3 / 4
3
しおりを挟む陛下と王妃さま、王子さま、王女さまと、高位貴族の皆さまを初めて拝見出来て、殿上人とはお美しい方が多いのねぇとびっくりしたの。
空気まで違うのねって呟いたら、ジョシュアさまが、
「高級な香水や化粧品をおつかいになられてるからね。空気じゃなくて匂いじゃないかな」
って教えてくれた。
高級な香り!
「母上がお使いになってるものも良い香りだけれど、君はまだお化粧に頼らなくてもいいよ」
大人にならないと使えないのね!
「いつかこんな素敵な香りが似合う人になりたいわ」
「君は今も可愛くて素敵だよ」
ジョシュアさまったら恥ずかしいわ。
王族や公爵さまたちのダンスが始まって、次々とダンスの輪が広がっていく。
大勢の大人たちのダンスを初めて見たから、その美しさと迫力に圧倒されちゃって、その輪に入るの何怖くなって足がすくんじゃう。
「マーガレット、大丈夫だよ。僕に合わせて、ね?」
ジョシュアさまが私と同じ歳って嘘じゃないかしら?
私はジョシュアさまに手を引かれるまま、全部に委ねることにした。
「足を踏んでもいいからね」
「踏みません!」
ダンスはあまり得意じゃなかったけれど、ジョシュアさまのリードのおかげで安心して踊れる。
私とジョシュアさまのファーストダンスは、彼の優しさと懐の深さを改めて感じて生涯の中で一番大切な思い出になった。
次はお父様とお兄様、ジョシュアさまのお父様と踊って。
疲れたでしょってジョシュアさまとドリンクをいただいて。
「・・・ジョシュアさま、お花摘みに行きたいの」
お伝えするのは恥ずかしいけれど、勝手に行ってしまうわけにもいかない。
「そう?僕も行きたいから化粧室まで一緒に行こうか」
スマートだわ。人生二回目じゃなかしら?
私の将来の旦那さまは、本当に素敵。嬉しくて、繋いでくれている手をギュッとしてしまう。
侍従や侍女が行きかう中、化粧室より奥の方がなぜか気になってしまう。
「どうかしたの?」
「えっと・・・あちらで何か音がした気がして」
微かにだけど、物が倒れるような、聞いたことがない感じの音がしたの。
「・・・そう?」
「ちょっとそこの騎士殿」
ジョシュアさまが近くに待機していた衛兵さんに声をかけた。
「あちらは確か夜会中は使われない部屋ですよね?誰か通りましか?」
「はい。少し休憩を取りたいとおっしゃる方がおられて」
「それは男性かな?」
「はい、コランド侯爵のご子息とアロー男爵のご子息です」
あら、男の方同士で喧嘩でもなさってるのかしら?
「すまないがちょっと確認したほうがいいと思う」
ジョシュアさまが物憂げな顔をして、
「は・・・」
衛兵さんがなぜか顔色を青くして走り出す。
「ジョシュアさま?」
「気のせいだといいんだけどね」
ジョシュアさまが奥に行きたい私を止めようとしたけど、「女性がいた方がいいかな・・・」って一緒に連れて行ってくれた。
「何をなさっていますか!!!?」
さっきの衛士さんが大声をあげて笛を吹く。
近くにいた侍従さんと他の衛士さんが集まってくる前に中を確認したジョシュアさまが、
「マーガレット、女性を隠してあげて」
と声をかけて、衛士さんと一緒に男の人を素早く縛り上げた。
椅子が倒れて花瓶が割れている中に、ドレスを裂かれ、頬を叩かれたらしい令嬢が泣いている。私はあまりのことにびっくりして一瞬足がすくんでしまったけれど、令嬢の方がよほど怖い思いをしている。
「まぁまぁまぁ・・・」
混乱して何か声をかけたいのに、言葉が出てこなかった。
とにかく令嬢を隠したい。周りと見たら大した物がなくて、テーブルクロスを剥がすしかなかった。
「ごめんなさい。これで許してね」
彼女にテーブルクロスをかけて顔を隠して、背をさすることが精一杯。
ジョシュアさまのようにスマートにはできないわ。
「うっ・・・ありがとう存じます・・・」
