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連載
番外編、龍の国でのお正月
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新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
********************************************
「今年もこうしてみなと共に新しい年を迎えられた事、嬉しく思う。わが国の民よ、そして他国から訪れてくれた旅人達よ、他の人に多大な迷惑をかけない様にしつつ、正月という一年に一回の機会を思う存分楽しんでいって欲しい!」
龍王直々の挨拶が終わると同時に、あちこちで琴の優しい音楽が奏で始められる。龍の国にも新年が来た事で、普段は一般人お断りの神社なども開放されており、大勢の人で賑わいを見せる。雑煮やお神酒もこの日は訪れてきた多くの人にケチることなく分け与えられる。
「父上、新年の挨拶お疲れ様じゃ」
龍姫が新年の挨拶を終えて、城の中に帰ってきた父をねぎらう。新年の挨拶は、龍の国においては王が行うべき新年の初仕事になっている。
「うむ、今年は自国の者だけではなく人族、妖精族、エルフ、ダークエルフ、獣人族、魔族の者達も大勢来ているからな。雑煮や神酒の準備はかなり多めに行っておいてよかったな」
雑煮や神酒は去年の数倍ほどの量を用意したが、一が武からここの六が武まで非常に多くの人が行きかっているし、大勢の人に出されていることからそれでも1人1人に満足な量が回せるかどうかは少し不安が残るところだ。もし足りなければ、来年はより多く用意せねばなるまい、と龍王は考えているようだ。
「新年の押し出しが湿っぽくなっては、その一年全てが湿っぽくなってしまうからのう……元旦こそその一年を占う大事な日。その点今年は、実ににぎやかになっておるようでなによりじゃ!」
龍姫も多くの人が雑煮を食し、酒を嗜む風景を見てうむうむと頷く。正月はこれぐらいの活気がなくては始まらない。
「──うむ、そうか。多少の喧嘩は大目に見ろ。だがあまりにも酷くなった場合は止めに入れ。ある程度までなら余興だ」
父上、どうしたのかの? と問いかけてきた龍姫に、龍王は通信を終わらせてから……。
「なに、少々神酒を飲みすぎた者が酔っ払って喧嘩をしたそうだ。周りに極端な迷惑をかけないうちは手を出すなと、見張りの者にいっただけだ」
この手の話は人が大勢集まるとどうしても出てくるのは避けられない。喧嘩といってもお互いかなり酒が入っているようだったので、放っておけと龍王指示を出したのである。
「ま、我々の生み出す神酒の酒精は強い。喧嘩をする為に動いていれば、あっという間に全身に回って勝手に止まるだろう。止まった所で適当な場所に転がしておけばいい」
喧嘩していたのが龍族同士だったというのもある。他の種族に喧嘩を売ったというのであれば即座に止めるが、同族同士なら放置しても問題はない。報告にもやれやれー! と周りの人たちが歓声を上げているとあった。
「そういう者はやはり何時になっても無くならぬのう。かといって掟で縛ると反発する物も出てきおる……血の気が多い輩も、正月ぐらいはおとなしゅうしろと言いたい所じゃ……」
余計なことかもしれないが、龍姫が少々いらだっているのはアースに新年の挨拶という名の言い訳で会いに行くことが出来ないからである。外に出ることが禁止云々の話ではなく、アースが今はログインしていないのでどうやっても会えないのだ。ちなみにアースの方の行動だが、流石に新年という節目の時には仕方なく実家に帰って親戚と会って色々と話をしなければならないので、元日から3日までは絶対にログインしてこない。
「全くだな、それだけの元気があるのなら龍の儀に積極的に挑戦しろと喧嘩をする者達に言うと、とたんに静かになるから困った物だ。今年こそもっと多くの龍人が龍の儀に挑んで欲しい所なのだがな」
龍王はそう呟くと、キセルを取り出し火をつける。窓際に移動して軽く吸い、ふうーっと外に向かって煙を吐き出す。
「父上、その擬似キセルの方はどうですかの?」
龍王が吸っているキセルは煙草ではない。煙草に似せてはいるが、中身は完全に別物である。煙草をやめたいが、その中毒性から抜け出せない龍人のために新しく龍王主導で作っている新しい品物だ。複数の薬草を調合して解毒の香として服用する事で、ゆっくりと煙草の毒を抜いていく一品……の試作品である。
