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二章
104話 ジュリアスside
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王宮を辞した後、馬車の中でリーシャは寝てしまった。
起こさないように膝に抱き上げたら俺の胸の中で上着をしっかり握りしめて丸まってしまった。
陛下は泊まっていけと仰ったが見知らぬ者ばかりの王宮よりは数日でも付き合いのある従者たちがいるタウンハウスの方が落ちくけるだろう。
「はぁ、思ったより大事だったわねぇ」
母上の言うように今日は気疲れする1日だった。
リーシャの生い立ち、能力などは陛下より先に知らされていたとは言え、リーシャの父親の事はほぼ知らなかった。
正直、外に出ることがほぼ無く、人と関わってこなかったリーシャをいきなり夜会に参加させる事もそこで親族を糾弾するのも反対だった。
ただハーボット家、オレイユ家を完全に潰してしまいたいと言われれば今日が最適だったのだろう。
ハーボットは歴史の古い家で閨閥が大きい。リーシャを利用させない為には徹底的に潰す必要がある。
リーシャはただ王国貴族達に存在を示し、陛下とグレーデン家が庇護下に置いていると知らしめられれば良いとの事で成り行きを見守れば良いはずだった。
思いの外はっきり意思表示し、ハーボット、オレイユをバッサリ切り捨て、力を持つ者としての矜持を貴族達に見せつけた。
初めてグレーデンに来た時の彼女からは想像できない心根の強さを知った。
俺はまだまだ彼女の事を知らないのだな。
「リーシャちゃんがこんなに可愛らしいのにしっかりしてるなんて嬉しい誤算ねぇ」
見た目だけで言えば可愛い子供で、辺境伯夫人としての立場に縛られることのないように守ろうと家族で決めていたし、うちには優秀な家令、執事がいて、母上はまだまだパワフルに活躍中なので全く心配は無く、研究でも料理でも自由にしてくれたら良いと思っていたが、いずれ自分から仕事をもぎ取っていくのではないか?
「ワシはナタリア夫人を知らんがセラーナ夫人は今日のリーシャにちょっと似ておる気がしたのぅ」
「そうねぇ。私も少ししか知らないけど、セラーナさまはハキハキとして曲がったことはお嫌いだったわねぇ」
彼女の中に眠っていた気質が表に出て来たか。あの親族に縋る隙を与えなかったのは見事だった。
カイダール・オレイユ男爵はその人柄と薬学での貢献でいまだに人の口に上る人気のある人だったが今回の発表で神格化でもされるのではないだろうか。
ナタリア夫人が何故外部に助けを求めなかったのかは俺には解らないが、オレイユに残ったのは夫の情報を得られなくなる事を恐れたこと、リーシャの親権あたりか。
ハーボットの勢力を考えると大人しく夫を待つ方が実家に迷惑を掛けないと判断したのかもしれない。
陛下はリーシャが成人する日を狙って外に出した。未成年だとどうしても親権が邪魔をするし、下手に手を出せばリーシャを隠してしまう恐れもあった。
何年前から動いていたのかは聞いていないが、確実に動く為に証拠を固めたのが王命をイダルンダ・オレイユ男爵に下したあたりなのだろう。
きっとカイダール卿の事をずっと調べていたのだろう。
オレイユ男爵位はカイダールが婚姻時にハーボット侯爵が譲ったはずだがそれも失踪時にイダルンダに書き換えられていた。
近いうちに汚職での捕縛者が大量に出るだろう。
本来なら俺たちが前面に出てリーシャを守るところだったがリーシャが全て自分で切り抜けてしまった。
俺たちは随分リーシャを見くびっていた。
ずっと一人であのオレイユ家で耐えて来た彼女がそんなに弱いはずが無かった。
俺は戦場や狩場では強いと自負しているが対人ではやはりまだまだだったな。
「ジュリアス、抱っこ私とかわってくれないかしら~可愛いわぁ」
「いやワシに変わってくれ」
「嫌です。それに起こしちゃったらどうするんだ」
不服そうだがリーシャが起きると言えば諦める。
屋敷について早々に部屋に戻って着替えさせようとニーナを呼んだんだがリーシャは全く起きる気配がなく俺の服も離してくれない。
流石に礼装で寝るのは勘弁してほしかったので手伝ってもらいながら上着を脱ぎ、リーシャの衣装を脱がして一瞬だけ離してもらって抱き変えて、諦めて二人とも下着だけでベッドに入った。
少しばかり腹が減っていたので軽食を運んでもらい、ベッドで食べた。
リーシャは匂いを嗅いで唸っていたが起きなかった。
ニーナがリーシャの化粧を落としたり髪を手入れしたりしてくれたので最後に《洗浄》の魔法だけかけて寝た。
夜中にむにゅむにゅ寝言を言っていたが明確な言葉はなかった。
