ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼

文字の大きさ
上 下
105 / 764
二章

102話 父の事情と真実。

しおりを挟む
 私の言葉で場がシンっとなる。

「そんな目で私を見るなァ!!ナタリアもあのババァも俺を見下しおって!!」
 
 ハゲ親父が目を剥き出し唾を飛ばし騒ぎ始めた。トラウマスイッチに触れちゃったかな?

「ナタリアには俺が最初に目をつけたのだ!!!それをカイダールなんぞに!!!」

 何それ。キモ。

「挙句路頭に迷うところを妻にしてやったと言うのに俺を拒絶しおって!」

 実家と不仲じゃなかったみたいだから路頭には迷わなくない?

「いい加減に黙れ」

 陛下がそう言うと護衛が親父を押さえつける。

「リーシャ嬢、これに触れてみてくれ」

 陛下に渡されたのはバンクル型の魔道具。封印?じゃなくて鍵かな。掛かっていて魔法陣を掘り込んだ魔石の上に隠蔽みたいな感じで書き込んである。

 解呪の術式を魔力で書き込むとバンクルが淡く光って映像が浮かび上がった。

『これが君のところに届くことを願って・・・。ナタリア、君の元に帰れなくてごめん。子は無事に産まれたのだろうか?君はどう暮らしている?・・・僕は先日急に自分のことを思い出して状況を整理してみたらレイドラアースを出発して11年経っていた。・・・国を出る時に馬車に細工が見つかったり馬具に遅効性の毒が塗ってあったりで、色々問題を排除して出たつもりだったが。まさか護衛が誘導香を持っていて途中でそれを使われるとまでは予想できなかった」

 誘動香は魔物を引き寄せる所持使用禁止されている物。
 映像の中の男の人は黒髪でカッコいいんだけどちょっと可愛い感じの人。ハーボットの人たちに全然似てないな。
 ちょっと顔色が悪い。

「じきにアルモンドに入ると言うところで魔獣の襲撃に遭い馬車ごと川に落下した。・・・大怪我を負い川辺で意識を無くして倒れていたところを近くの村の住人達に救われたそうだ。僕の他には人はいなかったと聞いた。僕は記憶をなくして、怪我が治った後に看護してくれていた女性アルマの元で夫として彼女の息子アーレンと家族として暮らしている。・・・君には何て伝えたらいいんだろう。過去の記憶がない中で、何のしがらみもない日々の暮らしを維持するのに精一杯の暮らしだけど平穏で温かい・・・君がいないのに僕は幸せだった。君を思い出した今は身を引き裂かれそうな思いなのにここでの暮らしが手放し難い・・・きっと心配も苦労もかけているだろうに酷い男だ・・・。産まれた子は男の子か女の子かどちらだろう?どちらでもきっと可愛い。成長を見られない・・・見られなかったのが辛い・・・ナタリア、君に会いたい。でももう僕には時間がない。赤斑病の薬を作れたと言うのに僕自身にはもう効かない。君に謝る事もできず君に逢えないままで申し訳ない。君には必要はないだろうけど、僕個人の財は父と兄に好きにされてる事だろう。残せる物はこの研究成果のみだ。君なら・・・マーベルハント家ならば、レイドラアースのため民のために有効に使ってくれるだろう。寄るべのない僕を受け入れてくれたアルモンド国と協力してこの病を根絶させてくれる事を望む。大変な事を頼んでしまうがこれが僕たちの願った夢の結晶だと思ってる。ナタリア、ごめん。・・・僕の子がいつかアーレンと出会って兄弟・・・妹かな?として縁が繋がると良いな・・・」

 何か父も凄い人だった。

「・・・ナタリア、アルマとアーレンが僕の体が事故で少し不自由だったところを補助してくれて研究を手伝ってくれた。常に心を砕いて側にいて尽くしてくれた。記憶が無くて一人ぼっちだった僕を受け入れてくれて、記憶が戻った今、本当の家族に縁が無くて君がいない僕にとって二人はかけがえの無い家族だ。僕を許さなくて良い・・・でも二人のことは少しでも気にかけて・・・いや、ごめん。・・・ナタリア、僕は君を幸せにしてあげられなかった。どうか子供と君が幸せである事を願ってるよ』

