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番外編 3 レニーside
しおりを挟むイスト伯爵は、仕事ができると評判だ。
即断即決。切り捨てるべきはすぐ切り、取り込むべきはすぐ交渉。
宰相府文官としても領主としても有能だと評価が高い。
あの粘っこさが仕事にいい方向に行くのかしら?
ちなみに自分に近寄ってくる女性には数回まではやんわり笑顔でいなして、しつこい場合はかなり淡々と「で、君は経営や内政に長けているのかな?」とか「見た目が良いから社交に役立つ?僕より美しいと自信があるんだね?」とか「その香水の匂いで吐きそうなんだけど体臭がひどいのかい?」などズバッと言ってしまうので、ここ数年は成人したての子ぐらいしかアタックしていない。
押し寄せてた令嬢のレベルを知ってるから、仕方ない対応だと思うけど、性格は良くないよねぇ。
アミリに近寄っても良いと判断したのはね、彼は一度自分の懐に引き入れたら大事にしてるから。
仕事上で問題がなければ、困っている新人やミスした同僚に親身に対応もしているのを何度か見ている。
私に声をかけた翌日にはアミリにアプローチが始まった。
アミリは、わかりやすく困っていた。
でも誘いを受けたと言うことは、全く無しではないと思う。
元彼となったマークス卿の時も気にはなっていたけど、彼女はおしゃれに興味がない。
実家では自分にかけてもらう予算が少なかったのもあるだろうけど、最初の婚約者にさほど褒められたことがなかったのも尾を引いてる。
アミリは美人だけどそれをひけらかしたらがない。
なぜなら自分が美人だとは思っていないから。
徹底的に貶められたことがあるとかじゃないけど。褒められたこともないんだと思う。
学園時代には、婚約者のいる令息から声をかけられたりはしてたけど、下心見え見え。
私もアミリも貧乏までは言わなくても下級貴族の次女三女。良い家の正妻になれる可能性が低いと下に見られる。
遊んで捨てても身分差で文句を言ってこないと思って、超軽い口調でくる。
いくらなんでも人を馬鹿にしすぎよ。
小遣い稼ぎに乗る子もいたけどね。
それくらい割り切れる子じゃないと無闇に誘いには乗れない。
だからか、アミリは警戒心は強い。
自分に声をかけてくる下品な男には靡くわけない。
もちろん好青年の皮を被って接してくる令息もいたけどね。そう言う男は話してる最中に口角が誤魔化せないほど上がってたり、目が笑ってないから。
「性欲の塊ってわかりやすいわね」
「そうかな?」
鈍感なくせに危ない男は見分けてるアミリは面白かった。
そんなアミリなのでマークス卿のことは驚いたけど、口説いてる時は確かに純情な気持ちだったんだろうね。
手に入った後に油断しちゃった感じ。
せめて娼館で発散してたら良かったのに。
アミリの街に出る用の外出着はとにかく地味だ。ここ数年新調した気配もない。
彼氏がいたとは思えないほど、おしゃれに興味がない。
デートの時に気張ることもなかったけど、その時はあの彼氏じゃ、可愛くしたら襲いそうだなと思って。私はあえて可愛くしなよとかちゃちゃは入れなかった。
でも今回はちょっと口だそう。
あの美形と出歩くのに地味過ぎたら、アミリが悪目立ちしちゃう。
私のお気に入りのワンピースに流行りの化粧品。ちょっと踏ん張って買ったものだ。
伯爵な彼の横にはまだ質素だろうけど。
きっと次も誘いたいとすぐさま相応な衣装をアミリに貢ぐだろうな。
「ねぇ?派手じゃない?」
「アミリはこれくらい明るい色が似合うよ」
恥ずかしそうなアミリは可愛い。
「お化粧、濃くない?」
「濃くないわ。アミリは顔立ちがハッキリしてるからちょっとやっただけで華やかなのよ」
