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二章

162話 

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 朝起きれば予想通り、いつもの定位置。
 がっちり抱き込まれてるので、脇肉の感触をば。

 カーンカーンカンカンカン!!
《エマージェンシーー!!エマージェンシーー!!エマージェンシーーーーーーーーー!!!》
 カーンカンカカーン!!

 何!?火事!敵襲とか?
 戦争映画の警報音みたいなやつ!?

 最初の鐘の音で飛び起きたジュリアスさまが顔を引き攣らせてる。
 多分緊急事態なら飛び起きてすぐに外に行くタイプのはずのジュリアスさまが心なしか顔が青いよ。

「は!!」
 意識が浮上したようで私の顔を見て一息つくとギュッとハグしてくれる。

「リーシャ、これは緊急事態じゃなくて警報だから大丈夫だ」

 ん?
 警報は大丈夫じゃないのでは?

「とにかく着替えよう」
 ニーナを呼ぶ、着替えさせるようにって私をニーナに渡して自分も着替えると先に行くと出ていってしまった。

「何事なんでしょう?」
 ニーナもわからないんだ。
「緊急事態じゃなくて警報って言ってたけど意味がわからないの」
「まぁ?」

 ニーナに髪もいじってもらって部屋を出るとアランが待機してて、早速抱き上げられた。
「みなさま、前庭にお揃いなのでそちらに向かいます」
 アランも心なしか表情が硬い。

 玄関ホールから出て、前庭に出るとすでにお義父さまたち、ジュリアスさまたち三兄弟とサーキスさま、ルルゥたちコックさん勢、警備の騎士さんたちに戦える庭師さんたちが勢揃い。
 お偉いさんか誰か来るってことかな?

 私が出てきたにに気がついたジュリアスさまがアランから私を受け取って隣に立たせてくれる。

「すまなかったな」

 ジュリアスさまが私の頭をポンポンとしてくれた。

「こんなに朝早く来るなんて珍しいわぇ」
 お義母さまは平常で、お義父さまはちょっと苦笑い。

 そんな様子を見ていたら、上空から影が迫ってきてものすごい風と轟音が響いて、門前に砂埃が舞う。
 地震かって思うほど地面が揺れたのと強風で、ジュリアスさまが庇ってくれたけど結構踏ん張った。

 砂埃が少し落ち着いたら人影が見えて、
「ちょっと地面抉れたな~スマン。だが毎度あの音はなんだ?私たちは災害か何かなにかか?」
っと笑顔のお姉さま?が現れた。
 ちなみに地面抉ったのはワイバーンたちっぽいけど、色合いが他の子と違うっぽい?

「お前が毎回地面を抉るからだ」
 さっきの爆風でちょっと門塀が砂まみれ。
 倒れないのはさすがというところ?

「ジュリアス、式に来られなくて悪かったな!そちらが嫁か?聞いてたより普通か?小さすぎでもないな?大人しそうな令嬢だな?」
 お姉さまは私の横に控えていたニーナの肩をガシッと掴んでしげしげと観察していたんだけど。

「ん?なぜ侍女のお仕着せなんだ?イジメか?」
 
 なんていうかお義母さまとは種類が違う綺麗なお姉さまは、騎士服を凛々しく着こなしてて、マッチョすぎないけど逞しくて。姿勢とか仕草が男前なのでめっちゃかっこいい。
 少し後ろにいるお姉さまの部下っぽい人たちもそれぞれピシッとしてて、あの宝○の舞台観てるみたいだよう。

 ポカーンと眺めてたら、ニーナがお嫁さん認定されちゃった。

「いや、アンゼリカ、俺の嫁はこちらのリーシャだ。そちらはリーシャの侍女のニーナだ」

 うん、予想はついてたけどやっぱりアンゼリカさまだった。
「・・・」
 アンゼリカさまがしばし沈黙ののち私を上から下まで見て、首を傾げる。
 そして一気に目を吊り上げ、
「貴様ぁあ!!!女日照りが長すぎて児童虐待に走ったかぁ!!!!」
 いきなり抜剣してジュリアスさまに切り掛かった。
 あまりのことに固まっていた私をクラウスさまが後ろに引いて抱き上げ、サーキスさまとセリウスさまが剣を抜いて剣を受け止めて。ジュリアスさまはうんざりした顔で微動だにせず。

「お前たち!!許容しているというのか!!!」
 剣と剣がギリギリかち合ってる音が怖い。

「もー、王命だし、リーシャちゃん16歳だし~なんの問題があるのさー」

 クラウスさまがそう言うとアンゼリカさまが一瞬気を緩めたみたいでサーキスさまとセリウスさまがアンゼリカさまの剣を弾いた。
 あの二人相手でも推し負けないくらいだったアンゼリカさまってどんだけー!

