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二章

538話

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 夕食までは少し時間がある。
 ので、アンゼリカさまとニーナにもドレスになってもらおうと思ったのに断固拒否だった。
 お仕事してた方がいいらしい。

 私は侯爵家に滞在するのに相応しいドレスに。格とかめんどいよね。

 今のところ役に立ってない通訳だけど、私もお仕事中ってことで地味めでいいじゃないの。

 着替えとメイクが済んでホッとしていたら、扉がノックされて、アンゼリカさまが確認するとラピス夫人がお話ししたいと。

 やっぱり我慢できなかったのかな?って思って入って頂いたら、スライディングのようにズサァー!!!っと私の方まで進んできた。
 才人で淑女のイメージが吹っ飛びますよ。

「ススススッノノノォノォ・・・!!!リリッリリリリ・・・ハァハァ」
 壊れたおもちゃみたいにカクカクしちゃってる。

 ニーナがスッと椅子をすすめて、水を差し出した。

「こ、こほん!!ありがとう」

 ニーナにお礼を言う姿はちゃんとした貴婦人に戻って、一安心。

「ごめんなさいね。素敵なお土産とスノウリリィーさまからのお手紙で我を忘れちゃって」
 
 ラピス夫人はお義母さまと同世代で憧れてたらしい。
 突然のお義父さまへの求婚して辺境伯領に嫁いだことには驚いたけど、学園の頃から美しさと思い切りの良さが、家の言いなりになりがちなご令嬢たちの心臓を鷲掴んで、求婚騒ぎで度肝を抜いて、伝説のお姉様なんだとか。
 なぜ人気者がたくさんいるグレーデンは野蛮だとかイメージが悪いままだったのか。
 
「それでね!このお化粧品やマッサージの時の美容液の使い方をうちの侍女にも伝授していただきたくって」
 モジモジしてる奥さん可愛いです。
「それでしたら連れてきている侍女たちが本日ラピス夫人に施術しながら説明をする感じでいかがでしょう?」
 今回は私とセリウスさまとアンゼリカさまの品質維持的なことでニーナとサラとメル以外の侍女さんも帯同してる。
「あらぁ?よろしいのですか?」
 ラピス夫人は私に手を取ってギュッと握る。

「ええ、せっかくですのでご堪能いただきたいです」
 近くオープン予定の旅館や温泉スパでのスペシャルエステに来ていただきたいので!!

「ああ~、王妃さまやご友人方が輝くお肌になって羨ましかったのですの!私もついに白磁の肌になれますわね!」
 王都ではお義母さまの親戚とグレーデンのつながりのある人にしか良いセットが配られてないからねぇ。
 市販品は商人買付けで広まってるみたいだけど。

「ごめんなさいねぇ、私の旦那さまってばモテるから他の人に目移りさせたくなくって」

 突然の惚気が始まった。

「親の決めた婚姻だけど、私の初恋でしたのよ」
 あららぁ、甘酸っぱい!

「旦那さまは真面目な方で浮気なんてって方ですが、婚約した頃から今まで夜会のたびに若い方がこう、腕を取ってお胸をねぇ?あからさまに狙われてるんですのよ」
 身振りであざとい女性の行動を教えてくれる。子供が成人する年になっても狙われちゃうのか。ハンター女性恐るべし!

「だから出来るだけ若さと体型は維持しませんとね。不自然な若作りは痛々しいでしょう?この美容品があれば、お肌のハリもツヤも!楽しみですわ」
 「不自然な若作り」にとっても念が籠ってる。実物を見てきたような感じだな。

「身分の高い既婚男性に勝手に触ってくるなんてすごい方もいらっしゃるんですね」
 ガルフ侯爵は確かに落ち着いた品のあるおじさまだけど、そんなにおモテになるのね。

「でしょう?若い時は第二夫人希望で今は火遊びか愛人と言ったところかしら」
 わーぉ。ジュリアスさまに第二夫人とか言われたら泣いちゃう。

「最近はハーボット派閥が倒れたおかげで、離縁した方や婚家の収益が著しく落ちた夫人なんかが羽振りの良い男性を既婚未婚問わず狙ってますのよ。お気をつけくださいね」
 ひえぇええ!
 セリウスさまやルルゥなんて餌食になっちゃう。

「うちの息子たちにも妾でもいいからとあからさまに書簡がきますよ」
 ええ~!さすがに既婚者に釣り書はなくても失礼さが大差ないよね。
「婿取りの令嬢にも相当な申し込みがあるようですし、行き先が無くなった方は必死でしょうね」
 なんてこった。こんな問題も出てくるのね。

「有名な方だとアニエス・ヘイト嬢のような感じかしら?あの方は浮気と金遣いの荒さで離縁になった方だからハーボットとは関係ないのですが、今はヘイト嬢のような方が夜会で獲物を狙ってるのを頭に入れておいてね」
 色魔みたいな令嬢の入場禁止してよ。もう!
 
 色気ムンムンでド派手で香水臭い人がいっぱいいる夜会って恐怖だよ。

「さすがにナギの王女さまたちのいる場で無様な姿は見せないでしょうけど、王女さまたちが退席なさった後は少し心配ですね」
 ええ~!国際問題になるからナンパ禁止だよ。

「王女さまたちと共に女性は退出とかにしないとですね」
 ユエさまはもちろん、高官が来てるから、有責な離婚歴があってハンターになってる人にはご馳走に見えちゃうかもだ。

「陛下も旦那さまもいい加減腹に据えかねてらっしゃるでしょうから対策は取ってくれると思います」
 そう信じたいけど、結構長いこと無法地帯で野放しですよ。アニエス・ヘイトみたいなの。

 ラピス夫人はガルフ侯爵のお手伝いがあると場を辞してくれた。

「はぁ」
 (アズライトーーー)
 なんか癒しが欲しくなった。

 声をかけて数秒。

『主、どうかしたのかの?』
 (心がささくれるから癒しが欲しー、ポムたちの声も聞けたら良いのにー)
『話すのは無理だが姿くらいなら見せれるよの』
 (え、そうなの?)
『我の見ている物を主に見せる感じじゃの』
 (見せてほしい!)

 お願いすると畑ではしゃいでるポムとティム、デェディエ、ジャスパーの姿が頭に浮かんだ。

 (ジャスパーもいるのね)
『番がジメジメしていてウザいから寝る時しかそばに居たくないんだそうじゃの』
 (ジュリアスさま?)
『寂しいらしく、肩を丸めておるの』
 そんなに?
 ちょっと照れちゃう。

 (みんなに会えないし寝る時寂しいから早く戻りたいけどまだ王都にも着いてないんだよ)
『帰りは転移陣で戻ってこれよう』
 (ナギの人たちの予定の日程で済めばね)
『ルドガーもスノウリリィーも寂しいようだから早まるのではないかの』
 うちの都合では変わらないのよねー。残念。

 ポムたちの姿を堪能していたら、ニーナが「そろそろ」って。

 いかん。ぼんやりしてる人になってた。

 (アズライト、ありがとう。呼ばれたからまたね)
『そうか。また声をかけるが良いの』






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