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番外編  2 アーネスト・イストside

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 本当に好きになると連れて歩きたくなることを知った。
 ミッシェルは僕を見せびらかして優越感に浸りたかっただけだろうとはっきりわかるが、僕は、彼女を本当は誰にも見せたくない。 

 ただ、彼女が好きなもの、興味があるものを知りたいし、それを見た時の顔が見たい。

 いろんな場所に連れて行けば、いろんな顔が見れる。

 面倒臭さなんて感じない。

 地味な衣装で十分だと遠慮する彼女に、服を見立てて、彼女に似合う色、好きな色を認識させる。

 なぜか自己評価が低い彼女が本来持つべき自尊心を高めてあげたい。

 彼女の瞳にはまだ恋の色は無いけれど、僕がいると嬉しい、楽しいと思ってもらえればきっと仄かに情が生まれるはず。

 手に入らないと思って諦めていた恋を手にすることが出来るなら何年かかっても良い。

 一緒に過ごす権利を手に入れればあとはずっと僕が温めて行けば良いんだから。


 彼女と何とか婚約出来た後、とにかく女官試験を受けると友人のレニーと猛勉強に入った。そこまで頑張らなくとも二人とも有能だから心配ないと思うんだけど、やる気を削ぐのは良く無いからね。王妃さまの教育係であったアングレア侯爵夫人に家庭教師をお願いして二人の後押しをした。

「のちに伯爵家に引き取るつもりのお二人を私に見させるとは良い根性ざますわ。貸し三つくらいざますよ」
「はい。承知していますよ。でもアミリとレニーが望むなら将来的に次期王太子妃付き女官となれると思うんです。可能性は残してあげたい」
 働かせたくは無いけれど、頑張ってきた彼女たちを否定する気はない。

「そうざますか?外に出したくないようざますのに」
「それはそうですが、やりたいことはさせたいし、嫌われたくないんで」
「ふふ、女嫌いのアニーちゃんは随分変わったざますねぇ」

 アングレア夫人は婚姻前は伯爵令嬢で、うちの母と仲良しのお姉さんだった。
 その付き合いで声をかけることが出来ているわけだが、昔を知られているのは少し困る。

 籠の鳥にしたい気持ちはもちろんあるけれど、それをすると彼女の輝きが薄れるのもわかってる。
 なので将来的に復帰する道を残せるならその方が良い。

「時代は流れるざます。復帰時にはまた試験内容が変わったりもするざますから、外の世界はずっと見ていかねばならないざますよ」

 資格があっても雇用時に面接と簡易試験はある。王族近くに仕えるのだから身辺チェックは定期的に入る。

「わかってますよ。彼女には伯爵夫人としてやってもらいます。王宮女官ほどやりがいがあるかは彼女次第ですが、きっとあの勤勉さで僕を支えてくれるでしょう」
「惚れたはれただけでなく、良い方を見つけたざますね。フェリシアも安心ざます」

 何も知らずただ気になっただけの彼女は金の卵だ。
 別に何の役に立たなくても僕が全部すれば良いだけだったけど、彼女の能力は眠らせて置くには勿体無い。
 彼女の頑張って得た能力を否定するのは彼女に失礼だ。
 無理強いはしないけど、彼女は息をするかのように家政を守ってくれるだろう。



 女官試験に受かった彼女を連れて両親が引きこもっている領地に向かった。
「まぁ、随分と長閑で綺麗な街ですね」
 牧草地が多くて何もない田舎だけれど手入れだけは行き届いている。
 彼女はこの地を気に入ってくれたようだ。
 ここは両親の終の住処に選んだ場所で、領主邸は別にある。

 王都から一週間、両親に出迎えられ、弟妹が家族を連れて集まっていた。

 両親はないて喜び、弟には抱きしめられた。
 随分心配されていたようだ。

「こちらが妻になってくれるアミリ・ヴィネア嬢だよ」
「アミリです。不束者ですがよろしく・・・」

 挨拶を最後までさせずに妹がアミリを抱きしめた。

「うちの堅物と結婚してくれてありがとう!」
「顔だけ男でいいのか!?」

 弟妹に酷い事を言われているが、堅物に顔だけ男と思われていたのかと地味に心を抉られた。

「こんな美人さんがお嫁に来てくれるなんて」
「女官って合格率低いんだろう?すごいなぁ」

 両親がもう手放しで喜んでいる。
 ミッシェルはうちに来た時は静かだったのにこの差はなんだ。

 アミリの困惑気味だった顔は、すぐに穏やかな笑顔になって、母と妹とお茶を飲むと庭に行ってしまった。


「ははは、うちのとはだいぶ性格が違うようだがうまくやってくれそうだな」
 父は笑いながら棚から酒を取り出した。

「まぁ飲もうか!!」
 ご機嫌な父と弟と義弟に付き合うか。

「いいか?嫁の言うことにはとにかく従うのが円満の秘訣だ」
「上から物を言ってみろ?寝室から追い出されるぞ」
「機嫌が悪い時はひたすら甘いものを差し出せ」

 どうやらみんな恐妻家らしい。少し涙が出そうだ。
 あの気の強い妹をもらってくれた義弟には感謝しかない。

 
 王都に戻る馬車の中でアミリは「賑やかな家族で羨ましいです」と笑っていた。女神か。

「私はイスト伯爵家の家族になれるのが楽しみです」

 家族に歓迎を受けたことで、少し自己肯定感が上がったようだ。

「アーネストさまはお顔はお義母さまににてらっしゃるんですね。お義母さまはとても美しい方でびっくりしました」

 僕の顔にはさほど興味がなさそうだったのに母の顔がいいと顔を火照らす。やっぱり変わっている。

 その後、アミリが母と定期的に手紙をやり取りして、子ができた時に両親が夫婦揃って田舎から戻ってきたのには驚いた。

「だってぇ、アミリと孫のお手伝いがしたいのだもの」
「孫のためにはまだまだ働くぞ」

 アミリは僕だけじゃなく、家族の心も鷲掴んでいたようだ。
 生まれた子はアミリにて可愛い男の子。アミリはお義母さまに似て欲しかったって、それは僕似ってことだよ?

 子をレニーと両親がこぞって可愛がり、妹たちも頻繁いやってきて、僕とアミリは蚊帳の外になった。
 二人目の時にレニーの子も生まれて、さらに賑やかになった。

 おかげさまで?仕事に精を出した結果、右肩上がり。

 うちでは「まぁまぁ」が響くことはなく。

「幸せです」

 アミリが僕の隣で微笑んでくれる。

「僕もだよ」
 
 僕に押しに押されて結婚したアミリは今は押しに弱くはない。
 仕事にも人にもちゃんと「無理」と言えるし、困惑顔で固まったりもしない。

 優しく、強い自慢の奥さんでお母さんだ。


  アーネスト・イストside おしまい
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お付き合い感謝です。


マァマァ夫人が主役の物語が何とか固まってきたので宣伝です。

タイトルは〈なぜか如何わしい場面に遭遇しちゃって私が如何わしいと噂されるので開き直ることにしました。〉です。

序盤はまぁまぁ言いませんがなぜ彼女がマァマァ夫人と呼ばれるようになっていったか、彼女の旦那さまはどんな人か?

読んでいただけると幸いです。


こちらは、蛇足だろうミッシェルのお話を追加して完結にしたいと思います。



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