ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼

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二章

番外編 デイジーとしての始まり

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 案内された真新しい工場や豊かな畑は秘すべき魔道具や肥料が普通に置いてあって、外部の者に気楽に見せて良いのかしら?と思っていたら、こんなの見たって同じことはできないだろうし、別に真似されたとしても国が豊かになるから良いんじゃない?くらいの話をされた。

 グレーデン領の財力と人材の凄さを見て取れてまともな領主がここを見たら教えをこうだろうなと思うのに、令嬢たちは平民の仕事を見せられたとヒソヒソと文句を言うばかり。
 家門に余裕があって領地運営どころか日々の暮らしのための予算を考えたこともない令嬢たちは意味が分かってないみたい。羨ましいこと。
 
「クラウスさま~」
「あれぇ?およめしゃまいない?うわき?」
「お姫さまがいっぱい~?」
 
 工場の方から少し高めの声が響いて来た。
 小さな子供たちがワラワラと出て来て、クラウスさまや少しチャラい騎士さまに飛びついている。
 随分と気安く接するのだなと微笑ましく見ていたら、令嬢たちから悲鳴が聞こえる。

 子供達の中に獣人がいたからみたい。
 他にも小さな子にドレスを触られそうになって驚いて後ろに転びかけたところを騎士さまに支えられて事なきを得た令嬢も。
 その様子をセリウスさまがうっすら笑みを浮かべているのを「麗しいですわ」などと良いように受け止めている声が聞こえてくる。空気は読まない、人の感情にも疎いってある意味すごい才能ね。

「こちらは元は家畜の飼料だったのですがとても美味しい料理になるのであえて増産させました」

 それは貧しい領地に朗報なのでは!?

「何もそんなものを食べなくてもパンをお食べになればよろしいのでなくて?」
「あらぁ?グレーデン領は最近豊作なのでしょう?普通のお野菜で良くないですかぁ?」

 美味しくいただけるって言ってるのに?
 王都近隣では野菜はあまり進んで食べたいものでもないでしょう?

 私は学園ではほとんど家格と貧乏度の近い友人といたから高位令嬢がこんなに次元が違うことを知らずにいた。
 ステファニーさまはまだまだ優しいレベルだったのね。

「それでは我が家の食事はとても食べられそうにないですね」
 清々しいほどに笑顔でばっさり発言したクラウスさまの嫌味すら通じないのか、
「あら、お招きいただけるなら試してみても良いですわねぇ?皆さま?」
って、そうじゃないでしょ!?

 ガサっと聞こえて思わず身構えたら子供たちが、「ハンバーグ!!」って言って令嬢たちのいる隙間を子供たちのリーダーっぽい少年がナタを飛ばした。

「「「「キャァッ!!!」」」」

「お!やるなぁ!」
「一撃か!」

 騎士さまたちが少年を褒める。

「「なななな!なんですのぉ?」」
「貴族に武器を投げつけるなんて!!!」
「セリウスさま!!その子を罰してくださいませ」
「信じられませんわ!!」

 さすがに私も彼女たちの衝撃が分かるけれど、少し先に倒れているボアがもしこちらに突進して来ていたらびっくりでは済まない。

「なんだぁ?倒さないままの方が良かったってか?」
 村の人たちが呆れたように言う。

「騎士さまたちが倒してくだされば良いでしょう!?」

 それはそう。

「村の中では基本的に手を出す必要がないときは騎士は動かんよ。獲物の横取りになるからな!」
「獲物は狩ったヤツの物だからな」

 セリウスさまたちの連れている騎士さまたちは基本的に緩めみたい。
 子供達とワイワイ獲物を見聞してる。
 生きた授業をしてるのね。

「まぁ!客人がいるときは気を遣っていただきたいですわぁ」

 令嬢の一人がセリウスさまにくってかかってる。

「そもそも、私たちはご令嬢方を領地に招いた覚えがないのになぜ歓待を求められねばならないのでしょう?」

 目が笑ってない笑みでセリウスさまが令嬢を見下すかのようにしている。

 さすがに歓迎されている訳ではないと察し始めた令嬢たち。

 次の場所に移動すると告げられたとき半分が辞退して連れて来ていた護衛たちを急かして馬車に乗り込んだ。

 ステファニーさまは少し顔色を悪くしながらも残留を選んだ。

 ここが最後だと連れて行かれた先は騎士団の訓練場だった。

 王都の騎士団には付き合いで訓練を見に行ったことがあるけど、比べものにならないほどの広い敷地の野晒しの場所で体の大きい男性たちが撃ち合いをしている。
 足場には砂埃がたち、重さのある剣の撃ち合う音が響く。

 その訓練の様子も王都の煌びやかなイメージの騎士さまとはかけ離れて、いつでも死地に向かう覚悟を感じる本気のやり合いだ。
 王都の騎士団も決して遊びではないけれど、一般観覧ができる場所では魅せる剣舞のような動きなのだと思う。
 かっこいいとかそんな陳腐な言葉では表せない。

 こうした日々の積み重ねで国境や魔の森の脅威から国を守って下さってるのだと感謝の念を覚える。

「嫌だわ、むさ苦しいのね」

 ボソボソと言う声が届く。
 少し歳が上のポルド侯爵令嬢だ。

 ここまでやって来て辺境の方達の体格や実践向きの訓練を疎ましく感じる人がいるのね。

「セリウスさまは素敵だけど私はここでは暮らしていける気がしないわ」
 ステファニーさまはせっかくここまで来たのに無理だと言う。他の令嬢たちより冷静に過ごしていたけど、辺境で生きる人たちの暮らしと覚悟みたいなものを感じたら尻込みしちゃったのかしら?

 私は逆にここで暮らしたいと思う。結婚はどうでも良いけど、このグレーデンは私が私らしく生きていくのに良いと感じる。

 結局令嬢たちはみんな歓迎されていないこともここで暮らす覚悟は出来ないことも理解できたようで、帰りが不安だから騎士の護衛をなどと多少ゴネつつ帰路についた。

 これではまた辺境が野蛮だとか尾鰭がついて広がりそうだけど、お二人は気にもしなさそう。

 ステファニーさまが一旦ディゴーに戻って馬車のメンテナンスをしてから戻りましょうと言ったので商業ギルドに行って申し込みをしたら、翌日に面接をしてくれた。
 かなり精神的には緊張感が漂う時間だったけど、今回令嬢たちについて来た以上警戒されるのは当たり前だから必死に耐えた。

 なんとか採用が決まったので、親には今回知り合った令嬢の伝手で田舎町の商家での働き口が見つかったと嘘をついて除籍を求めた。
 基本的に私に興味がなく、田舎町の商家では嫁入りに期待できないし、逆に持参金の心配も無くなるからとあっさり籍を抜くことができた。
 弟は心配してくれたけど、手紙を書くこと、弟が家を出たければ、私に元の呼び寄せることも考えてるからと伝えて納得してもらった。


 辻馬車を乗り継いでスコット領を出て、途中グレーデン家からの迎えを寄越して貰えたので安全にディゴーにつけた。
 ちゃんと筋を通しての訪問であれば丁寧に迎えられるらしい。

 まずはフーゴの村で研修と聞いて、できればそのままフーゴに残るか、できるだけ田舎が良いことだけ伝えたら、
「良いとこのお嬢さんが変わってるなぁ」
って笑われた。さほど〈良いとこ〉でもないんですよー。

 晴れて平民になったので、私はこれからただのデイジー。

 フーゴに行く途中で幾度か小物の魔獣が出て来て、オヤツにするか?って聞かれたので有り難くご相伴にあずかった。






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