 最後の方は声が聴き取りにくくなりがちだったけどちゃんと私の事を思っててくれた・・・って知れた。

 アーレンさんは内容は知らなかっただろうから最後の言葉に驚いたみたいで涙が溢れちゃってる。

「リーシャさん、ごめんなさい。もっと早くに報せられなくて・・・」

 アーレンさんが膝をついて謝る。でも平民である以前に遠くの国から私を探して訪ねるのは大変だったと思うし、責任もないよ。
 それに今より早く知らせられてもオレイユ家にいた時だったら私の元に届けられなくて握り潰されてたと思う。
 導かれたタイミングなんだよ。きっと。

「お兄さんって呼んで良いですか?」

 アーレンさんの肩に手を添えて来てみたら彼は顔をぐしゃぐしゃにさせて泣いてしまった。

「ありがとう・・・ありがとう・・・」

 父が帰ってこられなかったのは悲しい事でお母さまにとったら残酷な現実だけど、彼とアルマさんのおかげで記憶を失った父が幸せを得ていたのならそれでよかったんだと思う。
 
 場内に啜り泣きが響いて、ハーボットの爺さんは何か放心してるしハゲはブツブツ言ってて怖い。

「・・・赤斑病の特効薬は権利を持っていれば途方もない財を手に入れることができるだろうな。カイダールはあらゆる薬学を学びナタリアと共同で不治の病を研究していた。普通に二人がともに暮らしていたならば素晴らしい成果をあげていたことは想像に固くない。カイダールの命を軽んじ、ナタリアの自由を奪い、その娘リーシャの成長を阻害した。リーシャが受けるべき教育を受けていたならもっと早くに頭角を露わにしていただろう。ハーボット、オレイユ、其方たちが我が国に与えた損害は計り知れない。沙汰があるまで牢にいろ。親族も取調べを受けるまで謹慎を命ずる」

 キミーが訳がわからないような顔をしているけど、義母マーガレットは達観しているような、何て言うのか役目を終えたみたいな?不思議な感じで。

「マーガレット、其方は家族を盾に望まね結婚をしたと報告があった。イダルンダとの婚姻の記録が改竄され消されていたのに別れる事も許されず、妾とされたまま今日まで暮らしていた。望むなら離縁を認めよう」

 ・・・確かにお母さまに敵意を向けたり嫌な顔をしていたことはなかったように思う。
 この人がお母さまと私に敵意があったなら、もっと暮らしにくかっただろうし、お母さまの死後にニーナが私のそばに残ることは難しかったかも知れない。

「私はリーシャさまがどんな扱いか知っていても放置していました。イダルンダと同罪でございます」

 静かに言うのをキミーが信じられないと言う表情で見ている。

「そうか」

 陛下が合図をしてハーボット家とオレイユ家は全員退場した。

 またシンと静寂に。陛下の次の言葉を待って壇上を見つめる。





_____

シリアスが続いてすみません。
もう2話くらいお付き合いください。

通り過ぎたら通常の食い意地リーシャ復活するはず。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

聖女転生? だが断る

日村透
恋愛
生まれ変わったら、勝ち逃げ確定の悪役聖女になっていた―――  形ばかりと思っていた聖女召喚の儀式で、本当に異世界の少女が訪れてしまった。 それがきっかけで聖女セレスティーヌは思い出す。 この世界はどうも、前世の母親が書いた恋愛小説の世界ではないか。 しかも自分は、本物の聖女をいじめて陥れる悪役聖女に転生してしまったらしい。 若くして生涯を終えるものの、断罪されることなく悠々自適に暮らし、苦しみのない最期を迎えるのだが…… 本当にそうだろうか?  「怪しいですわね。話がうますぎですわ」 何やらあの召喚聖女も怪しい臭いがプンプンする。 セレスティーヌは逃亡を決意した。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...