークエルフの谷のように天然地雷がいっぱいある地形か……どれもこれも、銅力線か銀光線の場所ばっかりだなぁ……黄金線だとそういった場所は最初の街にあった地底湖ぐらいしかなかったし……黄金線の近くに魔王様の遺体はないのかもしれないなぁ)

 マップをちょくちょく確認し、自分の目とアクアの直感も使って調査するが……やはりこれといって変わったものは見つからず、収穫はない。
 命を収穫する者に出会ったら、もちろんきっちり仕留めておく。ただ、ドロップするのは多少のグローのみであり、やはり上位種であるメタルっぽい奴じゃないと腕のパーツなどをドロップする事はないようだ。
 ドロップが渋い代わりに経験値が美味しいというのなら、まだ戦い甲斐がいもあるのだが……それなりの数を倒したというのに、戦闘関連のスキルが何一つレベルアップしないのが腹立たしい。成長限界を迎えているのは弓関連だけなので、他のスキルはまだ成長の余地があるはずなのに。魔王領のダンジョンで同じぐらい戦っていれば、何かしらが1レベルぐらいはレベルアップしていると思うんだがなぁ。
 それなりに強い相手なのにな。道理で、戦闘関連掲示板にも美味しくねー相手だと書かれるわけだ。

「本当に、なーんにもないねぇ」
「ぴゅいー……」

 適宜休憩を挟みつつ、一時間かけてアクアに走り回ってもらったおかげで、マップはかなり埋まった。しかし、目に入ってくるものといえば、代わり映えしない地形と、天上から垂れ下がる岩の先から落ちてくる[凍結]を誘発する水のしずくばかり。
 そういえば、掲示板で状態異常関連の新しい書き込みがあったっけな。今までよりも凶悪な状態異常を引き起こすものを暫定的に『強異常』と呼んでいるようで、いくつかの例が載っていた。
 例えば、今までの[凍結]は動きが鈍くなる程度だったが、地底世界の雫が誘発する、完全に氷漬けにされて動けなくなるものは[強凍結]と区別された。そういえば、以前どこかのダンジョンで雪像にされてしまったプレイヤーがいたが、あれも[強凍結]の一種と言っていいかもしれない。
 他には、[毒]よりも凶悪なダメージを与えてくる[強毒]。ただし[強毒]よりも[猛毒]って言ったほうがよくね?とのプレイヤーのツッコミを受けて、そう呼ばれるようになったようだ。
 あとは、継続ダメージがあるだけでなく視界を悪化させる[強出血]、完全にプレイヤーの操作を受け付けなくなり暴れ回るようになってしまう[強混乱]など。[強混乱]はレイドボスが使ってきたらしく、順調だった討伐が一転して阿鼻叫喚あびきょうかんちまたとなったそうだ……
 自分の探索にあまりに変化がないので、そんな情報を仕入れて気分を紛らわせているのだが、やはりどうしても退屈してしまう。地上なら天候の変化もあるし風景だって変わるからまだいいのだが、地底世界にはそれもない。先程から命を収穫する者も出てこないし、そのためついついあくびが出てしまう。
 そんな自分に刺激を与えようとしたのだろうか。
 ついに《危険察知》が反応した。

(ん? 命を収穫する者でも来たかな……ってあれ? 正体不明?)

 プレイヤーでもなくドワーフでもなく命を収穫する者でもなくコログウでもない、新しい存在がいる。数は、一二か。一気に目が覚めた自分は、アクアに減速をお願いして、正体不明な存在との距離をゆっくりと詰める。一定距離まで近寄ったところでアクアから降り、アクアはちびモードになって自分の頭上へ移動。
 その後は抜き足差し足で忍び寄り、そっと岩陰から覗いて、正体不明のいる辺りを覗き込む。
 そこには……ファンタジーのお約束。有名モンスターの一角。かわいいヤツとグロいヤツの両方が存在する……スライムの黄色い奴が一二匹、のたのたーっと存在していた。

(おや、今回もスライムか。ただ、前見たのとは色が違うから、別物判定されて正体が分からなかったのか。外見はそう違いはないな)

 こうしたゲル状のタイプのスライムは要注意だ。厄介なパターンだと、物理攻撃が通用しない、なんでも取り込んで消化してしまう、知らないうちに接近されて不意打ちを食らう、といった危険要素がいっぱい詰まっている事もある。まあ、自分の場合は《危険察知》のおかげで不意打ちを食らう心配だけはしなくていいのだけれど。
 あとはこいつらの性質次第だな。あくまで接近しない限りは危険性の低い存在なのか、獲物を見つけたらグワーッとやってきて呑み込む危険度S級の奴なのか……とりあえず、今のところスライム達が自分とアクアに気がついた様子はないが。

(前に出会った奴も含めて、情報が欲しいな。けど下手に刺激してとんでもない事になりましたーなんてパターンは御免蒙ごめんこうむりたい。実際この地底世界ではコログウという先例があるだけに、前情報なしで戦いを挑んだらどえらい目に遭う可能性が高いのがなぁ。今日はこのままそーっと引きあげて、ドワーフの皆さんに話を聞いてみるか)

 自分はゆっくりと後ろに下がっていき、距離を十分にとったところでアクアに再び大きくなってもらい、その背に乗って街まで直行した。ドワーフの皆さんから、何か有意義な話が聞ければよいのだが。


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