上 下
42 / 45

42

しおりを挟む
 公爵が独壇場のままなので、私たちはずっとビュッフェを堪能。
 砂糖漬けも山盛りあったのでもひたすらかりぽり。

 離れてみてるとパワーバランスとか付き合い方とか見てられるから、ちょっと面白い。

 今後のお付き合いが必要ない相手だからブラックリストまでは作らないけど顔は覚えておこうかな。
 貴族依頼は断るから関わらないはず!



「主催のアロンド公爵はよくも悪くも公正だ。無理は通さんが見ての通りの親バカだ」
 
 デザート食べながら、中央眺めてたらギルマスが絶賛死んだ顔の娘を褒めちぎっている。
 親バカならおバカ王子の婚約破棄宣言は腑が煮え繰り返っただろうな。

 アロンド公爵の嫡男はあまり楽しくなさそうに別団体で集まってる。
 

「ちょっと~!なんでずっとご飯なのぉ?」
「私たちも話に混ぜなさいな」

 普段の冒険者ルックより露出度が少ないお姉さんたちが混ざって来た。

「もぅ!ギルマスまであっちほったらかしだから私たち下位貴族に勧誘されて面倒だっのよ」

 彼女たちは私とルカが王都で活動を始めた頃に何かと気遣ってくれた〈悪戯な猫〉のキャッティとメリンダだ。
 他のメンバーは酒を運んでる給仕に絡んで飲んでる。

 彼女たちは小柄な私たちを心配して良く食事に呼んでくれたり、近場の依頼に付き合ったりしてくれた。
 
「ずっと行き違いだったからやっと会えたわね」
 どうやらゴブリンの調査に向かった中にちょうど別件で現場近くの町に来ていた彼女たちもいて、調査報告に戻る途中にジュリーさんたちが暴走して奥地に進んでいくのを見つけたらしい。
 調査隊で相談の結果、〈悪戯な猫〉は報告優先で他の隊が現場に残っていたので、私たちはキャッティたちに会えなかった。
 そして入れ違いに報告の照らし合わせに現場にって、とことんすれ違い。

「やーん、リンクってば今日もイケメン~」
「リュカちゃんだって美人よ」
 んー。ルカと私に対して褒め言葉逆じゃない?複雑な気分になっても良いよね?

 キャッティは妖艶なお姉さん、メリンダは知性的なお姉さん、〈悪戯な猫〉は五人とも料理が苦手でいつもたまり場にしている食堂で奢ってもらっていたよ。
 彼女たちは優しくて明るいので人気者。
 おそらく三十前後だけど年齢は聞かないお約束だ。

「しっかし、強いなら戦えって暴論よね」
「戦えたとして戻って来れなかったら責任取ってくれるの?って思うわよ」
「あんなんに絡まれるなら拠点を別の国に移した方が良いわねぇ」
 移すのは賛成!!
「おいおい、貴重なAを誘導するな」
「良いじゃない」

 ギルマスもついでに出れば?みたいな話をしだす。
 まぁ、冒険者の命を軽んじてるのは何もジュリーさんだけじゃない。貴族って生き物は自分たち高貴な血筋の者以外は、使い捨てでいくらでも補充が効く獣くらい思っている連中もいるからね。
 爵位でだって同じ貴族でも価値が違うんだから、平民なんてそれ以下ってナチュラルに思ってる。

 他の国でも似たようなのはいるだろうけど。
 
 今回まずかったのは、王子の婚約者だったアロンド公爵令嬢があの考え方だったって知れちゃって、貴族の本音はそうなんだって、冒険者の心に疑念を生まれさせてしまった。
 高貴貴族はそんな考え方を普通にしてるってね。

 ぶっちゃけ、それでもいいのよ。仮に王族がそう思っていたとして、表に出さなければ。
 
 それで下々のことは人任せに、口先だけ正道を垂れ流しててくれればさ。

 彼女は下々の場所に降りて来ちゃって、口も手も出しちゃった。

 現実を知ってしまったから、この先に黙るかとことん正義とやらを押し付けてくるかもってなると、めんどくさいってなる。

「ただの愚者の方が周りは楽なんだがなぁ、ああ言うのがたまに救世主になったりもするんだぞ」

 へー、過ちを悔いて悟りを開くみたいな感じ?

「それに付き合うのは冒険者じゃなくていいじゃない?」
「日々の暮らしに必死な庶民は巻き込まれたくないのよぉ~」

 お姉様たちは弱者に優しいけど、貴族には辛口な方。

「自由と日銭の為に冒険者になったのよ」
「「同じく」」

 お前ら夢がないとギルマスは苦笑する。

「あら、ギルマスは勇者にでもなるって冒険者始めたの?」
「いんや、剣振り回し放題でネエちゃんにモテるって聞いたからだなぁ」
 
 うわぁ。バンドマンやお笑いの人みたいなこと言ってる。

 しょうもないことで盛り上がってるうちに、解散の時間になった。

 公爵的には冒険者と交流して、契約したり紐付きにしたりを狙ってたんだろうけど、野心家な中級冒険者は口説けても、アウルやジャックのような高ランクは当たり障りなく言質を取られないようにのらりくらり。

 なんとなくジュリーさんの視線は感じたけど、知らんぷりでギルマスとキャッティたちと会場を後にした。


「ねぇ!久しぶりに一緒にご飯しない~?」
「まだメシ入るのかよ!?」
 嬉しいお誘いとギルマスのツッコミに笑いながらも、
「ごめんね。一旦帰らないとまずいんだよ」
と断るしかない。

「あらぁ、用事があるなら仕方ないわ」
「うん、王都出る前に一回声かけるね」
「「絶対によ」」

 そんなわけで、お祖父様のもとに戻る。
 今度は夜会かぁ。

 兄さんと簡単に会えなくなるだろうから、思い出作りだと思うことにしよう。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

地味で目立たない次女ですが何故かキラキラしい人に懐かれて困ってます。

紫楼
ファンタジー
 家族の中で一人だけなんとなく居場所の無いシャロン。  幼いシャロンは本を読んで過ごし大人しくしていた。ある日祖父が手を差し伸べてくれて、それからは自由に気ままに過ごすことができるようになった。  自分が渡り人だと判明しても何だかよくわからない。バレたら自由が無くなるって言われて。  貴族と言っても次女だしめんどくさそうだから平民になろう。そう思ってたら何かキラキラした人が寄ってきた。 濃いめの人は家族で十分なのでお呼びじゃ無いです!  なんとなく見切り発車です。  まだ定まり切ってない感じなので流し見でお願いします。 小説家になろうさまにも投稿してます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...