ただずっと胸元にがっしり抱きついてくる奥さんを相手に悪戯もできず。
深夜にちょっと蹴りが飛んできたけど、いつもよりしっかり寝た。
起こさないように膝に抱き上げたら俺の胸の中で上着をしっかり握りしめて丸まってしまった。
陛下は泊まっていけと仰ったが見知らぬ者ばかりの王宮よりは数日でも付き合いのある従者たちがいるタウンハウスの方が落ちくけるだろう。
「はぁ、思ったより大事だったわねぇ」
母上の言うように今日は気疲れする1日だった。
リーシャの生い立ち、能力などは陛下より先に知らされていたとは言え、リーシャの父親の事はほぼ知らなかった。
正直、外に出ることがほぼ無く、人と関わってこなかったリーシャをいきなり夜会に参加させる事もそこで親族を糾弾するのも反対だった。
ただハーボット家、オレイユ家を完全に潰してしまいたいと言われれば今日が最適だったのだろう。
ハーボットは歴史の古い家で閨閥が大きい。リーシャを利用させない為には徹底的に潰す必要がある。
リーシャはただ王国貴族達に存在を示し、陛下とグレーデン家が庇護下に置いていると知らしめられれば良いとの事で成り行きを見守れば良いはずだった。
思いの外はっきり意思表示し、ハーボット、オレイユをバッサリ切り捨て、力を持つ者としての矜持を貴族達に見せつけた。
初めてグレーデンに来た時の彼女からは想像できない心根の強さを知った。
俺はまだまだ彼女の事を知らないのだな。
「リーシャちゃんがこんなに可愛らしいのにしっかりしてるなんて嬉しい誤算ねぇ」
見た目だけで言えば可愛い子供で、辺境伯夫人としての立場に縛られることのないように守ろうと家族で決めていたし、うちには優秀な家令、執事がいて、母上はまだまだパワフルに活躍中なので全く心配は無く、研究でも料理でも自由にしてくれたら良いと思っていたが、いずれ自分から仕事をもぎ取っていくのではないか?
「ワシはナタリア夫人を知らんがセラーナ夫人は今日のリーシャにちょっと似ておる気がしたのぅ」
「そうねぇ。私も少ししか知らないけど、セラーナさまはハキハキとして曲がったことはお嫌いだったわねぇ」
彼女の中に眠っていた気質が表に出て来たか。あの親族に縋る隙を与えなかったのは見事だった。
カイダール・オレイユ男爵はその人柄と薬学での貢献でいまだに人の口に上る人気のある人だったが今回の発表で神格化でもされるのではないだろうか。
ナタリア夫人が何故外部に助けを求めなかったのかは俺には解らないが、オレイユに残ったのは夫の情報を得られなくなる事を恐れたこと、リーシャの親権あたりか。
ハーボットの勢力を考えると大人しく夫を待つ方が実家に迷惑を掛けないと判断したのかもしれない。
陛下はリーシャが成人する日を狙って外に出した。未成年だとどうしても親権が邪魔をするし、下手に手を出せばリーシャを隠してしまう恐れもあった。
何年前から動いていたのかは聞いていないが、確実に動く為に証拠を固めたのが王命をイダルンダ・オレイユ男爵に下したあたりなのだろう。
きっとカイダール卿の事をずっと調べていたのだろう。
オレイユ男爵位はカイダールが婚姻時にハーボット侯爵が譲ったはずだがそれも失踪時にイダルンダに書き換えられていた。
近いうちに汚職での捕縛者が大量に出るだろう。
本来なら俺たちが前面に出てリーシャを守るところだったがリーシャが全て自分で切り抜けてしまった。
俺たちは随分リーシャを見くびっていた。
ずっと一人であのオレイユ家で耐えて来た彼女がそんなに弱いはずが無かった。
俺は戦場や狩場では強いと自負しているが対人ではやはりまだまだだったな。
「ジュリアス、抱っこ私とかわってくれないかしら~可愛いわぁ」
「いやワシに変わってくれ」
「嫌です。それに起こしちゃったらどうするんだ」
不服そうだがリーシャが起きると言えば諦める。
屋敷について早々に部屋に戻って着替えさせようとニーナを呼んだんだがリーシャは全く起きる気配がなく俺の服も離してくれない。
流石に礼装で寝るのは勘弁してほしかったので手伝ってもらいながら上着を脱ぎ、リーシャの衣装を脱がして一瞬だけ離してもらって抱き変えて、諦めて二人とも下着だけでベッドに入った。
少しばかり腹が減っていたので軽食を運んでもらい、ベッドで食べた。
リーシャは匂いを嗅いで唸っていたが起きなかった。
ニーナがリーシャの化粧を落としたり髪を手入れしたりしてくれたので最後に《洗浄》の魔法だけかけて寝た。
夜中にむにゅむにゅ寝言を言っていたが明確な言葉はなかった。
ただずっと胸元にがっしり抱きついてくる奥さんを相手に悪戯もできず。
深夜にちょっと蹴りが飛んできたけど、いつもよりしっかり寝た。
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