愛なんてどこにもないと知っている

紫楼

文字の大きさ
上 下
7 / 14

7

しおりを挟む
 マリーを拘束して一週間。
 部屋で大暴れしている音が続いているようですがまだめげないようで、すごいエネルギッシュな方ねって驚きます。

 ロジェス卿は、最初の三日は食事を投げ捨てました。おかわりは有りませんのでその日は食事はない。
 そして掃除も雑巾とバケツだけ部屋に置かせて使用人にはやらせませんでした。
 お部屋の壁紙や絨毯は高級品でしたのでちょっと勿体ないですが、私の財では無いですし、あちらの自己責任です。

 お花摘み以外はずっとベッドに臥せていたようです。
 お世話もないので、絨毯や壁に染みた料理の腐敗臭と本人の体臭で部屋がツンとする匂いがするようになったようです。
 
 セバスチャンに報告を受けただけでも怖気がします。

 どうやら自分でお風呂に入る気が無いようです。平民暮らしでお風呂のない生活に慣れてしまわれたのかもしれないですね。
 彼女のために覚えた掃除も、家ではやりたく無いんですのね。

「ご自分の臭いでお布団暮らしが嫌にならないのかしらね」
「一応(心の)病人ですのでベッドメイクはさせて頂きたいのですが・・・」
 病人と言われると厳しくしすぎな気もしないではありません。

「今はお互い我慢の時ですよ。ロジェス卿が自分でお部屋から出ないとダメです」
 セバスチャンが折れるのが先か、ロジェス卿が折れるのが先か、ですので。

 さすがに孤児院の子供たちにこの方法は取れませんけど。

 二週間目、何やら騒がしいと思ったら、ロジェス卿が窓から、腐敗臭のする絨毯やベッドカバー、テーブルクロスを投げ捨てていたようです。

 まだそんな体力が!
 お食事は頂いているようでしたが栄養管理された最低限でしたの。あまり食べないようでしたので。

 「一番臭いと思われるご自身は窓からお捨てにならないのかしらね」とセバスチャンに言えば、苦笑されてしまいました。

 マリーはまだまだ暴れているようです。無限に体力がありますね。
 食事を届けるのが大変そうだと思えば、料理番のローラが苦手でローラが運べば静かに受け取るそうです。

「家具やリネンは差し入れなさらないようにね?」
 捨てられたものは手入れしたら使えるなら再利用、ダメそうなら中古品で売ってもらう。
 臭い問題がクリアできたらお安くなったとしても売れるでしょう。お砂糖が買えますよ。

 三週間目にやっとロジェス卿はお風呂に入ったそうです。
 お湯を沸かすのも大変なので三日目くらいから頼まれなければ沸かさないように言っておきましたのよ。
 
 だってね。こちらの家の予算は最低限なのですって。マリーが最初にあのお部屋にお金をかけ過ぎてカツカツだそうですよ?
 マリーはロジェス侯爵夫人に追加をお願いすれば通ると言い張っていたようですが、追加は来ていないようです。

 私の持参金も当てこんでいたのかも知れません。
 持参金は嫁が親から財産分与として払われるもので、嫁ぎ先が良いように使うのはよろしく無いのですわ。



 お風呂から上がったロジェス卿は、髪も髭もボウボウのまま、私に怒鳴り込んでいらっしゃいました。

「貴様は何様のつもりだ!!よくも僕をこんな目に合わせたな」
 そんな見た目になったのはご自分のせいですが?

「マリーから聞いたぞ!離縁されて教会に入っていた阿婆擦れが!僕との婚姻で教会から出たかったんだろう!!侯爵家の嫁になって良い暮らしがしたかったんだろう!!」
 はて。私がいつこの結婚を望んだと言うのでしょうね。
 ゼーハーと息が荒いですが大丈夫ですか?

「侯爵家の次男で、駆け落ちに失敗してフール公爵家に目をつけられて、こんな田舎に軟禁されるような男とだなんて誰が結婚したいものでしょうか?」
 一応この婚姻で男爵位を頂けるそうですが、王都に社交へ出ることも出来ない赤字領地付きですよ。

「軟禁!?」
「あらお聞きじゃないのですか?」
 マリーもですがセバスチャンとジョルジュも大概ですよ。

「貴方がルゥ男爵令嬢を庇うために喧嘩を売ったのはフール公爵家です。今後貴方が令嬢の元に行くことがないようにこの地に住まわせ、令嬢と結婚させないために私が巻き込まれたのです」
 どんどん顔が真っ青になっていくので理解はできたようです。喧嘩を売った時は理性がなかったんでしょうね。

「私も侯爵令嬢ですので、この婚姻を結ぶメリットなど何一つないです。教会に入っておりましたが再婚なんて望んでいなかったのに無理やり連れてこられたんですのよ?」
 
 ロジェス卿は自分の思考の海に潜ってしまって浮上してきません。

「セバスチャン、甘やかしは愛情ではありません。真実はきちんと伝えて現状を把握させるべきですよ」
 
 ロジェス卿は夢見る王子様のようですね。目が覚めたら死んでしまうんじゃないかしら。

「出来ればもう少し柔らかく接して差し上げて欲しいのですが」
 ほんと!やさしいことです!

「セバスチャン、私の前の結婚生活を知っていて?」
「いいえ、ただ白い結婚で離縁されたとしか」
 アルサス伯爵家のは悪評はまだ広がりきってないようです。

「婚姻前から、いいえ婚約前から愛人がいるアルサス卿と父に無理やり婚姻させられて、初夜にはその愛人を連れこんで、夫婦の部屋で過ごされまして、愛人を私の名で夜会などに連れ歩いた挙句、私に愛人を連れて茶会に行けだとか、愛人に貴族教育をさせろとか言い出しましたのよ?」
 私に何か落ち度はあったのかしら?愛人に寄り添わなかったことかしら?

「愛人の教育をしないから出ていけと言われましたので離婚届を書いてもらって白い結婚の審査を受けましたの」
 純潔の女性が医師の前で秘部を晒し診察される屈辱がわかりますか?
 それを我慢しても白い結婚を証明して、意趣返しがしたかったのですわ。

「孤児院でお世話になることにしたのは市井で暮らす自信がなかったからですが、あの孤児院は私が安心して暮らせて、私を望んでくれる子供たちがいて、家族や婚家でズタボロにされた自尊心を満たしてくれる場所でしたの。私はロジェス卿に優しく接するべきですの?」

 甘ったれないで欲しいのです。

 無関係の女性を、たとえ瑕疵があろうともこんな婚姻に巻き込んだことを恥じて欲しいです。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!

Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。 そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。 病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。 そして結婚に関して、ある条件を出した。 『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』 愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは ただただ戸惑うばかり。 二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…? ※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。  苦手な方はご注意下さい。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

処理中です...