長屋で暮らす俺の周りは面倒な奴らばかり(仮)

紫楼

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 芙蓉は座敷と支度部屋を与えられている。さすが一番手と言ったところだ。
 家具や火鉢、煙草盆に至るまで粹が良い。焚いている香も嫌味の無い優しいものだ。
 隅々まで人柄が現れている。

 今までに得た旦那集が趣味人であったように伺える。こんな女に暴力を振るうなんてクソがいるもんだ。いやこう言う女だから狙うのか?本来良い客の方が少ないのかもな。

 しかし昼間だって言うのに薄暗くしてあるんだな。
「竜さん」
 芙蓉がそっと褥に誘ってくる。

 自分から女に手を出すのはいつぶりだったか?俺は女に主導権を握られるのは好かん。
「芙蓉、今日は俺に任せろ」
 まぁ芙蓉の方が上手いのだろうが。

「竜さんは変わってるねぇ」
 首筋を指で撫でて腰帯を引き、襦袢を肌蹴る。
「情人って言うならお互いが気持ち良くねぇとな?」
「まぁ」
 そう言って俺の帯に手をかけ、脱がしていく指先は少し震えている。随分いじらしい様子に心が痛む。

 少しの情とアザの意味を知りたい程度で手を出して良いものか?
 今までもいろんな女と関わった。望まない相手でも仕方ない時もあった。
 大概は自分勝手に迫って自分で腰を振って思いを遂げたらそれで良いような女だ。しつこい女もいたがどうせ根無草のような暮らしだと彼方此方と移動して暮らした。
 
 一途に当たってきた女には迂闊に手を出したことはないが。
 たまにはまぁ絆される時もある。だが結局は人は変わるもんだ。俺はまた別の町に行ったわけで。
 やっと腰を落ち着けそうなこの町に着いてからは面倒ごとはごめんだと全部断ってきた。また移動する羽目になるかもなぁ。

「芙蓉、お前さんは本当の名前は何だ?言いたくなきゃ言わなくて良い」
 源氏名を持つ女に本名を聞くなんざぁ野暮だ。だが何となく聞きたくなった。

「・・・竜さんは本当に・・・私の名前は多江、もうずっと誰にも呼ばれることがなかったねぇ」
 口づけを交わしながら答えてくれる。寂しそうな懐かしそうなそんな顔をして。
「そうか。多江・・・多江は可愛いな」
「なんだい。竜さんもそんな陳腐な事言ってくれるんだねぇ」
 クスクス笑われたからちょっと恥ずかしくて乳首を食んでやる。
 俺の着物を全部脱がせて胸元をそっと撫でてくる指はまだ震えている。

 少し触れてやっている程度なのにすでに体は真っ赤に色づいてしっとりと俺の肌に馴染んでいる。
 体臭なのか甘い香りまでしてくる。こんな良い女なら都の良い店でも十分やっていけるだろうに。
 こんな町でしょうもない旦那に買われるのか。縁か運か知らんが巡り合わせが悪いな。
 
 しかも俺のような男に惚れて本当に可哀想だ。

「あ・・・んん、竜さん・・・」
 こんなこと慣れてるはずなのに顔を真っ赤に涙まで湛えて、気を遣るまいと必死に耐えている。普通ならこれも手管だと一笑に伏すところだが多江の色香には完全に負けだ。

 蜜を滴らせる秘壺を十分に解し太ももの付け根あたりを舐めてやる。こんな程度で足を突っ張らせ必死にしがみ付いてくる。

 まだ現役の遊女に跡を付けるわけにもいかずそこら中に唇を落とす程度しかしてやれないが、多江は泣きながらもう先に進めてれと懇願してきた。

 張り詰めたモノを差し込めば多江は一気に絶頂を迎える。物凄い食い締めにいあってこっちもヤバいが挿入してすぐなんて絶対に嫌だ!何とかやり過ごして抜き差しを再開すれば、多江は足を痙攣させたままずっと震えてるような感じだ。
 もしかしてやめた方が良いのか?

 そっと引き抜こうとすれば、多江は足を腰に絡めて引き留める。
「っ竜さん、上・・・上に乗りたいのぉ」
 普段の姿からは想像できない乱れっぷりにびっくりだが男冥利には尽きる。
 体位を入れ替えてやれば必死に快楽を追って腰を回してくる。

 「・・・多江!」
 ちょっと待て、俺が持たない。
 悔しいから密を滴らせている側の尖りを掻いてやる。多江はそのまま気をやってしまった。
 もちろん俺も引き絞られたので慌てて引き抜いて外に出した。
 体を支えて寝かせてやり、汗で張り付いた前髪を横に撫でてやって、漲りを失ったアレと濡れている蜜壺の始末をする。
 こんなに持たないなんて。俺に任せろって恥ずかしいだろうが!

 少しして意識を取り戻した多江は少し恥ずかしいようで、
「好きな人だと我慢も制御も出来ないんだねぇ」
って呟いた。
 俺まで照れちまうからやめてくれ。
 無言で引き寄せて抱き締める。
 結局俺は単純な男だ。

「ああ、竜さん、これ預かってくれない?ダメなら蘇芳さんか銀時さんにお願いして欲しいの」
 着物を整えて帰り支度を済ますと多江が飾り紐の施された袋を渡してきた。
 重みや音からそこそこの金子だと思われる。眉を顰めて多江を見れば、
「見受け先で捨てられた時、当座の金が要るだろ?ちょいとした保険だよ」
 淡々とした表情に憂いは見えない。

「小鳥ちゃんの成人のお祝いまで逃げてこなかったら小鳥ちゃんの晴れ着に用立てて欲しいの」
「そんな危なげな相手なのか?」
「わからないよ。外に出たら旦那に飽きられて捨てられたり安店に売られたりなんてよくある事さ」
 あっさり自分の境遇を流す多江は全部覚悟の上なんだろう。

「多江、お前さんは仮に逃げる時無一文だったらどうするんだ?」
 金目の物は全部譲っちまったんだろう?
「だって捨てるような旦那なら持っていても取り上げられるでしょう?」
 外にいる俺よりよっぽど酸いも甘いもわかってるんだな。

 俺は自分の袂から布袋に入った櫛と僅かな金を入れて多江に渡す。
「多江、櫛なら誰でも持っている。いつも胸元や帯に入れてても不審じゃない」
 たくさん入れてたら重みなどでバレるだろうが、これは俺が旅に間にスリや強盗に遭った時に見逃されるような小物に二重細工でパッと見で気付かれないようにした物だ。

 多江は櫛入れをギュッと握りしめて嬉しそうに笑った。
 売り物じゃなく俺の普段使いだが許せ。
「ありがとう、竜さん」

 俺は後ろ髪をひかれながら常盤屋を後にした。

 どうしようもない気持ちを抱えたまま、蘇芳の元に足を向ける。
 


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