「うむ、煙も控えめになってきたな。まだ少々薬としての匂いが強いがまあまあの出来だろう。極度に煙草の深みにはまった者でなければ我慢が出来る範囲かも知れん」
龍王も煙草をやめて久しいが、どうしても吸いたくなる時がある。だが、そこで吸ってしまってはまた煙草の毒にやられてしまう。ならばということで、民からの相談も解決することを兼ねてこの擬似キセルの開発に手を出したのだ。美味く開発が出来れば、煙草の毒に当てられて吸うのをやめたいがやめられないという悩みを打ち明けてくる民にも順次提供する予定となっている。
「正月だというのに、あまりのんびりとは出来ませぬのう」
結局正月という一日を迎えているというのに、話しているうちに普段と変わらぬ話になってしまっていることに苦笑いを浮かべる様子の龍姫。
「それだけお前も、民の上に立つということがわかってきたという事だな。次期の龍王としては仕方あるまい。まだまだ俺の引退は先だが、いつかは来る事だ。今からその心構えを少しずつ作っておけ」
キセルを片手にぷかりぷかりとやりながら龍姫に告げる龍王。
「では父上、そろそろ今年一年の目標を書初めにて表しましょうぞ」
すでに用意が出来ていた書初め一式を持ち出しつつ、龍姫は龍王に言う。
「うむ、ではまずお前のから見せてもらおうか」
叩いて燃えている擬似煙草を処理してからキセルを懐にしまいつつ、龍王は龍姫の書く書初めの内容を伺う。龍姫が書き上げた書き初めには……『全力疾走』と書かれていた。
「わらわはこれじゃな。今年一年、全力で物事に当たることを決意しておる。それこそ全力で走り抜けるような勢いで行わねばの」
龍姫の書初めを見た龍王は、次は自分の番だとばかりに筆を取って紙に向かい文字を書く。書き終わった紙には『国家発展』と記されていた。
「王としての心構えとしては、やはり国が栄えねば何も出来ぬ。国が栄えるという事は民が栄える事。今年はより龍の国が栄えるようにしなければな」
どうやら、すでに龍王にとってはのんびりと過ごすという意味での正月は終わっている様子である。
************************************************
今年は自分にとって色々と試される年になりそうです。
とりあえず最初の試練は、とあるおっさんの書籍化による
反響ですね……。
今年もよろしくお願いいたします。
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「今年もこうしてみなと共に新しい年を迎えられた事、嬉しく思う。わが国の民よ、そして他国から訪れてくれた旅人達よ、他の人に多大な迷惑をかけない様にしつつ、正月という一年に一回の機会を思う存分楽しんでいって欲しい!」
龍王直々の挨拶が終わると同時に、あちこちで琴の優しい音楽が奏で始められる。龍の国にも新年が来た事で、普段は一般人お断りの神社なども開放されており、大勢の人で賑わいを見せる。雑煮やお神酒もこの日は訪れてきた多くの人にケチることなく分け与えられる。
「父上、新年の挨拶お疲れ様じゃ」
龍姫が新年の挨拶を終えて、城の中に帰ってきた父をねぎらう。新年の挨拶は、龍の国においては王が行うべき新年の初仕事になっている。
「うむ、今年は自国の者だけではなく人族、妖精族、エルフ、ダークエルフ、獣人族、魔族の者達も大勢来ているからな。雑煮や神酒の準備はかなり多めに行っておいてよかったな」
雑煮や神酒は去年の数倍ほどの量を用意したが、一が武からここの六が武まで非常に多くの人が行きかっているし、大勢の人に出されていることからそれでも1人1人に満足な量が回せるかどうかは少し不安が残るところだ。もし足りなければ、来年はより多く用意せねばなるまい、と龍王は考えているようだ。
「新年の押し出しが湿っぽくなっては、その一年全てが湿っぽくなってしまうからのう……元旦こそその一年を占う大事な日。その点今年は、実ににぎやかになっておるようでなによりじゃ!」
龍姫も多くの人が雑煮を食し、酒を嗜む風景を見てうむうむと頷く。正月はこれぐらいの活気がなくては始まらない。
「──うむ、そうか。多少の喧嘩は大目に見ろ。だがあまりにも酷くなった場合は止めに入れ。ある程度までなら余興だ」
父上、どうしたのかの? と問いかけてきた龍姫に、龍王は通信を終わらせてから……。
