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 翌日、レイチェルは学園のテラスで友人のオルガ・フォンテ公爵令嬢に数日分の記録が入った魔法石と、関わりを持った女性達の情報を纏めた書類を渡した。

「どんどん増えますのねぇ。婚約者のいる方も多いわ。何を考えてらっしゃるのかしら?」
 オルガは書類を手に取ってため息をつく。



 学園に入学してすぐ婚約者の野外のお遊びを知ってしまったオルガは、女性も嫌がっているような様子もないことから、政略結婚で別に婚姻前の火遊びくらいは良いかと判断した。
 その後も頻繁に目撃し、またしてくれたから報告を受けて、流石に宜しくは無いと考え直した。

 女性の方が婚約者がいたり、婚約間近であったりで、しかも野外で目撃者が頻発していることからフォンテ公爵家にとって害になると婚約を白紙にするべきと結論を出した。

 とは言え、婚約者はこの国の第二王子モンテ・デルイート。簡単には行かない。

 ここまで舐められたままでも腹立たしいとオルガは両親や友人達に報告して協力を仰いだ。
 最初は難色を示した宰相である父親も数回分の報告で青筋を立てて国王に婚約破棄を申し立てた。
 国王と王妃は〈若気の至りだ。許してやってくれ〉と受け入れなかった。

「お父様、そんな正攻法で行くなんて切れ者宰相の名が泣きましてよ」

 あの王子の貰い手が無くなることと公爵家との繋がりを無くすことをそう簡単には認めないだろうとオルガは思っていた。

 
 学園で、王都暮らしの者にはない雰囲気のレイチェルと仲良くなっていたオルガは、彼女の能力に頼る事にした。

 利用するようで申し訳ないと言うオルガに友人を助けるのは当たり前だと言って快く協力してくれた。


 迎えた陛下の20年式典で、レイチェルは兄姉と騎士団と軍装で参加した。帯剣も許可されている。

「まぁ~アーガード騎士団よ」
「レベッカさまぁ♡」
「美しすぎるわぁ~アンジェリカさまぁ」
「もう目が幸せすぎる~☆」

 入場後に何故か女性陣に賛美が轟く。男性陣も逞しくも眉目秀麗なはずなのだが何故か女性陣に視線が集中している。

 陛下の一連の言祝ぎが終わり、王、王妃と王太子と王太子妃、モンテとオルガで身分順にダンスを披露して行く。

 オルガがモンテと離れたところでレイチェルは側に付く。
「オルガ様、本日は私が貴女の護衛です」
 ウィンクして騎士の礼をとり、指先に口付けを落とすと、
「きゃぁっっあぁあ!!」
 悲鳴が上がって何事かと警戒すれば、幾人かの女性がよろめいている。
 周りも唖然としているが、
「・・・尊いわ」
 顔を真っ赤にして目を潤ませて打ち震えている女性がレベッカやアンジェリカたちの側でも見られた。

「相変わらず、アーガードの女性騎士はカッコいいわね」
 オルガがそう呟くので、
「正装してる時だけですよ」
 苦笑いをしてレイチェルは答えた。

 レイチェルはオルガの横に付いて、
「先ほどモンテ殿下が裏庭に向かわれました。フォンテ家の護衛が跡を付けてますのですぐ合流できますよ」
 そう伝えるとオルガは溜息を吐いて、
「こんな日にもだなんて何を考えていらっしゃるのかしら」
と呆れるしかなかった。

「脳までお猿なんでしょうね」

「お相手の女性なのですが・・・ベネット子爵の長女です」
「・・・ご婚約者はタンバード伯爵家ですわね」
 派閥関係なく手を出しているようなので、目的がある様子がないのは良いが、逆に裏がないのもモンテの悪癖が際立ってしまう。

「今日、ケリをつけますか?」
「陛下のお祝いですからお気の毒ですわ」
「連帯責任と言うことで」
「レイチェルったら」

 オルガを裏切っていることも、責任を取る気が無いくせに女性に手を出していることも、人目も気にせず盛り、相手への思い遣りを感じないことも全てがレイチェルにとって気分の悪いことだった。

 いい加減にあの情事を記録する事に嫌気を感じていたので、確実に今日仕留められれば良い。



 

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