なんとか隠せてホッとした中、他の方達が雪崩れ込んできた。
ジョシュアさまと衛士さんが状況を説明して犯行を犯した男たちを連れて出てもらえてホッとした。
彼らは自分たちの家名を叫んで責任逃れをしようとしていたけれど、現行犯なので連行は当たり前だと思うの。
「お嬢様方、とにかく場所を変えましょう」
令嬢を騎士さまが抱えて、人気のない廊下を使って、私たちも事情聴取のためにと客室へと向かうことになった。
私は女性が殴られた場面を初めて見たし、衣装がを裂かれてなんてことも初めてで、恐ろしくてジョシュアさまの手をずっと握っていた。
事情はほとんどジョシュアさまが説明してくださった。
「しかし、衛士は物音などまったく気が付かなかったと言っている。君は耳が特別にいいのか?」
「いいえ、そんな事はないと思うのですが、なぜかあの時は重い物が倒れるような音がしたのです」
でも、倒れてたのは椅子と花瓶くらい。一体何の音だったのかしら?
「そうか。何はともかく一人の女性が寸前で助かった事は確かだ。お手柄だよ」
騎士さま何そう言ってくださったけれど、頬を叩かれてドレスを乱された彼女にとっては十分醜聞になり得る。
「箝口令が出されているし、幸い他の貴族には見られていない」
王宮勤めの者は、ほとんどが貴族だけれど職務中の出来事は、守秘義務があると教えていただいた方
でも人の口は止められない。彼女はきっとお辛い思いをされるでしょう。
「そんな顔をしないで、君が気付かなければ彼女はきっともっと大変だったよ」
ジョシュアさまが肩を抱いて慰めてくれる。
「君、彼の言うとおりだよ。純潔を失っていたら婚約も破棄になっていただろうし、修道院に行くか、最悪命を断つようなことがあったかもしれない」
騎士さまの言葉で、私はあの場面がそう言った場面だったのだと初めて気がついた。ただの暴力じゃなくて、尊厳が損なわれる状況だと思い至って震えた。
なんて酷いこと。
「彼女は大丈夫ですか?」
「今はショックを受けているが、婚約者殿が付いている」
そう聞いてホッとした。
あの令息たちは、彼女に好意を寄せていたけれど婚約者がいるから、既成事実を作って、破談にさせて自分が娶るつもりだったのだとか。
よくわからないけれど、そんな事されて受け入れたりしないと思うの。
「でも二人の男性と結婚は出来ませんわ?」
「「っぅ!」」
私がそう聞くと騎士さまもジョシュアさまも一瞬吹いた。
「いや・・・ああ言った卑怯者は一人では行動できないんだよ」
「まぁ・・・」
181
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
モブです。静止画の隅っこの1人なので傍観でいいよね?
紫楼
ファンタジー
5歳の時、自分が乙女ゲームの世界に転生してることに気がついた。
やり込んだゲームじゃ無いっぽいから最初は焦った。
悪役令嬢とかヒロインなんてめんどくさいから嫌〜!
でも名前が記憶にないキャラだからきっとお取り巻きとかちょい役なはず。
成長して学園に通うようになってヒロインと悪役令嬢と王子様たち逆ハーレム要員を発見!
絶対お近づきになりたくない。
気がついたんだけど、私名前すら出てなかった背景に描かれていたモブ中のモブじゃん。
普通に何もしなければモブ人生満喫出来そう〜。
ブラコンとシスコンの二人の物語。
偏った価値観の世界です。
戦闘シーン、流血描写、死の場面も出ます。
主筋は冒険者のお話では無いので戦闘シーンはあっさり、流し気味です。
ふんわり設定、見切り発車です。
カクヨム様にも掲載しています。
24話まで少し改稿、誤字修正しました。
大筋は変わってませんので読み返されなくとも大丈夫なはず。
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる