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二章

間話   陛下side

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 いつもお読みくださりありがとうございます。

 今回は陛下の自戒とハーボット、オレイユのアンハッピーな牢獄のお話なので明るいリーシャの毎日が見たい方は読み飛ばしても本筋に触りません?

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 グレーデン辺境伯家から労役囚に使っていたヘドロポーションが入手出来なくなった。
 かなり残念なお知らせが来たものだとため息が出る。

 私は定期的にこの薄汚れた枯れかけの鉱山に足を運ぶ。

 本来なら死刑にしても物足りないのを簡単に死なせるわけにはいかないと労役刑と鞭打刑になっている。終身刑なので恩赦の可能性もない。



 ハーボット、オレイユともにリーシャ嬢やカイダール卿、ナタリア夫人、そしてマーガレット夫人に苦しみを与えた。

 カイダール卿の失踪、ナタリア夫人の軟禁、オレイユ家の奴隷売買疑惑、ハーボット家の違法禁薬栽培、売買など臭いことこの上ない状況であったが先先代の王の悪政のせいでハーボット一族の力が大きくなりすぎていた。
 巧妙狡猾に証拠を残さず、怪しくも横の繋がりで揉み消され、小物を潰して行こうにもすぐに横槍が入り、長く手をこまねいていたがマーベルハント伯爵よりハーボット一族の薬物栽培の証拠や、リュフェリー侯爵家よりオレイユ家の奴隷売買の証拠が手に入った。
 これで奴らを一網打尽に出来る。

 調査の中で長く表舞台に姿を見せていなかったナタリア・オレイユ夫人の死を知った。   
 それ以前にもナタリア夫人に会えないことや手紙のやりとりすら出来ないと夫人の友人方から嘆願が来ていたが、イダルンダ・オレイユは「領地で静養している」の一点張りだった。

 彼女の死は身近な者にも知らされず、マーベルハント家ですら葬儀に参加させなかったと言う。悲しいかな、高位貴族や国の重鎮でも無い限り、人一人の死は貴族院に書簡一枚で済んでしまう。
 
 ナタリア夫人は数度会ったことしかないが、その母であるセラーナ夫人は王妃の教育や学園の魔術科に携わっていたので、私もよく叱られたり、教わったりしていた。
 二人とも人間性がよく、居心地の良い空気をまっとった素敵な人だっった。
 
 ナタリア夫人の子供については彼女の友人達も存在を知らなかっただろう。マーガレット夫人の子キミーが派手で自堕落と噂されていたがリーシャ嬢の存在は秘匿されていた。
 今思えば、容姿がセラーナ夫人に似過ぎてイダルンダが表に出したくなかったんだろう。
 奴隷売買を知った時、もしかしてリーシャ嬢はすでに売られたのか?と焦った。
 
 学園に一度忍んで見に行った時、リーシャ嬢ははっきり言ってしまえば悲しくなるほど痩せて目はうつろでゆっくりした動作で歩き時折止まってぼんやりしていた。

 その場ですぐ保護したかったが、無茶をすればハーボットもオレイユも捕え損ねる。
 それは許されないことだ。過去の被害者達のためにも、未来を薬物に奪わせないためにも。

 刻々と時間ばかりが過ぎていき、焦るばかりに日にアーロン・ポッドと言う青年が訪ねて来た。
 普通なら異国からただ一人でやって来た平民の謁見希望を部下達が私に確認に来たりはしなかっただろう。
 だが彼はカイダール・オレイユ卿の訃報と彼が赤斑病の特効薬を作ったと言う報告を携えて来た。これを無視する愚かな人間は流石にいなかった。

 それからは嘘のように事が進んだ。

 先にリーシャ嬢を王命による婚姻で避難させたのはネイマーシュ国公爵家の血筋に連なる事、我が国の魔道具の発展に尽力してくれたセラーナ夫人の孫である事、今回の調査にマーベルハント家が参加して成果を出した事、リーシャ嬢本人が新たな魔道具を作り出す才を持っている事、赤斑病他重大な流行病の薬を開発したカイダール卿の娘である事、あらゆる事情が重なり、犯罪を犯した家の家名を名乗らせるわけにはいかないし、そもそも彼女がイダルンダの一番の被害者だ。

 彼女の存在の重さ、その稀有な能力、どれを持っても他国に狙われることになると、我が国最高最強の戦力と防衛力誇るグレーデン家に託した。
 王家など権力があってないようなものだ。腐った貴族にいいようにされて来た我が王家ではとても守れそうにない。