 あと私について後ろの部下さんたちも信じられないって顔してるの地味に酷い!!

「16歳だと!?この可愛くて可憐な少女が成人だと言うのか!?」
 目が溢れんばかりに驚かれた。

「リーシャと言ったか?失礼したな。あの泣き虫が妙な性癖にでも目覚めたのかと思った」
 どうやら立ち直って私に騎士の礼をしてくれた。
 泣き虫ってジュリアスさまのこと?
 アンゼリカさまが落ち着いたのを見計らってか、部下さんたちが魔法で地ならしをした。剥がれた石畳は戻らないけど☆

「遠征が長引いててなかなか戻ってこられず、帰ってきて見たら領地がすっかり様変わりだ。びっくりすることばかりだ」

 アンゼリカさまはレオルカさまの姉だから、グレーデン家の血筋。羨ましいほど長身。
 髪は赤っていうかローズピンクで結ばずふわふわさせたまま。情熱的な彼女のイメージにぴったり。

「・・・そうか。王命でこんなヘタレに当てがわれるとは。陛下に一発入れてやるからな」
 あばば!不敬罪!!
 アンゼリカさまってばジュリアスさまに対して毒舌すぎ~!!

「ん!?辺境伯に嫁ぐのが命なら私が辺境伯になってれば良かったな。勿体無いことをした」
 いやいやいや?性別忘れてますやん?
 強烈すぎてみんなが微妙な顔になってたのを理解した。

「まぁ今更だな、それ結婚の祝いだ。遅くなってすまなかった」

 そういうとマジックバッグに手を入れてズドーンとおおきな魔獣を取り出した。

「ほお~良く捕まえたのお」

 スプリングホッパーシープというめっちゃすばしっこくて捕まえにくい羊らしい。お肉も美味しくて毛並みが素晴らしい。
 結構大きいのに素早いんだ。毛がふわふわして銀色に煌めいてる。

 他にもグレーデンではあんまり見かけない魔獣を狩ってきたそうだ。

 みんなで獲物を眺めてるとまた空が騒がしくなって、ワイバーンが飛んできた。

「もーしわけありませーーーーん!!!」
「すーーーまーーーなーーーーいーーっ!!」
 ワイバーンを降下させ降りてくるなり、スライディングで腰を折る男性二人。

「あー、兄上、別に謝る必要はない」
「だがこんな朝早く非常識な訪問で」

 ダレスさまとレオルカさまが着の身着のままといった様子で。

「はぁ?せっかく帰ってきた久しぶりの娘になんて言い草なのよ」

 アンゼリカさまが不機嫌になっちゃった。

「まともな精神ならまず騎士団本部に戻って報告を済ませてから先触れを出して訪問するのだ」

 ダレスさま苦労してそう。

「まぁ良い良い。アンゼリカ、長い遠征良くやってくれた」
 お義父さまがアンゼリカさま背中を叩いて労う。

「ほら叔父上は歓迎してくれてる」
「ルドガー!!アンゼリカ、ならばせめて地面を抉るんじゃない」
「壁みたいに強化したら良いじゃない」

 さっきまでかっこいいお姉様だったのに父親の前では駄々っ子モードになってる。
 ・・・なんだかんだで羨ましいかも。まああのクソ親父とは死んでも嫌だけど、カイダール父さまが生きてたらこんな風に言い合えたかな?

「まぁまぁ!お義兄さま、せっかくなのだからみんなで食事をしましょう~」

 お義母さまがそうお声をかけたから待機してたコックさんたちは慌てて厨房に戻った。

「マデリーちゃん・・・」
 おや?
「お久しぶりですね」
 マデリーちゃんと呼ばれたアンゼリカさまの部下さんは、なんていうかちょっとサーキスさまを三倍くらいクールにした感じのお姉様だった。
 空気感がヤバい。蛇に睨まれた蛙みたいな気持ちになる。
 マデリーさまと向き合ったレオルカさまは冷や汗をダラダラかいてる。
 こんな調子で本当に結婚するんだろうか?
「相変わらずへタレですね」
 おおお、アンゼリカさまと同じく男性に厳し~。

 なぜか朝から砂埃で汚れちゃったので、久しぶりに〈洗浄〉魔法を使ったよ。






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