髪も今時にまとめてみれば、ほら。
私の親友は、とっても美人よ。
「付き合うか付き合わないかは気にせずに楽しんでらっしゃいな」
ずっと自信がないままでいたんだから、女としての自尊心や自己評価を、あの美形といても引けを取らないことで取り戻してきたら良いのよ。
大体、最初の婚約者からもマークス卿からもフローラの親からも慰謝料もらって。自身もそこそこ高給もらってるのに全く使ってないのも不思議よね。私ならパァっと使っておしゃれしちゃう。
一緒にお買い物しても似合わないとか言って、消耗品しか買わなかったのよ。
イスト卿が全部ひっくり返してくれると良いんだけど。
帰ってきたアミリは困惑しきりだったけど、甘い言葉と贈り物で心に覆ってた殻が少し割れて心の膜が少し潤ってたと思う。
そっか。
とにかく甘やかすって言うのが良かったのね。私も甘やかそう。
なぜか、私にも高価なお土産がいっぱいで目ん玉飛び出た。
謝礼や賄賂の枠を飛び抜けてたわ。
伯爵の財力舐めてた。
でもくれるものはありがたく頂くわ。私は現金な女だもん。
それから何度かデートを重ねて、やっぱりアミリは押しに弱かった。
良いのかしら?私で大丈夫かしらと言いつつ、次の約束の話をしてる。
帰ってくるたびに笑顔が増えて、心の膜が破けたみたい。
あの粘っこいイスト卿が少しずつ距離を詰めてく様子は面白かった。
来るもの拒むなモテモテな男がハンターになってるのは周りもかなり騒がしかったけど、アミリ相手じゃ黙るしかない。
やっとアミリが受け入れて前進するって時に。
「んっまぁあああああああああああ!」
「まぁーまぁーまぁー」
なんて響いた時はびっくりした。
うんこな元彼が、アミリを襲ったのをマァマァ夫人とイスト卿が見つけたんだって。
とっくに辺境に行ったと思ってたら、引き継ぎや書類関係が片付くまで残ってたらしい。
謹慎中にやらかしたうんこは、即鉱山刑になったそうだ。バカか。
おかげでイスト卿がサクッとアミリをうまく手中に絡め取って結婚を早めちゃたじゃない。
イスト卿は、こっそり私にイスト家でアミリ付き侍女の契約を打診してきて、彼氏も雇ってくれて、敷地内の寮で家族部屋も用意してくれるってことと、王宮並みの給金を保証してくれたので、即答した。
アミリが女官試験だけは受けるって言うので一緒に受けて。もしアミリが別れても私もアミリと王宮女官になれる切符を確保。
話が決まってからは、王宮の仕事を半休にしてイスト伯爵邸で働く準備をアミリにバレないように進めるのはスリリングだった。
アミリがイスト伯爵邸に移る日に王宮で別れのハグをして見送った後、私も寮を出た。
イスト卿が寄り道、遠回りして戻ってくる前に、お仕着せに着替えて。
「レニー・マルテです。よろしくお願いします」
驚いたアミリが一瞬で笑顔になった。
親友兼側付き侍女として一生ついていくわよ。
アミリが正式に籍を入れる前に、私は彼と入籍して細やかに式を・・・。
そう思ったら、アミリとイスト卿に水臭いと言われて、屋敷中仲間に祝われてガーデンパーティーを開いてもらった。
「レニー、レニーがいてくれてこそなんだから、お祝いくらいさせてね」
侍女仲間に化粧をされて、アミリから素敵なドレスを着せられて、
「レニーにはこれくらい華やかなのが似合うわ」
あの時と立場が逆ねって笑い合った。
レニーside おしまい
婚姻祝いに腹黒さまから目ん玉飛び出る祝儀をもらったんだろうなぁ。
次回からイスト卿に。
あまりかっこいい行動は取らないので最初に謝っておきます。
ネチネチタイプにしちゃってごめんなさい。
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