 ジュリアス・グレーデン辺境伯もその家族も人情味のある気のいい家族だ。冷たい家庭で育った彼女にたくさんの愛を与えてくれるだろう。


 話が逸れてしまった。

 今、私は彼らから死角になっている所で元ハーボット侯爵と元オレイユ男爵を眺めている。
 無駄に装飾過多で王族よりキンキラしていた彼らは今は見窄らしい破れ汚れたシャツにズボン、そして裸足だ。

 足枷に鉄球をつけられ、重いツルハシを振るう。堅い岩盤に弾かれツルハシとともに仰向けに転がる。転がった地面は削った岩はそのまま転がされてるので鋭利なものも多い。
 あちこちに血が残っているのはこのためか。

 元々自堕落な生活をしていた二人はすぐには動けず回復しない。

「サボるな!さっさと立て!」
 見張り番が短鞭で叩き起こす。

 何も出てこない岩壁をひたすら掘りズタボロになったところで今日に作業は終了だそうだ。
 牢に戻され、堅いパン、薄いスープが晩餐らしい。

「良い暮らしだな?ハーボット」

 長く煮湯を飲まされたのだから少しは意趣返しをしてもいいだろう。

「は?小僧!ワシをこんな目に合わせて!!」

 ハーボットは重い鉄球に足を取られて転げた。

「こんな目?お前は多くの者を同じような目に合わせただろう?これがお前の好きな暮らしではないのか?」

「巫山戯るなァ!!」

 目をギラギラさせ、檻を掴んで暴れる。

「ふむ、まだまだ元気だな。おい、看守よ。仕事が足りないようだから明日から増やしてやれ」
「は!承知いたしました」

 まだまだ暴れる。元気なことだ。足場も痛かろうにな。

 イダルンダの方は静かだ。現実逃避だろうか?

「ところでイダルンダよ。そなたが蔑ろにした娘、姪か。彼女は赤斑病の特許もナタリアやセラーナの遺産も何も要らないそうだぞ。そなたが真っ当な父として接していたならば簡単に譲ってくれたのではないか?」

 それを隣で聞いたハーボットがイダルンダを殴りつける。

「貴様!!だからナタリアとリーシャは大事にしろと言っておいただろうがぁ!!!」

 二人の価値をハーボットは理解していたようだな。

「ウルサイ!俺を馬鹿にして相手をしなかったあの女が悪い!!」

 ナタリアは魔道具か何かでほぼ籠城のように過ごしていたようだ。イダルンダに指すら触れられるのも嫌だったのだろう。

 いい加減ここにいるのも嫌になった。

 食事も取らないようだと判断した看守が皿を下げれば、二人はさらに激昂する。

「黙れ!どうせこれを飲んだら吐くんだろうが!!」

 二人の前にヘドロが出された。

 離れた場にいても漂う危険な香り。

「「ぐぅ!!!」」

 これを飲まないと明日動けないし、動けなければ鞭打ち三倍の他に石抱きと言うあの凸凹の地面に正座をして重い石を抱かせるらしい。
 脛は尋常じゃない痛さを与えるのでより効果的だそうだ。

 諦めて飲む二人を眺めていると血色が悪かった顔色に赤みが差し、切り傷にまみれていた手足の傷が綺麗に消えていった。
 味はともかく下級より効果のあるポーションだ。妙な才能だな。

「「ウガァ!!マズイィ!!」」

「鼻に入って臭くてたまらん!」
「口の中にへばりついてとれん!!水をくれぇ!!」

 あのドロリとした物体は粘着性があるのか。

 体調は良くなっただろうに口から先ほど飲んだヘドロが逆流して喉を掻きむしるように苦しんでいる。新たな爪痕すらスゥっと消えていく。とても素晴らしいポーションだ。

 これがもう手に入らないとは、悲しい限りだ。
 在庫はまだあるようだが有限なのだ。
 吐くなんて勿体無い。
 

 正直彼らがやった罪はこんなものじゃ生優しいほどだ。
 まだ売られた先がわかっていない奴隷もいる。
 薬物に汚染されて再起不能の者もいる。自分で好んで使った奴らは自業自得だが手に入る環境を潰せなかった非はあるだろう。

 多くの貴族家を廃し、今の情勢はかなり危うい。国のために民のために尽くせる者を昇格させ、新たに爵位を与えてやっと先の見通しが出来たところ。

 生涯をかけて膿を出し切り再生に尽力するのが私の王としての役割だ。














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