「なに、少々神酒を飲みすぎた者が酔っ払って喧嘩をしたそうだ。周りに極端な迷惑をかけないうちは手を出すなと、見張りの者にいっただけだ」
この手の話は人が大勢集まるとどうしても出てくるのは避けられない。喧嘩といってもお互いかなり酒が入っているようだったので、放っておけと龍王指示を出したのである。
「ま、我々の生み出す神酒の酒精は強い。喧嘩をする為に動いていれば、あっという間に全身に回って勝手に止まるだろう。止まった所で適当な場所に転がしておけばいい」
喧嘩していたのが龍族同士だったというのもある。他の種族に喧嘩を売ったというのであれば即座に止めるが、同族同士なら放置しても問題はない。報告にもやれやれー! と周りの人たちが歓声を上げているとあった。
「そういう者はやはり何時になっても無くならぬのう。かといって掟で縛ると反発する物も出てきおる……血の気が多い輩も、正月ぐらいはおとなしゅうしろと言いたい所じゃ……」
余計なことかもしれないが、龍姫が少々いらだっているのはアースに新年の挨拶という名の言い訳で会いに行くことが出来ないからである。外に出ることが禁止云々の話ではなく、アースが今はログインしていないのでどうやっても会えないのだ。ちなみにアースの方の行動だが、流石に新年という節目の時には仕方なく実家に帰って親戚と会って色々と話をしなければならないので、元日から3日までは絶対にログインしてこない。
「全くだな、それだけの元気があるのなら龍の儀に積極的に挑戦しろと喧嘩をする者達に言うと、とたんに静かになるから困った物だ。今年こそもっと多くの龍人が龍の儀に挑んで欲しい所なのだがな」
龍王はそう呟くと、キセルを取り出し火をつける。窓際に移動して軽く吸い、ふうーっと外に向かって煙を吐き出す。
「父上、その擬似キセルの方はどうですかの?」
龍王が吸っているキセルは煙草ではない。煙草に似せてはいるが、中身は完全に別物である。煙草をやめたいが、その中毒性から抜け出せない龍人のために新しく龍王主導で作っている新しい品物だ。複数の薬草を調合して解毒の香として服用する事で、ゆっくりと煙草の毒を抜いていく一品……の試作品である。
「うむ、煙も控えめになってきたな。まだ少々薬としての匂いが強いがまあまあの出来だろう。極度に煙草の深みにはまった者でなければ我慢が出来る範囲かも知れん」
龍王も煙草をやめて久しいが、どうしても吸いたくなる時がある。だが、そこで吸ってしまってはまた煙草の毒にやられてしまう。ならばということで、民からの相談も解決することを兼ねてこの擬似キセルの開発に手を出したのだ。美味く開発が出来れば、煙草の毒に当てられて吸うのをやめたいがやめられないという悩みを打ち明けてくる民にも順次提供する予定となっている。
「正月だというのに、あまりのんびりとは出来ませぬのう」
結局正月という一日を迎えているというのに、話しているうちに普段と変わらぬ話になってしまっていることに苦笑いを浮かべる様子の龍姫。
「それだけお前も、民の上に立つということがわかってきたという事だな。次期の龍王としては仕方あるまい。まだまだ俺の引退は先だが、いつかは来る事だ。今からその心構えを少しずつ作っておけ」
キセルを片手にぷかりぷかりとやりながら龍姫に告げる龍王。
「では父上、そろそろ今年一年の目標を書初めにて表しましょうぞ」
すでに用意が出来ていた書初め一式を持ち出しつつ、龍姫は龍王に言う。
「うむ、ではまずお前のから見せてもらおうか」
叩いて燃えている擬似煙草を処理してからキセルを懐にしまいつつ、龍王は龍姫の書く書初めの内容を伺う。龍姫が書き上げた書き初めには……『全力疾走』と書かれていた。
「わらわはこれじゃな。今年一年、全力で物事に当たることを決意しておる。それこそ全力で走り抜けるような勢いで行わねばの」
龍姫の書初めを見た龍王は、次は自分の番だとばかりに筆を取って紙に向かい文字を書く。書き終わった紙には『国家発展』と記されていた。
「王としての心構えとしては、やはり国が栄えねば何も出来ぬ。国が栄えるという事は民が栄える事。今年はより龍の国が栄えるようにしなければな」
どうやら、すでに龍王にとってはのんびりと過ごすという意味での正月は終わっている様子である。
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